笠原一輝のユビキタス情報局

年内予定が来年4月に延びたWindows Vista β2
~Vista内のアップグレードパス提供も明らかに




Windows Vistaロゴ(縦型)
 9月にロサンゼルスで行なわれたPDC 2005において、Microsoftの幹部はWindows Vistaのβ2は今秋にもリリースされる予定だと語ったが、残念ながらその公約は果たされそうにない。12月初旬には、Microsoftは業界関係者に対して、β2のリリースは来春になると明らかにしている。

 また、Windows Vistaには複数のグレードがあることはすでにお伝えした通りなのだが、情報筋によれば、MicrosoftはWindows Vistaにおいて下位グレードから上位グレードへのアップグレードパスを計画しているという。これにより、新しい収益モデルを育てたいという意向もあるようだ。

●β2は事実上のRC0として来年の4月頃に

 「Windows Vistaのβ2の年内配布は無くなった」と米国で報道されたのは11月末だったが、その月のうちに日本のOEMベンダにも通知された。

 もともとMicrosoftは、9月に米国ロサンゼルスで開催したPDC 2005(Professional Developers Conference)において、β2に関しては今秋にリリースできる予定だと語っていたのだが、残念ながらその公約は守れなかったことになる。

 情報筋によれば、日本のOEMベンダに対しては、来春頃、具体的には4月頃となる可能性が高いと通知されている。しかもβ2というよりは事実上のRC0としてリリースされると説明されているようだ。

 通常、MicrosoftのOSは、β1、β2、RC0、RC1、RC2という順序でリリースされていく。β1は開発者のためのリリースで、ここで出たさまざまな問題がβ2に反映される。β2はもう少し広範なβテスターに対するリリースで、開発者以外の関係者も含めたテストが行なわれる。RC(Release Candidate)版は出荷候補となるバージョンで、細かなバグフィックスのみを目的としており、大きな問題がなければ基本的にはそのまま出荷されることになる。

 β2がRC0となることには2つの見方がある。1つはMicrosoftがスケジュール的に追いつめられており、そうせざるを得なかったという見方。確かに4月の段階ではRC版をリリースしておかなければ、OEMベンダ側の準備などを考えてもスケジュール的にかなり厳しいものになってしまう。そして、もう1つが、実際にはβ1でも大きな問題が発生していないため、特に急ぐ必要がない、という見方、だ。

 たしかに、実際Windows XPの時も、2001年秋の製品投入だったが、β2のリリースは春頃だった。それにならえば、そんなに遅れているわけではない、という言い方もできる。

●新しいユーザーインターフェイスに不安の種

 だが、OEMベンダやコンポーネントベンダの関係者から話を聞く限りは、決して安心してできるような状況ではない、というのが正直な感想だ。

 特にGPU周りの互換性に不安を覚えるOEMベンダの関係者は少なくない。MicrosoftはWindows Vistaにおいて、GPUの3D描画エンジンを利用した新しいユーザーインターフェイスを導入する。“Aero Glass”と呼ばれるユーザーインターフェイスがそれだが、こうした新しいユーザーインターフェイスのために、新しいGPUのドライバモデル(LDDM:Longhorn Display Driver Model)を導入する。

 だが、少なくともβ1の段階では、さまざまなトラブルが発生している。実際、現状のβ1(build 5231)では、ATI TechnologiesのGPUではAero Glassの表示ができているが、NVIDIAとIntelのGPUではAero Glassが動作していない。

 そのほか、Aero Glassを有効にした場合には、ビデオオーバーレイが表示できないという制限もある。ビデオオーバーレイもAero Glassもどちらも同じサーフェス扱いになり、サーフェスの中にサーフェスを表示することが現状ではできないため、表示できない、ということになる(こちらに関しては仕様、ということになるだろうか)。

 この場合問題になるのは、OEMベンダが独自に搭載しているアプリケーションの中には、ビデオオーバーレイを利用しているアプリケーションが少なくない、という点だ。例えば、TV録画再生のアプリケーションのほとんどは、ビデオオーバーレイを利用している。

 この場合の解決策は、VMR(Video Mixing Renderer)と呼ばれるWindows XP以降でサポートされている3D描画エンジンを介してビデオを描画する方式に切り替えることだが、それは事実上ソフトの書き直しを意味するので、非常にハードルが高い。

 このように、新しい仕組みを採用した部分にはまだまだ超えるべき課題は多い。それだけに4月にβ2のリリースで、果たして間に合うのか、ということに不安を感じているOEMベンダの関係者は少なくない。

●上位グレードへのアップグレードパスを提供

 やや不安な話題が先行してしまったが、エンドユーザーにとっては嬉しいニュースもある。情報筋によれば、MicrosoftはOEMベンダなどの業界関係者に対して、Windows Vistaにおいて下位グレードから上位グレードへのアップグレードシステムを用意すると通知しているという。

 すでにお伝えしているように、MicrosoftはWindows Vistaにおいて、複数のグレードを用意している。コンシューマ向けではUltimate Edition、Home Premium Edition、Home Basic Editionが用意されている(この他、企業向けとしてEnterprise Edition、Professional Edition、Small Business Editionが用意される)。

 それぞれの位置付けは、CPUでいえばPentium Extreme EditionやAthlon 64 FXに相当する上級者向け製品がUltimate Edition、Pentium DやAthlon 64 X2に相当するパフォーマンス向け製品がHome Premium Edition、CeleronやSempronに相当する製品がHome Basic Editionとなっており、CPUやGPUのように各価格セグメントに合致するような構成となっている。

 もちろん、上位に行けば行くほど機能が増えていく。例えば、Aero Glassと呼ばれる3DユーザーインターフェイスやメディアセンターはHome Basicには搭載されていないものの、Home Premiumには搭載されるなどの違いがある。そして、そうしたすべての機能を実装している“スーパーVista”ともいうべき製品が、がUltimate Editionで、Media CenterやTablet PCなどすべての機能がUltimate Editionでサポートされている。

Windows Vistaのコンシューマ向けSKUの相違
SKUメディアセンタータブレットリモートデスクトップAero Glassプロセッサソケット数想定ターゲット市場
Ultimate Edition2Pentium Extreme Edition/Athlon 64 FX搭載PC
Home Premium Editionオプション-1Pentium D/Athlon 64 X2搭載PC
Home Basic Edition----1Celeron D/Sempron搭載PC

 なお、これらの機能の違いは、すべてOSにどのようなプロダクトキーを入力するかで決まることになる。というのも、すべてのSKUはUltimate Editionという1つのコードから作られており、どのEditionのプロダクトキーを入力するかで、利用できる機能に違いができている、という仕組みになっているという。

 Microsoftは、こうしたOS発売後に、下位グレードから上位グレードへのアップグレードプログラムを提供する。どのような形で提供されるのかは、現時点では明らかではないが、おそらくMicrosoftのWebサイトなどで販売される形などになるのではないだろうか。

 ただし、このアップグレードは上位グレードをDVDなどを利用して追加インストールする必要なく、アップグレードをユーザーが購入すると、Microsoftのサイトに接続するなど何らかの形で解除キーが送られるなどして制限が解除され使えるようになる、という仕組みになっているという。

 これにより、Home EditionをプリインストールされたPCを購入したユーザーがMedia Centerを使いたいと思っても、MCEにアップグレードすることができない、という現状のXPにおける不満を解消することができる。

 Microsoftにとって、こうしたシステムを導入するメリットは、言うまでもなく新しい収益の柱として期待できることだ。これまでMicrosoftは、OSのアップグレードで大きな収益を上げてきたが、今後はこのSKUのアップグレードに関しても新しい収益の柱にしたいという意向があるようだ。

●待ったなしのVista、延期されたβ2の出来に期待

 現時点では、MicrosoftはWindows Vistaのリリース時期に関しては2006年の後半というスケジュールには変更はないと、OEMベンダに対して説明しているという。とはいえ、たとえMicrosoftがWindows Vistaのリリース時期をずらそうとしても、もはやOEMベンダ側がそれを許してくれない時期にさしかかりつつある。

 OEMベンダ各社は、来年の4月以降に投入する予定の、いわゆる“夏モデル”と呼ばれる夏のボーナス商戦向け商品から、Windows Vistaへのアップグレードクーポンを添付した“Vista Ready PC”として販売する計画を立てている。

 これは、MicrosoftがOEMベンダに対して提供している“Vista Ready PC Program”に基づくものである。MicrosoftからOEMベンダに対してVistaのアップグレードライセンスが提供され、それに基づいて各OEMベンダはVistaへ無償アップグレードができるPCとして販売される。Windows Vistaのリリース前の買い控えを極力抑えるのが目的だ。

 そして、秋にはいわゆる“冬モデル”と呼ばれる製品がリリースされる。ここでWindows Vistaを搭載したPCをリリースし、PCの需要拡大を果たしていく、いうのが現時点でOEMベンダが描いているシナリオだ。

 仮に、Windows Vistaのリリースが遅れるような事態になれば、このシナリオが崩壊し、その影響は計り知れないことになる。すでに、Microsoftの事情で、Windows Vistaのリリースを遅らせる、ということができない段階に来ているのだ。

 そうした状況だけに、OEMベンダ各社の製品担当者は、来年の4月までには登場するとMicrosoftが説明しているWindows Vista β2(RC0)を、期待と不安が混ざり合った複雑な思いで待ちわびているのだ。

□関連記事
【10月27日】Windows Vistaにみる“メディアセンター”の可能性
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1027/ubiq130.htm
【9月】Microsoft PDC 2005レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/pdc.htm

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(2005年12月12日)

[Reported by 笠原一輝]


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