既報のとおり、9月17~19日、岐阜県高山市「飛騨・世界生活文化センター」にて高山市合併記念事業「21世紀夢ウイーク~飛騨高山ロボットワールド~」が開催され、イベント内イベントとして「第8回ROBO-ONE in 飛騨高山」が実施された。 既にROBO-ONE本戦についてはレポート済みだが、ROBO-ONE予選の模様のほか、同時に開催されたそのほかのイベントの様子についてはレポートしきれなかった。そこで本コラム欄を使って補足させて頂く。 ●ROBO-ONE予選
ROBO-ONEには毎回、予選と決勝があり、予選では「規定競技」が課せられる。今回の規定競技は「とにかく走る」。 本誌では、QRIO、HRP-2LR、ASIMOらの走行デモンストレーションをレポートしてきた。それらを見ても分かるとおり、ロボットに走行させることは非常に難しい。現時点ではモーターの速度が足らず、ストライドの大きな人間のような走行は、どのロボットも実現できていない。いずれも、膝を深く曲げ、上体はどちらかというと後ろに反らせぎみ。速度のほうも、むしろ歩行のほうが速いくらいだ。 「走行」の一般的な定義は、両足が空中に浮いている時間があることだ。真面目に制御しようと思ったら、空中での姿勢制御技術や、着地時の衝撃吸収技術が必要だ。だがROBO-ONEのロボットのスペックではそこまでの制御は難しい。取りあえず地面を蹴れば機体は浮くが、何も考えずガンガン蹴っていると、関節に使っているサーボモーターに負荷がかかって壊れてしまう。実際に、サーボモーターを壊してしまった参加者達も大勢いたようだ。それでも果敢に挑んだ参加者たちの中には、それなりの結果を出した人たちもいた。 予選で披露されたロボットの「走り」の中から、おもだったものを紹介する。動画ばかりで恐縮だが、こればかりは動画でなければ分からないと思うのでご容赦頂きたい。
ご覧頂ければ分かるとおり、大きなストライドをもった本格的な「走行」を見せてくれたロボットは残念ながらいなかった。やはり現在のサーボモーターを使った機体構成では難しいようだ。 だが、小さなロボットが足踏みをしている様子はユーモラスでたいへん楽しいものだった。より動きが大きく見えるように、手足の先など末端部分を大きくすれば、速度は現状のままでも、見た目は変わるかもしれない。 予選ではこのほか、多くのロボットたちが、より素早い移動アクションを見せた。ほとんどは「走り」というよりも歩行動作の周期をそのまま早め、脚をなんとか素早く動かす動作に留まっているものが多かったのだが、なかには、カナダから参加したJin Sato氏のようにロボットと一緒に製作者自らが走るなど、それぞれユニークな方法で審査員たちにアピールした。 ジャンプを見せるロボットたちも数台登場し、高い運動能力を示した。特にLLPの「B.I.G.U. A3」や、ToinPhoenixの「プティ(Petit)」は綺麗なジャンプを見せた。
現在ROBO-ONEの世界では電源電圧が9~12Vと高いロボット専用サーボが登場し、よりハイトルクが得られるようになってきた。そのためロボットの動きも以前に比べるとずいぶんきびきびしてきており、今後に期待が持てるデモンストレーションが多かった。認識技術を使ったデモも増えている。 それらメカトロや認識、プログラミング技術を組み合わせ、なおかつ外装デザインや製作者のマイクパフォーマンス等も合わせて、総合的なエンターテイメント性を高めていることがROBO-ONEのデモの特徴である。 エントリー台数156台に対し、実際に予選に出場したロボットが88台と非常に多かったことも今回の特徴の1つだ。最近のROBO-ONEは一般メディアでの注目度が高まったこともあり、「常連」の活躍が目立つようになっているが、全体的にも底上げされているのだ。アマチュアロボット技術は間違いなく向上してきている。 今回の規定競技「走る」は次回も続けられるそうだ。将来、きちんと走れるロボットが出てくるようになれば、その脚の制御技術は、腕による攻撃や、全身を使った攻撃、打ち込みなどにも応用できるはずである。 そのほかのロボットも写真で紹介する。ROBO-ONE予選の雰囲気を感じ取ってもらいたい。
また、中村氏の「HSWR-07」はなんと車形態からスマートな二足歩行型に変形。わくわくしないロボットファンはいないだろう。
●ROBO-ONE本戦 予選には88台のロボットが登場したが、審査員の審査の結果、上位32位に入ったロボットが本戦に挑むことができる。 本戦では第1試合「Metalic Fighter」VS「Dynamizer」がいきなりの大熱戦となり、観客達を惹きつけた。2回戦以降の試合については既にレポート済みなので、1回戦について、いくつかの動画と写真を紹介する。
このあとの様子は、ニュース記事としてお伝えした既報のほうをご覧頂きたい。 結果は敗退した仲間達による「セコンド」の応援をバックに、安定した機体「トコトコ丸」を抜群の集中力で操作した網野氏の優勝となった。優勝者には優勝賞金100万円のほか、100g3,000円の飛騨牛が市長賞として贈られた。高山市長はプレゼンターとしては登場しなかったが、後ほど聞いたところによると、家族と一緒にプライベートで見に来ていたそうだ。 ●4歳になったROBO-ONE ROBO-ONEも第8回となり、イベントとしては安定したものになりつつある。あくまで筆者の私見ではあるが、ROBO-ONEの意義の1つは「ロボットを使って何をするのか?」という疑問に対し、シンプルに「戦えばいいんだよ」と、1つの回答を出したことにあると思う。それに技術と夢を持った参加者たちが乗っかり、イベントとして成立するに至っている。 そしてROBO-ONEからの派生として、近藤科学の「KHR-1」を筆頭に多くのロボットキットが登場し始めている。ロボット専用サーボも開発され改良され続けておりこの1年でだいぶ事情が変わってきた。今後、高電圧化+ハイトルク化が進み、より試合らしい試合が見られるようになってくるだろう。観客としては楽しみな限りだ。 ROBO-ONE本戦終了後に、西村ROBO-ONE委員会代表は今後について触れ「リングが少々狭くなった」「捨て身技の多用は制限するかもしれない」と言及した。 もともとROBO-ONEは、技術の進歩に合わせてルールを随時修正してきたし、リング形状も変えてきた。ROBO-ONEが始まってまだたったの4年である。最初は歩くどころか立つことすらおぼつかなかったロボットたちだが、「4歳」になって、ついに走り始めるに至った。このあたりで一度、ルールの抜本的修正をすることも必要なのかもしれない。 一度安定化したイベントは、いわば踊り場に立ったと言える。今後どのようにROBO-ONE、あるいは二足歩行ロボット エンターテイメントが発展していくのか、今後も見つめていきたいと思う。 ROBO-ONEはアマチュア製作二足歩行ロボットによる格闘エンターテイメントである。門戸は誰にでも開かれている。 ●そのほか 「21世紀夢ウイーク~飛騨高山ロボットワールド~」で活躍していたのはROBO-ONEだけではない。大阪のロボットプロダクション「ROBO-PRO」プロデュースによる、サッカーロボット「Vision」のデモや「ロボプロスプリント」と題したロボットレースのほか、Honda ASIMOのデモも行なわれた。 こちらはこちらで、子供達に大人気。いずれもマニアックなROBO-ONEとはまた違う大歓声を浴びていた。
また、各スポンサー企業や岐阜県関連の研究所などもブースを出展していた。
今回のイベントで、高山の子供達はロボットを身近なものに感じただろうか。その答えは20年くらい経った頃に明らかになるだろう。 □21世紀夢ウイーク~飛騨高山ロボットワールド~ (2005年9月27日) [Reported by 森山和道]
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