山田祥平のRe:config.sys

ポータルサイトの終焉




 年に一度、一週間程度を、アナログモデムのインターネット接続だけで過ごすのが恒例となってしまった。都市部を離れると、今のインターネットがいかにデータ転送速度に依存しているかを実感することができる。同じ旅行先ではあっても、高速インターネットがホテルの部屋まで敷設されている都市部のホテルとはかけはなれた環境だ。

●欲しくない情報は転送に時間がかかる

 PDCのあと、ちょっとアメリカに居残った。国立公園ゲートのそばのロッジに宿をとり、毎日、せっせとトレッキングにでかけていく。毎夏、7~9月のどこかで、こういう1週間を過ごすようになって5年以上になる。ぼくにとっては、いろいろなことを考える重要な期間だ。

 さすがに、その間も、インターネットは欠かせない。ここにいる間も取りかかり中の仕事に関するメールはたくさん届くし、業界で何が起こっているかも把握しておかなければならない。大量のPDF資料をダウンロードして目を通す必要もある。

 宿でのインターネット接続は、ごく普通の電話回線だ。ブラウザを起動し、スタートページが表示されるまでに数十秒。リンクやブックマークをクリックしても、やはり数十秒待たされる。モデムのハードウェアは56Kbpsでも、リンク速度はその半分以下である。たとえフルスピードが出たとしても、ページあたりの容量が100KBなら、そのダウンロードには20秒かかる計算だ。しかも、最近のページは、ページ全体のダウンロードが完了しないと、レイアウトが確定しないので、よけいに遅く感じる。そういうトップページを持つサイトが当たり前のようになった今、正直、イライラさせられる。もちろん、日本国内で、PHSや3G携帯電話によるデータ通信をするよりも、ずっと遅い。

 けれども、メールはあまりスピードが気にならない。扱うデータの容量が小さいこともあるが、インタラクティブではないということも大きな要素だろう。届いたメールの1通目を読んだり、その返事を書いているうちに、後続のメールはバックグラウンドでダウンロードされるし、送信にしても、その完了を待つ必要はない。何より、インターネットにつなぎっぱなしにしておけば、コンピュータは数分おきに新着メールをチェックしてくれる。

●インターネットの玄関口

 インターネットにおいて、そこに接続されているコンピュータは、すべからく対等だが、実際には、一般のユーザーが享受する通信は、ほとんどの場合、サービスホストをクライアント側が叩くケースがほとんどだ。それがインタラクティブであり、オンデマンドということだ。つまり、最新のニュースにしても、楽しいエンタテイメントにしても、それを受け取るためのトリガは、必ず、受け手側がひくことになる。そして、このことは、せっかく覗いてみたのに、たいした情報がそこにはなかったという経験を生み出す。

 こうした経験を少しでも少なくするために、ぼくらはポータルサイトを利用する。自分好みのポータルサイトで、自分好みのスタートページを設定しておけば、そのポータルを開くだけで、複数のサイトが提供する情報を一度に参照することができる。より深く情報を知りたいときには、そこでリンクをクリックすればいい。そのおかげで、ぼくらは、いくつものサイトを巡回したあげく、今日はどこにもたいした話題がないなあと、ため息をつかずにすんでいるわけだ。

●プッシュがかなえる受け身の文化

 ポータルは、一般に、広告収入によって成り立っている。更新されているかどうか、自分の求めている情報があるかどうか保証されない複数のサイトを巡回することを嫌う多くのユーザーがそのトップページを見に来るのだから、そこに置かれた広告バナーは注目率も高くなる。

 過去に、インターネットエクスプローラでも、『プッシュ』と呼ばれる技術を使い、ブラウザでサイトをサブスクリプションするスタイルが流行りそうになったことがあった。もちろん、プッシュとは名ばかりで、実際に行なわれる通信は『プル』だった。ブラウザが設定された時間ごとにサイトをチェックし、更新されたサイトのブックマークに目印をつけてくれるという機能にすぎなかったからだ。

 この機能は、現在のインターネットエクスプローラにも、お気に入りのオフライン使用という形で残っている。こうしたスタイルでのブラウズがすたれてしまったのは、サイトとしては、たとえページが更新されていなくても、何度もサイトを訪れてもらえなくては困るからではないだろうか。ページの内容が変わらなくても、そこに配された広告はユーザーの目にとまる。ユーザーに広告を見てもらわなければサイトの運営にさしさわる。サイト側としては当然の戦略だ。

●ポータルサイトのビジネスモデルはいつまで有効か

 今、ひとつのトレンドになりつつある、RSSなどによるサイト情報のフィードは、ポータルサイトをインターネットへの玄関口とするスタイルに、大きな変革を起こそうとしている。フィードを使えば、そのサイトを開いてみなくても、更新状況とその要旨がわかるからだ。ユーザーが手動で操作するにしても、コンピュータが自動で行なうにしても、サイトのトップページが開かれるチャンスは少なくなり、ユーザーはフィード情報を参照し、興味のある記事ページに直接ジャンプする。あるいは、将来的にはフィード情報に本文が含まれるようなことも起こりうる。

 このことによって、記事と広告の関連性を密にできるメリットはあるにせよ、不特定多数のユーザーに見せたいマス広告には不利になっていく。でも、このトレンドはしばらく続きそうだ。かくして、ポータルサイトのトップページは、開かれる確率がどんどん低くなっていく。

 逆に、かなりおもしろい情報を掲載しながら、いつ参照しても更新されていなくて、がっかりすることが多く、次第に見なくなるようなスローなサイトは、フィード情報によって、開けば必ず更新されていて、おもしろい情報にありつけるサイトに生まれ変わる。

 ぼくらがこれまで慣れ親しんできた、新聞や雑誌、テレビ、ラジオといったマス媒体はインタラクティブでもオンデマンドでもなかった。だから、押しつけられるものを受け取るしかなかったし、ぼくらはそれに慣らされてきた。でも、そのおかげで、自分の興味範疇外にある話題に関しても、目にとまったり、耳に残ったりする可能性があった。偶然目にした記事や番組によって、その後の人生が大きく変わったということもありえない話ではなかったわけである。

 特定のキーワードを登録しておき、そのフィード情報が自動的に確認され、関連するページが公開されたときだけ、その要旨とともにリストアップされるようになると、こうした偶然が起こる可能性は低くなる。極端な話、国会が解散するようなことがあっても、政治に興味がないユーザーは、そのことをまったく知らないということが起こりうるわけだ。

 すでに、世の中には、新聞もテレビも見ない。情報の収集はインターネットだけというようなユーザーが生まれてきている。こうしたユーザーは、先進的なテクノロジーに敏感で、少しでも効率的に情報を集めようとする。そのことが、自分に興味のない情報をマスクしてしまう結果を招く。

●XMLは諸刃の剣

 フィード情報がしっかりと提供されていれば、遅いモデムの転送速度にイライラさせられることもなく、本当に読みたいページだけを開いていくことができる。だが、本当は、転送速度は、さして重要な問題ではない。フィードの一般化は、ポータルサイトの衰退を招き、そのことが、広告収入を減少させ、インターネット全体の情報の質低下につながりはしないか。そこに注目すべきである。あるいは、それを補うビジネスモデルが、すでに確立されているのだろうか。

 XMLのテクノロジは素晴らしい。コンピュータに文脈を理解させる大きな手助けとなる。このままトレンドが進めば、サービスサイトのオリジナルレイアウトデザインを誰も知らず、フィードだけで構成され、好き勝手にデザイン設定された自分だけのポータルを個々のユーザーが持つようになる可能性もある。「あのサイトのトップページの右上にあるバナーをクリックすると……」なんて話が成立しなくなるのだ。

 文字がギッシリと詰まった情報過多のページが好みのユーザーもいれば、ゆったりと、比較的大きな文字でじっくりと読めるページが好みのユーザーもいる。フォントの好き嫌いもあるだろう。XMLは、こうした個々のニーズをかなえるための重要なテクノロジーだ。

 ユーザーがそれを当たり前のように求めたとき、ポータルビジネスはどうなるのか。フィード情報の半分が広告で埋められるようになるのか。それでも、XMLである限り、特定の項目が広告であることを指し示さないわけにはいかない。当然、それを回避する手段が講じられるだろう。画面が小さく、広告効果が得られにくい携帯電話では、iモードなどが番組の有料購読システムと、その代行決済というビジネスモデルをとったように、インターネットもまた、それを追いかけることになるんだろうか。

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(2005年9月22日)

[Reported by 山田祥平]


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