IntelがついにデジタルホームPC向けの新ブランド名を正式に明らかにした。その名は“Viiv(ヴィーブ)テクノロジ”。正式なリリース時期は2006年の第1四半期が予定されており、日本、米国、イギリス、ドイツ、韓国など成熟市場の8カ国に投入されることになる。 これまで、“East Fork”(イーストフォーク、開発コードネーム)で呼ばれてきたViivは、PCベンダにはIIP(Intel Inside Program)の拡張版として広告費の補助を、エンドユーザーにはCentrinoモバイル・テクノロジと同じように容易な認知を、コンテンツホルダーには新しいビジネスチャンスを提供することになる。 ただし、すべてがバラ色というわけでもなく、いくつかの課題を残したままでの船出ということになりそうだ。 ●デジタルホームのエコシステムを確立するためのマーケティングプログラム 正式にViivテクノロジ(以下Viiv)に決定したEast Forkについては、すでにこの連載で何度も取り上げてきたが、復習の意味をかねてもう一度Viivの定義を解説しておこう。 Viivは、Intelがデジタルホームの普及を目指して計画しているマーケティングプログラムで、同社が2003年にモバイルPC向けに導入したCentrinoモバイル・テクノロジ(CMT)に似た仕組みになっている。 PCベンダは、IntelがViivの要件としている条件を満たすPCを製造すると、Viivのロゴを製品に添付して販売できるようになる。Viivのロゴを貼ったマシンの広告を打つ場合、Intelが提供しているIIP(Intel Inside Program)と呼ばれる広告費のキャッシュバックプログラムの対象となり、通常の場合よりもキャッシュバック率が向上するというメリットがある。 また、それ以外にもIntelがViiv向けに行なうさまざまなマーケティングプログラム(メディアへの露出や展示会など)にも、製品を露出させることが可能になるなど、IPP以外にもメリットが提供される。従って、ベンダとしては、どうせIntelのCPUを採用するなら、単にPentium D搭載マシンとして販売するよりも、Viiv搭載マシンとして販売した方がメリットが大きいことになる。 そうしたことにより、Viiv対応マシンが多数登場し、コンテンツホルダーがViivマシン向けにコンテンツを提供し、ユーザーがコンシューマ向けPCをこれまでよりも買うようになる……このような前向きな循環(エコシステム)を実現することがViivの目的だ。
●デュアルコアCPU+チップセット+Ethernet+MCEがViivデスクトップPCの要件 PCベンダが自社マシンにViivのロゴシールを貼り付けて、Viiv対応PCを名乗るには、いくつかの要件を満たす必要がある。Intel 副社長兼デジタルホーム事業本部 ジェネラルマネージャのドナルド・マクドナルド氏は基調講演の中で、「Viiv対応PCは、デュアルコアCPU、チップセット、ネットワーク、Windows XP Media Center Editionなどから構成されている」と、具体的にViiv対応PCの条件を挙げている。 実際には、もう少し明確な定義がある。OEMメーカー筋の情報に寄れば、現時点ではViiv対応PCとなるには、以下の要件を満たす必要がある。 【Viiv PCのシステム要件】
CMTでは、CPU+チップセット+無線LANだったのに比べると、いくつかの要件が増えている。 Intelのシリコンとしては、デスクトップPCではデュアルコアCPU+チップセット+Ethernetコントローラの3つのIntelチップを組み合わせる必要がある。ノートPCでは、これに加えて、無線LANモジュールも必須となっている。 さらに、Intelのコンポーネントではないものも必須となっている。ハードウェアでは、HD AudioやSerial ATA HDD(NCQコマンド対応)、リモコンなどが必要となっており、ソフトウェアではMicrosoftのWindows XP MCEとIntelのプラットフォームドライバが必須になっている。 Intel プラットフォームドライバとは、Intelのマザーボードなどに添付されているRAIDツールやオーディオツールなどのことを指しており、それらをバンドルすることもViivを名乗るための条件の1つとなっているのだ。 ●ノートPCはCentrinoブランド? それともViivブランド? ただ、これらの要件は、いくつかの問題を抱えている。1つはCentrinoモバイル・テクノロジとの整合性だ。NapaプラットフォームにおけるCMTの要件は、Yonah(CPU)+Calistoga(チップセット)+Golan(無線LANモジュール)となる。これは、前出のViivの要件の中に含まれてしまう。つまり、ノートPCでは、Viivの条件を満たすと、必然的にCMTの条件を満たしてしまうことになる。そうした製品はCMTのブランドになるのか、それともViivになるのだろうか? 実は、この議論はOEMベンダとIntelの間でも繰り広げられたという。当初Intelは、そうしたノートPCはViivのブランドにしたいという意向を持っていたようなのだが、OEMメーカーの多くはこれまでCMTブランドだったものをViivに変えれば混乱が起きるのでCMTブランドで行きたいという意向を持っているところが多く、調整が行なわれたという。 Intel デジタルホーム事業本部デジタルホームマーケティングディレクターのビル・レジンスキー氏は「基本的にはバッテリがないものに関してはViivで、バッテリで駆動できるものに関してはCMTのブランドでいくことになる」と説明している。ただし、それではユーザーはViivに対応したCMTノートPCなのか、Viivに対応していないCMTノートPCなのかはすぐにはわからない。 OEMメーカー筋の情報によれば、Viiv対応のノートPCの主ブランドはCMTになるものの、Viivのブランドもわかるような形で表示されることになる可能性が高いという。実際、OEMメーカー向けの資料には、「CMT with East Fork」という形で主ブランドがCMT、副ブランドとしてViivと表示されているという。例えば、CMTのロゴに、Viivが何らかの形で追加されるなど、両方が併存する可能性が高いだろう。 ●Windows XP MCEが必須ということが引き起こす問題をどうするのか? 日本のPCベンダにとって、Viivの最大の障壁と言えるのが、Windows XP MCEが必須条件であるという点だ。 なぜIntelはWindows XP MCEをViivの要件に入れたのだろうか? そこには明快な理由がある。「コンテンツホルダーやサービスプロバイダが提供するViiv向けのアプリケーションは、Windows XP MCEのAPIを利用する」(レジンスキー氏)からだ。 Windows XP MCEでは、サービスプロバイダーなどがXMLを利用して簡単にコンテンツ配信用のアプリケーションを作成することが可能になっている。MicrosoftはそのAPIを公開しているのだが、IntelはそのAPIをViiv用アプリケーション向けのAPIと定義しているのだ。このため、それが利用できるOSとしてWindows XP MCEが必須となってしまうわけだ。 TVチューナを搭載しているPCのOSがほとんどWindows XP MCEである米国では問題ではないが、日本ではすでに独自の10フィートUIを搭載したPCがほとんどで、これは大きな問題となっている。例えば、コンシューマPCのトップ3である、NEC、富士通、ソニーは、いずれも独自の10フィートUIをWindows XP Home Edition/Professionalに組み合わせて提供している。 問題を難しくしているのは、それらの日本メーカー独自の10フィートUIが、機能面でWindows XP MCEの10フィートUIであるメディアセンターを上回っているという点だ。このため、日本のPCベンダがWindows XP MCEに乗り換えるためには、機能のグレードダウンを覚悟しなければならない。そうした状況では、Windows XP MCEにOSを切り替えるというのは出来ない相談だ。このため、日本の大手PCベンダの中にはViiv採用を見送ったところも出てきている。 ●Windows XP MCEの問題はダイヤモンドのリリースまで続く この問題は、MicrosoftがWindows XP MCEを、日本のメーカーが独自に機能を拡張できるようにするまで続くことになる。Microsoftは現在のWindows XP MCE 2005の改良版として、今年の秋頃にエメラルドの開発コードネームで知られるバージョンをパッチの形で提供し、2006年の後半にリリースが予定されているWindows Vista世代では、ダイヤモンドの開発コードネームで知られるバージョンを追加する。 情報筋によれば、Microsoftはダイヤモンドでは、日本メーカーが独自に機能を追加できるようにするための改良を加えているとのことで、ダイヤモンドがリリースされれば問題も解決されることになるが、それまではWindows XP MCEが理由で、Viivに対応できない、というメーカーもでてくることになりそうだ。 □関連記事 (2005年8月26日) [Reported by 笠原一輝]
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