■多和田新也のニューアイテム診断室■
ビデオ内蔵Athlon 64向けチップセット |
ATIは11月8日(カナダ時間)、Athlon 64向けチップセット「RADEON XPRESS 200シリーズ」を発表した。同社にとっては初めてとなるAthlon 64向けチップセットであり、またPCI Expressへの対応や、グラフィックス機能を内蔵したラインナップの投入など注目すべき点が多い。このチップセットの性能を検証していきたい。
●Socket 939対応チップセット初となるグラフィックス統合タイプ
RADEON XPRESS 200シリーズのラインナップや概要については、すでに紹介記事がアップされているので、そちらを参照されたい。
RADEON XPRESS 200シリーズには、グラフィックスを統合した「RADEON XPRESS 200」と、グラフィックス機能を内蔵しない「RADEON XPRESS 200P」があり、CPU-チップセット間を1GHzのHyperTransport Linkで接続できる。
Socket 939のAthlon 64は当初、3500+以上のモデルナンバーを持つ製品しかなく、しかもグラフィックス統合チップセットが存在しない状態であったため、導入コストを削ることが難しかった。
だが、ここにきてRADEON XPRESS 200が登場し、Winchesterコアの低クロックなAthlon 64も出回っている。これらを組み合わせれば、導入コストはかなり抑えられることになる。また、ショップブランドPCなどを中心としたホワイトボックスにおいても、低価格なSocket 939環境を提供できることになり、起爆剤となり得る可能性を秘めたチップセットといえるだろう。
そのRADEON XPESS 200を搭載したマザーボードだが、今回はATIよりRADEON XPRESS 200P/RADEON XPRESS 200を搭載した評価ボードをそれぞれ借用した(写真1、2)。この2製品はベースとなるPCBが同一のもののようで、両評価ボードともにMSIの型番と思われる「MS-7093」の印刷が見受けられる。
【写真1】RADEON XPRESS 200Pの評価ボード。microATXフォームファクターに準拠するタイプで、PCI Express x16×1、PCI×3の構成となっている | 【写真2】こちらはRADEON XPRESS 200の評価ボード。グラフィックス統合型チップセットだが、ノースブリッジにファンは取り付けられていない |
また、グラフィックス機能を内蔵しているRADEON XPRESS 200も含めてチップセットにファンは搭載されておらず、見た目はほとんど変わらない。大きな違いとなるのは、グラフィックス機能の有無によるI/Oリアパネルの違いで、当然ながらRADEON XPRESS 200にはグラフィックス出力に関する端子が用意されている(写真3、4)。
両評価ボードともmicroATX仕様となっているが、RADEON XPRESS 200Pの評価ボートの末端部には、PCIスロット拡張ボードを増設できる独自コネクタが設けられている(写真5)。
ちなみに、チップセットの仕様としてはPCI Express x1を4レーン設けることもできるが、今回の評価ボードにはPCI Express x16スロットと32bit PCIスロットしか用意されていない。オンボード搭載されているGigabit EthernetコントローラもPCI接続の「Realtek RTL8100C」で、PCI Express x1はまったく利用されていない格好になる。
サウスブリッジには両ボードともIXP400が搭載される(写真6)。RAID 0/1対応のシリアルATA×4とUltra ATA/133×2、TPM1.1/1.2に準拠したセキュリティ機能などが大きな特徴。なお、ノースブリッジとはPCI Expressで接続されるので、他社製のサウスブリッジであってもPCI Express接続のタイプなら利用できる。
RADEON XPRESS 200に内蔵されたグラフィックス機能は、RADEON X300のコアをベースとしたものである。コアクロックは300MHzとなっている(画面1)。ビデオメモリは専用にローカルフレームバッファを設けることができるほか、UMAを利用することもできる。また、両方を兼用することもできる。ただし、今回の評価ボードにはローカルフレームバッファは搭載されておらず、UMAのみで動作している。
グラフィックスドライバは、評価キットに同梱されていたCD-ROMに収録されたチップセット用の統合ドライバとまとめてインストールされる。ドライババージョンは「6.14.10.6490」、コントロールパネルのバージョンは「6.14.10.5131」となっており、現在RADEONシリーズ向けに同社のWebページで提供されているCATALYST4.11相当だ(画面2)。当然ながら、プロパティの画面もRADEONシリーズのそれと同じものである。
【画面1】3DMark05のSystem Info。コアクロックが300MHzであることが分かる。メモリクロックは取得できていないが、これはUMAのためだと推測される | 【画面2】チップセットドライバとともにグラフィックスドライバもインストールされる。現状ではRADEON向けのCATALYST 4.11と同等のドライバである |
●3社のSocket 939対応チップセットを比較
それでは、このRADEON XPRESS 200シリーズのパフォーマンスを検証してみることにしたい。テスト環境は表のとおりで、過去に行なったnForce4のテストに揃えている。
なお、RADEON XPRESS 200に関しては、CPU/メモリ/アプリケーション性能のテストにおいては、内蔵グラフィックス使用時と外部ビデオカード使用時の差を以前のテストと比較して検証するために、内蔵グラフィックスとGeForce 6800 GTを使用している。残るGeForce PCX 5300は、内蔵グラフィックス性能との比較用である。
チップセット | RADEON XPRESS 200 | RADEON XPRESS 200P | nForce 4 Ultra | nForce 3 Ultra | K8T800 Pro |
---|---|---|---|---|---|
マザーボード | ATI評価ボード | ATI評価ボード | NVIDIAリファレンスボード | MSI K8N Neo2 Platinum | ASUSTeK A8V Deluxe |
CPU | Athlon 64 3800+ | ||||
メモリ | PC3200 DDR SDRAM 1GB(512MB×2/CL=3) | ||||
ビデオカード1 | NVIDIA GeForce 6800 GT(256MB/PCI Express x16) | NVIDIA GeForce 6800 GT(256MB/AGP) | |||
ビデオドライバ | ForceWare 61.77 | ||||
ビデオカード2 | NVIDIA GeForce PCX 5300(128MB/PCI Express x16) | ||||
ビデオドライバ | ForceWare 61.77 | ||||
ビデオカード3 | 内蔵グラフィックス | ||||
ビデオドライバ | Version 6.14.10.6490 | ||||
HDD | WesternDigital WD Raptor WD360GD×2(RAID0) | ||||
RAIDコントローラ | チップセット内蔵 | Promise Technology「PDC20378」 | |||
OS | Windows XP Professional(ServicePack2/DirectX 9.0c) |
●CPU性能
では、実際にテスト結果を見ていくことにしたい。まずはCPU性能からである。使用したベンチマークソフトは、「Sandra 2004 SP2b」の「CPU Arithmetic Benchmark」と「CPU Multi-Media Benchmark」だ(グラフ1)。CPU以外の要因が影響しにくいテストであり、CPUが統一された環境では、ご覧のとおり誤差以上の差は発生していない。
続いて、もう少し実アプリケーションに近いテストとして「PCMark04」の「CPU Test」の結果も見ておきたい(グラフ2、3)。CPUテストである以上、こちらも大きな差は見られない。若干、明確に差が付いているところでは、DivX/WMVエンコードでnForce4が差をつけているが、これも大きなものではない。その意味では、CPUの演算性能に関しては、どの環境も同程度引き出せているという結果といえるだろう。
【グラフ1】Sandra 2004 SP2b | 【グラフ2】PCMark04(CPU Test 1) |
【グラフ3】PCMark04(CPU Test 2) |
●メモリ性能
続いてはメモリ性能である。使用したテストはSandra 2004 SP2bの「Cache & Memory Benchmark」だ(グラフ4、5)。まずグラフ4で全結果の傾向を見てみると、ここは、明確な差が分からないほどグラフの形が酷似する結果となっている。CPUがすべて同一であるため、ここは納得できる。
続いてグラフ5に一部結果を抜粋して掲示した。4KBと512KBのブロックサイズのテストは、それぞれL1/L2キャッシュのアクセス速度を見ることができるが、ここはRADEON X200の3環境がやや落ち込む結果となった。この点については、現時点でBIOSのチューニングがおとなしめであるようだ。実際に製品として発売されるマザーボードでは、もう少しアグレッシブなチューニングを施してくる可能性もあり、この結果がチップセットの性能の全てではない点に注意されたい。
実メモリのアクセス速度に関しては、nForce4にこそ劣ってしまったが、K8T800とnForce3には勝る結果となっている。外部ビデオカードを使った場合、RADEON X200とX200Pの間に転送速度がほとんどないあたり、チップセットの根幹となる部分はまったく変更されていないのだろう。
内蔵グラフィックスを使った場合、今回の評価ボードではUMA方式となるため、グラフィックスの表示にもメインメモリが使われる。そのぶんアクセス速度が若干遅めになるのは、従来の統合型チップセットでも見られた傾向であり、セオリーどおりといって差し支えない。それでもK8T800とnForce3に勝っているのは、評価していいだろう。
【グラフ4】Sandra 2004 SP2b(Cache & Memory Benchmark) | 【グラフ5】Sandra 2004 SP2b(Cache & Memory Benchmark) |
●アプリケーション性能
それでは、実際のアプリケーションを使ったベンチマークで、各環境のポテンシャルを見ていくことにしたい。利用したベンチマークは「SYSmark2004」(グラフ6~8)、「Winstone2004」(グラフ9)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ10)である。
結果を見てみると、ちょっと不思議な現象が見て取れる。というのも、ここまでのテスト結果で同一の傾向が見て取れたRADEON XPRESS 200Pと、外部ビデオカードを使用したRADEON XPRESS 200の環境における性能差が大きいのだ。TMPGEncではそれほどの差ではないが、SYSmark2004とWinstone2004ではRADEON XPRESS 200の性能が高いという結果になっている。
HDDの転送速度に大きな違いが生じているのかと思ったが、Sandra 2004 SP2bのFilesystem Benchmarkで計測すると、RADEON XPRESS 200Pが77MB/sec、RADEON XPRESS 200が75MB/secと大きな差ではない。
後述の3Dベンチでは同等かRADEON XPRESS 200Pのほうが若干良い成績になる傾向になる。どうやらRADEON XPRESS 200Pは複数アプリケーションを利用するような複雑なベンチマークで、やや安定さにかける結果になるようだ。この点は実際の製品では改善されることに期待したい。
他製品との比較で見ると、全体にnForce4の成績が優れていることが目に留まる。RADEON XPRESS 200はK8T800より優れた感じではあるが、nForce3と一長一短といった成績であり、性能的にはこのあたりの位置付けになるようだ。
【グラフ6】SYSmark2004 | 【グラフ7】SYSmark2004 ~Internet Content Creation~ |
【グラフ8】SYSmark2004 ~Office Productivity~ | 【グラフ9】Winstone 2004 |
【グラフ10】TMPGEnc 3.0 XPress |
●3D性能
それでは次に3D性能を見ていきたい。なおGeForce 6800 GTと内蔵グラフィックスの性能差はスペック面でも明らかであり、対象とするユーザー層も大きく異なることから、ここでは内蔵グラフィックスを使ったテスト環境の結果はグラフに含めていない。この結果は後述することにしたい。
実行したベンチマークは「Unreal Tournament 2003」(グラフ11)、「Unreal Tournament 2004」(グラフ12)、「DOOM3」(グラフ13)、「3DMark05」(グラフ14)、「3DMark03」(グラフ15)、「AquaMark3」(グラフ16)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」(グラフ17)である。
先にも少し触れたが、RADEON XPRESS 200P、XPRESS 200間の性能差は、そう大きくはないもののXPRESS 200Pが勝る傾向にある。nForceと比較すると、Unreal 2種やDOOM3、FF Benchのように、CPU側でも3D処理が多いテストではnForce4が優勢である。AGPとPCI Expressという違いがあるので直接の比較は難しいが、3D性能もおおよそnForce3と同等の性能という雰囲気になっている。
【グラフ11】Unreal Tournament 2003 | 【グラフ12】Unreal Tournament 2004 |
【グラフ13】DOOM3 | 【グラフ14】3DMark05 |
【グラフ15】3DMark03 Build340 | 【グラフ16】AquaMark3(Average FPS) |
【グラフ17】FINAL FANTASY Official Benchmark 2 |
●内蔵グラフィックス性能
最後にRADEON XPRESS 200の内蔵グラフィックス性能を見てみたい。コアがRADEON X300をベースにしているということで、同等のセグメントに位置付けられるGeForce PCX 5300との比較をしてみたい。テストは前述の3D性能の項とほぼ同じだが、AquaMark3のみ内蔵グラフィックスでどうしても完走せず(Hotfix1.53も適用したが変わらず)、このテストは断念している。このほか、もう少し負荷の小さいテストも試すために、3DMark2001 SecondEditionをテストしている。
結果は「Unreal Tournament 2003」(グラフ18)、「Unreal Tournament 2004」(グラフ19)、「DOOM3」(グラフ20)、「3DMark05」(グラフ21)、「3DMark03」(グラフ22)、「3DMark2001 SecondEdition」(グラフ23)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」(グラフ24)に示した。
Unreal 2種でGeForce PCX 5300が勝る結果も見られるものの、ほぼRADEON XPRESS 200の完勝といって差し支えないだろう。内蔵グラフィックスを使っている関係でメインメモリの一部がグラフィックスメモリに割り当てられる不利もあるわけだが、それを差し引いても良い性能を出していることになる。
もっとも、DirectX 9のテストでは性能差を競う必要があるかどうか疑問なほどスコアは低く、今回のテストでいうなら、Unreal 2種とFF XIは描画クオリティにこだわならければ楽しめる、といった雰囲気で、内蔵グラフィックスの性能に劇的な印象は受けない結果となっている。
【グラフ18】Unreal Tournament 2003 | 【グラフ19】Unreal Tournament 2004 |
【グラフ20】DOOM3 | 【グラフ21】3DMark05 |
【グラフ22】3DMark03 Build340 | 【グラフ23】3DMark2001 SecondEdition |
【グラフ24】FINAL FANTASY Official Benchmark 2 |
●統合型チップセットの登場でSocket 939の普及に弾みがつくか?
性能面や独自の機能を数多く持つnForce4ほどのインパクトはない印象だが、それでも従来のSocket 939向けチップセットと同等以上の性能は期待できそうだ。
それよりも、本製品が登場した意義としては、やはりグラフィックス統合型のチップセットがラインナップされている点に集約されるだろう。競合のNVIDIAは、現時点でAthlon 64向けの統合型チップセットをリリースできておらず、一歩先を行ったことになる。
機能面ではPCI Expressなどのトレンドを取り入れてはいるものの全体的に非常に手堅い作りであり、nForce4のような目新しさはないが、まずは現状の市場のニーズに応えようという思想が見える製品である。
冒頭部分の繰り返しにはなるが、低コストにAthlon 64を導入する環境が整ったことで、今後ホワイトボックスを含むメーカー製PCで、グラフィックス性能を気にしない層に向けた製品への採用が進む可能性があるわけだ。その意味では、Athlon 64にとっては非常に大きな意義を持つ製品が登場したといえるだろう。
□関連記事
【11月8日】ATI、Athlon 64用PCI Express対応チップセット「RADEON XPRESS 200」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1108/ati.htm
【10月29日】【多和田】Athlon 64用PCI Express対応チップセット「nForce4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1029/tawada34.htm
(2004年12月8日)
[Text by 多和田新也]