三浦優子のIT業界通信

観光戦略でクローズアップされる「アキバ」の新しい魅力




edo-valley推進機構の運営委員もつとめる松波道廣氏

 「秋葉原にもっと観光客を呼びたい!」今、東京都千代田区がそんな計画を立てている。

 すでに秋葉原は海外観光客が多く集まる街で、地方から秋葉原を訪れるマニアユーザーもたくさんいる。東京都でも、「知名度が高い秋葉原は、観光の優等生」とお墨付きを出しているほどなのだが、こと「千代田区」に限ってみれば、これまでほとんど観光には力を入れてこなかった区だという。

 ラオックスに勤務し、ザ・コンピュータ館の店長の経験をもつ松波道廣氏は、現在はラオックスを離れ自らカスタマー経営研究所を東京都新宿区に設立、中小企業向けコンサルティングビジネスを行なっている。

 本業の傍ら、秋葉原・神田・丸の内とその周辺地域の産業育成・人材育成並びに地域振興を推進する会員相互の研究・交流・実践を行なう「edo-valley」(エドバレー)推進機構の運営委員、秋葉原西口商店街振興組合の相談役といった、秋葉原の地域振興にも関わっている。

 その中で、「秋葉原から離れてから、秋葉原の強さ、もっと強化すべきポイントが見えるようになった。もっと多くの人に秋葉原を訪れてもらって、楽しんでもらえる仕掛け作りがこれからできる」と話している。

●区内を横に移動するケースを増やせ!

 これまで千代田区は、ほとんど観光に力を入れてこなかった。それを示すように東京都の観光情報センターには千代田区が作成した観光パンフレットは置かれていない。

 もっとも、秋葉原を筆頭に、わざわざアピールしなくても、自然に多くの人を集める地区が千代田区には多い。オフィス街・丸の内、古書の街・神田神保町など、多くの人で賑わう地域ばかりだ。

 「だが、あらためて検討してみると、距離的には近いのに、神保町から秋葉原へ足を伸ばすといった、千代田区内を横移動する人は案外少ないことが、千代田区の観光産業フォーラムでの話し合いで明らかになった」という。

 例えば、現在秋葉原にはJRか東京メトロ日比谷線の秋葉原駅を利用する人が多いだろうが、東京都営地下鉄の小川町、東京メトロ淡路町から歩いても、数分で秋葉原電気街に到着する。

中国人観光客誘致のため、中国語の観光パンフレットの作成も 歩いてみれば、秋葉原からも近い神田須田町の蕎麦の名店、「神田藪蕎麦」 交通博物館は秋葉原と神田須田町の中間に位置するが、残念ながら2007年には埼玉県に移転予定

 「小川町の駅がある神田須田町界隈には、神田藪蕎麦など由緒正しい蕎麦の名店などグルメにはお馴染みの店がたくさんある。当然、そこを通って秋葉原に足を向ける人も多いのだが、『そんなルート、全く知らなかった』という人も多い」

 今後、千代田区内の店舗や施設が連動し、千代田区内の別の場所へ誘導を行なうといった施策を打ち、それまで知らなかったルートや店を紹介していくことで、千代田区に足を向け、買い物をしたり、飲食をしたりする人を増やしていくのが同区の狙いである。

 松波氏の本業である中小企業への経営コンサルティングという点でも、「千代田区には、印刷関連の企業が多い。千代田区の観光産業発展により、印刷関連の企業にも新たなビジネスチャンスが生まれる。その際のIT化支援などがビジネスになればと期待している」と発展の可能性があるそうだ。

●秋葉原の街も目的別地図の作成で活性化を

 秋葉原についても、「ピンポイントで目的地だけを訪れる人も多い。もっとさまざまな店を訪れてもらえる仕掛けが工夫次第で作れるのではないか」と松波氏は指摘する。千代田区が千代田区内をあちこち移動する人を増やしていきたいとしているのと同様、秋葉原地区の中をもっとあちこち移動する人を増やしていけるのではないか、というわけだ。

 「パソコンだけを切り取ってみても、メーカー製品が得意な店、パーツが得意な店、中古が得意な店など異なる特性がある。秋葉原を歩き慣れていて、自分の足でそういう店を開拓し、探していくことができる人もいるだろう。だが、新しい店に行ってみたいのだが、どこに自分の欲しい商品を扱っているのかわからないため、通い慣れた店しか行っていないという人も多いのではないか。そういう人のために、地図の提供ができないかと考えている」

 秋葉原の地図といえば、秋葉原電気街振興会が作成する会員企業を紹介するガイドマップがある。このガイドマップを手に、秋葉原の街を歩く人も多い。あらためて、地図を作製する必要はないように思える。

 だが、松波氏は、「小川町から秋葉原へ来るルートを知らない人がいるのと同様に、ガイドマップだけでは新しい店を探すことができないという人がいるはず」と指摘する。

 「今回、勉強のために東京都の自由が丘へ見学に行って驚いたのは、駅前に自由が丘振興組合が作ったインフォメーションセンターがあり、さまざまな案内を行なっていること。地図についても、実に17種類の地図が用意されていた」

 地図が17種類というと、何故、そんなに数が必要なのかと思うが、この地図には同じ白い地図の上に、「スイーツのお店」、「和食のお店」、「雑貨のお店」といった具合に、目的別の施設が紹介されている。これを1枚20円で販売し、初めて自由が丘を訪れた人でも目的のお店に簡単にいくことができるようになっているのだという。

 「これを秋葉原に応用すれば、オーディオ店マップ、パーツ店マップ、ゲームショップマップといった具合に目的別のマップを作ることで、自分では気がつかなかった秋葉原の楽しみを再発見するきっかけとなるのではないか」と松波氏は目論んでいる。

●観光化が郊外店にはない特徴を際立たせる

 秋葉原の観光化計画としては、千代田区の取り組みのほかにも、秋葉原電気街振興会が東京都や総務省、大手ITベンダーなどと組んで、東京大学の妹尾堅一郎特任教授を中心に進めている「秋葉原実証フィールドコンソーシアム」もあり、ICタグを使って免税店での買い物をしやすくする実験なども実施されている。

 さらに、これまでは秋葉原内の宿泊施設は秋葉原ワシントンホテルくらいしかなかったものの、現在2つのホテルが建設中で、一気に宿泊しやすい環境が整う。

 現在、「秋葉原クロスフィールド」の建設が進み、IT企業の集積地としての秋葉原がクローズアップされることが多いが、観光地としての秋葉原の強化も着々と進んでいるという感がある。

 ただし松波氏は、「観光というと、一度遊びに来てお終いというイメージになってしまうが、秋葉原は何回も来てもらって、楽しんでもらえる街。そういう意味では、観光というより、もっともっと、秋葉原で遊んで欲しい」と、一過性ではない、秋葉原の街の活用を勧める。

 前述した地図についても、「アイデア次第で、自由が丘の17種類を上回る数の地図を用意することも可能ではないか」という。秋葉原の街には新しいスポットが次々に誕生しており、それを新たに紹介していく地図というだけでも需要があるかもしれない。

 秋葉原に限らず、電気街は大きな転換期を迎えている。それだけに、秋葉原の観光産業を強化していくことで、「郊外店にはない電気街の強みを再認識できるのではないか」という。

 果たして思惑通り、さらに多くの観光客、いや秋葉原で遊ぶ人を増やすことができるのか。秋葉原の街としてのパワーが試されている。

□edo-valleyのホームページ
http://www.edo-valley.com/
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(2004年11月29日)

[Reported by 三浦優子]


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