■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■Intelのロードマップから見えたPrescott 4GHzが消えた理由 |
Intelは、当初、Prescott 4GHz(Processor Number 580)を2004年第4四半期に投入する予定でいた。だが、Prescott 4GHzは2005年第1四半期へと後退、そしてついには消えてしまった。Intelは、現在、2005年中に4GHzのCPUを出す予定がない。つまり、IntelのデスクトップCPUの周波数は、3.8GHzでピタリと1年以上も止まってしまう。おそらく、4GHzの声を聞けるのは2006年も後半になってからだろう。これはなぜなのか?
答えは簡単だ。デュアルコアCPUへの移行のためだ。
2005年のIntelのロードマップを俯瞰すると、IntelがPrescott 4GHzを投入できない理由が見えてくる。Intel最初のデスクトップデュアルコアCPUである「Smithfield(スミスフィールド)」の周波数は3.2GHz。そのため、Intelはできる限りPrescottの周波数を抑え、Smithfieldとの周波数ギャップを縮める必要がある。しかも、Smithfieldは65nmプロセスに移行するまでは周波数を向上させることが難しい。そのため、Intelは長期にわたって周波数を凍結しなければならないだろう。
実際、あるソースは「Prescott 4GHzは技術的な理由で出せないのではなく、製品戦略上出さない方がいいと判断したと」と語る。また、別な信頼できるソースは「その次に出る製品(Smithfield)とのクロック差を大きくできないため」と、もっと明確に言い切る。
もちろん、これらがごまかし的な説明という可能性もあるが、おそらくそうではない。というのは、Prescott 4GHzは延期されたのではなく2005年ロードマップから完全に消えたからだ。技術上の理由ならば、1年あれば解決手段が見つかるだろう。
実際のところ、Prescottのマイクロアーキテクチャ自体には、高周波数ができない理由が見あたらない。PrescottはNorthwoodよりもパイプラインが細分化されており、1サイクル当たりのゲート数が少ない。物理設計面でも、高クロックに合わせた改良が多数施されている。
Prescott高クロック化での、技術上の最大の壁はTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)だ。現状では、PrescottはPCに低コストに搭載できる範囲の熱枠(Thermal Envelop)に納めるために、周波数を制限している。そのため、Prescott 4GHzが、その枠(115~125W)を超えてしまった可能性も指摘されていた。
しかし、Intelは、SpeedStepライクな技術「Enhanced Intel Speedstep Technology(EIST)」や改良した90nmプロセスで、ある程度TDPを抑えることができる。そのため、出そうと思えば、4GHz以上を出せると推測される。製品ラインの構成上、都合が悪いために4GHzが消えたという情報の方が信憑性がある。
●周波数が下がるロードマップ
4GHzがIntelにとって都合が悪い理由は、Intel CPUの価格構成と周波数をチャート化すると見えてくる。
下の図は、IntelのCPUの価格構成の推定ロードマップだ。ブルー文字が現行のPentium 4 5xxファミリ、グリーン文字がPentium 4 6xxファミリ、レッド文字がSmithfieldだ。Smithfieldについては、Intelは「x40」といった表現をしており、実際には700番台になるか900番台になるのかまだわからない。ここでは便宜上700番台にしておいた。
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こうしてProcessor Numberで並べると、各色の最上位ケタが異なり、2桁目は上に行くほど大きな数字になり、一応整然と並んでいる。ところが、これを周波数に置き換えた次の図だと、話は違ってくる。
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まず明瞭なのは、周波数向上が完全に停止することだ。シングルコアCPUについては、2004年末で周波数の向上がストップされる。Pentium 4 5xxからPentium 4 6xxへとスライドしてProcessor Numberが大きくなっても、周波数は上がらない。これまでのIntelの、段階的に周波数が上がるロードマップは、2005年には完全に崩れる。
それどころか、同じ価格帯で見ると、CPUの動作周波数は“下がって行く”。典型的なのは、パフォーマンス1の価格ボックスで、ここに登場する新CPUの周波数は、今冬に登場するPentium 4 570の3.8GHzをピークに、段階的に下がって行く。
まず、2005年第1四半期のPentium 4 660で3.6GHzへと200MHz下がる。次に2005年第3四半期のSmithfield x40/x30の3.2/3GHzで、さらに400~600MHz下がる。3四半期で、3.8GHz→3.6GHz→3.2/3GHzと下るわけだ。一応、Pentium 4 570と660は併売され、Smithfield登場後は660と740/730が併売されるものの、新しい仕様を備えたCPUを選ぶと周波数が低くなる。Intelは、2005年のデスクトップCPUを、低い周波数へと誘導しているわけだ。
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●シングルコアとデュアルコアの差を400~600MHzにとどめる
こうしたロードマップのおかげで、同じ価格帯では、シングルコアCPUとデュアルコアCPUの周波数差は400~600MHzに収まるようになる。逆を言えば、その周波数差に納めるために、周波数を下げるというこれまでにないロードマップを苦労して組み立てているように見える。おそらく、この周波数差が、Smithfieldへのスムースな移行が可能だとIntelが考えているギャップだと推定される。
そうまでして、IntelがSmithfieldへの移行を慎重に進めるのは、Smithfieldの“パフォーマンス”という部分に疑問があるからだ。もちろん、Intelは実パフォーマンスでは、マルチスレッド性能の高いデュアルコアのSmithfieldの方が高いと主張するだろう。しかし、周波数差が開けば、シングルスレッドに処理が偏るソフトウェア環境の場合はシングルコアCPUの方が性能が高くなるケースが増えてくる。
また、Smithfieldの3.2GHzは、あくまでもピーク性能で、実際にはThermal Envelopに納めるために、性能が削れる(EISTで周波数を下げてしまう)可能性も高い。デュアルコアの性能優位を示すためには、シングルコアの性能をできる限り抑える必要がある。
もうひとつ重要なのはユーザー心理だ。心理的には、シングルコア4GHzと、デュアルコア3.2GHzがほぼ似たような価格レンジになると、デュアルコアへの移行はどうしても鈍くなる。特に、シングルコアCPUに“4GHz”というインパクトのある周波数がついていると、なおさらだ。イメージ戦略的にも、シングルコアに4GHzの冠をつけたくないのかもしれない。
そうした視点で見ると、Pentium 4 6xxファミリの役割も見えてくる。Intelは、Pentium 4 6xxの導入によって、同価格帯での周波数を実質引き下げ、その代わりに周波数以外の付加価値(2MB L2キャッシュなど)をつけようとしている。周波数以外の付加価値に、顧客を慣れさせようとしていると言い換えてもいい。
より周波数が低く、その代わりにデュアルコアという大きな付加価値があるSmithfieldのための地ならしというわけだ。だから、わざわざPentium 4 6xxの付加価値を高めるために、EM64Tのイネーブルという「エサ」までつけるのだろう。
こうした苦しいロードマップからは、デュアルコア前倒しでのIntelの戦略の揺れが見えてくる。デュアルコア移行のための生みの苦しみというべきロードマップだ。
●8階層の価格ボックスで構成
もう少し詳しく、Intelの価格&周波数&付加価値ロードマップを検証しよう。
Intelは、現在CPUを8段階の価格階層で構成している。Pentium 4 Extreme Editionがカバーする「パフォーマンス2」、Pentium 4の最高価格CPUがカバーする「パフォーマンス1」、その下の「メインストリーム1~3」の3階層がPentium 4ブランドとなる。さらにその下に、Celeronブランドがカバーする「バリュー1~3」のボックスがある。それぞれの階層で想定しているPCシステム価格は以下の通りだ。
Performance 2 | Pentium 4 XE $1,500~ |
---|---|
Performance 1 | Pentium 4 $1,300-1499 |
Mainstream 3 | Pentium 4 $1,000-1299 |
Mainstream 2 | Pentium 4 $800-999 |
Mainstream 1 | Pentium 4 $700-799 |
Value 3 | Celeron D $600-699 |
Value 2 | Celeron D $400-599 |
Value 1 | Celeron D ~$400 |
この価格ボックスは、Intelの勝手な分類に過ぎないが、それでも意味を持つ。それは、各ボックスがそれぞれCPU価格も示すからだ。
IntelのデスクトップCPU価格構成には、常に明確な規則性がある。それは“1.5x倍の法則”だ。Intelの現在のPentium系ハイエンドCPUは999ドルのPentium 4 Extreme Edition(XE)。その下に、600ドル台、400ドル台、270ドル前後、210ドル前後、170ドル前後と、5階層にCPU価格が構成されている。
1,000ドル弱のPentium 4 XEと、620ドル程度のハイエンドPentium 4の間の差は約1.5x倍、そして620ドルPentium 4とその下の410ドルPentium 4の差も約1.5x倍、410ドルは270ドルPentium 4の約1.5倍。つまり、CPUのパフォーマンスが1グレード上がると、価格も1.5x倍に上がるように構成されている。
例外は210ドル前後の価格レンジだが、これも実はこの規則の枠内にある。270ドルは170ドルの約1.5x倍で、210ドルはちょうどその間に位置している。つまり、1.5x倍の法則を、さらに2分割した中間価格が270ドル帯なのだ。170ドル台のさらにその下には160ドル前後のローエンドPentium 4があり、これだけは規則に則っていないが、それは160ドルPentium 4が最終価格の“捨て値”CPUだからだろう。
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●やや不鮮明なデュアルコアCPUの価格
整理すると、Pentium 4ブランドのCPU価格は、次のようになる。
Performance 2 | $999 |
---|---|
Performance 1 | $600台 |
Mainstream 3 | $400台 |
Mainstream 2 | $270前後、$210前後 |
Mainstream 1 | $170前後、$160前後 |
各システム価格のボックスに、それぞれのCPU価格構成が合致する。ボックス毎にCPU価格は1.5x倍づつ上がって行く。ボックスに2スキューが入る場合には、1.2x倍の価格が用意される。CPU価格は下がシステム価格の25%程度で、上のカテゴリになるに従って比率が上がって行く想定だ。
Intelの現在の2005年前半のロードマップでは、各ボックスに収まるシングルコアCPUは次のようになる。
Performance 2 | Pentium 4 XE 3.73GHz/Pentium 4 670(3.8GHz) |
---|---|
Performance 1 | Pentium 4 660(3.6GHz)/570(3.8GHz) |
Mainstream 3 | Pentium 4 650(3.4GHz)/560(3.6GHz) |
Mainstream 2 | Pentium 4 640(3.2GHz)/550(3.4GHz) Pentium 4 630(3GHz)/540(3.2GHz) |
Mainstream 1 | Pentium 4 530(3GHz)/520(2.8GHz) |
IntelはデュアルコアCPUについては意図的にロードマップを分けており、SmithfieldがシングルコアのどのCPUと同価格レンジになるかは掴みにくい。例えば、Smithfieldの「x30」、つまり3GHz版はシステム価格で1,100~1,399ドルレンジとされている。ちょうどシングルコアCPUの価格ボックスのパフォーマンスとメインストリームに重なる位置づけだ。
しかし、IntelはSmithfieldについて、パフォーマンスCPUで2スキュー、メインストリームで1スキューと説明していた。そのため、Smithfieldでは、x40(3.2GHz)とx30(3GHz)がパフォーマンス、x20(2.8GHz)がメインストリームだと推定される。そこで、シングルコアCPUの価格ボックスで該当すると推測される部分に据えた。ただし、シングルコアとデュアルコアの価格の相対については、まだ不明瞭な点も多く、また、状況で変わる可能性も高い。
こうしたIntelのCPU価格ボックスは、価格レンジなどの上下やボックス数の増減(以前は7ボックス)はあっても、これまで大きな変化はなかった。違いは、時間軸での推移だ。
Intelのロードマップでは、本来、1四半期毎に新しい周波数帯のCPUが登場、それに合わせてCPUの価格構成も1段階づつ下へとずれる仕組みになっていた。ところが、2003年からCPUの周波数向上が鈍化、このシステムが崩れ始める。そして、2005年に、CPUの周波数の向上はついに完全に止まってしまうわけだ。周波数の時代の終焉が、やってきた。
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【10月22日】【海外】デュアルコアCPU“Smithfield”は来年第3四半期に登場
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【10月19日】Intel、4GHz版Pentium 4の開発中止を確認
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【8月5日】【海外】Intelの2005年のデュアルコアCPU「Smithfield」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0805/kaigai108.htm
【8月9日】【海外】デュアルコアプロセッサ「Smithfield」のアーキテクチャ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0809/kaigai109.htm
(2004年10月27日)
[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]