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デュアルコアプロセッサ「Smithfield」のアーキテクチャ




●SmithfieldはNetBurstアーキテクチャ

 Intelが2005年に投入するデュアルコアCPU「Smithfield(スミスフィールド)」は、NetBurst(Pentium 4系)アーキテクチャベースとなる。

 また、Smithfieldとは別にシングルコアのNetBurst CPU「Cedarmill(シーダミル)」を2005年中に投入、その後、65nmのデュアルコアCPUを投入する。Intelの新プランの姿が、もう少し見えてきた。

 Intelは、2005年に投入するはずだった90nmの次世代NetBurst系CPU「Tejas(テハス)」を5月にキャンセル、その代わり、2005年中盤にSmithfieldを投入することにした。先週レポートした通り、Smithfieldは90nmプロセスで製造されるデュアルコアCPUで、現在の90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)の後継的な位置づけになる。

 Smithfieldの詳細はまだ不明だが、複数の情報筋によるとこの新CPUはNetBurstアーキテクチャベースだという。Intelは、2005年にモバイルでもPentium M系のデュアルコアCPU「Yonah(ヨナ)-2P」を投入する見込みだが、SmithfieldはYonahとは全く別設計となる。Smithfieldのサンプルは年内に登場すると言う。

 また、Intelはパフォーマンス/メインストリーム系CPUはデュアルコア化するが、シングルコアCPUも低価格ラインでは継続する。シングルコアCPUでは、65nmプロセスで製造するCedarmill(シーダーミル)を、2005年中に投入する。

 Cedarmillは、Tejasの65nm版CPUのコードネームで、現在もその内容は変わっていないと推定される。つまり、90nm版のTejasはキャンセルされたが、65nm版Cedarmillはキャンセルされなかったわけだ。65nmのデュアルコアCPUもNetBurstアーキテクチャだとしたら、CedarmillコアをデュアルにしたCPUになると推定される。

●デュアルコアを前倒しするためにSmithfieldを開発

 SmithfieldがNetBurst系であることが明らかになったことで、IntelのTejasキャンセルの目的が、Intelの主張通り「デュアルコアCPUの前倒し」であったことが確実になった。

 デュアルコアをなんとしても2005年中にデスクトップに投入しなければならないと判断、その結果、シングルコアのTejasをキャンセルしてSmithfieldを投入すると推測される。主眼は、デスクトップのデュアルコア化にある。

 Intelが特にデスクトップでデュアルコア化を急ぐ理由は、もちろんAMDのデュアルコアデスクトップCPU「Toledo(トレド)」に対抗するためだろう。AMDは、K8アーキテクチャ開発時からデュアルコア化を前提として設計していた。しかし、Intelはある時点まではAMDのデュアルコア化が90nmプロセス世代だと予測していなかった、あるいは、AMDのその動きを重視していなかった節がある。しかし、AMDのデュアルコア化をつかんだ時点で危機感を覚えたIntelが、急きょロードマップを転換、デュアルコアCPUを投入することにしたと推測できる。

 AMDがK8アーキテクチャでデュアルコアを持ってくることは、Intelにとって脅威だ。それは、シングルスレッド性能もマルチスレッド性能も、どちらも相応に高いCPUになる可能性があるからだ。

 Intelは、イスラエルでデスクトップとモバイルの両対応のCPUコア「Merom(メロン)」を開発している。しかし、Meromをコアに使ったデスクトップデュアルコアCPUは、2006年後半にならないと投入できない。Dothan系をコアに使うYonahは、2005年に間に合うものの、デスクトップに十分なマルチメディア性能は提供できない。つまり、デスクトップクラスの性能で、投入を急ぐには、NetBurstベースしかなかったと推測される。特に、対AMDを考えた場合、性能面で対抗するにはNetBurstの方が有利と考えた可能性が高い。

●まだ不明のSmithfieldのCPUコア

 現状では、Smithfieldにはまだ多くの謎が残されている。大きな疑問は、(1)SmithfieldがどのCPUコアをベースにしているのか、(2)どうやってTDPを125Wにまで引き下げるのか、(3)Hyper-Threadingもデュアルコアと平行して提供されるのか。

 90nmプロセスのSmithfieldのCPUコアについては、いくつかの可能性が考えられる。もっとも可能性が高いのは、すでに設計済みの90nm CPUコアを流用するケースで、その場合はPrescottとTejasが候補として挙げられる。Tejasの最大の強化点はHyper-Threading機能の拡張であることを考えると、デュアルコアのSmithfieldのコアとして使う理由は薄いと見られる。しかし、Tejasの65nm版のCedarmillが継続されていることが明らかになったため、SmithfieldもTejasベースである可能性は残されている。

 もっとも、Intelが全く別なNetBurst派生のデュアルコアプロジェクトを進めていて、それをSmithfieldとして投入する可能性もある。つまり、Pentium IIIから派生した低消費電力プロジェクトとしてPentium M(Banias:バニアス)が進められていたのと同様に、NetBurstから派生した低消費電力プロジェクトがあり、そのチップをメインのデスクトップCPUとして投入することにした可能性だ。Intelは、CPU開発リソースを米国外で拡張しつつあり、イスラエルの例のように派生品の開発は米国外の開発センターが担当していく可能性がある。ただし、Baniasの時はCPUが登場する2年半も前から、Intelはヒントを漏らしていたが、今回、そうした兆候は薄い。

 SmithfieldがNetBurstと判明したことで、どうやってTDPを引き下げるのかが、大きな疑問として浮かび上がってきた。90nmのシングルコアのPrescottですらTDPは115W。同程度の周波数を維持しようとすれば、どうしてもTDPは跳ね上がる。しかし、TDPを下げるために動作周波数と電圧をあまり下げると、シングルスレッド性能が大幅に落ちてしまう。つまり、既存のシングルスレッドアプリケーションの性能が落ちるというクリティカルな問題を抱えてしまう。

 Intelが、この問題をどう解決するつもりなのか、現状ではまだわからない。TDPの問題を考慮すると、Smithfieldが既存CPUコアの流用ではない可能性も高くなる。Intelが最初からデュアルコアでも消費電力の低いNetBurst系CPUのプロジェクトを平行して走らせていたとしたら、既存コアの流用よりも容易にデュアルコア化ができるはずだからだ。

 もうひとつの疑問は、デュアルコアと平行してHyper-Threadingも提供されるのかどうか。Intelは以前から、クライアント側では現状では2スレッド以上の並列性は必要としないと説明していた。その発言をそのまま受け取るなら、デュアルコア化するならHyper-Threadingは停止(ディセーブル)される可能性がある。

 デュアルコアでは並列実行するスレッド間でCPU内部の実行リソースなど競合が発生しない。それに対して、単一のCPUコアを共有するバーチャルCPUコアを作りだす「Simultaneous Multithreading(SMT)」のHyper-Threadingでは、リソースの競合が問題になる。そのため、デュアルコアの方が性能が上がる。

●低コスト化のためにCedarmillも投入

 Intelは、シングルコアCPUとしてCedarmillも投入する。Cedarmillが、どの価格レンジで提供されるのかは、まだわからない。もっとも考えやすいのは、Pentiumブランドがデュアルコア、CeleronブランドがCedarmillになる可能性だ。

 いずれにせよ、Smithfield世代では、デュアルコアは低価格帯には浸透しないだろう。それは、ダイサイズが大きくなるため、コストが上がり、生産個数が減ってしまうからだ。

 CPUコアのサイズの大きなNetBurstの場合、デュアルコア化した際のダイサイズが比較的大きくなってしまう。PrescottコアとL2キャッシュを単純に2倍にすれば、共有するバスなどの分を省いても、約200平方mm程度のダイサイズになると推定される。ただし、AMDのデュアルコアCPUも、約200平方mm程度と推定されるため、対AMDのコスト面では300mmウエーハのIntelの方が有利になると推定される。

 Intelにとって、200平方mmダイは、Pentiumブランドとしては許容できるサイズだ。初代の0.18μm版Pentium 4(Willamette:ウイラメット)も217平方mmだった。しかし、バリュー(低価格)CPUとしては、難しい。そのため、100平方mm台かそれ以下のダイになると推定される、Cedarmillも平行して提供すると推定される。

 ちなみに、元々のIntelのプランでは、CedarmillはTejasの後継として登場、その後、バリューCPUセグメントにCedarmill-Vが投入されることになっていた。

 Intelは、Smithfieldの後継に65nm版のデュアルコアも準備しているという。このデュアルコアは、まだ情報がない。しかし、IntelはもともとCedarmillのデュアルコア版として「Presler(プレスラ)」を、Pentium 4 Extreme Edition後継に投入することを検討していた。このプランがまだ生きている可能性はある。

 Smithfieldの投入で不鮮明になってきたのは、オリジナルプランのデュアルコアデスクトップCPUだ。Intelは、Pentium Mアーキテクチャの後継として、より高パフォーマンスレンジもカバーできるCPUコアMeromをイスラエルで開発している。Intelは、デュアルコアのMeromを、2006年のモバイルCPUとして投入。さらに、デスクトップにもMeromベースのデュアルコアCPUを投入すると、業界ソースは伝えていた。

 ちなみに、Meromは、CPU自体のコードネームと考えられていたが、あるソースはMeromは現在CPUコアのコードネームに代わったと伝えている。つまり、Meromコアを使ったモバイルデュアルコアCPUとデスクトップデュアルコアCPUがそれぞれ存在する。あるソースは、MeromコアのモバイルCPUは「Yonah-2M」だと言う。また、別なソースはMeromコアのデスクトップCPUは「Conroe(コンロー)」だと伝える。

Intel CPUロードマップ
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 4月までのIntelのロードマップでは、MeromまでのデスクトップCPUロードマップは非常に明快だった。2004年Prescott→2005年Tejas→2006年MeromベースドCPU。TejasまでがNetBurstでシングルコア、Meromからが新アーキテクチャでデュアルコア。つまり、「NetBurst=シングルコア」と「新アーキテクチャ=デュアルコア」できれいに切り分けられたわけだ。つまり、Meromベースになると、デュアルコア化でマルチスレッド性能が上がるから、ユーザーに性能面で明確な利益があるというわけだ。

 Meromアーキテクチャの概要は不明だが、あるソースからの情報では、デュアルコアでもデスクトップとしてはかなり低い90WクラスのTDPになるとされていた。また、Meromになると動作周波数はNetBurstより落ちるものの、単位時間当たりの命令実行数はデュアルコア化で高まる。そのため、CPUの内部命令uOPsの平均処理量は8 Giga uOPs以上になると言われていた。つまり、デュアルコア化によるマルチスレッド性能とuOPs処理量で、NetBurstアーキテクチャを凌駕するから、高性能CPUだと言えたわけだ。

 だが、NetBurstがデュアルコアになることで、この構図は崩れる。IntelがMeromベースの移行を計画しているとすれば、Smithfield→Meromの移行のためのシナリオを再構築しなければならない。もし、IntelがNetBurstのデュアルコアで、性能を維持しながらTDPを引き下げることができるのなら、Meromベースへの移行の必然性も薄らぐことになる。もちろん、Meromの後の45nm版CPU(Wolfdale?)から、新アーキテクチャに移行するというシナリオもあり、IntelのデスクトップCPUの展開は予測がつかなくなってきた。

□関連記事
【8月5日】【海外】Intelの2005年のデュアルコアCPU「Smithfield」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0805/kaigai108.htm
【6月18日】【海外】Intelに先行するAMDのデュアルコアCPU戦略
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0618/kaigai096.htm
【6月9日】【海外】AMDが2005年にデュアルコアCPUを投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0609/kaigai095.htm
【5月12日】【海外】Intel、将来のNetBurst系CPUをすべてキャンセル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0512/kaigai089.htm
【5月9日】【海外】Intelが次世代デスクトップCPU「Tejas」をキャンセル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0509/kaigai088.htm

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(2004年8月9日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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