●90nm世代CPUはシングルコアからデュアルコアへと発展 AMDがデュアルコア戦略を正式に発表した。これで、同社が2005年中に、サーバーとハイエンドデスクトップの両エリアで、デュアルコアCPUを投入することが明確になった。
AMDのデュアルコアCPU計画の大筋は先週レポートした通りだが、大きな違いはAMDがサーバーのみならずデスクトップにもデュアルコアを投入すると発表している点。Intelも2005年後半にデュアルコアのデスクトップCPUを投入するため、両社がここでも激突することが明確になった。また、Intelがデスクトップへのデュアルコア導入を1年前倒しした理由のひとつが、AMDの動きにあったことも、ますます鮮明になった。 AMDは今回、2005年の半ばにサーバー向けデュアルコア群を投入、2005年後半にハイエンドデスクトップにデュアルコアを投入することを明らかにした。AMDのデュアルコアCPUは、いずれも90nmプロセスでSOI(silicon-on-insulater)を使う。サーバーとハイエンドデスクトップの両方で、まず90nmのシングルコアCPUを投入、次にデュアルコアへと移行させる。 サーバー向けのデュアルコアは、8wayの「Egypt(エジプト)」、2wayの「Italy(イタリー)」、1wayの「Denmark(デンマーク)」。これらは、いずれも2003年中盤頃には「K9」ファミリになると言われてたCPU群だ。しかし、昨年ロードマップを発表した段階から、AMDはこの世代を「K8の発展型」と説明するようになっていた。K8の発展という意味は、コアをデュアルにすることだったわけだ。 サーバー向けの3製品で、CPUのダイ(半導体本体)そのものは同じだと推測される。これは、現在のシングルコアOpteronも同じだ。しかし、AMDはOpteron発表では、2wayの200シリーズを先行した。ダイが同じである以上、時間差が生じるとしたらそれは検証などの作業のためだと思われる。そのため、AMDはデュアルコアでも、2wayのItalyから先に投入すると推測される。 サーバープラットフォームは、長期的に互換性を保つ必要がある。そのため、AMDは、デュアルコアOpteronを既存の940ピンパッケージで投入すると見られる。チップセット側での対応は不要で、BIOSとOS側でのみ対応すればデュアルコアにサポートできると推測される。また、CPUの供給電流量とTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)も、既存のOpteronとそれほど離れたスペックではないと推測される。おそらく、AMDは電力を100W以下、つまり90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)より低いレベルに抑え込んでくるだろう。 ●CPUコアとL2キャッシュ領域の比率はほぼ予想通り
デスクトップではAMDはAthlon 64 FX後継でデュアルコアを投入する。シングルコアの90nm版「San Diego(サンディエゴ)」が2005年前半で、後半にはデュアルコアの「Toledo(トレド)」が登場する。これも、Egypt/Italy/Denmarkと同様のダイを使うものと思われる。 さらに下のAthlon 64ラインにデュアルコアが降りてくるのは、その先、2006年の65nmプロセスに移行した後になると推測される。65nmになれば、AMDはデュアルコアCPUを約100平方mmと、バリュー価格帯のCPUのダイサイズ(半導体本体の面積)で製造できるようになるためだ。 AMDは、今回、デュアルコアCPUの設計が完了したことを発表、ダイプロットを公開した。1年後にデュアルコア製品投入とすると、この段階で物理設計完了は妥当なスケジュールだ。このダイ(半導体本体)を見る限り、デュアルコアCPUの搭載するL2キャッシュは、各コア1MBずつのようだ。CPUコアとL2キャッシュSRAM領域との比率で、推定できる。 前回このコラムでは、AMDのデュアルコアの各エリアの比率を次のように推測した。この推測では、L2キャッシュは1MBずつ合計2MBと見積もっている。 CPUコア=33% それに対して、今回のプロットを見ると、実際のデュアルコアCPUの各エリアの配分はおよそ次のような比率に見える。 CPUコア=32% CPUコアとL2キャッシュの比率は、多少の誤差はあるものの、およそ一致する。そのため、L2キャッシュは1MBずつだとわかる。I/O回りが意外と大きいことを除けばほぼ予測の通りだ。 ●2週間で変わったAMDのデスクトップ戦略 COMPUTEX時には、AMDはデュアルコアをOpteron系だけに投入すると言われていた。業界筋のどこからも、AMDがAthlon 64 FXラインにデュアルコアを持ってくるという話は聞こえてこなかった。AMDはデスクトップへのデュアルコアプランを2週間前は隠していたと推測されるが、その理由はわからない。939の立ち上がりに水を差したくなかったので、ニュースを少しずらしたのかもしれない。 しかし、AMDはデスクトップにもデュアルコアを投入する可能性は高く、先週のコラムでもそれを指摘した。それは、デュアルコアになっても、コスト的に現在のAthlon 64 FXとさほど変わらないと推測されるからだ。 AMDが、もしサーバーサイドにだけデュアルコアを持ってくるつもりだったとしたら、それはサーバー製品をクライアント製品と差別化するためだったと思われる。もっとも、AMDがその気だったとしても、PC市場はデュアルコアを求めるだろうから、AMDはいずれにせよ投入せざるをえなかったろう。 AMDがK8系のデュアルコアを2005年に投入することが明確になり、Intelのデュアルコア戦略に対する解釈も大分違ったものになってきた。当初、このコラムでは、IntelがTejas(テハス)の熱問題を解決できなかったために、モバイル系デュアルコアCPUの投入を前倒しにしたと推測していた。 しかし、AMDは、K8の性能のままでデュアル化したCPUを投入する。だとしたら、それに対抗するIntelの2005年のデュアルコアCPUは、同レベルのパフォーマンスレンジでなければ釣り合いが取れない。 ところが、Intelの2005年のモバイル系デュアルコアCPU「Yonah(ヨナ)」の性能レンジはそれほど高くはない。ある業界関係者によると、YonahのCPUコアのフィーチャはほぼ90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)相当で、Dothan相当のコアを2個搭載した場合には「Yonah 2D」と呼ぶという。 とすると、それをデスクトップに持ってくるとは考えにくい。従来の予定では、デスクトップとモバイルで、共通のCPU設計になるのは2006年の「Merom(メロン)」コアからとなっていた。 というわけで、現状では、いまだにIntelのデュアルコアの正体が掴めていない。しかし、対AMDとしてデュアルコアを投入するとしたら、その製品は、依然としてNetBurst系アーキテクチャである気配が強くなってきた。 ●サーバーへ傾いたAMDの今後は x86系デュアルコアで、Intelより先行できる気配も見えてきたAMD。しかし、現在のAMDの最大の課題は、サーバーとクライアントのバランスにある。 AMDの戦略は、Opteronを投入して以来、サーバーサイドに大きく傾いたように見える。実際、Opteronは大方の予想を超える成功を収め、IBM、Hewlett-Packard(HP)、Sun Microsystemsといったサーバーベンダー大手も採用した。 “AMDのサーバーCPU”では信頼を勝ち取りにくかったのが、“IBMやHPやSunのサーバーCPU”ということで、成功しつつある。各サーバーベンダーがOpteronを採用した理由は簡単で、Dellが採用できないからだ。もちろん、AMD64といったOpteronの技術上の優位点はあるが、Dellに対抗する切り札としての意味も大きかったと思われる。 だが、その陰でクライアントサイドのAMD系CPUが犠牲になった。デスクトップ版Athlon 64ファミリの計画は、当初AMDが語っていたスケジュールより大きくずれ込んだ。ロードマップがずれただけでなく、出荷量も期待をはるかに下回るものだったと業界関係者は言う。そのため、誰が見ても明瞭なように、デスクトップ市場でのAMD存在感は、後退してしまった。 こうした流れの影響を明確に反映するのはマザーボードベンダーたちだ。2002年には、彼らとミーティングすると、Intel製品と同程度に時間を割いてAMDプラットフォームの期待を語っていた。 ところが、2003年になるとAMDへの愚痴、特にデスクトップ製品計画への疑問ばかりを口にするようになり、今年に入ると「AMD製品もやるけど……」といった雰囲気になってしまった。ボードベンダーにとっては、“CPUの出荷量=ボードが売れる数”なので、AMDが、K8系CPUの出荷量を増やし、クライアントサイドでシェアを拡大してくれないと魅力にならないのだ。 もちろん、AMDもこうした足下の不穏な気配に気づいている節はある。その証拠に、今回の939ピンAthlon 64/Athlon 64 FXの台湾でのローンチイベントでは、チップセットやマザーボードベンダー幹部を全員、壇上に上げて、AMD64のロゴを中心に記念撮影会まで行なった。プラットフォームを支えるベンダーたちと、結束を固めようという努力が見える。 こうした状況で、デスクトップへのデュアルコアの投入はグッドニュースとなる。AMDが果たしてデュアルコアで勢いに乗ることができるかどうか。また、2005年後半というタイミングが遅すぎないのかどうか。2005年のCPU戦争の焦点の1つはそこにある。 □関連記事 (2004年6月18日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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