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Intel、将来のNetBurst系CPUをすべてキャンセル




●TejasだけでなくNetBurst系CPU全体がキャンセル

 IntelのNetBurst(Pentium 4系)アーキテクチャは2005年で終焉を迎える。NetBurstは、深いパイプラインと柔軟性/拡張性の高い構造で、IntelデスクトップCPUのパフォーマンス向上を支えてきた。しかし、0.13μmプロセス以降の増大する熱(=消費電力)に、その行く手は阻まれてしまったようだ。

 Intelの次世代デスクトップCPU「Tejas(テハス)」キャンセルに伴うIntelのロードマップ変更については、ある程度、状況が見えてきた。

 まず、Tejasとそのデュアルプロセッサ版「Jayhawk(ジェイホーク)」については、キャンセルという情報と、“一時的な延期”という情報が入り乱れている。ただ、ほとんどのソースはキャンセルと伝えており、延期ではなくプラン自体が消えたと推測される。ちなみに、IntelはTejasをキャンセルまたは延期した理由として、やはり消費電力と熱を挙げているという。

 また、どうやらTejasだけでなくその後継の65nmプロセス版「Cedarmill(シーダーミル)」などもキャンセルになったらしい。そのため、現在の90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)が、事実上最後のNetBurst系アーキテクチャのCPUとなると見られる。

 その代わりIntelは、2005年末までにデュアルコアCPUを、デスクトップとデュアルプロセッサのサーバー&ワークステーション向けに投入するらしい。Intelはこの新デュアルコアCPUのコードネームや概要をまだ明らかにしていない。しかし、ある確実性の高い情報筋によると、デュアルコアCPUのベースになるのは、モバイル系の65nmプロセスCPUの「Yonah(ヨナ)」だという。

 もし、Cedarmill系CPUがキャンセルになったとすると、その位置にYonahが来るのは納得ができる。Cedarmillのデュアルコア版「Presler(プレスラ)」も消えると、残るデュアルコアCPUはYonahしかないからだ。そうすると、Intelのデスクトップ系CPUは、2006年にはモバイル系からスタートしたCPUに入れ替わってしまうことになる。

 ただし、モバイル専用として開発されたYonahは、高周波数をターゲットにはしていないはずで、そのため、Prescott系より動作周波数が下がる可能性がある。そうなると、既存のアプリケーションでは性能が出ないものが出てくる可能性がある。また、2005年以降のデスクトップCPUとして欠かせない、64-bit拡張やセキュリティ機能をYonahが備えているのかという疑問もまだ残る。まだこのあたりは不明部分が多い。

●高速化で行き詰まるPrescott

 デュアルコアCPUまでのIntelの中継ぎ計画もある程度明らかになった。

 IntelはCPUラインナップを再構成する。Pentium 4 Extreme Editionの後継として、まず現在の0.13μmプロセスでFSBを800MHzから1,066MHzに引き上げた3.46GHzバージョンを投入する。FSB 1,066MHzは、次世代パフォーマンスチップセット「Alderwood(オルダウッド)」でサポートする。

 次に、同じ価格帯で、90nmのPrescottベースの大容量キャッシュ版を投入する。これは2MB L2キャッシュ(現在のPentium 4 XEはL3が2MB)を搭載、64-bit拡張であるEM64T(Extended Memory 64 Technology:通称IA-32e)をイネーブルにしたCPUで、3.73GHzとなる。Intelは、このバージョンから“Extreme Edition”を外し、Pentium 4 7xxナンバーCPUとしてProcessor Number 720で投入するようだ。つまり、デスクトップCPUでEM64Tイネーブルになるのは700番台ということになる。

 一方、メインストリームデスクトップCPUはPrescottが継続される。ただし、動作周波数はあまり向上しない。年内には4GHzに達するものの、4GHz以上のメドは立っていないらしい。これは、Prescottの設計に起因するというより、熱設計上の壁があるためと考えられる。

 通常のCPU開発では、設計上のクリティカルパスをつぶしていけば、時間とともにCPUの周波数はある程度は向上する。Prescottは90nmプロセスによって0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)より、トランジスタのスイッチングが高速になり、さらにその上にパイプラインをさらに細分化している。だから、原理的にはPrescottはNorthwoodより数十%高速になってしかるべきだ。

 それがうまくいかない理由は、アーキテクチャ以外の部分にある可能性の方が高い。IntelはPrescottのTDPを115Wに納めようとしている(BTXで115Wをターゲットにしている)。その枠の中では動作周波数は4GHz以上に上げにくいのかもしれない。

 また、Prescottではボトムラインの周波数も向上しない。これも、もしかするとガードバンド(マーケティング上の理由からクロックを制限する)ではなく、プロセス上の問題のためかもしれない。微細化にともなうもうひとつの問題はばらつきの増大だ。しきい電圧のばらつきが大きくなる結果、クロックのばらつきが大きくなる可能性がある。

●限界があるシングルコアと90nmプロセス

 今回のTejasキャンセルの裏にある根本原因は明瞭だ。ひとつは、もはやシングルコアの複雑度を増やしてパフォーマンスを向上させることは限界があるということ。マルチコアへ向かわないと、CPUのパフォーマンス向上が望めなくなりつつある。実際、今や、ほとんどのCPUベンダーがマルチコアへまっしぐらに進んでいる。「シングルコアよりマルチコアの方が合理的」とソニーの久夛良木健氏(ソニー副社長/ソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼CEO)も指摘する。PCやサーバーだけでなく、PlayStation 3や次世代Xbox(Xenon)といった次世代ゲーム機もマルチコアへ向かっている。

 もうひとつは、90nmがもっとも苦しいプロセスだということだ。熱(=消費電力)増大の原因であるリーク電流の急増に、各半導体ベンダーは数年前から気がつき熱心に取り組んで来た。しかし、効果的な対策が導入され始めるのは65nmや45nm世代からで、90nmでは間に合わない。Intelもまた、90nmで苦しんだ結果、Tejasをキャンセルした可能性が高い。

 Tejasキャンセルは、Intelの2つのプロセッサ開発チーム間の関係も微妙にする。IntelのPCプロセッサ開発チームは、これまで、デスクトップCPUを担当するオレゴンチームと、モバイルCPUを担当するイスラエルチームの2チーム態勢だった。オレゴンチームが、NetBurst系やその後継となるはずだった「Nehalem(ネハーレン)」を担当、イスラエルチームがPentium M系やその後継のYonahやMeromを担当していた。

 しかし、今回のロードマップ変更によって、オレゴンチームのCPUは途切れることになる。そして、イスラエルチームが基本設計を行なったCPUが、モバイルだけでなくデスクトップもカバーするようになると見られる。

 また、Intel自身も、ちょっと前からTejasのキャンセルを計画していたフシがある。そう考えるとつじつまが合う動きがいくつかあるからだ。「IntelはProcessor Numberを急いで導入したが、その背景には、今回のTejasのキャンセルがあったのでは」という推測もある。Processor Numberの製品のリリース時期と、Tejasのキャンセル情報のリークが重なったのは、偶然ではないかもしれない。

Tejasキャンセル後の推定ロードマップ
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【5月9日】【海外】Intelが次世代デスクトップCPU「Tejas」をキャンセル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0509/kaigai088.htm

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(2004年5月12日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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