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今年後半がラッシュとなるPCI Express世代のチップセット




●FSB 1,066MHzの正式対応が控えるIntelチップセット

 先週の「Intel 915/925」ファミリの発表で、PCI Expressチップセット時代の幕が開けた。

 Intelは、今後もPCI Expressチップセットのバリエーションを増やしてゆく。しかし、現状ではPCI Expressチップセットを投入しているのはIntelだけ。他のベンダーのPCI Expressチップセット戦略はどうなっているのだろう。

 まず、Intelチップセットでは、今後、Intel 925X(Alderwood)の拡張版「Intel 925XE」が登場する。925XEの最大のポイントは、FSB(フロントサイドバス) 1,066MHzに対応すること。これは、FSB 1,066MHz版のPentium 4 Extreme Edition投入に合わせた拡張となる。

 Intelは、今年初めの段階から、すでに一部のベンダーに対してAlderwoodでFSB 1,066MHzをサポートすることを匂わしていた。Intelからのデザインガイドも、FSB 1,066MHzに対応できる仕様になっていたという。また、Intelは秋商戦までに、PCI Expressチップセットの廉価版であるIntel 915GV(Grantsdale-GV)とIntel 910GL(Grantsdale-GL)も投入する。

 さらに2005年には、Intelは第2世代のPCI Expressチップセットを投入する。925Xシリーズの後継のパフォーマンスチップセットは「Glenwood(グレンウッド)」、915の後継のメインストリームチップセットは「Lakeport(レイクポート)」。

 Glenwood/Lakeportは、915/925世代からはそれほど大きなジャンプとはならない。技術的には延長上にあるチップセットだ。最大のポイントはメモリ回りで、2005年時点ではJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)での標準化が終わる見込みのDDR2-667に対応する。

 また、Glenwoodについてはもうひとつポイントがある。それはIntelの64bitメモリ拡張技術「EM64T」への対応で、チップセット側のメモリアドレス機能も拡張、最大8GBまでのメモリを搭載できるようになる見込みだ。ただし、2005年世代のチップセットの仕様は、まだ流動的で変動する可能性がある。特に、今回は2005年のCPUロードマップ自体が変動しており、変動はチップセット側の仕様にも影響すると見られる。

Intelプラットフォームチップセットロードマップ
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●PCI Express x16とAGPの両対応を狙うVIA

COMPUTEXに登場したPT890を搭載したマザーボード。PCI ExpressとAGPのスロットを持つ(Photo by 笠原一輝)
 サードパーティチップセットベンダー各社は、Intelから一歩遅れたタイミングでPCI Expressチップセットを繰り出しつつある。時期的には今年第3四半期から登場し始めて、年内にようやく全ラインナップが揃うといったペースだ。

 VIA Technologiesは、Computex時に開催した技術カンファレンス「VIA Technology Forum(VTF)」で、PCI Expressチップセットファミリ「VIA HD Exp-890」について概要を説明した。もっとも、情報的に新しいわけではなく、動作サンプルが登場し、正式名称がつけられたというだけの話だ。

 VTFでは、従来「PT890」と呼ばれていたIntel CPU向けディスクリートチップセットはExp-890のIntel版としてブランディングされた。夏までには量産出荷が始まる見込みだ。「PM890」と呼ばれていたグラフィックス統合チップセットもExp-890ブランドになった。こちらは、1四半期ずれて、第4四半期に登場の見込みだ。

 PT890の最大の特徴は、PCI Express x16とAGP 8Xの両方のインターフェイスを内蔵する点だ。当面はAGPビデオカードを使用し、そのうちPCI Expressビデオカードに乗り換えるといった段階的な移行を可能にする。PCI Expressグラフィックスへの移行のハードルが高いと踏んだ戦略だ。

 ただし、この両対応インターフェイスは、もっとも議論を呼んでいるところで、信号品質上のハードルが高いと指摘する声は多い。そうしたリスクを冒しても、あえてPCI Express x16/AGP互換路線を取るところがVIAらしい。

 PT890では、メモリもIntelより拡張されている。DDR2-400/533だけでなく、DDR2-667もサポートする。もっとも、これはVIAに限らない戦略で、少なくともSiSとULiはDDR2-667までサポートする計画だ。DDR2-667サポートは、実際にはコントローラ側の対応はそれほど難しくはないと言われる。

 また、DDR2-667は当初は5-5-5とレイテンシが長いため、実レイテンシはDDR2-533(4-4-4)とほぼ変わらない。そのため、DRAMベンダー側も比較的容易に製品化ができると見られる。最大のハードルは、JEDECでの標準化で、それが終わるまでは、一応、各社の独自仕様での対応となる。エルピーダメモリは積極的で、DDR2-667 DIMMに“Hyper DIMM”というブランドをつけてVTFで展示していた。

 統合チップセットのPM890も、仕様はほぼPT890と同じだが、AGPインターフェイスは搭載しない。内蔵グラフィックスはDirectX 9 Shader 2.0のDeltaChrome IGP。ただし、業界関係者によると、内蔵グラフィックスの性能レンジは、Intel 915Gよりはかなり下だという。それは不思議ではない。VIAはもともと統合チップセットをコスト削減のソリューションに位置づけており、ダイサイズ(半導体本体の面積)を小さくすることを重視してきたからだ。

●DDR2-800のサポートへ向かうSiS

 SiSのPCI Expressチップセット「SiS 656」も、VIAとほぼ同じペースで、第3四半期に量産出荷の予定。

 VIAと異なり、AGPインターフェイスはない。また、VIAがノースブリッジ側に合計18レーンのPCI Expressを備え、PCI Express x16の他にPCI Express x1を2基取れるのに対して、SiSはおとなしくPCI Express x16だけにとどめている。また、シングルチャネルメモリの廉価版の「SiS 649」もラインナップしているが、VIAもPT890シリーズでシングルチャネルのコンフィギュレーションを用意するので、この点は同等だ。

 また、SiSは2005年にはDDR2-800サポートの「SiS 656FX」も計画している。DDR2-800は、現在JEDECで議論されているDDR2の最高転送レートのスペックだ。ただし、2005年になると、おそらくVIAなどもDDR2-800サポートを謳いだすと思われる。

 面白いのは、SiSのPCI Express統合チップセット「SiS 662」のグラフィックスコアはDirectX 7世代の「Mirage 1」となっていること。SiSはもともとはPCI Express世代ではDirectX 9グラフィックスの統合を計画していたが、現在はIntelプラットフォームでは計画を変えている。

 SiSは、統合チップセットはローコストソリューションで、Longhornがない現状ではDirectX 9は必要とされていないと、その理由を説明する。

 現状では、チップセットのロジック部分はじつはそんなにダイ(半導体本体)を食わない。ダイ面積を取るのはグラフィックスで、特に、Programable Shaderを搭載したDirectX 9コアは大きな面積を取る。そのため、Intelは915/925からは0.13μmプロセスへと移行している。つまり、枯れたプロセス技術を使って低コストに仕上げようとすると、DirectX 9コアの搭載は難しいというわけだ。

●グラフィックス性能では群を抜くATI

 統合グラフィックスで、唯一Intelに直接ぶつかるつもりなのはATI Technologiesだけだ。ATIが今秋Intelプラットフォームで投入するのは、統合チップセットの「RS400」と廉価版の「RC400」。

 RS400/RC400の最大のポイントは、MOBILITY RADEON 9600(M10)相当のDirectX 9グラフィックスコアを内蔵することだ。ATIは、メインメモリの高速化によって、統合グラフィックスの性能向上の余地が上がると見て、そこで勝負をしかけようとしている。ちなみに、ATIは、チップセット市場でのIntelとの競合を避けるために、Intelのデスクトップ向けには統合チップセットしか投入しない。

 ATIチップセットのユニークな点は、サウスブリッジチップとの接続にもPCI Express(x2)を使う点。実際にはIntelもPCI Expressライクなインターフェイスをチップ間接続に使っているが、明確にPCI ExpressとしているのはATIだけだ。ATIのこの路線の狙いは明白で、標準インターフェイスを使うことで他社のサウスブリッジを使えるようにすることだ。実際、Computex時には、ULiがATI向けのPCI Expressサウスの展示を行なっていた。

 ULiはやや計画が後ろへずれ込んでいる。シングルチャネルメモリの「M1685」を年内に投入、デュアルチャネルは来年に持ち越す。また、統合チップセットは、現在計画にない。これは、グラフィックスパートナーだったTrident MicrosystemsがSiSから分離したXGIに吸収されてしまったためだ。

 ULiは現在はHyperTransportをノースとサウスのチップ間接続に使っているが、それをPCI Expressに変更する計画だった。だが、PCI Expressの実装コストとシリアル変換のレイテンシなどから計画を変更、現在はULiのチップセットはHyperTransportのままでいくことになっている。

●AMDプラットフォームも今夏から秋にPCI Expressへ

 AMD向けチップセットではPCI Expressへの波が、やや前倒しになった。各社ともほぼIntelプラットフォームと同時期に、AMD向けのPCI Expressソリューションも持ってくる計画になっている。

 VIAは、Exp-890のブランドで、AMD向けのディスクリート「K8T890」や、統合チップセット「K8M890」を投入する。

 K8T890はPCI Express x16とAGP 8Xの両対応、K8M890はPCI Express x16のみでDirectX 9グラフィックス内蔵と、メモリコントローラがない点を除けばIntel向けの890世代とほぼ同等だ。ただし、K8T890はPCI Expressを合計20レーン持っているため、PCI Express x16の他にPCI Express x4を1基載せることも可能だ。

 SiSもほぼ同様で、まずディスクリートの「SiS 756」を投入、今年末から来年頭にかけて、統合チップセットの「SiS 761GX」と「SiS 761」を投入する。両チップの最大の違いは内蔵グラフィックスで、761GXがDirectX 7世代のMirage 1なのに対して、761はDirectX 9のMirage 3となる。

 Mirage 3は元々SiSが「Xabre II」という名前で開発していたディスクリートDirectX 9チップの技術を汲んだものだ。統合版は、2ピクセルパイプ/4テクスチャユニットの構成となる。1つのピクセルパイプに複数のテクスチャユニットを備える、今となっては古いタイプのアーキテクチャだ。ちなみに、SiSは、XGIにグラフィックス部門をスピンアウトしたため、Mirageシリーズを今後ディスクリートで製品化する予定はない。

 761は、チップセット側にもメモリインターフェイスを備えるローカルフレームバッファ(LFB)アーキテクチャを取る。つまり、オプションで、チップセットにビデオメモリを接続することができる。グラフィックスコアに近いところにビデオメモリを備えることで、グラフィックス性能を向上させる。SiSによると、CPU側のメモリを共有するUMAアーキテクチャの場合には3DMark2003で500クラスの性能だが、LFBの場合には800まで上がるという。

 SiSが、AMDプラットフォームでだけDirectX 9統合チップセットを持ってくる狙いは明白だ。Intelの915GがないAMD市場で、915Gが占めるのと似たような、やや高パフォーマンスな統合チップセットを狙うためだ。

AMDプラットフォームチップセットロードマップ
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●NVIDIAとULiはワンチップソリューションへ

 しかし、AMD向け統合グラフィックスでは、おそらくパフォーマンスキングはATIとなる。ATIは、K8市場向けに統合チップセット「RS480」を準備している。Intel向けのRS400と同様にRS480はM10相当のグラフィックスコアを内蔵する。また、SiS 761と同じくLFB構成が可能でそのため、性能レンジはかなり高い。

 また、Intelと競合しないAMD向けチップセットでは、ATIはディスクリートチップセットも投入する。これは「RX480」で、同社初のディスクリートとなる。

 VIA、SiS、ATIがノースとサウスに分かれた2チップソリューションを取るのに対して、NVIDIAはAMDチップセットではワンチップソリューションにこだわる。現在のnFcorce 3シリーズの後継となる「CK8-04」を今秋投入に向けて準備している。CK8-04は、基本的には現在のnFcorce 3シリーズに、PCI Expressインターフェイスを付加した製品となる。NVIDIAは、昨年中盤まではMCPとは別にPCI Expressトンネルチップを開発していたが、現在は、PC向けにはワンチップソリューションに変更となっている。

 NVIDIAは、現状では統合チップセットの計画は明瞭にしていない。少なくとも年内には計画はないようだ。

 ULiもNVIDIA同様にシングルチップへと向かっている。ULiは、まずK8向けには2チップソリューションのディスクリート「M1695」を投入する。そして、次に、2005年の段階でワンチップソリューションの「M1697」を持ってくるつもりだ。

 概観すると、各社各様のチップセットロードマップを準備していることがわかる。しかし、誰が見てもわかる通り、PCI Express世代では、サードパーティは全体に慎重に構えている。

 2~3年前、DDRメモリ世代で、各チップセットベンダーがIntelに先んじようと先陣を争ったことを考えると、大きな違いがある。昨年夏頃にはVIAが、Intelに先んじてPCI Expressチップセットを投入するという情報が流れたこともあったが、実際にはIntelの後追いに留まっている。

 こうした変化の背景には、PCI Expressのような新技術で冒険をしたくないという姿勢だけでなく、もっと根本的な問題がある。ある業界関係者は、Intelとの競合が厳しく、チップセットビジネスにそれほどうまみが感じられなくなったことがあると言う。Intelプラットフォームでは、バスライセンスのロイヤリティ料がコストに被さるため、ベンダーによっては利益を出すことが難しい。チップセットは、商売としての面白みが以前ほどなくなっているのだ。

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【6月22日】インテル、Intel 925X/915とLGA775 Pentium 4を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0622/intel1.htm
【6月4日】【笠原】VIA Technology Forumレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0604/comp14.htm

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(2004年6月30日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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