COMPUTEX TAIPEI 2004レポート

VIA Technology Forumレポート
~デジタルホームにもx86を


すごい煙のなか登壇したVIA Technologiesの社長兼CEOのウェン・シー・チャン氏。手に持つのはPT890を搭載したマザーボードで、PCI ExpressのビデオカードとAGPのビデオカードの両方がささるというデモを行なっている
会場:Grand Hyatt Taipei
会期:6月3日(現地時間)


 台湾のファブレス半導体ベンダのVIA Technologiesは、COMPUTEX TAIPEIにおいてVIA Technology Forum(VTF)を開催し、同社の製品を採用しているベンダに対して戦略などを説明した。その中で同社のウェン・シー・チャン社長兼CEOは「x86こそデジタルホーム市場における中心となるだろう」と語り、同社の組み込み向けx86 CPUのデジタル家電などへの採用を訴えた。

●「x86こそデジタル時代の正しい選択」とチャン氏

 毎回、驚きのステージ演出をしてくれるVIAだが、今回もステージに用意された筒が火を吹いたり、最後には花火のようなものが爆発して終わるなど、すごい演出だった。

 その後ウェン・シー・チャン社長兼CEOが登場したわけだが、ステージ上は、ドライアイスの煙ではない本物の煙が充満し、前列に座っていた関係者がみな苦笑するほどだった。

 チャン氏は「ちょっとすごいショービジネスだったね」とジョークで会場の笑いを誘ったあと、VIAの最新戦略である“Digital Brilliance”(日本語にするなら“すぐれたデジタル”というような意味になるのだろうか)について語りだした。

 チャン氏は「PCに代表されるようなこれまでのデジタル機器は、アプリケーションよりも、コンピューティングパワーが重視されていた。コンピューティングパワーが依然として重要であるのは論を待たないが、しかし、どちらかと言えば何ができるのかということがカスタマーにとっては重要になりつつある」と指摘した。

 チャン氏は、デジタルホーム市場の盛り上がりについてふれ、「弊社はデジタルホーム市場の重要性を以前から指摘してきた。VIAの製品を採用した製品は増えつつあり、今後もさらに増えて行くだろう」とVIAが今後も積極的にデジタルホーム市場の立ち上げに関わっていくと述べた。

 チャン氏はx86アーキテクチャのPC以外への応用も積極的に取り組んでいくと強調している。「x86を利用することで、デジタルホームの立ち上げはより加速する。デジタルの時代ではタイムリーに、かつ低コストに製品を投入していくことが重要であり、それができる環境が整っているのはx86アーキテクチャだ」と指摘し、x86のソリューションを利用することで、ハードウェアベンダはより速くデジタルホーム向け製品の投入が可能になると訴えた。

x86の特徴を説明するスライド x86の応用範囲はデジタルホーム全般にわたると説明 C3を利用したロボットのデモ。台湾の大学が作成したものであるという

●命令セットの優劣議論は時代遅れ、x86はすべてのジャンルに進出する

 こうした指摘をするのは、何もVIAだけではない。チャン氏の後に登場したAMD コンピュテーションプロダクトグループ担当上級副社長のダーク・マイヤー氏は、昨年来AMDが語り出した“x86 Everywhere”について語った。

 AMDのデジタルホーム戦略は、現在同社がどちらかと言えばサーバー/ワークステーション市場にリソースを投入していることもあり、積極的に語られることはあまり多くないが、戦略は非常にクリアだ。それは、一部のセグメントの製品を除き、どのようなデバイスにもx86を利用したらどうか、というのがAMDの戦略だ。

 その理由について、マイヤー氏は技術的な解説を行なった。「'90年代にCISCかRISCかと議論が発生したとき、x86は非常に複雑な命令でオーバーヘッドが大きいので、消費電力がどうしても大きくなると言っていた。しかし、2000年代に入り、状況は大きく変わりつつある」と述べた。

 '90年代に起きたCISC(x86に代表される命令セットなどが複雑なアーキテクチャ)かRISC(PowerPCなどに代表される命令セットが簡素なアーキテクチャ)か、という議論では、命令セットが複雑なCISCにはデメリットが多く、そのうちRISCに置き換わっていくだろうとされた。

 その後、CISC側も内部はRISC風に設計し、命令セットをデコーダで変換するという仕組みを採用してから、そうした議論はほとんど意味がなくなった。

 「今のCPU、例えばOpteronでは、ダイのうちL2キャッシュが42%、I/Oが25%などであるのに対して、デコーダは2%にすぎない。そうした状況では、消費電力や性能は、命令セットアーキテクチャで決定するのではなく、CPUのハードウェア上の仕様であるマイクロアーキテクチャで決定するのだ」と述べ、もはや命令セットの優劣について語るのは意味がないと指摘した。

 「では、どのアーキテクチャがよいかという話になれば、歴史を振り返ってみたい。これまでいろいろな命令セットアーキテクチャが登場し、消えていった。現在残っているのは、x86、ARM、MIPS、Powerの4つだ。このうち最も普及しているのが、言うまでもなくx86だ。おそらく、今後ほとんどのCPUはx86になっていくのではないだろうか」と付け加えた、また個人的な見解だが、と断った上で、「Powerは消えていくことになるのではないだろうか」とも述べた。

AMD コンピュテーションプロダクトグループ担当上級副社長のダーク・マイヤー氏 現在x86はPC/サーバー/ノートPCに加えてハンドヘルドやストレージにも進出しているが、将来はそれ以外の用途にも広がると予想 Opteronのうち、x86固有の部分であるデコーダはわずか2%でしかない
現在にわたって生き残っているアーキテクチャはx86、ARM、Power、MIPSの4つだと指摘 '80年代はCISCの時代、'90年代はRISC、2000年代はマイクロアーキテクチャによる差別化の時代とマイヤー氏 マイクロアーキテクチャでこれだけの選択肢があるので、これだけの選択肢がある

●デジタルホームは新しい成長の機会だとTSMCのチャン会長

TSMCの創始者で会長のモーリス・チャン氏

 また、基調講演には、TSMCのモーリス・チャン会長が登場し、台湾の半導体業界について説明した。「'99年~2001年にかけて業界は下向きだったが、2002年には前年並み、2003年には回復を果たした。今年はさらに成長することが予想されており、30%の成長が期待できると思う。さらに来年に関してはさらなる成長が期待できる」と述べ、ここしばらくは半導体業界にとって成長の時期であると指摘した。

 「現在のアプリケーションを見ていくと、PC、携帯電話、デジタル家電がけん引役で、これまでのどのようなデバイスよりも速く成長している。現在、コンピューティング、通信、デジタル家電の融合が進行しているが、これは半導体業界にとっても大きなチャンスである」と述べ、特にデジタル家電の普及が半導体業界の成長にもつながっているという見解を明らかにした。

 「TSMCのようなファウンダリ、そしてVIAのようなファブレスメーカーにとって新しい時代を迎えつつある。製品のライフサイクルは短くなり、製品の差別化も難しくなっているし、一方でタイムツーマーケットも実現する必要があるのだ。TSMCはそうしたニーズに答えられるような幅広いテクノロジを提供していきたい」と述べ、65nmの本格的な立ち上げが2006年の終わりから2007年の頭にかけておこり、その2年以内には45nmの本格的な立ち上げがおこるだろうと説明した。

 最後に、チャン氏は「半導体産業は、今後も発展していける。特にデジタルホームは誰にとっても新しい成長のチャンスだ」と指摘した。

●エルピーダ、サムスンがDDR2-667に対応したメモリモジュールを展示

 展示会場では、VIAのOEMメーカーや、Samsung、エルピーダ、Hynix、InfineonなどのDRAMベンダが展示を行なった。

 基本的にはVIAのPT890を搭載したマザーボードのデモなどだったが、Samsungとエルピーダは667MHzで動作するDDR2-667を搭載したメモリモジュールを展示して大きな注目を集めた。

 IntelがまもなくリリースするPCI Express対応チップセットであるIntel 925X、Intel 915G/PはDDR2-533までのサポートまでとなっているが、VIA TechnologiesやSiSなどのサードパーティチップセットベンダは、DDR2-667のサポートを明らかにしている。例えば、VIAはPT890において、DDR2-667をサポートすることを3月のCeBITで表明している。

 今回展示されたDDR2-667のスピードグレードは5-5-5となっているが、これは実時間に直せばDDR2-533の4-4-4とほぼ同じとなっている。このため、DRAMベンダ側での製造にはさほど問題がないという。しかし、ガーバーのデザイン自体には手をいれなければ動作させることができないため、実際にはそのままでは動かすのが難しいと考えられる(実際JEDECではDDR2-667のガーバーの仕様はまだ決定されていない)。

 しかし、チップセットベンダ側がサポートするため、DRAMベンダ側も協力を要請され、独自にガーバーを設計し、公開することとなったようだ。なお、I/O部分の動作電圧は通常のDDR2が1.8Vになっているのに対して、このDDR2-667のモジュールは1.85Vとやや引き上げられている。

 エルピーダではこのDDR2-667を“Hyper DIMM”という名前で呼び、ハイエンドユーザーなどにアピールしていくという。それによりDDR2の普及に繋がれば、というのがDRAMベンダ側のもくろみであるようだ。

SamsungのDDR2-667のモジュール
エルピーダのDDR2-667のモジュール、Hyper DIMMの名前で呼ばれることになる

□COMPUTEX TAIPEI 2004のホームページ(英文)
http://www.computex.com.tw/computex2004/

(2004年6月4日)

[Reported by 笠原一輝]


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