●タイミングを合わせてGPUをリリースするATIとNVIDIA ATI TechnologiesとNVIDIAは、まるで一緒にダンスを踊っているようだ。2社で歩調を合わせて次々に新GPUを投入してゆく。実際には、ダンスどころではなく、相手に出し抜かれまいと必死の競争の結果、タイミングが合っただけなのだが、はた目から見ると、ぴたりと息が合っているように見える。 まず、両社は、ほぼ同じペースで手を緩めずに新デスクトップGPUを投入し続ける。ハイエンドでは、両社とも“8”ナンバーを持ってくる。NVIDIAが次世代ハイエンドGPU「NV48」を今秋までに投入、ATIも「R480」でそれに対抗する。ある業界関係者は、「NVIDIAがコードネームを45から48へと急に変えたのは、ATIが480だったからに違いない」と笑う。NV48はGeForce 6800(NV40/45)の改良版、R480はRADEON X800(R420/423)の改良版だ。 299ドル以下のミッドレンジクラスでも両社がぶつかる。夏にはNVIDIAがミッドレンジの「NV43」とメインストリーム&バリューの「NV44」を投入。対するATIも、ミッドレンジに「RV410」を持ってくる。どちらも、新アーキテクチャ+ネイティブPCI Expressの、新しい世代のGPUで、構成は8ピクセルパイプクラスと2003年のハイエンドGPUクラス相当。性能レンジでは2003年のハイエンドGPUと同等かそれ以上に達する。最大商戦の秋冬には、ここでも2社が激突することになる。 ノートPC向けGPUでも両社は息の合ったところを見せる。2社とも、今年後半にはこれまで存在しなかったノートPC向けのハイエンドGPU分野を開拓する。伝統的に、これまでGPUベンダーは、デスクトップ向けのミッドレンジGPUとメインストリーム&バリューGPUを、ノートPCに持ってきていた。だが、今回は、デスクトップのハイエンドGPUを、ノートPC分野にも投入する。そのため、ノート向けGPUのパフォーマンスレンジの上限は、従来の数倍に跳ね上がることになる。 ATIが投入するのはRADEON X800(R420)のノート版と思われるAGP版の「M18」と、RADEON X800(R423)のノート向けであるPCI Express版の「M28」と「M28 Pro」。ATIのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼CEOは、「我々のAXIOMでは、M28までの高消費電力ソリューションまで対応できる」と、ハイエンドにM28を投入することを示唆する。 対するNVIDIA側も同クラスのGPUを投入する予定でいる。ある情報ソースは、NVIDIAのハイエンドモバイルGPUのコードネームは「NV41」だと伝える。ただし、コードネーム自体は、まだ複数のソースからの確認が取れていない。 両社のノートPC向けハイエンドGPUは、12~16ピクセルパイプ相当で、デスクトップ向けハイエンドGPUに近い性能を実現。そして、25W以上、おそらく最大で35WレンジのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)となる。 両社はこの他に、デスクトップのミッドレンジとメインストリーム&バリューGPUもモバイルに投入する。NVIDIAは、NV43/44のモバイル版を、ATIはすでにRADEON X600(RV380)のモバイル版である「Mobility RADEON X600(M24)」を発表しているが、今後、RADEON X300(R370)ベースの「M22」、そしてRV410ベースの「M26」も投入する。
●ハイエンドは8ナンバーの戦い ATIとNVIDIA、2社のロードマップを概観すると、両社がいかに相手を意識し、有利なタイミングで製品を出そうと戦っているかがよくわかる。その結果、両社の製品開発サイクルは、ほぼ似たようなパターンになりつつある。 両社は現在、スケーラブルにGPUを設計、同じアーキテクチャをハイエンド(299ドル以上)→ミッドレンジ(199~299ドル)→メインストリーム(100~199ドル)&バリュー(~99ドル)へと段階的に下ろす“ウォータフォール”型の戦略を取っている。その流れに従って、両社とも夏から秋にかけて、ミッドレンジから下の、新アーキテクチャGPUを投入する。 製品の開発サイクルも、ほぼ同期している。両社揃って1年に1回GPUのベースアーキテクチャを刷新、ハイエンド製品を1年に2回更新し、ミッドレンジ製品を1年に1~2回更新、メインストリーム&バリュー製品を1年に1回更新する。NVIDIAとATIの違いは、NVIDIAはミッドレンジとメインストリームの両GPUを一気に新アーキテクチャにするが、ATIはミッドレンジだけを新アーキテクチャへ持ってゆくことだけだ。 NV48は、以前はNV45と呼ばれていたGPUで、NV40アーキテクチャの性能拡張版だ。「一般論として、我々は半年でGPUの性能を2倍にする」とNVIDIAのDavid B. Kirk(デビッド・B・カーク)氏(Chief Scientist)は示唆する。 コードネーム的にはAGP版が「NV48」、PCI Express版が「NV48e」だ。ちなみに、NVIDIAのコードネームは混乱を極めているが、現時点ではAGP版のGeForce 6800がNV40、PCI Express版のGeForce 6800がNV45(一時はNV40e)とされている。NV48で怪しいのは、PCI Express版に“e”がついていること。NVIDIAは、現在のところ次世代のハイエンドGPUはネイティブPCI Expressになると言っているが、依然としてブリッジチップソリューションである可能性も捨てきれない。ちなみに、NV43/44については、AGP版とPCI Express版のどちらも同じコードネームだ。 ATIはもともとR450と呼ばれるR420の改良版を計画していた。だが、R450は消え、今はR480がその位置にいる。ATIのコードネームはNVIDIAより規則性が強いため、R450がR480になるまで、30増えた分だけの変遷があったと推測される。ATIは、R42x系ではネイティブPCI ExpressとネイティブAGPの2種類のチップを開発した。しかし、R480ではPCI Expressしか開発しない。この理由のひとつは、0.13μm以下のプロセスでは、マスクコストが非常に高いためだと思われる。 ●ミッドレンジは0.11μm+8パイプ ATIのミッドレンジはRV410。R42x系アーキテクチャで、8パイプ構成、128bitメモリインターフェイスでGDDR3サポートとウワサされている。RV410は、ATIとしては初めての8パイプのミッドレンジ製品となる。ミッドレンジでも8パイプを搭載できるのは、プロセス技術が0.11μmに微細化するためだと言われている。 現在のラインナップでは、ミッドレンジのRADEON X600(RV380)が0.13μm Low-kオプション、メインストリームのRADEON X300(RV370)が0.11μm非Low-kとなっている。ATIは、ミッドレンジ製品に0.11μmを使わなかった理由を、0.11μmではLow-kオプションがアベイラブル(使用可能)でなかったためと説明していた。逆を言えば、RV410の段階では、0.11μmでLow-kが使えるようになったと推定される。0.11μm化によって、ダイサイズ(半導体本体の面積)は20%以上縮小できる。そのため、パイプ数を2倍に拡張しても、十分ミッドレンジGPUのコストモデルに適したダイサイズ(半導体本体の面積)に収まると推定される。 ATI関係者は、ネイティブPCI ExpressのGPUに、ブリッジチップを付加して、AGPカードにするソリューションも準備しているという。しかし、今のところ、具体的な計画はOEMには伝わっていない。つまり、RV4xxベースのミッドレンジのAGPカードのプランは、まだ不鮮明だ。 NVIDIAのミッドレンジはNV43。NV4x系アーキテクチャで、8ピクセルパイプ構成と言われている。こちらも、プロセスを0.11μmに微細化すると見られているが、確かではない。 NVIDIAは、ATIと対照的に、この世代でもAGPソリューションを継続することを明確にしている。「NVIDIAは、もともとはNV40が最後のAGPソリューションになると言っていた。しかし、今ではAGPとPCI Expressを、少なくとも年内は併存させると説明している」とある業界関係者は言う。ここでも、両社のAGP/PCI Expressに対する姿勢の違いが明確だ。 ●90nmプロセスGPUは来年前半に登場 両社はさらに2005年には次のメジャーバージョンアップ世代を投入する。NVIDIAはNV50を、ATIはR500を投入するになると見られている。以前は、この位置にあるGPUのアーキテクチャは、DirectX 10世代になるはずだった。しかし、MicrosoftはDirectX 10とはすでに呼ばなくなっており、アーキテクチャ拡張の内容もまだ不鮮明だ。ただし、2つだけ明確なことがある。それは性能レンジとプロセス技術だ。 性能レンジではターゲットは現在のGPUの2~4倍だ。少なくとも、NVIDIAはターゲットを半年で2倍、1年で4倍に設定している。ATIはもう少し大人しい見通しを立てているが、これは、パフォーマンスをどうやって図るかという問題もあるので、一概に比較できない。 では、両社はどうやって2~4倍のパフォーマンスアップを継続するのか。その鍵となるのは、プロセス技術だ。プロセス技術は、おそらく5x世代では、一部のチップで両社とも90nmに突入する。ATIのKY Ho会長は、90nmプロセスの見通しについて次のように語る。 「TSMCの90nmプロセスの立ち上げは順調に行っている。そのため、我々は90nmプロセスへの移行を決断した。多分、今年遅くには90nmでのビルドを始めるだろう。しかし、正直に言うと、90nm(チップの設計)のテープアウトを年内に終えたとしても、実際に製品を出荷するまでは6カ月かかる。まず、マスクを作るのに時間がかかりサンプルチップが実際に仕上がるのにも時間がかかる。おそらく、90nmではサンプルまでに2カ月ほどかかると見ている。 さらに、その後は製品のクオリファイが必要になる。運がよければ、最初の設計で量産に移ることができる(笑)。でも、通常はもう一度ビルドする必要がある。マスクを変更してサンプルを出し、検証し……。だから、どうしても6カ月は必要になる。 TSMCは確かに、今年後半には90nmプロセスの製品を作ることができる。しかし、我々の製品の場合、どうしても量産出荷は2005年になる」 つまり、R5xx世代では、どれかが90nmプロセスになるということだ。 一方、NVIDIAはIBMもファウンドリとして使っており、IBMの90nmプロセスはTSMCより早く立ち上がりつつあると言われている。 「90nmプロセスは、すでにFabで生産態勢に入っている。0.13μmは様々なプロセス技術上の変更があり非常に難しかったが、90nmはスムーズに行きそうだ」とNVIDIAのKirk氏は語る。 しかし、Ho会長はIBMを使ったとしても90nmプロセスの製品の出荷は、やはりTSMCと同時期になるだろうと推測する。 「もしIBMの方がテクノロジ的にTSMCより先行したとしても、ASICの量産までには様々なプロセスがある。TSMCの方が、量産へ持ってゆくのは早い。だから、結果として量産出荷できる時期は変わらないだろう」 いずれにせよ、90nmは、年内ではなく、来年の製品、それも5x世代の製品になるだろう。そして、90nmプロセス化が、GPUにさらなる集積化とパフォーマンス向上をもたらすだろう。 路線が明確なデスクトップGPUに対して、ノートPC向けGPUは転換期にある。また、デスクトップとは攻守が代わり、市場を抑えるATIに対してNVIDIAが攻めるフェイズに入っている。ノートPC向けGPUは、GPUだけでなく、今回はノートPC向けグラフィックスモジュール規格まで絡み激動しつつある。その状況は、次回にレポートしたい。
□関連記事 (2004年6月24日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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