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R423でネイティブPCI Expressレースを先行したATI




●フルラインナップを揃えたATIのPCI Express

 ATI Technologiesは、IntelのPCI ExpressチップセットIntel 915/925ファミリの概要と名称発表に合わせて、PCI Express版GPU(ATIはVPUと呼ぶ)ファミリを発表した。これで、PCI Express移行のための最も重要なパーツである、PCI Express版GPUが正式に登場したことになる。

 また、ATIは、PCI ExpressインターフェイスのGPUへのネイティブ実装では、ライバルNVIDIAに大きく差をつけたことになる。

 ATIが発表したのは、PCI Express版のRADEON X800(R423)とX600(RV380)、X300(RV370)の3ライン。前回の記事で説明した通り、エンスージアスト市場向けのX800ブランドが新アーキテクチャR4xx系で、ミッドレンジのX600とバリューのX300は昨年のR3xxアーキテクチャのままだ。実際には、RV380とRV370は、RADEON 9600XT(RV360)のインターフェイスをAGPからPCI Express x16に切り替えたものに過ぎない。

 ATIがそうした戦略を取ったのは、PCI Expressインターフェイスのネイティブ実装のリスクを減らすために、GPUアーキテクチャにはなるべく手を加えないようにしたためだ。新インターフェイス技術を採用する場合に、枯れたGPUコアと組み合わせて検証を行なった方が、問題点の洗い出しとフィックスが容易になる。

 RV380とRV370は、プロセス技術以外のアーキテクチャと仕様は変わらない。RV380は0.13μm Low-kプロセスだが、RV370は0.11μmプロセスだ。そのため、ダイサイズはRV370の方が20%ダイサイズが小さく、それだけ製造コストが低い。

 ATIはPCI Express製品を、ハイエンドのRADEON X800XT Platinum EditionからローエンドのRADEON X300SEまで、パフォーマンス帯で段階的にきれいに並べた。

製品名PipesCorememory
RADEON X800XT PE(R423)16520MHz1,120MHz
RADEON X800XT(R423)16500MHz1,000MHz
RADEON X600XT(RV380)4500MHz740MHz
RADEON X600XT(RV380)4400MHz600MHz
RADEON X300(RV370)4325MHz400MHz
RADEON X300SE(RV370)4325MHz400MHz

 ATIが旧アーキテクチャのRV380/RV370系だけでなく、新アーキテクチャのR423にもPCI Expressをネイティブ実装した技術的意味は大きい。ただし、そのためか、ATIはR423では、アーキテクチャ面での冒険は極力避けた様子がある。また、ハイエンドのRADEON X800XTは6月中、RADEON X800XT PEは7月と、迅速に出荷を開始するX600/X300系列とは提供時期でも、時間差がある。

●パイプ構成と製品系列

 ATIがミッドレンジ製品のGPUコアを旧世代のままとどめたために、同社の現在のラインナップでは、ハイエンドとミッドレンジのGPUの間にパフォーマンスギャップが開いている。指標となるピクセルパイプライン数で比較すると次のようになる。

ハイエンド16パイプ
ミッドレンジ4パイプ
バリュー4パイプ

 ハイエンドが突出しており、旧来の3市場セグメントで約2倍づつパフォーマンスが上がるという構図が崩れてしまっている。もっとも、この状態は今秋に、R4xxアーキテクチャのミッドレンジGPUが登場すると解消される。「我々はメインストリームでもっとパイプライン数を増やすソリューションを考えている」とATIのRick Bergman氏(リック・バーグマン、Senior Vice President & General Manager, Desktop Business Unit)は8パイプのミッドレンジGPUを予告する。その段階では、バリューセグメントはR3xxアーキテクチャのままなので、構成は次のようになる。

ハイエンド16パイプ
ミッドレンジ8パイプ
バリュー4パイプ

 16→8→4の3段階の構成は、NVIDIAのNV4x系列でも同様だと言われる。そのため、今秋の段階になると、各社とも価格帯とパフォーマンス帯がきっちり段階的に並ぶことになる。ハイエンドのピクセル出力数は、しばらくはこれ以上増えないと見られるため、16→8→4が今後1-2年の標準的なパイプライン構成となるだろう。

 ミッドレンジ製品で、従来のハイエンドと同等の8パイプ構成を可能とするためには、現在ミッドレンジで使われている0.13μmプロセスよりも微細化が必要になる。そうしないと、ダイサイズを150平方mm以下に抑えることが難しいからだ。ただし、GPUベンダーが90nmプロセスの製品を出荷できるようになるのは、2004年前半なので、選択肢は0.11μmだと推定される。

 また、ATIはモバイル向けのPCI Express GPU「MOBILITY RADEON X600(M24)」も発表した。ATIはこの他にX300のモバイル版(M22)やX800系のモバイル版(M18/28)を予定していると言われる。ATIは、モバイルGPUラインのパフォーマンス幅を従来以上に拡大しようとしている。

●PCI Express x16スペックぎりぎりの消費電力

 ATIのラウンチイベントで展示されたPCI Express版のRADEON X800カードでは、AGP版にあった外部電力供給コネクタがなくなっていた。これは、PCI Express x16バスの方が、供給電力が大きいためだ。PCI Express x16は電力供給を+3.3Vと+12Vのデュアル電圧で行なう。3.3Vは3.0A、12Vは5.5Aで合計約75Wの電力の提供が可能になっている。R42xの消費電力は70W台前半で、ちょうどPCI Express x16の電力スペックに収まる。

 ちなみに、2003年春の段階では、PCI Express x16の電力供給は3.3Vが3.0A、12Vが4.4Aで合計約60Wだったが、主にグラフィックス面での要求があって75Wに拡張されたという経緯がある。ATIは、そのスペックに合わせることを前提にR42xシリーズを設計した可能性がある。つまり、PCI Express x16カードは、登場時に、すでにスペック限界の消費電力になってしまったわけだ。もっとも、NVIDIAのフラッグシップPCI Express製品である「NV45」では、PCI Express x16の電力供給では収まらないはずだ。

 もっとも、ATIは彼らのGPUを必ず75W以下に抑えようとしているわけではない。「我々は(PCI Expressの75Wのために)性能を制約しようとは想っていない。確かに、PCI Express(の電力供給)は75Wで、我々の製品はそのぎりぎりのところにある。しかし、今後も、周波数やメモリなどを高めてゆくだろう。PCI Expressカード自体は、エクストラの電源コネクタを使うなどすれば、150W程度までの電源供給能力がある。ウルトラハイエンドでは、バスからの供給の75Wにプラスして、エクストラコネクタで電力を供給するのは、コスト面からは良いソリューションとなるだろう」とBergman氏は言う。

 ちなみに、ATIは2003年2月のIntel Developer Forum(IDF)で配布したプレゼンテーションの中で、このままのペースなら2006~7年のグラフィックスカードの消費電力が150Wに達してしまうという予想を示している。

 一方、現在のラインナップでは、RV380/RV370はともに消費電力が比較的低い。

●PCI Express実装のトレードオフ

 現在の製品を見た限りでは、AGP版のR420とPCI Express版のR423の間にダイサイズの大きな違いは見えない。これは、R420も、当初からPCI Expressの実装を前提として設計されていたことを示唆している。実際、R420は、トランジスタ数から予想されるサイズよりもかなり大きかった。

 GPU関係者によると、PCI Expressインターフェイスのファブリック方がAGPより実装面積が大きいという。これは、シリアルインターフェイスであるPCI Expressの方が、パラレル-シリアル変換など余計なロジックが必要となるため、当然のことだ。そのため、同じアーキテクチャかつ同じプロセス技術であっても、AGP版GPUよりPCI Express版GPUの方が、原理的にはダイサイズがやや大きくなってしまう。

 ただし、実際にはプロセス技術の進化や物理設計の最適化によってGPUコアのダイも縮小するため、RV380などはほとんどAGP世代とダイが変わらない。しかし、R42x系のように同時にAGP版とPCI Express版を開発している場合には、PCI Express実装のダイサイズを配慮しながら設計する必要がある。おそらく、PCI Expressインターフェイス部分のサイズを固定して置き、その他のマクロブロックを設計、GPUコアの設計は共通化させたものと見られる。その方が、物理設計上は、クリティカルパス(問題点)つぶしなどの負担が少ないからだ。

 一方、PCI Expressのネイティブ実装を半世代遅らせたNVIDIAは、この問題を先送るすることができる。現在のNV40では、ダイをAGPに合わせて最小にすることができたと考えられる。しかし、このことは、将来のNVIDIAのPCI ExpressネイティブのハイエンドGPUは、NV40の300mm2より、さらにダイが大きくなる可能性があることを意味している。ただし、プロセス技術がシュリンクするなら話は別だ。逆を言えば、NVIDIAはPCI Expressネイティブ版は、0.13μmより微細なプロセスまで待つ可能性がある。

●PCI Express移行自体にまだ問題が

 PCI Express製品発表へとこぎつけたATIだが、前途は必ずしも晴れ渡っているわけではない。PCI Express自体の市場への浸透が予想より遅れつつあることだ。それには、牽引するIntelのPCI Expressチップセットの戦略など、様々な要素が絡んでいる。

 まず、IntelのPCI Expressチップセットに限って言うなら、PCI Express以外に移行を誘うポイントが薄い。915/925はPCI ExpressとともにDDR2メモリをサポートするものの、DDR2メモリ自体が高価格で、普及ポイントはまだ先。しかも、CPU側のFSB(フロントサイドバス)は、まだ800MHzのままなので、ディスクリートグラフィックスではデュアルチャネルDDR2-533のメモリ帯域を、CPUが活かすことができない。

 PCI Express x1デバイスも、現状ではほとんどない。IntelはもともとギガビットイーサネットをPCI Express x1で提供するはずだったが、予定はずれ込んでいる。そのため、周辺機器面での魅力も薄い。

 また、915/925と組み合わせられるCPUでも、当面は魅力がないと推測される。915/925チップセットは当面はLGA775しかサポートしない。そのため、LGA775パッケージ版の90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)が、性能面での魅力を出せれば、それがPCI Expressへの牽引力にもなる。しかし、逆にCPU側が性能面で魅力を十分に出せないと、PCI Expressへユーザーを誘うことができない。

 また、DIYユーザーにとっては、現状ではPCI Expressチップセットでは大幅なオーバークロッキングが難しいという難点もある。これは、PCI Expressが2.5GHzと高クロックで駆動されているためだ。

 GPU側でも魅力を出しにくい。ATIもNVIDIAも、ハイエンド製品は一歩出遅れるため、まずはミッドレンジとバリューGPUとなる。また、IntelチップセットとATI GPUの組み合わせは、今年4月頃の段階でも、問題があったという。すでに、この問題はフィックスされているものの、全体に検証のスケジュールは遅れていた。

 NVIDIAのブリッジチップソリューションも、解決にはならない。というのは、チップセット側に、他に牽引材料が少ないためだ。PCI Expressネイティブでないなら、PCI Expressグラフィックスカードを使う必然性は薄い。グラフィックスはAGPでも十分となるなら、AGPにわざわざブリッジチップを組み合わせる必要がない。

 こうした状況を見ると、PCI Expressグラフィックスの本番は今秋以降という構図が見えてくる。その時点では、ATIはR4xxのミッドレンジ製品を投入、さらにハイエンドでもマイナーバージョンアップ版が登場するだろう。

ATI&NVIDIA GPUロードマップ(再掲)
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【6月4日】ATI、PCI Expressネイティブ対応GPUの発表会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0604/comp15.htm
【6月1日】【海外】ATI、PCI ExpressネイティブGPUを投入へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0601/kaigai092.htm

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(2004年6月4日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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