セイコーエプソンは現在ではプリンタメーカーとして有名だ。しかし、エプソングループとしてはコンピュータも供給しているし、デジタルカメラにも早い時期から参入していた。フィルムのコンパクトカメラをそのままスケールアップしたような製品は、当時話題になったものだ。それからCP-200、CP-500などが続いていたが、いったんデジカメ市場からは撤退したかに見えた。 ところが、今回、光学式レンジファインダーカメラ、エプソンR-D1をコシナとの協業で開発。一気に高級デジカメの分野に参入しようとしている。R-D1は、外観こそコシナの銀塩レンジファインダーカメラ「Voigtlander BESSA-R2」に似ているが、実は一線を画す新機種である。 Leica Mマウント互換の「EMマウント」を採用しているR-D1だが、あえてLeicaのレンズではなく、コシナのLマウントレンズにMアダプタを付けて試用した。Mマウント、Lマウントの詳細については「エプソン R-D1のレンジファインダーとマウント規格」を参照されたい。 使ったレンズはCOLOR-SKOPAR 21mmF4、同28mmF3.5、同35mmF2.5PII(これのみMマウント)、同50mmF2.5、COLOR HELIAR 75mmF2.5の5本。ほかに、作例撮影にのみ、コシナのNOKTON 50mmF1.5、リコーGR 21mmF3.5、同28mmF2.8も試用している。 また、試用したのが試作機のため、JPEGで撮影した画像の掲載は許可されていない。掲載画像はすべてRAWで撮影し、そのまま付属の現像ソフト「Photolier Ver.1.01」で現像し、JPEGにしてある。ホワイトバランス等のパラメータは変更していない。 ●スパルタンなレンジファインダーカメラ R-D1は外観こそBESSA-R2に似ている(写真A)。しかし、細かく見ていくとかなりちがう。まったく別のカメラであり、BESSAのデジタル版という表現はふさわしくない。
とくに、操作系ではボディー上面の右手側はかなりBESSAとはちがう。とくにシャッターダイアルの左にあるアナログの針表示がこのカメラのデザイン上の大きなポイント(写真B)で、ここにはセイコーグループの時計作りのノウハウが生かされている。あるいは、銀塩カメラのニコン35Ti、28Tiを連想するベテランもいるだろう。 この針表示は外周が記録媒体の空きを枚数表示したもの、左側がホワイトバランス、右側が画質モード、そして下側が電池残量を示す。たしかに見ているだけで楽しくなるが、使ってみるとホワイトバランスはわかりにくい。ホワイトバランスのアイコンがほかのカメラと違うし、並ぶ順序も違う。と言って、ほかに表示場所があるわけではない。 シャッターダイアルや巻き上げレバーはこの独創的なカメラの性格をよく表している。デジタルカメラでなぜ巻き上げレバーが必要なのか素朴な疑問が湧いてくるところだが(写真C)、このレバーは当然、フィルムを巻き上げるわけでない。シャッターをチャージ(コッキング)するためのものだ。シャッターダイアルはAE位置のほかに、シャッター目盛があり、ISO感度もこのダイアルの外周を持ち上げてセットする。まるで'70年代のカメラを使っているような錯覚さえ覚える。 ボディー上面左側には巻き戻しノブのような部材がある(写真D)。これも当然ながら、巻き戻しノブではない。メニューを選んだり、画像を再生で送る場合などに使う選択ノブだ。つまり、ジョグダイアルとか十字キーなどと同じ役割をしているわけだ。このノブはさすがに説明書(PDFファイル)を見るまで、役目がわからなかった。
上面中央には外部ストロボのためのホットシューがある。ここには外付けファインダーなどのアクセサリもセットできる。 フレーミングは内蔵の採光式ブライトフレームでファインダーを見ながら行なう。そのブライトフレームの切り替えスイッチがホットシューの左側にあり、28mm、35mm、50mmに対応したブライトフレームを内蔵している。 撮像素子の大きさがAPSーCサイズだから、35mm換算の画角はレンズ表記の1.5倍となるが、ブライトフレームの数値はレンズの表記どおりだ。だから、ブライトフレームは35mm換算では42mm、53mm、75mmの画角を表していることになる。 現時点ではまだ、28mm、35mm、50mm以外の画角の交換レンズに対応した外付けファインダーは発売されていない。、現時点では、このR-D1を使うには、28mm、35mm、50mmのレンズを使うのがベストだ。それ以外の焦点距離のレンズはいったん撮影して、液晶モニタで確認しながら、フレーミングし直す、というような作業が必要だ。ただし、21mmレンズは35mm換算で31.5mmだから、ファインダー視野いっぱいを使えば、まずまずのフレーミングができる。 レンズマウントはLeica M型と互換性のあるバヨネットマウントだ。LマウントのレンズはMマウントアダプタを装着すればいい。シャッターをチャージしないと、遮光板が撮像素子面(ローパスフィルター面)をカバーするようになっている(写真E)。シャッターをチャージすると、シャッター幕がセットされる。シャッター先幕はダイレクト測光のためにグレーに着色されている(写真F)。測光は中央重点測光で、このためにAE撮影だと場合によっては露出補正が必要となる。 液晶モニタの右側には操作ボタンが並んでいる。さらに背面右上にはホワイトバランスと画質モードの設定スイッチがある(写真G)。これをそれぞれの位置に押しながら、巻き戻しノブ風の選択ノブを回せばいい。
液晶モニタはややグリーンがかっているが、視認性は悪くない(写真H)。この液晶モニタは引き出して回転してセットする(写真I)。このモニタをセットしない状態では、写真A2のように焦点距離の35mm判換算表が表れる。液晶モニタを引き出して、初めてこのカメラがデジカメだとわかる仕組みになっている(写真J)。これは液晶モニタ面を保護するためと、フィルムカメラを使うようにこのカメラを使うためだ。LeicaやBESSAのように使いたければ、液晶モニタを隠してしまえばいいのだ。 この液晶モニタの扱いにこのR-D1の主張がこめられているようだ。つまり、できるだけ液晶モニタを見ないという撮影スタイルだ。ライブビューはできないから、液晶モニタは撮影後の確認あるいはメニューを選ぶときだけに使うことになる。撮影がすべて終了するまで、液晶モニタを見ないというユーザーもいるだろう。
記録メディアはSDカード(写真K)。電池は専用の充電式リチウムイオン電池だ(写真L)。 液晶モニタのメニューは最低限であり、それも独自のインターフェースを持っている(写真M)。筆者は、ノイズリダクションの設定以外には使わなかった。できるだけ液晶モニタのメニューを使わせないような設計になっているともいえる。 デジカメらしくないデジカメ、それがエプソンR-D1だ。
●APS-C撮像素子搭載機でも高画質、AWBもいい 実写はいつもの通り、定点撮影を主体にした。ただし、前述のとおりRAWで撮影して、専用ソフトで現像し、JPEGに変換している。 まずビルの撮影だが、21mm、28mm、35mm、50mm、75mmの5本を使用した。これはズームレンズの両端よりもカット数が多くなるが、このカメラのひとつの生命線は画質なので、念入りにチェックをした。 21mm(31.5mm相当)の広角だと、ほかのデジカメのAFでは前ピン傾向になることが多い。それは、AFがこのビルの窓のパターンを苦手としているためと思われる。しかし、R-D1では絞り開放から狙った位置にほぼ合焦している(写真1A)。レンジファインダーで、ファインダー倍率が等倍(1倍)だから、基線長(測距窓とファインダー窓の間の長さ)の38.2mmがそのまま有効基線長となる。この有効基線長は測距精度を決めるベースになるのだが、交換レンズの焦点距離にかかわりなくいつも一定だ。また、ファインダー中央に見えるピント合わせのための二重像もレンズに関わりがない。 このため、広角になるほど測距精度の面では有利になるわけだ。F5.6に絞り込むと、さらにいい画質となった(写真1B)。ただし、拡大して見ると、手前のほうの窓のブラインドに偽色がはっきり見える。これはほかのデジカメよりも目立つ。また、周辺光量が落ちているが、これはしかたのないところだろう。 28mm、35mm、50mmともに絞り開放からいい画質である(写真2A、3A、4A)。F5.6に絞り込むとさらにいい(写真2B、3B、4B)。歪曲(ディストーション)も少なく、デジタル一眼レフに匹敵する画質である。 このビルの写真も含めて、RAW現像でシャープネスを上げるなどの操作は一切行なっていない。偽色さえなければ文句のつけようがない画像である。23.7×15.6mmという撮像素子(CCD)で、3,008×2,000ピクセル、有効画素数610万画素と言えば、デジタル一眼レフでおなじみのソニーのCCDである。しかし、同じCCDを使ったデジタル一眼レフとは味付けがちがうようだ。 75mmレンズ(113mm相当)でも、慎重にピント合わせをすればきちんと合焦した(写真5A~5B)。
定番の夜景撮影では、ノイズリダクションを強めに設定したフィルム設定1とノイズリダクションOFFの標準設定を比べてみた。約20秒という長時間露出で、ノイズリダクションをONにしておくと時間が倍かかる。しかし、ノイズはほとんど見られない(写真6A)。ノイズリダクションをOFFにして撮影してみても、わずかにノイズっぽいだけでそれほど気にはならない程度だ(写真6B)。また、点光源が画面端のほうでも尾を引くようなことがなく、レンズの性能もいいことがわかる。なお、この撮影にはCOLOR-SKOPAR 50mmF2.5をF22に絞って使用した。
ただ、50mm以上の望遠レンズでは、近距離の撮影でかなり気をつけないと、ピンボケになってしまう。人物撮影では75mmのフレーミングを決めるのに位置をいろいろ移動したために、ベストのピントはワンカットだけだった(写真7)。左目(向かって右)に合わせているが、これでも少々甘い。絞り開放だからきびしい条件ではあるが、75mmレンズを近距離で使う場合には注意が必要だ。ホワイトバランスはデーライト(晴天)モードできれいに描写された。 中距離の人物撮影は50mmレンズを使い、カメラ内蔵のファインダーフレームで決めた。この焦点距離と撮影距離になると、ピントの問題はほとんどない。また、AWBとデーライトの差もほとんど感じられなかった(写真8A、8B)。 タングステン光でのAWBは追尾が途中までなので、赤黄色になるが、これはほかのデジタルカメラでも同じ傾向だ。タングステンモードにするとほぼ完全に補正された(写真9A、9B)。
蛍光灯もいつもの撮影条件と同じだが、AWBだとわずかに黄色みが残る(写真10A)。蛍光灯モードにすると、わずかに青いがナチュラルな感じにバランスされた(写真10B)。蛍光灯ではマニュアル設定のほうがいいようである。
このカメラはISO感度が200~1600となっているが、実用感度であるISO400や800ではどのぐらいノイズが出るかも試してみた。その結果、ISO800でも縞ノイズがほんのわずかに出るぐらいで、気にはならない(写真11C)。また、ISO1600の超高感度撮影はいつものお台場小香港だが、これも高感度ノイズがほとんどない(写真12)。 ノイズに関しては、長時間・高感度ともにこのカメラは非常に優秀である。 ボケ味をチェックするために最短撮影距離の70cmで、75mmレンズで接写してみた。さすがに狙ったポイントにはピントが行かなかったが、ボケ味はいい感じである(写真13)。 また、スナップでは日陰と日向を入れて見たが、両方とも適度に描出され、ダイナミックレンジの広さを感じさせた(写真14)。もっと極端な例として、一部にだけ木漏れ日が当たっているシーンも撮影してみたが、これもハイライトが完全に飛ぶということはなかった(写真15)。 このカメラを持つと、目測撮影もしてみたくなる。レンジファインダーにたよらず、被写体との距離を目測してレンズにセットし、素早くシャッターを切るのだ。こういうことができる、というかしたくなるのは、やはりこのカメラが普通のデジカメではないという証拠だろう(写真16)。ただし、RAW撮影だから、書き込み時間が長く、連続的に写すことはむずかしかった。 なお、RAW現像ソフトはPhotolierのほかに、Photoshopプラグインもある。使い勝手はプラグインのほうがいいが、現像の結果はPhotolierのほうがよかった。
カメラを使っているという実感があり、しかもきちんと撮ればきちんと写ってくれる。そういう意味では「お気楽デジカメ」ではなく、撮影者もそれなりの心がまえが必要になる。ある意味ではデジタル一眼レフよりもむずかしいレンジファインダーデジカメだが、自分の腕に自信のあるユーザーには是非おすすめした機種である。 □エプソンのホームページ ■注意■
(2004年6月21日)
【PC Watchホームページ】
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