三浦優子のIT業界通信

ヤマギワソフト館は火災事故からいかに立ち直るか?


 今年2月10日、ソフマップソフトが運営するヤマギワソフト館で火災事故が起こったことは記憶に新しい。幸いにも死者、重傷者を出すことなく火事は鎮火したが、火災の様子は大きくテレビ、新聞などでも報道され、ソフマップ及び秋葉原電気街にとっては、インパクトの大きな事故となった。

 4月末になり、この事故が与えるソフマップ自身への影響などが明らかになった。火災による損失は商品が4億5,700万円、什器などが1,100万円の合計4億6,800万円の被害となったが、全額が保険によって補填されるため、ソフマップの業績への影響はないという。

 ヤマギワソフト館のリニューアルオープンも8月と決定、いよいよ本格的に火災事故からの再生がスタートした。再生するフト館は、どういう方向を目指そうとしているのだろうか。


●消防、警察の調査で、「原因不明」の不審火という結論に

株式会社ソフマップ常務取締役 松井幹利氏

 「火災の際は、多くの方にご心配とご迷惑をおかけしました」ヤマギワソフト館を運営するソフマップソフトの社長で、ソフマップの常務取締役でもある松井幹利氏は、2月10日の火災の話題になると、沈痛そうな面もちで頭を下げる。

 火災が起きた時点では、周囲の道路の交通が遮断され、テレビのニュースでも大きく取り上げられるほど大きな衝撃が走った火災事故ではあったが、松井社長が「人的な被害がなかったことがせめてもの幸い」と話す通り、死者、重傷者はなかった。

 火災の原因については、漏電という報道もあったものの、「ケーブル類を全て調べたものの、漏電の事実はなかった。消防及び警察の調査でも原因は特定できず、いわゆる不審火という結論となった」という。

 不審火だけに対策をとることは難しいものの、「原因が特定できないとはいえ、火災を起こしてしまったのは、管理が不十分で目の行き届かない部分があったためと反省している。今後リニューアルオープンする際には、さらに管理の徹底をはかり、例えば不要な段ボール等を置かないなど、不審火が起こる余地がないような管理の徹底をはかりたい」と話している。


●事件後集まった声で改めて気づいた固定客

リニューアルオープンの準備が着々と進むヤマギワソフト館

 元々ヤマギワソフト館は、ヤマギワが運営していた店舗を2002年にソフマップが営業権を譲り受けた。秋葉原にあるソフマップのソフトを扱う店舗がパソコン及びゲームソフトに強みを持っているのに対し、ヤマギワソフト館は音楽コンテンツや映像コンテンツといったAVソフトに強みをもち、女性の顧客にも入りやすい店舗であった。そこで、ソフマップソフトに営業権が移った後も、他のソフマップの店舗で行なっているソフト販売とは異なる客層を獲得していくのがヤマギワソフト館の狙いであった。

 しかし、今回火災というトラブルが起こったことで、「あらためて、ヤマギワソフト館の強みとは何か、認識することとなった」と松井社長は指摘する。事故発生後、松井社長自身が、社内に寄せられた顧客からの問い合わせ、インターネット上の掲示板などを、「できる限り目を通すようにした」そうだ。

 その結果、「暖かい励ましの声が多くて驚いた。もっと、厳しい指摘があるのではと覚悟していたのだが、実際は逆だった。また、どんなジャンルに固定客がいるのかを認識することができた。当初から予測していたアイドル、女性アーティストに加え、洋楽にも固定ファンがいることがわかった」という。

 元々ヤマギワソフト館では、アイドル、女性アーティストの音楽コンテンツについては、「日本でもトップクラスの販売実績となるなど、極端な売り上げをあげた実績がある」という。実際に女性アーティストものでは、大塚愛さん、倉木麻衣さんなどのデビューCDの売り上げが高く、音楽会社側でも積極的に女性アーティストのプロモーションを行なってきた。

 だが、それ以外にもテクノ、ヘビーメタルといったジャンルの洋楽に関しては、「非情に熱く当店を支持してくれる固定ファンがいることが、今回あらためてわかった」という。

 これはテクノはゲームファンの、ヘビーメタルはアニメファンの支持者が多いことから、秋葉原地区でも支持を得やすいベースがあったうえに、「他の店舗では強化されていないジャンルだったにもかかわらず、当店には熱心なバイヤーがいて、品揃えや情報カードなどでアピールしたことによって、固定ファンを作り出すことに成功したため」と松井社長は分析する。


●フロアごとにバイヤー、中古コーナーを設置

 「固定ファンを作りだす」というコンセプトは、新店舗の大きな鍵となってくる。

 「音楽コンテンツは、売り上げの4割が新譜。人気の新譜が出れば売り上げが伸びるという構造のビジネスであり、しかも定価販売が基本となるため、どこの店舗で購入しても価格差はない。あえて、秋葉原まで来て、しかも駅から歩いてヤマギワソフト館まで来てソフトを購入してもらうのだから、固定客の声に応えた店舗を作らなければならない。そのためには旧譜の品揃えの充実も必要で、『こんなソフトがないの?』と思われることがないような品揃えを進めていく必要がある」

 それだけに固定客の声に応えた店舗を作ることができるのかは、リニューアルオープンする際のポイントとなってくる。売り上げで見れば、音楽ソフトよりも映像ソフトの方が売り上げは大きい。が、火災の後に寄せられた声を見ると、音楽ファンからの要望は大きく、この声に応えることが「リニューアル後にかせられた大きな課題」となる。

 そのため、8月オープン予定の店舗では、各フロアごとにバイヤーを常駐させて、売り場を理解した販売員を置いて、密度の濃い空間を作っていく計画だ。

 また、今回のリニューアルで大きく変わるのが中古品の買い取り、販売を強化することだ。中古は、ソフマップの大きな強みであり、火災前のヤマギワソフト館でも取り扱いは行なっていた。

 しかし、「新店舗では、販売する商品ごとに客層が異なるという傾向を考慮し、各フロアに中古コーナーを設け、買い取りと販売を実施する」ことが決定した。新品に加え、中古製品の取り扱いが再生するヤマギワソフト館のシンボルとなる。


●専門店の集約で

 現在予定されているフロア構成としては、1階がJPOP、2階が洋楽、3階が映画やその他の映像ソフト、4階がアニメ関連、5階がゲーム、6階がアダルトとグラビア系、7階がグラフィック系を中心としたビジネスソフト、8階がイベントホールで従来の収容人数150人から200人へと拡大されることになる。

 各階ごとにバイヤーが常駐し、中古の買い取り、販売が実施されるようになるため、かなり分野ごとの個性が生かされた店舗となる見込みである。

 「中央通りの店舗があるあたりには、新たに開店したショップも含めて、ソフトを扱う店舗が増えている。残念ながら4月にラオックスさんのアソビットシティが移転したが、できれば後に入る店舗にも同じ系統の店舗が入ってくれれば、有り難いと思っている」と松井社長は話す。

 2005年には秋葉原にヨドバシカメラがオープンする予定である。現在の電気街の反対側にヨドバシカメラができれば、「人の流れが変わることは目に見えている」。対抗していくためには、ヨドバシには真似できない、専門性をもった店舗を作ることが大きなポイントとなる。それだけにヤマギワソフト館の周辺に、同じようなソフトを販売する店舗が増えていけば集客にも相乗効果があらわれるだろう。

 ソフマップでは、大阪でもヨドバシカメラの出店によって、店舗間競争を余儀なくされた。その経験があるだけに、「専門性を出した店舗を作っていくことで、戦いようもあるし、お互いに共存できる道はある」というのだ。

 この専門性を生かすために、「火災によって、店舗の個性をいかに出していくべきかという問題をつきつめて考える、いいきっかけになったようにも思う」と松井社長は捉える。そのために、「リニューアルオープン後も、売り上げについては前年並みを見込んでいる。売り上げ以上に、重要なのはお客さんの支持を得ること。お客さんの支持を得ることができれば売り上げは自然についてくる」と顧客支持を最優先とする方針だ。

 果たしてその狙い通り、顧客の信頼を取り戻していくことができるのか。リニューアルオープンに課せられた使命は重い。

□関連記事
【4月23日】ソフマップ、ヤマギワソフト館火災について報告
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0423/sofmap.htm
【3月12日】ソフマップ、ヤマギワソフト館の出火原因報道に抗議
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0312/sofmap.htm
【2月14日】ヤマギワソフトに火災発生で一時パニック、被害甚大(AKIBA)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20040214/etc_yamagiwasoft.html
【2002年7月30日】ソフマップ、ヤマギワのソフト部門と営業譲渡契約を締結
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0730/sofmap.htm

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(2004年5月11日)

[Text by 三浦優子]


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