古くからのPCユーザーは、ダイナウェアというソフトメーカーをご存知だろう。ワープロソフトやCADソフト「ダイナCAD」など、数々のソフトを生み出したメーカーである。そのダイナウェアから、映像事業部門が分離独立したのが、アイ・ビー・イー(IBE)だ。 2002年12月には株式上場も果たした同社は、映像に関するシステムインテグレーション、コンサルティング、パッケージ製品の開発・販売を手掛ける、ITと映像の融合した、「Video-IT」と同社が呼称する新しいタイプのシステムインテグレーション作りに取り組んでいる企業である。 そのアイ・ビー・イーがユーリードシステムズとモバイル・ビデオコンテンツの制作支援に関し業務提携。第一弾として、ユーリードが開発・販売するビデオ編集ソフトウェア「VideoStudio 7(ビデオスタジオ)」と携帯サイト制作ソフトウェア「DesignWire(デザインワイヤ)」を利用した携帯電話用ビデオコンテンツ制作のトレーニングコースを、4月からスタートした。 このトレーニングコースは、プロ、アマチュアを問わず参加することができる。これまでは、対企業向け事業を展開してきたアイ・ビー・イーが、コンシューマユーザーでも参加できる教室事業をスタートした狙いはどこにあるのだろうか。 ●放送局も認める映像ソリューション アイ・ビー・イーが映像とITを融合するソリューションを構築する力を身につけたきっかけは、'90年代、マルチメディアブームが起こった頃に遡る。
「当時、ダイナウェアで販売していたMPEGボードに対して、大手企業の研究室から、『これを使って、ソリューション構築ができないだろうか?』というリクエストが寄せられるようになった。こうした要望に、一件、一件、応えていくうちに、自然に映像を使ったソリューションを構築するノウハウが貯まっていった」(菅原仁社長) ノウハウを蓄積することができたのは、大手企業の研究機関のリクエストに応えられる技術力が当時のダイナウェアにあったからである。この技術力は、アイ・ビー・イーとして分離独立した現在に至るまで、同社の大きな武器となっている。同社がシステムを構築したユーザーとして、NHK、日本テレビ、毎日放送など大手テレビ局の名前が並ぶ。 例えば、毎日放送では選抜高校野球を放送しながら、インターネットでほぼリアルタイムに、各イニングの見せ場を紹介する映像を流していたが、これはアイ・ビー・イーが構築したシステムによって成り立っている。 映像はリアルタイムにデジタルデータ化され、サムネール形式の一覧表に表示されるため、その中から必要なカットだけを抜き出して編集すれば、簡単にインターネット配信用映像の編集ができる仕組となっている。このソリューションができるまで、番組のディレクターがビデオ映像を見直してハイライトシーンを選び出していた時に比べ、大幅に短時間でハイライトシーンを抜き出すことができるようになった。 こうした映像のプロからも認められる、Video-ITソリューション力をもった企業がアイ・ビー・イーなのだ。 ●パケット定額制開始で携帯用ビデオコンテンツ需要拡大か
その同社がコンシューマユーザー向け、ビデオ編集システムを販売するユーリードと提携し、携帯電話用コンテンツの編集教室を開始した。 これまで放送局に限らず、企業ユーザーをターゲットとしたシステムインテグレーションビジネスを展開してきたアイ・ビー・イーにとっては、これまでの企業向けビジネスとは全く方向の異なるビジネスである。 その狙いをアイ・ビー・イーの菅原社長は次のように説明する。 「携帯電話とビデオ映像を使ったソリューションとしては、例えば、映像を使ったコールセンターによって顧客満足度を向上させるといった用途が思いつく。だが、もっと新しい使い方があるはずで、色々なアイデアをもった人に、アイデアを寄せて欲しいと考え、今回、思い切って門戸を広げたトレーニング事業を開始することとした」。 そもそも、企業内で映像とITを融合したソリューションを使いこなしている企業はいまだに少ない。放送局で利用されている例を紹介したが、「Video-ITを必要とするのは、放送局に限らない。通常の企業であっても、社内教育用の映像コンテンツなどをもっている。こうした映像とITは別々に管理されている場合が多いが、これを融合することで、より利便性の高いソリューションが生まれるはず」と菅原社長は指摘する。 今回の教室事業スタートにより、アイ・ビー・イーでもVideo-ITの存在を認識し、必要とする企業が増加することを見込んでいる。 特に携帯電話用ビデオコンテンツは、「これまでは携帯電話とビデオを組み合わせたソリューションを作っても、莫大なパケット通信費がかかるため、採用する企業も少なかった。しかし、KDDI、NTTドコモ共に定額制パケット通信サービスを開始し、さらにユーリード製の使いやすいビデオ編集ソフトが登場したことで、これを使って何か、ソリューションを構築できないか、検討するところが出てくるタイミングだ。多くの人に携帯電話+ビデオのコンテンツ製作を呼びかけていくことで、思っても見なかった用途提案が出てくるのではないか」という、まさにこれから需要拡大が始まりそうな分野なのだ。 ●需要を喚起する活用方法とは? 映像+ITという組み合わせによって、新しいソリューションが構築できるのではないかという期待の声は、以前からあった。特に、ブロードバンド環境が整ってきたことで、映像を利用したソリューションは作りやすい環境が整った。 だが、ブロードバンド環境でさえ、映像+ITによるキラーコンテンツと呼べるようなソリューションはまだまだ少ない。その一方で、PC販売店では、ビデオ編集ソフトが売れ筋商品となっている。こうしたソフトを利用している人の中から、「ビジネスにできるアイデアをもった人が出てくる可能性は十分にある」と菅原社長は指摘する。 PCソフトも、20年前は既存企業ではなく、新しいアイデアをもった企業が次々に参入し、新しいソフトが生まれた。映像ソリューションの活用方法についても、思ってもみなかったところから登場した全く新しいプレイヤーがキラーコンテンツを作り出す可能性は十分にあるのではないか。 □アイ・ビー・イーのホームページ (2004年4月27日)
[Text by 三浦優子]
【PC Watchホームページ】
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