●Intelが“いやいやながら”Prescottを発表 最近のIntelの新CPUになかった異常事態。90nmプロセス世代Pentium 4(Prescott:プレスコット)」に発生した状況を形容するとこうなる。 新CPUコアを発表したというのに、搭載PCはメジャーメーカーからはほとんど発表されず、かろうじてeMachinesで3GHzが搭載されているぐらいだ。秋葉原にもCPUは見あたらない。特に、最高クロック帯の3.4GHzは、存在感が全くない。高クロック品がないから、従来の0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)に対してのパフォーマンス優位もない。しかも、Prescottの発表自体、昨年第4四半期の予定だったのが、1四半期ずれ込んでいる。 これは、発表と同時に搭載PCが一斉に発表され、秋葉原にも品がそこそこ並び、パフォーマンスで従来世代を超えるという、最近のIntel CPUのパターンとは大きく違う。Intelの発表も控え目で、なんだか、あまりPrescottを打ち出したくないように見える。Prescottはどうしてしまったのだろう。 まず、Intelの現在の立場から言えば、μPGA478版Prescottは、出したくて出した製品ではない。どちらかというと、気は進まないが、出さざるを得ないから発表したに近い状況だ。今のIntelの気持ちでは、どちらかといえばPrescottはLGA(Land Grid Array)775パッケージからスタートさせたいだろう。それは、Prescottの問題はμPGA478版にだけ発生しているからだ。 ●μPGA478版だけに問題が発生 2003年10月に「Prescottの遅延理由ついに判明」でレポートした通り、Prescottのトラブルは、μPGA478版と既存のIntel 865/875系チップセットマザーボードとの組み合わせにある。Intelが顧客に伝えたところによると、第2四半期に登場するLGA(Land Grid Array)775版のPrescottでは、問題は発生していないという。 Pentium 4/Prescott系のシステムバスは、AGTL+(Assisted Gunning Transceiver Logic)信号技術を使っており、リファレンス電圧「GTLREF」を中心に、電圧に±10%の小振幅をつけて伝送する。レシーバー側は、GTLREFを参照して、信号がハイかローかを判定する。ところが、μPGA478版Prescottと865/875マザーボードの組み合わせでは、ハイレベル時の電圧が、AGTL+で規定している値(VIH)と合致しないケースが発生した。 この問題を解決するにはCPU側かマザーボード側のどちらかを変更しなければならない。しかし、μPGA478版Prescottの場合は、チップセットとマザーボードはすでにPrescottレディで市場に出てしまっていた。そのため、IntelはPrescott自体の回路設計の変更をせざるを得なくなった。それで、ステッピングをB0→C0→C1と進めるために、Prescottの出荷は遅れてしまった。 Intelは設計変更によって、μPGA478版でも問題を解決できるとしているが、現状ではこの問題のために高周波数化は難しいようだ。高クロック品の供給は非常に薄く、3.4GHzは事実上ほぼ存在しない状態だ。業界関係者によると3.4GHzはサンプルすらない状態で、3.2GHzにしてもほとんど供給されないと通知されたという。Dellのような超大手でないと調達が難しい状況だと言われる。高クロック品がそこそこ供給されるようになるのは、第1四半期終わりから第2四半期になる見込みだ。 μPGA478版Prescottの危機状況に際して、IntelはNorthwoodで急場をつなげることにした。もともとの計画では、IntelはNorthwoodコアPentium 4とPentium 4 Extreme Edition(サーバー向けのGallatinをベースにしたコア)は3.2GHzで打ち止めにして、3.4GHz以上はPrescottに移行させるはずだった。だが、結局はNorthwoodとPentium 4 XE(Extreme Edition)を3.4GHzに引き上げて対応することにした。といっても、0.13μm版で3.4GHzは難しいらしい。結局、3.4GHz版はNorthwoodにせよ、ほぼ見あたらない状態が続いている。 ●存在意義を失うμPGA478版Prescott
こうした情勢で、μPGA478版Prescottは、存在意義を急速に失ってしまった。それは、LGA775版Prescottと、LGA775に対応するPCI Expressプラットフォームの登場が、今年第2四半期に控えているからだ。μPGA478版Prescottは、たった1四半期のつなぎである上に、高周波数もないため、システムベンダー側にとっては魅力のないCPUとなってしまった。 Intelのもともとのプランでは、2003年第4四半期にμPGA478版Prescottが発表され、2004年第2四半期まで2四半期の間はμPGA478のはずだった。だから、μPGA478版Prescottにも魅力があった。 今回の問題が示しているのは、ソケット互換戦略の行き詰まりかもしれない。 Intelが、PrescottにμPGA478版を用意したのは、Northwood→Prescottの移行を容易にするためだった。PrescottをLGA775でいきなり投入すると移行が難しい。しかし、μPGA478版を用意するなら、Northwood用のマザーボードにそのまま載せて使えるから、移行がスムーズにいくという戦略だった。結局、その戦略が裏目に出て、Prescottは立ち上げに失敗してしまったというわけだ。 Intelが、PrescottをLGA775からスタートさせるつもりだったら、今回の問題は発生しなかった。PrescottはBステップですら、LGA775で問題なく動作していたからだ。つまり、バスも内部コアも高周波数化した現在のCPUでは、新CPUは新プラットフォームに組み合わせた方がリスクが少ないだろう。 こうした背景があるため、Intelとしても本音はPrescottをLGA775でスタートさせたかったと推測される。それなら、μPGA478のための設計変更も不要だし、LGA775とμPGA478がオーバーラップする複雑な製品構成も避けられる。Prescott自体も、LGA775とPCI Expressに組み合わせて、新味をアピールできる。 だが、Intelにはそうもいかない理由がいくつかある。まず、昨秋に、公にPrescottを昨年末にOEMに出荷予定と言ってしまった手前、出さないわけにはなかなかいかない。量は少なくても、出したという実績を作っておきたいところだろう。 また、Prescottの熱設計が変更になったため、マザーボードベンダーには一回ボード設計を変更させている。つまり、当初Prescott/Northwoodの両対応向けのデザインガイドとしてPrescott FMB1をIntelはボードベンダーに供給したのだが、それをPrescott FMB1.5に変更させている。Prescottに対応ということで、設計を変えさせたわけで、μPGA478版をスキップしたらそれは無駄ということになってしまう。というか、現状では半分そうなってしまっているわけだが。 ●LGA775で一気に遅れを挽回するIntel IntelはLGA775以降は、これまでのつまづきを取り戻そうというかのように、一気にPrescott移行を進める。第2四半期には、3.6GHzまでのレンジで、一気にLGA775版Prescottを発表。秋までには全Pentium 4ラインをPrescottへと持ってゆくつもりだ。 かつてない急峻な立ち上げになるわけだが、それも無理はない。結局、今のところIntelは、せっかくの90nmの製造キャパシティを、メインのCPUにはほぼ使うことができていない。90nmプロセスのCPUであるPrescottもDothan(ドサン)も立ち上げが遅れてしまったからだ。Intelが言うように90nmプロセスがヘルシーなら、製造キャパシティは無意味にあいてしまっていることになる。 もっとも、実際には、Intelは現在Prescottを大量に生産していて、それをLGA775に回してストックしている可能性も高い。その方が、Intelにとっても経済的だ。同じチップが、μPGA478だと高クロックにできないが、LGA775だと高クロックにできると見られるからだ。それなら、LGA775パッケージで生産しておいて、一気に第2四半期に投入した方が効率がいいことになる。Intelの倉庫には、今頃LGA775 Prescottの山ができているかもしれない。 その一方で、μPGA478版の位置はますます後退した。昨年末までのプランでは、Intelは第2四半期にPrescott 3.6GHzを、LGA775とμPGA478の両方でリリースするはずだった。ところが、今は3.6GHzはLGA775だけになっている。これは、現実問題としてμPGA478の3.6GHzは作れないという事情があるのだと推測される。 Intelは、LGA775以降は、再び高周波数化を続ける。第3四半期には3.8GHzを、第4四半期には4GHzを、来年第1四半期にはおそらく4.2GHzを投入する。一見順調なペースだが、よく見ると、高周波数化のペースは年率1.25倍程度で、2002年までの1.4~1.5倍の高ペースには及ばない。つまり、周波数向上のペースは明らかに落ちている。 それと平行して、CPUのバリエーションは爆発的に増える。これは、以前のレポート「周波数向上が停まり、爆発するCPUのバリエーション」で説明した通りだ。Intelは、キャッシュやFSBや機能の異なるバリエーションを増やすことで、周波数向上が鈍化したCPUの差別化を図り始めている。 ●Pentium 4 Extreme EditionにLGA775版が登場 IntelのCPUバリエーション拡大の象徴であるPentium 4 XE(Extreme Edition)は、さらに延命された。 もともと、Pentium 4 XEはAMDのAthlon 64 FX対策として投入されたCPUだった。そのため、当初はPentium 4 XEがいつまで提供されるのか、はっきりしていなかった。だが、現在、IntelはPentium 4 XEに、現在のμPGA478版以外にLGA775版を加えることを決定した。 Intelのこれまでの計画では、Northwood系コアはμPGA478まで、Prescott系コアがLGA775と明確に区別されていた。だが、今回のロードマップ変更で、Northwood系コアにL3キャッシュを加えたGallatin(ギャラティン)コアをベースに使ったPentium 4 XEもLGA775に移行、PCI Expressプラットフォームまで延命されることになった。 ただし、LGA775版Pentium 4 XEは3.4GHzだ。技術上でも、それ以上の高クロック化は難しいだろう。Prescott系で大容量キャッシュを搭載した「Potomac(ポトマック)」は、2005年第1四半期の予定であるため、大容量キャッシュのPentium 4 XE系をPrescott系コアに移行させるには、まだしばらくかかる。そのため、Pentium 4 XEはとりあえずこのLGA775版3.4GHzで打ち止めになると推測される。 Intelは、第2四半期に投入するPCI Expressチップセットの準備の最終段階に入り始めている。 今回のPCI Expressチップセットから、型番は900番台に変わる。ハイエンドディスクリートチップセットで、Intel 875P後継となる「Alderwood(オルダウッド)」は「Intel 925X」。メインストリームのディスクリートチップセット「Grantsdale-P(グランツデール-P)」は「Intel 915P」、グラフィックス統合チップセット「Grantsdale-G(グランツデール-G)」は「Intel 915G」になった。 これらのチップセットはLGA775しかサポートしない。しかし、第3四半期に投入されるローエンド向けチップセットIntel 910GL(Grantsdale-GL)では、LGA775に加えてμPGA478もサポートされることになった。910GLはPCI Express x16をサポートしないが、PCI Express x1はサポートする。つまり、μPGA478は、PCI Express x1だけは使えることになる。
□関連記事 (2004年2月6日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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