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周波数向上が停まり、爆発するCPUのバリエーション




●同じ2.8GHz CPUでこれだけの差

 2004年のIntelのデスクトップCPUに、2.8GHz版はいったい何種類あるのか。答えは9種類。Pentium 4/Celeronファミリの中で、CPUコアやFSB(フロントサイドバス)、パッケージ、L2キャッシュサイズ、機能のバリエーションで、なんと9種類もの2.8GHz CPUが売られることになる。これをローエンドからハイエンドで比べてみると、面白い。

 最上位に位置するのはLGA775パッケージ版のPentium 4(Prescott) 2.8GHzで、90nmプロセスで製造され、FSB 800MHz、1MB L2キャッシュを搭載、拡張版Hyper-Threadingを備える。

 それに対して最下位はCeleron(Northwood) 2.8GHzで、0.13μmプロセスでμPGA478パッケージ、FSB 400MHz、128KB L2キャッシュで、Hyper-Threadingはディセーブル(無効)にされている。つまり、同じ2.8GHz CPUでも、L2キャッシュサイズは8倍、FSBは2倍、Hyper-Threadingのあるなしという巨大な違いがあることになる。

 さらに、違いはCPUだけに留まらない。LGA775版のPentium 4は(Intelチップセットを選ぶ限り)必然的にPCI Expressチップセットとなり、μPGA478版Celeronは従来型チップセットとなる。つまり、システムの機能でも大きく差が出ることになる。逆の言い方をすれば、Intelは同じクロックでも、クロック以外の部分で大きく差別化しているわけだ。

 これは何を意味するのか。それは、周波数でCPUを差別化する時代が終わりを迎えつつあるということだ。

 こうした変化が起こった原因は明白だ。それは、CPUのクロック向上が停まり始めたからだ。

●2002年末を境に鈍化したIntel CPUの周波数向上

 下の図がIntel CPUの周波数向上カーブだ。IntelのPentium 4のハイエンドは、2001/2002年の間は年に1.5倍近く伸びていた。そのため、2000年末の1.5GHzが、2001年末には2GHzになり、2002年末には3.06GHzになった。プロセス技術が0.18μmから0.13μmへと移行したおかげだが、この2年間の2倍の伸びは、あっと言う間だった。

図:IntelのデスクトップCPUの周波数向上
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 だが、2003年に入るとPentium 4の周波数の伸びはピタっと止まってしまう。2002年末に3.06GHzだったのが、2003年末の現在でも3.2GHzと、1年かかって10%も伸びなかった。さらに、2004年も周波数向上ペースが復活するかと思ったら、そうでもなさそうな気配だ。おそらく、2004年末でもPrescott(プレスコット)の周波数は4GHz程度止まりだと推測されている。そうすると、1年で1.25倍程度までしか向上しないことになる。

 これをグラフにしてみると明確だ。Pentium 4の周波数向上は、2002年末を境に、ポキっと折れたように、なだらかになってしまっている。このように、周波数の上昇が鈍化したために、周波数以外の差別化が重要になってきたわけだ。

 さらに、Celeronの周波数の向上が、話を複雑にする。同じデスクトップCPUでも、Celeronの方は周波数向上がPentium 4ほど衰えなかった。2002年末から2003年末にかけても、約1.2倍も周波数が上がっている。その結果、何が起きたかというと、Pentium 4とCeleronの周波数差がどんどん狭まってきている。

 例えば、2001年末にはPentium 4の最高クロック品と、Celeronの最低クロック品は、周波数では2GHz対900MHzと、2倍以上の差があった。この時は特に開いていたわけだが、そうでなくても通常1.8倍程度は開いているのが普通だった。ところが、2003年末の現在では、それぞれの差が3.2GHz対2.3GHzと1.4倍程度に縮まってしまっている。つまり、Pentium 4とCeleronで、以前のような決定的な周波数差は薄れてきているのだ。

 その結果、今ではPentiumブランドとCeleronブランドで、周波数はかなりオーバーラップするようになっている。3年前ならPentiumブランドとCeleronブランドでは、周波数のオーバーラップはほぼなかった。ところが、現在はPentium 4だけの周波数は3GHz以上で、3GHz未満、例えば、2.53~2.8GHzはCeleronと重なってしまっている。つまり、Pentium 4 2.53~2.8GHzは周波数だけでは差別化できなくなっているわけだ。

●熱が壁となりCPUの速度向上を阻む

図:NorthwoodからPrescottへの移行ロードマップ
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 どうして、Pentium 4とCeleronの周波数差が縮まった(=Celeronの周波数が相対的に向上した)のだろう。IntelのCPU製造技術が向上したためだろうか。いやそうではないだろう。

 そもそも、CPUのカタログスペック上の動作周波数は、本当の動作周波数ではない。Centaur TechnologyのC.J. Holthaus氏は「CPUには本当のクロックの上限である“Speedpath(スピード派生)”の他に、実際に売られる時のクロック“Guardband(ガードバンド)”の2種類がある。Intelなどの場合、Guardbandはマーケティングの必要から生じたもので、市場のセグメント化のために低クロック品が必要な場合にGuardbandをはめて低クロック品として出荷している」と説明する。

 つまり、以前は本当は1.1GHzで動くCPUであっても、差別化のために900MHzのGuardbandで出荷していたのを、今ではそうしたGuardbandをあまりはめなくなってきたと推測される。競争があまり激しくなかった頃は、IntelもGuardbandをはめてクロックをわざと落として出荷する余裕があった。だが、AMDという対抗馬を迎えて、あまりそうも言っていられなくなったために、Guardbandを緩めてきた可能性がある。

 だが、マーケティング上の理由以上に大きな影響を与えているのは、やはり上が詰まってしまった(=Pentium 4の周波数上昇が頭打ちになった)ことだろう。その最大の原因は、やはり熱=消費電力だ。

 例えば、Intelは、Prescottはアーキテクチャ上は5GHzまで達成できるスケーラビリティがあることを明らかにしている。しかし、その割りには2004年に予定している周波数向上カーブは緩い。その原因はPrescottのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が予想以上に高かったことにあると推測される。つまり、アーキテクチャ的には周波数向上の余裕があるのに、熱を処理し切れないために、周波数を上げられない可能性がある。

 Prescottの速度向上が詰まってしまっているために、今のPentium 4(Northwood:ノースウッド)の周波数も上げにくい。おそらくIntelは3.4GHz版を、すでに今のNorthwoodコアでもある程度の量を採れると思われる。つまり、来年の2月に予定しているNorthwood 3.4GHzは、出そうと思えば、もっと早く出すことができたと推測される。それをこれまで抑えてきたのは、3.4GHzから上はPrescottとして、新CPUを差別化したかったためだと思われる。Prescottの周波数を思い切って上げることができないから、Northwoodも抑え目にしていたのかもしれない。

 いずれにせよ、Intel CPUの周波数向上ペースは、完全に緩んだ。そのために、Intelはクロック以外の部分での差別化要素を増やしつつある。そうしないと、高価格帯のCPUに付加価値を加えることができないからだ。それを象徴するのは、サーバー向けコアを持ってきて、新たに超高価格帯に据えたPentium 4 Extreme Edition(Pentium 4 XE)だ。そして、Prescottも従来の新CPUのように高周波数品だけで展開されるのではなく、完全にNorthwoodとオーバーラップする周波数帯で提供される。NorthwoodとPrescottの差別化は、周波数ではなく、機能になる。

 というわけで、同じPentium 4/Celeronファミリでも、バリエーションはどんどん広がりつつある。2004年には、CPUコアが3種類、キャッシュサイズは5種類、パッケージ/ソケットは2種類、FSBは3種類、Hyper-ThreadingのOn/Offの違いができる。これらの組み合わせによるバリエーションは全部で11種類で、周波数の違いを合わせるとCPUは41種類になるわけだ。もはや、周波数はCPUの差別化のメジャーな要素ではなく、マイナーな一部分に過ぎない。周波数でCPUが差別化できた時代は、終わりを迎えようとしているのかもしれない。

●先見の明があったAMDのモデルナンバー

 こうしたトレンドは、AMDにとってはやや有利に働いている。まず、(1)AMDも実は2003年中はほとんど動作周波数を伸ばすことができなかったが、Intelの失速のおかげで差を広げられずにすんだ。また、(2)AMDはモデルナンバーを採用したことによって、周波数以外の要素を数字に変換して組み込むことが可能になったため、数字でも差別化ができる。

 つまり、AMDもIntelとほぼ同じ状況に陥っているにも関わらず、差別化を数値化できる点が異なっている。AMDは先見の明があったと言えそうだ。

 例えば、AMDのAthlon 64/Athlon XPの今の最高峰はモデルナンバーで3200+、ローエンドは2000+あたりだ。つまり、モデルナンバー上ではトップとボトムで1.6倍の開きがある。ところが、実際の生クロックを比べると、最高周波数と最低周波数では1.4倍程度の差しかない。つまり、CPUラインナップの周波数のばらつきは、AMDもIntelも同程度なわけだ。しかし、AMDはキャッシュやFSBなどの違いをモデルナンバーに換算することで、バラエティを1.6倍に広げている。もし、Athlon 64 FX-51を3700+相当に換算するなら、その差は1.8倍にまで広がる。

 ちなみに、AMDのモデルナンバーには一定の法則があり、同系列のCPUアーキテクチャで、キャッシュが2倍になるとナンバーは1段(200~300)アップする。また、FSBが速くなるとこれも1段アップの材料になる。K8系アーキテクチャにこれを当てはめると、Athlon 64 3200+は1MB L2キャッシュ/シングルチャネルメモリで2GHz、Athlon 64 FX-51は1MB L2キャッシュ/デュアルチャネルメモリで2.2GHzで、2段階分の違いがある。そこで3200+から2段階ナンバーをシフトさせると、FX-51は3600~3700+相当になるというわけだ。

 これは、今後のAMDのCPUバリエーションにも応用することができる。例えば、シングルチャネルメモリでL2キャッシュが512KBに制限されているAthlon 64が登場したら、同じ2GHzでも3000+相当のモデルナンバーになるだろう。もしデュアルチャネルメモリ/512KB L2キャッシュのAthlon 64が登場したら、それは、今のAthlon 64と同じモデルナンバー/クロック比になるだろう。その場合、計算上3400+/2.2GHz、3700+/2.4GHz、4000+/2.6GHzということになる。K8アーキテクチャで、0.13μmプロセスで2.6GHzを達成できるとは思えないので、4000+は必然的に90nmプロセス世代のAthlon 64(Winchester:ウインチェスタ)からになる。

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【11月14日】【海外】Prescottが当初からバーゲンされる理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1114/kaigai045.htm
【11月12日】【海外】かつてない速さで進むPrescottへの移行
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1112/kaigai044.htm

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(2003年11月19日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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