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Prescottは10年に1度の大きなアーキテクチャ変革




●アーキテクチャから見ると革新的なPrescott

 発表されたものの、モノはほとんどないし、パフォーマンスも目覚ましいわけではない。Intelの90nm版Pentium 4(Prescott:プレスコット)は、現状だけを見ていると、ぱっとしないCPUだ。

 しかし、CPU内部に目を転じると話は違ってくる。CPUアーキテクチャでいえば、Prescottはじつは非常に重要なCPUだ。IntelのIA-32系で初の64bit CPUで、初のハードウェアセキュリティ機能を備える。アーキテクチャ拡張という観点では、Prescottは打ってかわってエポックメイキングなCPUとなる。ただし、Prescottのアーキテクチャ拡張は、いずれも隠し機能だが……。

 Prescottで拡張された基本アーキテクチャは、(1)IA-32アーキテクチャの64bit拡張技術「Yamhill(ヤムヒル)」が実装され、(2)ハードウェアベースのセキュリティを実現する「LaGrande(ラグランド)」が実装され、(3)LaGrande向けの新しい特権モードを利用することで仮想マシン支援技術「Vanderpool(バンダプール)」の初期的な実装が可能、の3点だと推測される。

 PrescottにLaGrandeが実装されていることは公表されているし、Vanderpoolの機能の一部が実装されていることも明かされている。というより、LaGrandeとVanderpoolは、おそらく、どちらも新しい特権モードを利用する。つまり、1つの基本アーキテクチャの、2つの応用形態だ。Yamhillの実装だけは明かされていないが、これは状況証拠から明らかだ。

 こうして見ると、Prescottが、アーキテクチャ的には10年に1度と言っていいほどの大拡張なのがわかる。以前、このコーナーでPrescottの拡張は小規模なものと推測したが、それは大きな間違いで、Prescottこそアーキテクチャチェンジの節目のCPUだった。少なくとも、64bit化という意味では、AMDがAthlon XPからAthlon 64へとジャンプしたのと同じだけのインパクトがある。

 下表が、Pentium 4系CPUの機能進化の図だ。これを見ると、0.13μm版Pentium 4(Northwood:ノースウッド)までのPentium 4に対して、Prescottが大きなジャンプであることがよくわかる。おそらく、Prescottを継承する「Tejas(テハス)」や、その先の「Nehalem(ネハレム)」世代は、Prescottアーキテクチャをベースに拡張してゆくことになるだろう。

 特に、ソフトウェアに対するPrescottの影響は大きい。64bit化、セキュアコンピューティング、仮想マシンといった今後の技術トレンドに対するハードウェアサポートは、全てPrescottから始まるからだ。その意味では、今後10数年のIntel IA-32 CPUのアーキテクチャの基礎となるCPUだ。

 Prescottの拡張は、CPUの動作モードや特権モードに関わるものだけに、ソフトウェアに与える影響は甚大だ。インパクトとしては「i386」登場に匹敵するほどPrescottの存在は大きい。というのは、ソフトウェア側から見ればNorthwoodまでは多少の拡張はあれども“速い386”に過ぎなかったのが、Prescottからは違うからだ。

P4アーキテクチャの進化
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●なぜ隠されているPrescottのアーキテクチャ拡張

 Prescottの最大の特徴は、これだけ大きなアーキテクチャ改革が加えられていながら、それらの機能が全て隠されていることだ。Prescottほどアーキテクチャ面での隠し機能の多いCPUは珍しい。

 もちろん、これには実際的な理由もある。というのは、YamhillやLaGrandeやVanderpoolは、ソフトウェア側インフラの対応が揃わない限り、意味がないからだ。Yamhillには64bit OSとデバイスドライバが必要で、LaGrandeにはMicrosoftの次期OS「Longhorn(ロングホーン)」など対応OSが必要で、Vanderpoolも仮想マシンソフトメーカーとの連携が必要だ。そうしたソフトウェアプラットフォームが整って、それから、その上で64bitアプリケーションやセキュアアプリケーションが花開くという展開になる。

 だから、Intelが、まずソフトウェア側の開発プラットフォームとしてこれらの機能を提供し、その間は、エンドユーザーに対しては隠し機能としておくというのは、一応利にはかなっている。

 これは、アーキテクチャ革新を前面に押し出すAMDとはかなりアプローチが異なる。AMDは、Athlon 64で64bitを前面に押し出したように、アーキテクチャ革新を打ち出す傾向がある。これは両社の立場と性格の違いを反映している。AMDは、黙っているとあまりサポートが得られないから、アーキテクチャ革新を全面に押し出して業界のサポートを促す必要がある。

 それに対して、Intelは、黙っていてもある程度サポートが得られるから、サポートを促す必要はそれほどない。表には出さないで、水面下で大手のソフトウェアベンダーと協力すればいいわけだ。また、Intelはそうした隠密的な行動を好む傾向が強い。

 もっとも、今回のYamhillの場合は、それ以外に、政治的な意図でYamhillを秘密にしてきたという事情もある。Yamhillが公になった瞬間に、同社のもうひとつの64bitアーキテクチャ「IA-64」が揺らいでしまいかねないからだ。

●アーキテクチャ拡張こそPrescottの主眼

 隠し機能を勘定に入れてPrescottを見直すと、このCPUに対する評価はかなり変わってくる。

 まず、Prescottでは、拡張の主眼がアーキテクチャにあることが見えてくる。もちろん、Prescottでも新命令「SSE3(PNI)」の追加や、パイプラインの見直し、高クロック化のためのクロックディストリビューションネットワークの改良や、CADツールの改良による物理設計の改良など、高性能化のための強化も多数行なわれている。しかし、これらの拡張は、基本部分に手を加えたアーキテクチャに対する拡張と比べると、やはりマイナーだ。

 Prescottに対するエンジニアリングのかなりの部分が、パフォーマンス向上より、アーキテクチャ拡張に費やされた可能性は高い。

 だとすると、Prescottは、隠されているアーキテクチャ拡張が有効にされて、初めて価値を持つCPUということになる。今後の流れは、LGA775に移行して、LGA775版Prescottか、遅くとも次のTejasでYamhillが有効にされ、おそらくTejas世代でLaGrandeが有効にされる。その時になって、ようやく意味が出てくるというわけだ。

 また、Prescottが64bit CPUであることを前提に考えると、他の新アーキテクチャの持つ意味合いも変わってくる。例えば、「Vanderpoolテクノロジは、64bitへの移行を容易にするためという目的も持ってる可能性がある」とライターの塩田紳二氏は指摘する。

 Vanderpoolの仮想マシンメカニズムがあれば、64bitモードと64bit OSへ移行する際に、移行の痛みを減らすことができる。Vanderpoolで32bit CPUを仮想的に実現すれば、その上で32bit OSを走らせることができるからだ。もしかすると、64bit化のためにVanderpoolを考え、それをセキュリティにも応用しようという話なのかもしれない。

●従来とは異なるPrescottのアーキテクチャ拡張

 Prescottのアーキテクチャ拡張では、これまでと違う点が多少ある。

 まず、1つは、Intelが最新のアーキテクチャで、こうした基本的な拡張を行なわなかったことだ。これまで、大きなアーキテクチャ上の変革は、完全に新しいCPUアーキテクチャを導入する時に行なわれてきた。32bit化はi386で実現されたし、Hyper-Threadingは初代Pentium 4に(隠し機能だったが)実装された。ところが、今回はP4アーキテクチャの途中で、大きなアーキテクチャ拡張が行われている。

 Intelは、少なくともメモリアドレッシングの拡張の必要性が2003〜4年に来ることはわかっていたはずなので、これは始めから計画していたことだと思われる。つまり、拡張を行なうことを前提としてP4を開発したことになる。

 もう1つは、ソフトウェアベンダー側のCPUアーキテクチャに対する影響力が強まった可能性だ。Microsoftなどが、AMDとの互換性を強く要請して、Intelがその圧力に従った可能性がある。鍵となるのは、YamhillとAMD64、LaGrandeとAMDのセキュリティアーキテクチャ、それぞれに互換性があるかどうかだ。

●ある程度の互換性が判明してきたYamhillとAMD64

 今のところわかっている限り、IntelはYamhillの実装にあたって、AMD64との互換性を考慮した様子が見える。まだ確認は取れていないが、複数の情報筋によると、Yamhillのメモリページテーブルやレジスタスペースなどの構成は、AMD64と一致するという。また、Yamhillでは、AMD64と同じMSR(Model-specific register)の同じ制御bitを使って、64bitモードのイネーブリングを行なうという。

 ページテーブルやレジスタ拡張は、合理的な拡張を探った結果、偶然に一致した可能性はある。しかし、この情報が正しいとすると、制御レジスタのbit位置まで偶然に合うというのは、不自然だ。つまり、意図的に合わせた可能性が高い。また、制御bitまで合わせているとすると、インストラクションプリフィックスなども揃えられている可能性は高い。

 そして、それはIntelにとっては何の益もない。YamhillとAMD64に互換性がなければ、市場で優勢なIntelアーキテクチャの方がサポートが厚くなり、AMDを苦しめることができるからだ。Intelとすれば、そうするのが自然だ。つまり、互換性はIntelが望んだものではないことになる。

 YamhillとAMD64に、基本アーキテクチャ面で互換性がある場合、得をするのは、もちろんソフトウェアベンダーだ。基本部分に互換性があれば、追加命令などで若干の違いがあったとしても、両アーキテクチャに共通のバイナリを作ることが容易になる。YamhillとAMD64の両方に対して、共通バイナリの共通バージョンのOSやドライバ、アプリケーションソフトを提供することが可能になるだろう。こう考えると、Microsoftが「Longhorn(ロングホーン)」のAMD64版を“x64版”と呼んでいた謎も解けてくる。x64版は、じつはAMD64とYamhillの両対応版になるのかもしれない。

 こうしてみると、YamhillとAMD64に互換性があるのなら、それはソフトウェア業界側の圧力によるものである可能性が高い。また、そうすると、もう1方向のアーキテクチャ拡張であるLaGrande/Vanderpoolも、AMDの同等アーキテクチャと互換性がある可能性が高い。チップセットベンダーは、AMDが2005年のCPUにセキュリティ機能を搭載してくると語っており、その段階で、セキュリティ/仮想マシンについても、IntelとAMDで同じバイナリが使えるようになるのではないだろうか。

 ここまでの推測が正しければ、CPUアーキテクチャの拡張は、もはやCPUベンダーが独自に決定するものではなくなったことになる。業界合意の上で互換性を確保した、アーキテクチャ拡張を行なう方向性を意味する。もしそうだとすると、この流れはAMDにとって有利に働く。AMDが、互換性の面で常にIntelに対して不利になるという状況を避けられるからだ。少なくとも、AMD64アーキテクチャは、あだ花に終わることはなくなるのだ。

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(2004年2月9日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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