●ハイエンドにAlderwoodチップセットが登場 Intelは、2004年春のチップセットとして3つのラインを用意している。 ディスクリートチップセットの「Grantsdale-P(グランツデール-P)」と、グラフィックス統合チップセットの「Grantsdale-G」、それにハイエンドディスクリートの「Alderwood(オルダウッド)」の3種類だ。 AlderwoodはGrantsdale同様にPCI Expressチップセットだが、FSB(フロントサイドバス)は800MHzだけをサポートする。推定される各チップセットの仕様は次の通りだ。
つまり、AlderwoodはDDR2メモリとFSB800MHz専用で、「Turbo Mode」と呼ばれる高速化技術とECCメモリサポートを備えたチップセットというわけだ。ちなみに、Grantsdale系はDDR2/DDR両対応で、FSBは800MHzと533MHzの両方をサポートし、ECCは備えない。これは、ちょうど今年春のチップセットファミリの構成とよく似ている。 Intelの2003年のディスクリートチップセットは、同じコアから2つの派生品があった。Intel 875P(Canterwood:カンターウッド)とIntel 865PE(Springdale:スプリングデール)だ。この両チップは同じ基本設計のコアだが、Canterwoodの方はPAT(Performance Acceleration Technology)と呼ばれるターボモードによるメモリアクセス高速化で差別化されていた。Alderwoodも、おそらく同様のパターンで作られたチップセットだと推定される。 CanterwoodはもともとシングルCPUワークステーション向けだったのを、ハイエンドデスクトップにも広げた。Alderwoodも同様にワークステーションとデスクトップの両方をカバーする。サーバー&ワークステーション系の製品をデスクトップに降ろしてきたという意味ではPentium 4 Extreme Edition(Pentium 4 XE)と同様だ。 Canterwoodは、Pentium 4 XEと同様に差別化高級ブランドで、かなり割高な価格設定(リストプライスなら50ドル程度で、865Pの1.5倍以上)がされている。おそらく、Alderwoodも同様のレンジになるだろう。ちなみに、コードネームではハイエンドが「-wood」、メインストリームが「-dale」で揃えられている。 ●0.13μmへの移行でグラフィックス機能を向上させる Intelは、現行のSpringdale/Canterwood系チップセットは0.18μmプロセスで製造しているが、2004年のチップセット群は0.13μmへとシフトさせる。つまり、CPUがPrescottで90nmプロセスへと移行すると、空いた生産キャパシティを今度はチップセットへと振り向けるというわけだ。 プロセスの微細化は、特に統合グラフィックス機能に影響する。トランジスタ数を必要とするグラフィックス部で、より多くの機能の統合と性能向上が可能となる。例えば、グラフィックスコアの周波数は865Gの266MHzからGrantsdale-Gでは333MHzに向上される。機能的にはGrantsdale-Gは、DirectX 9 Shader 2.0をハードウェアでサポートし、ピクセルパイプにはPixel Shader 2.0が実装される。この他、Vertex Shaderも実装されるという情報もある。また、ピクセルパイプは、現在の2パイプから、4パイプへと拡張される。いよいよ、統合チップセットでも4パイプの時代がやってくることになる。 デスクトップチップセットは、通常、価格が10数ドル~30数ドル(Canterwoodは異例に高価格)と低いため、ダイサイズを小さく留めて低コスト化することは重要だ。ディスクリートはダイサイズが小さいが、統合チップセットはどうしてもダイは大きくなってしまう。 そのため、機能の強化はプロセスの微細化とリンクせざるをえない。そして、Intelの場合、プロセスのプロセスの微細化はCPUの2年遅れとなる。このことは、Grantsdale/Alderwoodの次の2005年のチップセット「Lakeport(レイクポート)」でも、グラフィックス機能は大きくは強化されないことを示している。つまり、グラフィックスでは今回のGrantsdaleが大きなジャンプとなる。 もっとも、Intelのグラフィックスはよく知られている通り、それほど評判はよくない。そのため、Shader 2.0でどれだけの実性能が達成できるのか、まだわからない。
●サンプリングが始まったチップセット
デュアルプロセッサ対応サーバー向けの「Lindenhurst(リンデンハースト)」の作業が10月から始まっており、現在はGrantsdaleもスタート、12月にはモバイルチップセットの「Alviso(アルビソ)」のバリデーションが始まることになっている。そのため、DRAM/メモリモジュールベンダーは、Registered DDR2 DIMM、Unbuffered DDR2 DIMM、DDR2 SO-DIMMの順番でメモリモジュールの順番に、バリデーションに提供しつつある。 一見順調に進んでいるように見えるIntelチップセットの開発だが、そうとも言い切れない。そもそも、Grantsdaleのスケジュールは当初の予定(夏頃に最初のエンジニアリングサンプル)から大きくずれ込んで、ようやくサンプルが提供されつつある。もっとも、マザーボードベンダーはこれに動じる様子はない。「Canterwoodと比べれば全然まし」(ある台湾ボードベンダー)という。 じつは、より深刻な問題は、果たしてGrantsdale/Alderwoodにどれだけ魅力があるかだ。Grantsdale/Alderwoodのポイントは、(1)PCI Express、(2)DDR2メモリ、(3)DirectX 9グラフィックス、(4)その他(Azaliaオーディオなど)だが、現状では、これらの必然性が徐々に薄れている。 PCI Expressでは、グラフィックス向けのPCI Express x16と、I/O向けのPCI Express x1があるが、どちらも揺らいでいる。PCI Express x16のポイントは(1)片方向4GB/secの広帯域と(2)双方向に広い帯域だ。しかし、「現状のアプリケーションのほとんどはAGP 8xの帯域も使い切っていない」(あるGPU関係者)上に、広い上り帯域を必要とするGPUの使い方もまだされていない。そのため、最初のPCI Express対応GPUでは、PCI Express x16で性能が大きく向上することは期待できない。
また、PCI Express x1の方はそもそも接続するデバイスがほとんどない。必然性があるのはGbE(ギガビットイーサネット)だ。しかし、それも笠原氏が以前レポートした通り、Intel自身のPCI Express対応GbEチップ「Northway(ノースウエイ)」が遅れており、来春に間に合わない情勢にある。 ●問題はDDR2メモリの存在感 DDR2メモリは、DDR2-533でピン当たり533Mtps(transfer per second)転送へとメモリが高速化されることがポイントだ。しかし、それも、FSB 1,066MHzのスケジュールが後ろへ下がってしまったため、必然性が薄らいでいる。FSB 800MHzに帯域でマッチするのは、デュアルチャネルの400Mtpsのメモリで、それならDDR-400があるからだ。 もちろん、グラフィックスを統合したGrantsdale-Gでは、ピクセルパイプが広くなる分、メモリ帯域に対する要求は高くなり、DDR2-533による性能向上が期待できる。原理的に言えば、パイプが2倍になれば2倍のメモリ帯域が必要になる(実際にはデータ圧縮技術の進化や、メモリアクセスが不要なShaderオペレーションサイクルの増加で2倍よりも減る)。しかし、統合チップセットは、現状ではより低価格なボードでのニーズが中心であるため、大半はDDRメモリサポートになってしまうと思われる。 ちなみに、Grantsdaleチップセット自身はDDR/DDR2の両サポートだが、メモリモジュール/ソケットレベルでは両メモリ規格に互換性がない。そのため、必然的にマザーボードでは、メモリサポートはどちらか一方になってしまう。もっとも、DDRとDDR2のデュアル対応、つまりDDRとDDR2の両方ソケットを載せたマザーボードの開発を始めているところも出てきたという。現状ではDDR→DDR2への移行に時間がかかるとボードベンダーは判断し始めたためだが、こうしたマザーボードはメモリの安定性ではどうしても不利になる。 DDR2-533メモリは、IntelがFSBを1,066MHzに引き上げれば、必然性が高くなる。実際、本来なら、2004年の後半には次々世代CPU「Tejas(テハス)」が登場、FSBは1,066MHzになるはずだった。しかし、現在TejasとFSB 1,066は2005年に後退している。もっとも、あるメモリ業界関係者は「Intelも競争の激化から、FSBの高速化を前倒しする可能性がある」と示唆する。 DirectX 9グラフィックスはもちろんMicrosoftの次世代Windows「Longhorn(ロングホーン)」のためだが、これも難しい。Longhornの出荷は最速でも2005年、遅ければ2006年なので、まだ必要性が低い。しかも、実際のLonghornのグラフィックスサブシステム「Avalon(アバロン)」がどれだけの性能レンジをGPUに要求するのかが定かではない。あるGPUベンダーは「MicrosoftはRADEON 9700(R300)クラスが必要と言っている」というが、Longhorn出荷までの間にそれも変わる可能性がある。そのため、チップセットベンダーも、はたしてどれだけの機能/性能を実装すればいいのか、掴みかねている。いずれにせよ、Longhornまでは、DirectX 9機能も、“DirectX 9ゲームが統合チップセットでできる”という以外のうたい文句がなく、魅力が薄い。 その他の機能も、結局、何がなんでもGrantsdale/Alderwoodにしなければならないというほどの引きがない。そのため、PCベンダー側が、Grantsdale/Alderwoodへとすんなり移行したがるかどうかは、かなり微妙な線だ。いずれ移行するにせよ、できる限り引き延ばしたいと考えるベンダーも多いだろう。
□関連記事 (2003年11月14日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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