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Prescottが当初からバーゲンされる理由




●ぴたりと同じ価格で並ぶPrescottとNorthwood

Prescottの価格戦略
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 IntelはPrescottを、かつてない速さで普及させようとしている。そのために取ったのは価格戦略だ。IntelはPrescottとNorthwoodに価格差をつけないで提供する。つまり、Prescottの諸々のアドバンテージ−2倍のL2キャッシュ容量やSSE3命令(PNI)、Hyper-Threadingの性能向上などに対して、Intelは付加価値として価格を上乗せしない。「同じ価格なら、新機能がついた方がいいでしょう」と顧客を誘導するわけだ。

 もともとIntelは、1カ月ほど前から、同周波数ではPrescottとNorthwoodに価格差をつけないことを顧客に明らかにしていた。今回、PrescottとNorthwoodを同周波数に並べたことで、同価格戦略の色彩はますます強まった。つまり、このあいだまでの戦略なら、Northwoodの最高クロックの3.2GHzは400ドルくらいなのに、Prescottの最高クロックの3.4GHzは600ドル台と、まだ、Prescottの方が上位の位置づけの雰囲気があった。だが、現在の計画では、PrescottとNorthwoodはどちらも3.4GHzが同じ400ドル台で提供されることになっている。そのため、見た目では、Prescottが安売りされることになる。Prescottが明確に価格面でも差別化されるのは、来年春の3.6GHzからだ。

 こうしたIntelの価格戦略のおかげで、Prescottは価格面では魅力のあるCPUとなった。ローエンドは170ドル程度、日本なら2万円そこそこから買える。3GHzクラスでも200ドルちょっとで、それも次の四半期には一番下の価格帯にまで落ちてくるわけだ。

 Intelが新CPUに価格差をつけないという戦略はこれが初めてではない。いい例がPentium III(Katmai:カトマイ)の時で、Intelは当初同クロックのPentium IIIをPentium IIより1段高価格につけていた。ところが、発売のちょっと前になってその戦略を変更、Pentium IIIとPentium IIの価格差をほぼなくした。つまり、Pentium IIIの新仕様に対して価格を上乗せしなかった。


●利点を謳いにくいPrescott

 Intelがこういう戦略に出るのは、何か弱みがある時だ。

 本当は、IntelとしてはPrescottを1段高い600ドル台で投入したいところだろう。新CPUに付加価格をつければ、IntelとしてはCPUのASP(平均販売価格)を引き上げることができる。Intelの価格セグメントを見ると、現在、そのレベルのCPUが空席になってしまっているからだ。

 IntelはPentium系CPUの価格を、現在下のような階層で整理している。

5600ドル前後
4 400ドル前後
3 270ドル前後
2 220ドル前後
1 170ドル前後

 左の数字はCPUのグレードで、通常1グレード上がるとクロックが10%程度向上する。右が価格レベルで1ランク価格が上がると20〜50%程度価格が上がる。この5階層のCPUがそれぞれ期待通り売れると、IntelのASPが維持される仕組みだ。

 ところが、現状では最高のPentium 4 3.2GHzですら10月からは417ドルに下がってしまった。そのため、Intelとしては、高い600ドル台がちょうど穴になってしまっている。そして、Intelの現在の価格戦略では、LGA775版のPrescottが登場するまで、この価格ラインはほぼ空席のままだ。

 IntelがPrescottとNorthwoodを同価格にする最大の理由は、もちろんPrescottへの移行を促すためだ。しかし、その他にも実質的な理由がある。ひとつは、現状ではPrescottが利点を謳いにくいことだ。CPUの性能が向上したため、CPUに対するパフォーマンス要求はすっかり薄らいでいる。そのため、CPU性能が上がりますというだけだと、価格を引き上げるだけのアドバンテージになりにくい。つまり、PCI Expressとくっつけないと、利点を謳いにくい(実際には、それでも謳えるかどうかは疑問)。

 それから、Prescottが、PCを作る側にとってやっかいなCPUだということも理由の1つだ。同じ価格でないのなら、できればPrescottは使いたくないと、内心思っているメーカーは多いのではないかと思う。

●複雑なPrescottとFMBの関係

 最大の厄介事は熱だ。すでに伝えた通り、IntelはPrescottの消費電力が予想を大きく上回ったため、Prescott向けのマザーボード設計のガイドライン「Flexible Motherboard(FMB)」を大きく変更した。

 今年の春頃からマザーボードは、基本的に「Prescott FMB1」(TDP 89W/Icc MAX 78A)に準拠している。ところが、Prescottがあまりに熱すぎたためにPrescott FMB1の枠内に収めることができなくなり、対応TDPを103W(91A)に高めた「Prescott FMB1.5」スペックを加えた。そのため、最初からFMB1.5相当のオーバースペックにしていたメーカー以外は、FMB1.5に合致するマザーボードへと変更しなければならなかった。そして、2004年春のPCI Expressチップセット「Alderwood(オルダウッド)」「Grantsdale(グランツデール)」搭載マザーボード世代からは、さらにTDPを120W以上に高めた「Prescott FMB2」にスペックがアップされる。

 つまり、2004年にはPrescott対応で3種類のFMBスペックが混在してしまうのだ。そのため、マザーボードとPrescottの対応関係は複雑な状況になっている。特にややこしいのは、単純にPrescottの周波数でFMBスペックへの対応が決まっていないことだ。

 例えば、Intelが2004年第1四半期に投入するPrescott μPGA478版のうち、3.2GHzと3.4GHzはFMB1.5スペック、3GHzと2.8GHzはFMB1スペックだ。つまり、原理的に2.8/3GHzはどのマザーボードでも大丈夫だが、3.2/3.4GHzはマザーボードによっては電流量が足りず問題が発生するケースが出る可能性がある。

 しかし、同じ3.2GHz μPGA478でも、2004年第2四半期に投入されるバージョンでは消費電力が下がり、FMB1でも対応できるようになる。同様に3.4GHz μPGA478で第3四半期に投入されるバージョンもFMB1スペックになる。しかし、第2四半期に登場する3.6GHz μPGA478は、最後までFMB1.5に留まる。これだけ複雑だと、どう考えても混乱が生じそうだ。

 それに対して、FMB2との対応関係は単純だ。LGA775版Prescottは全部FMB2スペックとなる。これは、Intelチップセットだと、LGA775対応のマザーボードはPrescott FMB2スペックを要求するためで、話は簡単だ。

 こうして見ると、FMB1.5の存在意義は非常に薄いことがよくわかる。だから、業界関係者からは「FMB1.5なんて、いい迷惑」という声が聞こえてくる。

 いずれにせよ、こうして見ると、Prescottの問題は熱=消費電力であることは明白だ。そのため、IntelがPrescottとNorthwoodを同価格に並べたことは、次のような意味を持つことになる。つまり、“新機能だけど熱いPentium 4”と“そんなに熱くないけど旧機能のPentium 4”が同じ値段、さてどちらを選ぶか、ということだ。

NorthwoodからPrescottへの移行
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Prescott TDPロードマップ
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(2003年11月14日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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