ペンタックス *ist Dは実売18万円台で、キヤノン EOS 10Dやニコン D100と競合する、注目の新製品(9月6日発売)だ。 同社は最初はMZ-Sという銀塩一眼レフをベースに、35mmフルサイズCCDのデジタル一眼レフを開発していた。しかし、センサーの問題などがあって開発を断念し、この*ist Dで仕切り直し。それだけに十分に練り上げられた機能や操作性が期待されるところだ。とくに、ファインダーまわりなどをAPSサイズの撮像素子に特化して設計し、ボディーをこのクラスで最小最軽量とした。 センサーサイズが小さいなら、ボディーも小さくあるべきだ、というのがペンタックスの主張。いままで、銀塩一眼レフでも小型軽量を売り物にしてきたメーカーならではの自信作だ。 ちなみに、*ist Dは「イストディー」と読み、アスタリスクは発音しない。*はおなじみのワイルドカードで、istすべてを意味するという、ネーミングからも力の入れ方がわかる。 なお、試用は製品版で行なっている。 ●わかりやすい操作系で、銀塩ユーザーも納得 まず、外観とその手触り感はどうだろうか。外観は写真のようにスマートなもの。銀塩一眼レフの*istとはまったく異なる。精悍な感じで、プラスチック外装だが高級感がある。ライバルのEOS 10Dがマグネシウム外装で存在感をアピールしているが、*ist Dも表面をややザラザラにしてプラスチックのペラペラ感がない。個人的には、ニコン D100よりも高級感を感じる。ホールドした感じも手にしっくりフィットして、銀塩一眼レフのような感じだ。 ただ、シャッターボタンや十字キーがちょっとピカピカしすぎだが。ペンタックスファンだけでなく、ほかのメーカーのユーザーも羨ましがりそうなコンパクトぶりだ。 また、操作系はできるだけ銀塩一眼レフユーザーに違和感のない作りになっている。まず、メインダイアルは露出モードのほかに、ISO感度、ホワイトバランス、画質モードの選択ができる。とくにわかりやすいのは、ホワイトバランスだ。ほかのメーカーだと、液晶パネルにダイレクト表示されるが、*ist Dでは液晶パネルの下部にホワイトバランスのマークが並んでいる。ただ、この表示方法、明るい場所ではいいが、暗い場所だとわかりにくい。なお、蛍光灯のホワイトバランスが3通り選べるのはいい。ほとんどAWB(オートホワイトバランス)で撮影したが、蛍光灯下でも問題がなかった。このAWBは信用ができる。 液晶パネルの右上にあるグリーンボタンがこの*ist Dのポイントのひとつである、ハイパーマニュアルボタンだ。と言っても、昔のペンタックスZ-1シリーズという銀塩一眼レフを知らないと、なんのことだかわからないだろう。このボタンを押すと、ワンタッチでマニュアルで適正露出が呼び出されるものだ。つまり、どんな露出モードでも、このボタンを押せば、あらかじめセットしたシャッター速度または絞りに対応する露出がワンタッチで決まる。ただ、筆者はZシリーズのときから、このハイパーマニュアルをあまり評価していない。使う人は使うのだろうけど、という感じだ。なにしろ、撮影の80%以上が絞り優先AEで、あとは露出補正をしていくスタイルなので、マニュアルはほとんど必要としないのだ。
ISO感度は普段は200~1,600だが、カスタムファンクションで感度範囲をwideにすると、ISO3,200まで可能となる。本当は、ISO100が欲しいところだ。ライバルのEOS 10DはISO100がある。D100は、*ist Dと同じISO200~1,600で、拡張するとISO3,200。同じメーカーの有効画素数610万画素のCCD撮像素子を使っているから、仕様が共通なのだろう。 AFはS(シングル)とC(コンティニュアス)が前部下部のスイッチで切り替えられる。Sはピントが合わないとシャッターが切れないので、静止した被写体向き。Cはピントを追いながら、いつでもシャッターが切れるので動体撮影向き。この位置も銀塩ペンタックス伝統の場所で、とっつきやすい。 露出補正はプラスマイナスの補正や、AEロック(露出記憶)のほか、オートブラケットもできる。オートブラケットはボタンで設定する。ただし、これは多重露出と兼用になっていて、ちょっと混乱する。おそらく、コンパクト化のために兼用にしたのだろうけど、慣れるまで時間がかかった。また、プラスマイナスの露出補正ボタンは背面上部にある。これは液晶パネルのまわりに持ってきてほしかったところ。使う頻度が高いからである。なお、その右側には再生ダイアルがあり、右に回すと12倍まで拡大再生できる。これはピントのチェックなどに非常に役立った。左に回すと、9コマまでのサムネール再生が可能だ。 このカメラのもうひとつの特徴は電池だ。いまどき、充電式の専用リチウムイオンバッテリが常識なのに、あえて単3乾電池4本(ニッケル水素も可能)またはリチウム電池2個(CR-V3型)とした。小型軽量化を優先すれば、リチウムイオンのほうが有利に決まっている。しかし、万一の場合に手に入りやすい単3乾電池を使用可能にしているのだ。充電式は経済的だが、旅行などでは充電器を持ち歩かないといけない。海外ではコンセントアダプターも必要だし、いろいろと面倒だ。その点、単3乾電池なら海外でも容易に手に入る。このこだわりは高く評価したい。 レンズマウントはいままでどおりのKAFバヨネットマウント。電気接点もいままでどおり7個。新しいレンズではパワーズームなどを省略したので、レンズ側の接点はむしろ減っている。今回は絞りリングのないsmcペンタックスFAJ18~35mm F4~5.6ALを使用した。このレンズは35mm判換算で、27.5~53.5mmに相当する広角ズームレンズだ。 従来のペンタックスレンズは絞りリングにAポジションがあるものは使用可能。そこで、手元にあるFA28~70mm F2.8ALと、Fマクロ100mm F2.8も一部で使用してみた。なお、この18~35mmレンズのフードは一部が着脱できるようになっている。偏光(PL)フィルターの前枠を回しやすいようにするためだ。このあたりのこだわりもいい。 ストロボが内蔵されているのはこのクラスでは当たり前だ。ただ、アップしたときの位置がやや低めだ。このため、18~35mmレンズを1m以内で使うと、ストロボの光がレンズにじゃまされる「ケラレ」が起きる。また、もっと遠い距離でも、レンズフードを付けているとケラレの心配がある。ストロボを使うときにはフードを外して撮影するべきだ。 記録メディアは定石どおり、CF TypeI/II。レキサーメディアのWA(Write Acceleration)に対応していて、書き込みが早い。また、FAT32だから、4GB以上のCFカードにも対応する。ただ、PCとの接続はUSB1.1で、2.0でないのが残念な点である。 液晶モニタは1.8型11.8万画素で、見やすく、表示もくっきりしている。明るさも調節できるので、便利だ。ただ、メインメニューを簡単にしようとしたために、かなり使う機能もカスタムファンクションに入れてしまっている。とくに、感度拡張は使用説明書を読まなければならなかった。デジタル一眼レフは使用説明書を読まなくても基本的操作ができるのが理想だと思っている。その点、ちょっとカスタムファンクションに入れすぎの感じがある。 それを除けば、液晶モニタの操作はわかりやすい。モニタの左には上からメニュー、削除、情報、再生のボタンが並んでいる。もちろん、使用説明書なしで使える。INFOボタンを押せば、まずヒストグラムが表示される。続いて、小さな再生画面とともに、Exifで書き込まれた撮影情報が表示される。このあたりはよく出来ている。 ●ペンタックスらしい地味だが良い画質 さて、カメラはデジタルだろうと、銀塩だろうと、写してみなければわからない。実写テストは前回のミノルタDiMAGEA1と同じ定点観測からスタートした。 まず全体の画質を見る、ビルの定点観測だが、FAJ18~35mmの絞り開放と、いちばん画質が良くなると思われる、絞り開放から2段絞り込んだ状態で撮影した。ピントはAF中央1点測距で、画面中央の窓に合わせてある。結果はごらんの通りだが、18mm側の絞り開放(F4)ではわずかにピントが甘い。また、少し前ピンの傾向がある。しかし、気になるほどではなく、偽色の発生もほとんどない。左上の白い看板も白飛びをしていない。絞りF8に絞り込むと、申し分のない画質になる。35mm側では、絞り開放(F5.6)から非常にシャープである。コントラストも適度に高く、良い画質である。さらに、2段絞り込んで、F11にするとキレのいい画質になる。このレンズはオープンプライスだが、実売35,000円前後と安い。それにしては非常にいい描写である。AL(非球面レンズ)を使っているのも画質向上に役立っているのだろう。 つぎは夜景の定点観測だ。ここでは、ノイズリダクションのオンとオフを両方試している。 デフォルトはオンになっており、オフにするためにはメニューのカスタムファンクションから設定する。オフにするとオンよりも書き込み速度が速い。オンにすると撮影時間と同じ程度の処理時間が加わるためだ。 オフで30秒露出をしても熱ノイズは目立たないが、大きく拡大すると、空の部 分などにノイズが出ているのがわかる。また、全体にノイズがかぶっているため コントラストが低下して見える。 処理速度はかかってもノイズリダクションの効果は顕著なので、デフォルト通 りオンにしておいた方がよさそうだ。 つぎの定点観測は特急列車の通過を撮って、AFの追従能力を確かめるもの。このときには35mm判換算で100mm前後がいいので、FA28~70mmを使用した。しかも、絞り開放F2.8という厳しい条件だ。結果はどれもやや前ピン気味になった。ただし、毎秒2.6コマでここまで追従できたのは立派である。実際の撮影では、絞りをF5.6程度に絞り込めば、実用上のピントは問題がない。しかも、ファインダーが明るく、倍率も高く、シャッターを切る直前までピントが良くわかるのはいい。やっぱり、レンズ交換式デジタルカメラはこういうファインダーが理想だ。まちがっても、EVFなどを考えないように願いたい。 さて、以下の実写は写真6以外はすべて、JPEGのラージ・Sファイン(3,008×2,008ピクセル)で撮影した。彩度はほどほどに高く、派手ではない。それでも、この着物の赤い色がなかなかきれいに出ている。地味と言えば地味な色作りだが、彩度を変えることもできるし、RAWで撮って、いろいろと調整すればいい。 そのRAWだが、むずかしい撮影条件のときに威力を発揮する。ストレートで撮った写真に、ホワイトバランス、トーンカーブ、彩度、シャープネスを調整してみた。こうすると、目で見たよりもきれいに仕上がる。プリントできるサイズ(A3程度)を超える大きさまでモニタ上で拡大すると、中間トーンの部分にわずかに偽色が見られる。しかし、そこまで伸ばしてあら探しをしても意味はない。ふつうは印刷実寸で評価すべきであって、それ以上の拡大はノイズマニアにまかせておけばいい。 RAW現像ができるのは「ペンタックス・フォトラボラトリー」というソフトだが、メニューはよくできている。また、TIFFへの置換も速い。ノイズリダクションが後でできるメニューもあったらなおさらよかった。 ハイライトとシャドーが混在する被写体で、シャドー部に露出を合わせて、ハイライトの白飛びをチェック。ごらんのように白飛びはなく、ダイナミックレンジの広さを感じさせる。また、ISO3,200で撮影してみたが、たしかにノイズが出るものの、こういう条件では気にならない。室内スポーツあたりだとわからないが、そもそもこのカメラの性格からして、そういう撮影には使われないだろう。 レンズとの相性はあるようだ。古いFレンズだと、やや描写が甘くなる傾向にある。また意地悪撮影で、100mmマクロレンズを絞り開放(F2.8)で撮ってみた。やや甘いが、ピントはちゃんと来ている。本来、このレンズは近距離で、絞り込んで撮るのがふつうだから、こういう使いかたは邪道だ。それでも、これをレンズの味として楽しめば、またそれはそれでいいと思う。Kマウントをずっと堅持してきたペンタックスだから、いろいろなレンズを使って、その描写を楽しむことができる。シャープなだけがレンズの味ではない。 全体として、ペンタックス*ist Dは楽しく、しかも正確なピントや露出で撮影することができるデジタル一眼レフだ。とくに、小型軽量のボディーと大きなファインダーは印象的で、より低価格の一眼レフデジカメと比べても、価格相応の価値がある。買って損をしないカメラであると太鼓判を押しておく。 □ペンタックスのホームページ ■注意■
(2003年9月25日) [Reported by 那和秀峻]
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