森山和道の「ヒトと機械の境界面」

第4回ROBO-ONE観戦記【本戦編】



■嵐のあとは快晴! ついに本戦

 台風10号が去った10日、ついに本戦が開始された。結局、動きにどこか不安を感じさせるようなマシンは予選落ちとなった。また、規定演技はあくまで規定演技でしかなく、規定演技「プラスα」がないマシンもやはり予選落ち。厳しいと言えば厳しいし、納得いかないと感じた参加者もいたようだが、「規定演技」の本来の言葉の意味からすれば正しい姿になったとも言える。

 トーナメントは、名勝負続きとなった。

両者とも素早い動きと深い踏み込みでパンチを繰り出しあった杉浦富夫氏の「DYNAMIZER」と中村素弘の「HSWR-03」。DYNAMIZERはモデラを使って作られたロボットでジャイロも使って倒れにくい工夫がされていた。HSWR-03は、前半では無線トラブルで動けなかったが、前回の02同様、赤外線センサーでボールを使ったデモンストレーション等を見せた。ダウン数で「HSWR-03」のほうが多かったが、手数や動きで評価されたか、試合の判定は「HSWR-03」の勝利に

「マジンガア」と操縦者のこうじ氏。今回、マジンガアは操縦にマスタースレイブを採用。本戦時には左側が動かなくなるというトラブルが発生したが、それでもかなりの追従性を実現していた。マジンガアそのものも、さらにバランスが良くなり、動作も速くなっていた。予選結果は12位

マジンガア VS あいぼー2。マスタースレイブ同士の対戦となった。マジンガアがあいぼー2の部品を弾き飛ばすほどの激闘。小南秀昭氏による「あいぼー2」の頭はガンダム。上半身はお子さんが操作した。「あいぼー2」は敵が近くに来たことを認識する能力も持った高度なロボット。戦い後はお互いをねぎらって握手

九州大学ヒューマノイド研究会の「2325-RR」は軽量に作られたロボット。予選では今ひとつ不調だったが16位で通過。会場をどよめかせる素早い歩行、ROBO-ONE初の片腕逆立ちや側転、さらには相手をベアハッグしてバックドロップに持っていく技を披露。ただし、バックドロップしている相手は紙製。なお「2325」はサークル部室の部屋番号だそうだ

家族で参戦したSUMY氏による「ARIUS」は、ROBO-ONEジュニアのマシンも含めた2台でプレゼンテーション 山口雅昭氏の「Brownie03」と対戦するARIUS

「2325-RR」VS 「ヨコヅナグレート不知火」。2.9kgの体重ながら片足屈伸が可能、雑誌を載せても屈伸できる力持ちの「ヨコヅナグレート不知火」はタブレットで操作する珍しいインタフェースで、裏拳やストレートパンチを繰り出す優勝経験のあるロボット同士の対戦となった「Metalic Fighter」 VS 「A-Do」。だがMetalic Fighterは足が取れる大事故に見舞われ、棄権。今回、Metalic Fighterは腕をつけ戦闘力をあげてきていただけに大変残念な結果となった。制作者森永氏のサイトによれば、プログラムでも大きな事故が発生していたようだ。次回の奮起に期待

■ROBO-ONE on PC 近づきつつあるホビイストと研究!?

 1回戦終了後、ROBO-ONE on PCの中間報告として、「U-Knight」の下笹氏と「はじめロボット4号機」の坂本元氏からプレゼンが行なわれた。下笹氏は3D CADの「Autodesk Inventor」を使ったロボット製作について話し、坂本氏は「Autodesk Inventor」でロボットデザインを入力したあと、機械モデルを機構・構造解析ソフト「VisualNastran 4D」で作成し、制御プログラムを制御系設計ソフトの「MATLAB」で作成する様子を紹介した。

 取りあえずはシミュレーション上でロボットをジャンプさせること、その結果を実機に反映できるようにシミュレーションと実機の制御プログラムを共通化すること、そして2010年までにシミュレーション上で月面でのROBO-ONE大会を実現することが目標だという。

 自分たちが欲しいロボットを創るという欲求で行動しているホビイストたちがやっていることが、徐々に研究機関で行なわれていることに近づきつつあるように思えた。逆に研究者達とホビイスト達との交流が進むといいのに。

今回の実況を担当したのはバンダイ株式会社の土田一郎氏。「趣味は大道芸」だけあってトークはお得意。「~であります」口調は前回までの担当の一平君譲りか(今回はアナウンス部の合宿でお休み) レフリーを務める富士通オートメーション株式会社の小林氏と、そのお子さん。大五郎カットはなんちゃってではなく、実はテレビ時代劇「子連れ狼」に出演中の本物の大五郎でもある。張りのあるかけ声による「はじめ!」や「やめ!」で会場を盛り上げた

■いよいよ決勝へ

HIRO HIRO ELEVENの重量級ロボット「Admant-Force」VS 軽量級の「OMNIHEAD」。いくら器用なロボットとは言え、どう見てもOMIHEAD不利だったが、Admant-Forceは自重によるダメージが大きく、またOMNIHEADの巧みな操縦と卓越したバランスの結果、結局自沈気味で敗退。だが、次回もこだわりの重量級で挑むそうだ。なお「HIRO HIRO ELEVEN」とは、Admantの滝沢一博氏に技術サポートとして吉村浩一氏が加わってパワーアップしたチーム名。2人の名前から名付けた

Typhoon Ver.1.1とHSWR-03の戦いは、当初無線トラブルで不調のTyphoonの棄権かとも思われたが、何とか復帰。ROBO-ONE史上に残りそうな名勝負となった。得意のホーン攻撃を繰り出すTyphoonに対して、HSWRは巧みに受け流し。攻撃をモロに受けることなく、果敢にパンチや蹴りで攻め続け、勝利を収めた 「あいぼー2」は残念ながら無線トラブル。九州大学チームの勝ちとなった

A-Do VS Brownie03。Brownie03は爪先を持つなど、運動性能に優れたロボット。A-Doの菅原氏も心配そうな表情で見つめるが、勝利はA-Doに

準決勝前にROBO-ONE DOOR。韓国からのロボット「MYRO」が、マスタースレイブを巧みに操りドアノブを握ってドアを開閉、見事に成功! 会場は大歓声

宇宙ROBO-ONEファイターも挑戦。だが5秒ほど時間が足らず。残念

準決勝第1試合は「OMNIHEAD」VS「HSWR-03」。より安定に優れたOMNIHEADの勝利

準決勝第2試合。デモンストレーションで片足立ちと一点倒立を決めるそれぞれのロボット。2325-RRがハイキック、A-Doがマトリックス避けをする合わせ技デモも見せ、会場を魅了! 軽量であるだけややバランスを欠く2325-RRに対して、より安定した動きで勝利はA-Doに。座ってしまいがちな2325-RRに対して、常に立って相手を攻め続けた積極性も評価されたか

3位決定戦。2325-RR VS HSWR-03。勝利は攻撃力により勝るHSWR-03に。2325-RRは途中で半田付けが必要になるアクシデントも発生したが、そこは何とかクリア

決勝戦。前田武志氏、菅原雄介氏、そしてA-Doの操縦者・影こと森口拓雄氏らみな、真剣ながらもどこか落ち着いた表情。自分たちのマシンを信じているのか……

そして優勝はA-Doに

出場ロボットたち

■これからのROBO-ONEは?

 今回のROBO-ONEは、これまでの3回とは一線を画するものとなった、と言えるかもしれない。どこが違うか。一言でいえば、「プラスα」がないと勝てなくなった、ということだ。規定演技はできて当たり前。自由演技がないと厳しい、そんな状況になった。

 単に歩く、起きあがる、逆立ちするだけでは勝てなくなった。予選すら通過できなくなった。デモンストレーションでは仮に歩行時に転倒しても、観客を惹きつける大技や、あっと言わせるだけのスピードや、大きな関節角を活用した動作などを見せるほうが高く評価されたようだ。観客から覚えられるくらいの、独自性が求められるようになっていた。

 もちろん、歩行動作ひとつとっても、まだまだ改良の余地が大きいロボットも多い。だがそれは、場数を踏むことで向上していくことだろう。ROBO-ONE初の2連覇を達成した菅原雄介氏の「A-Do」は、経験を積むたびにそれを反映して、動作のレベルを上げてきた。経験と、それを巧みに取り入れることの重要性を体現しているのがA-Doであると言っても過言ではないと思う。それは単に新型サーボコントローラを積んでいたから実現できたわけでもないだろう。

 また、韓国からの挑戦者が増えたこともある。今回は招待選手だが、将来的には「招待」ではなく自発的に国際的な大会となるかもしれない。韓国メディアの取材も多かった。多国籍化すれば、もっと面白いだろう。参加者のレベルアップに比べると会場運営側があまりレベルアップしてないのは、今後ROBO-ONEがメジャーを目指すのであれば問題だ。

 ロボットの技術レベル上昇につれて、思わぬ展開も生じる。予選にすら出られなかったロボット。思わぬ結果に声をあげる参加者。ロボットの不調に緊張が増して手を震わせる操縦者。勝敗だけが全てではない。だが勝負に負ければ誰でも悔しい。出場するロボットの数だけドラマがある。ROBO-ONEが今後も楽しい大会であり続けることを、一観戦者、一ROBO-ONEファンとして祈る。


□ROBO-ONEのホームページ
http://www.robo-one.com/
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【2月3日】総勢93機が出場した2足歩行ロボット競技大会「ROBO-ONE」第3回開催
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(2003年8月19日)

[Reported by 森山和道]


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