■男たちの戦い 2月1日と2日、日本科学未来館でROBO-ONEが行なわれたことは、テレビ等一般媒体をはじめ、各ネット媒体でもお伝えしているとおり。客観的な話はそちらを見てもらうことにして、ここでは、個人的な観戦記をお伝えする。
今回、エントリーは93台、実際に出場したロボットは56台。筆者は2002年2月の第1回からROBO-ONEを見物させてもらっているが、技術レベルは明らかに上昇している。また、新たにロボット作りに挑み始めた人々も多い。ネット上には彼らのコミュニティがあり、お互いに影響を与え合っている。単に見ているだけの外野の人間にとっても、なんだか楽しい気分になってくる。
既に3回目を迎え、強豪と化した感のある常連参加者たちはさらに完成度に磨きをかけた上に、今回はウケと技術を兼ね備えた「マジンガア」のこうじ氏、見事なアイデアで一発勝負してきた寺崎和久氏( http://www.kaduhi.com/weird-7/ )らの参戦が観客を盛り上げた。また、操縦者の腕の動きに追従してロボットの腕をそのまま動かす、マスタースレイブ方式を採用した製作者が複数登場したことも大きなポイントだった。
たとえば参加者の方々の雰囲気は、彼らのホームページからも伺うことができる。毎回完成度の高いロボットを出してくるが優勝はできず「無冠の帝王」的雰囲気の漂う吉村浩一氏のウェブには、優勝した菅原氏や3位入賞した「おめでとう画像」がアップロードされている。
準決勝でR-Blueと闘ったAdmant 3rdは、転倒時にサーボホーンを破損するという「重傷」を負った(機械的には壊れておらず、外れただけだったらしい)。3位決定戦を前に控え室では、対戦相手の吉村氏をはじめ、姫路ソフトワークスの中村氏や藤野氏などが修理を助けていたという。男ばかりのROBO-ONEらしい、正しい「ロボット道」の姿と言えよう。なおAdmantの滝沢氏は姫路工業大学・機械知能工学科・石垣研究室の学生さんである。 その吉村氏のロボットR-Blueは、今回、華麗なボックスダンスや三点倒立までできるようになったことで会場のどよめきと興奮を呼んだ。また、準々決勝でHSWR-02が得意のボール掴み&放り投げを見せると、そのボールを蹴り返してみせるというアクションの柔軟性も、人気の一因だろう。とにかく圧倒的に完成度が高いのである。各ネット媒体でも軒並み取り上げているが、R-Blueにはそれだけの魅力がある。
R-Blueは決勝で右足首が動かなくなるというトラブルが発生し、A-Doが勝利を収めた。そのときにもA-Doの菅原氏が吉村氏に工具を「あるよ!」と貸していた。こういう姿はやはり気持ちいいものである。
なおA-Doは今回、攻撃を受ける瞬間、若干前傾姿勢になるように見えた。菅原氏によれば、毎回かならず前傾姿勢を取るわけではないが、中腰の攻撃体制、防御体制の時はかならず重心が前になるようにポーズをとっていたそうだ。 「少しでも相手の攻撃を受け止めようと思っていたのですが、コレが上手くいったようです」(菅原氏)。 ROBO-ONE出場者の方々は、アフターファイブに趣味としてロボットを製作している。決してプロが作ったロボットではない。ラジコン雑誌などを見ると例えばギアの磨き方などについて詳細に描かれているが、そのこだわりは自分でさわるわけではない人間が見ても興味深いものだ。 2足歩行ロボットとなると敷居が高いと感じている観戦者も多いだろうが、できれば細部に目をやることで、楽しみを増すことができる。筆者をはじめ、素人にはなかなか厳しい道だが、ROBO-ONE参加者の方々のいくらかは自身のウェブサイト等でかなり詳しくロボット製作についても情報解説している。その辺にできるだけ目を通しておくと、ROBO-ONEという競技をもっと楽しむことができる。 もう1つ、今回のロボット陣の中で注目すべきアクションを行なうものがあった。R-BlueやMetalic Fighterなどいくつかのロボットは、自分から“こけて”みせる、転倒制御っぽい動きを見せたのである。 自分から倒れるのは実は結構難しい。またROBO-ONEのような格闘技では、転倒は必至。そのときに自らのダメージを軽減することが、今後は非常に重要になる(今回、かなりの台数のロボットがダメージ蓄積により調子がおかしくなったことを思い出してもらいたい)。一定以上の力が加わったとき、自分から膝を折るなどして、ボディへのダメージを軽くすることは、今後、重要な技術となるだろう。
■せめてリングは俯瞰したい……
で、そろそろ、見学者の一人としての身勝手なぶっちゃけの感想を言わせてもらおう。はっきり言って、今回の第3回は、第2回ほど面白くなかった。理由は、なんでだか良く分からない。 「面白さ」の本質は微妙なところにあるわけで、ちょっとしたことでだいぶ変わってくる。だが、今ひとつ、「無茶苦茶面白い!」と感じた前回の第2回ほど観戦に乗り切れないところがあった。うまかったラーメン屋にもう一回行ってみたら、まずくはないけど、思ったほどうまくなかった……そんな感じだろうか。しかもどうやら、同じような感想を抱いたのは筆者だけではないらしい。参加者のレベルが上がったからと言って、見ている側は面白くなるわけではないということだ。これは一般見学者を入場させる公開イベントであるROBO-ONEにとっては大きな問題の1つだろう。 「分からない」だけではあまりに無責任なので、ちょっと考えてみよう。まず、ROBO-ONEはトーナメントだ。そうなると、組み合わせにかなり左右されると思われる。
また、将来は競馬アナを目指しているという実況の一平君も、前回のほうが色々と言いたい放題言ってたように思う。それに対して横から「ロボコンマガジン」編集長の先川原氏が間髪入れず突っ込む様子が、まるで漫才のようで面白かったのだが、今回はそういう掛け合いもイマイチ爆発度が足らなかったような気がする。 何より大きいのが会場の問題だ。第2回では、リングを俯瞰する感じで見られた。だが、今回は平面で、ほとんど俯瞰することができなかった。この点が大きいのかもしれない。 今回のような感じのリングでロボットが接近しあうと、単によちよち歩くロボットが押し合いしているだけにしか見えないのである。ROBO-ONEのロボットはまだまだ腰の入ったパンチを繰り出すほどダイナミックな制御が出来るわけではないので、手をバタバタやってる様子は俯瞰気味じゃないと、何も見えない。 またおそらく参加している操縦者も同様で、「間合い」をつかみにくかったのではないかと思うのだが、どうだろう? その結果、第2回ほど「殴り合い」が立て続けに見られることがなくなったのではないか。観戦者のためにも、実際のボクシングなどでもあるような、真上から見たアングルを提供するカメラとモニタがあったほうが面白いのではないかと思う。
また今回筆者はプレス用コーナーで立って見ていたのだが、そこからだと、どうしても赤コーナーのロボットと製作者ばかり撮影することになる。おそらく一般のお客さんも一緒で「片方のロボットしか見えない」という人が多かったのではなかろうか。 現在のROBO-ONEではロボットの動きは直線的で、リング全体を使っているわけではない。そうなると、どうしてもロボットの一面ばかり見ることになってしまうのである。そこで提案だが、せめてデモンストレーションの時は「リングを一周する」といった動作を盛り込み、ロボットの全身を観客に見せるようにしたらどうだろう。そうすれば、ロボット歩行の旋回半径にも制限が加わることになるが、リングを使ったロボット格闘技を謳うのであれば、その程度はやって欲しいなとも思う。 また、今回の会場であった未来館にも一言。ひな壇を作るといった工夫をしてないあたりからも、あまり協力的ではないなと誰もが感じただろうが、ROBO-ONE当日にも未来館館内でASIMOのデモが行なわれていたことはご存じだろうか。せめてそのASIMOを何らかの形で関わらせることはできなかったのだろうかと思う。未来館は国民の血税でASIMOデモを運用しているわけで、その程度の融通はきかせて欲しい。 以上は観戦していて感じたことだが、ついでなのでロボット製作者の方々にも。 ROBO-ONEのロボットは、なぜグローブを付けないのだろうか。先にも書いたように、今のROBO-ONEロボットのパンチは、実際には単に押しているだけの小学生パンチだ。ならば、グローブを付けたほうがむしろ相手を倒しやすいはずである。ただし、反動で自分が倒れる可能性も大きくなるが、それは現状抱えている問題でもある。足に滑り止めをつければいいのにと思うが、多くのロボットが半ば足を滑らせて歩行している以上、それは難しいのだろうか。
「投げ技」が少ない点も観戦していて以前から不思議に思っていることの1つである。自分で起きあがることのできるロボットならば、相手をグリッパなどでつかんで投げてしまうというアクションもあっていいのではなかろうか。もちろんアクチュエーターへの負荷はかかるだろうし、同体で倒れるとダブルノックダウンという現状のルールではなかなか導入しづらいのかもしれないが、そろそろ攻撃にもバリエーションが欲しいと観戦者は思う。 また、出場参加者の方々の多くに、かなりの緊張が見られた。中には指が震えていた方も数名いらっしゃった。本来の力を発揮できなかった人もいると思う。そのあたり、参加者があまり緊張しないような雰囲気づくりが何かできないものかなと、(たぶん緊張を増大させている一員である)取材者の1人として思った。
独断と偏見で色々言わせて頂いた。イベントは、参加者、見学者が一体となったときに初めて完成する。その運営は非常に難しい。なおかつロボットという不安定なものを対象にしているのだから尚更のことだ。ROBO-ONE委員会は負担も大きいと思うが、エンターテイメント性の高いロボットコンテストを目指す以上、頑張って欲しい。そしてもちろん、既に大いに頑張っている参加者の方々には、楽しませてもらっていることに改めて感謝する。 なお、より詳細なレポートを読みたい方には、「BROKEN's Advanced Vehicle Laboratory」のROBO-ONEレポート( http://homepage1.nifty.com/BROKEN/report/3rd_robo-one/index.htm )を推奨しておきたい。 □ROBO-ONEオフィシャルサイト
(2003年2月10日)
[Reported by 森山和道]
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