於:アップルコンピュータ株式会社 本社
Power Mac G5と次期MacOS X(Panther)の発表に合わせて来日した米Apple Computerの、Power Macプロダクトマーケティングプロダクトマネージャであるトッド・ベンジャミン氏、およびWWWソフトウェアプロダクトマーケティングシニアディレクタのブライアン・クロール氏に、それぞれの製品について話を伺った。 なお、製品の詳細については、すでに米国における発表の場となったサンフランシスコからレポートが入っているため、発表内容に対する質疑応答の形でインタビューを進めている。まずはPower Macを担当するベンジャミン氏の話から伺った。 ●大きな大きなヒートシンクは静音化のため
このところ、パフォーマンス面ではIntelプラットフォームの後塵を拝してきたPower Mac。その中で、久々の大きなモデルチェンジを果たしたPower Mac G5だが、製品開発の中でもっとも重視した点は何か?(以下コメントはベンジャミン氏) 「今回の製品で目標としたのは、とにかくパフォーマンスを引き上げること。世の中で一番高速なパソコンが我々の目標であったし、エンドユーザーに向けてのキーメッセージも“最高速”であることだ。それはスティーブ・ジョブズが行なったキーノート・スピーチでのデモが示している」。 今回の製品には巨大なヒートシンクが取り付けられ、9個もの冷却ファンが装備されるという。いずれも静音化のための措置と考えられるが、過剰にも見える冷却機構に“熱くうるさい”コンピュータのイメージを思い起こす向きもいるだろう。デュアルG4のPower Macは動作音が大きかったからだ。このあたりに関してクリアにするメッセージを聞きたい。 「我々は高速であると共に非常に快適なパソコンを目指した。騒音、熱、デザインなど、製品から受けるトータルエクスペリエンスは極めて重要だ。Power Mac G5も、非常に静かで快適なパソコンを目指している。各冷却ファンは非常にゆっくり回転させており、4つに分割されたサーマルゾーンを、ゆったりとエアフローが流れる。その結果、非常に静かに動作するパソコンとなった。ファンの数を増やし、ゆっくりと動かす方が静かになる。プリプロダクションのため、正確な数値は出せないが、以前のデュアル製品の半分以下だ」。 昨年、IBMから発表された値によると、1.8GHzのG5で消費電力が42W程度。G5 2GHzの消費電力は50W程度だと予測される(デュアルではその2倍)。今回の設計はどの程度の消費電力までを想定しているのか。 「まだプリプロダクションなので、消費電力などの具体的なスペックは言えない。間違いないのは、すでに2GHzのG5がデュアルで動いていて、しかも十分に熱に余裕を持った設計になっており、とても静かということだけだ」。
G5にはMotorolaのG4と同じAltiVec命令が実装されている。レジスタや命令などの仕様は同一だが、性能的な向上もあるのか? 「G5のVelocity Engineは、プロセッサアーキテクチャの改良により効率がアップしている。命令やレジスタ数などの実装は同一だが、同一クロック周波数でも(具体的な数字は出せないが)G4よりも高速だ。もちろんクロック周波数が向上した分の高速化も果たしている」。 G5がモバイル製品に搭載される予定は? 「将来の製品に関するコメントはできない」。
では現在、サンプル出荷されているG5のマスクには、Clock Gatingや低消費電力動作モードなどのパワーマネジメント機能が実装されているのか? つまり、平均消費電力を下げるアプローチは、G5の中に既に存在するのか? 「現在のG5という意味であれば、まだ入っていない」。 IBMは昨年のMicroprocessor Forum 2002で、2003年前半にサンプル出荷、第3四半期に製品を出すと話していたが、その時点での最高クロック周波数は1.8GHzだった。本当に2GHz版のデュアルマシンを8月に出せるのか? 「確かにまだ現在のG5はサンプル出荷の段階だ。しかしスティーブ・ジョブズは、8月にはきちんと出荷できると発表している。実際に製品を担当している我々としても十分な自信を持っている」。 ●“世界一”の意味とは? 高品質のデジタルイメージや3Dグラフィックス制作、音楽制作など、クリエイティブのプロを対象としているPower Macにとって、“最高速”というキーワードは非常に重要だとベンジャミン氏は言う。しかし、同社がテストを依頼したVeritestの配布する資料を眺めていると様々な疑問がわき上がってくる。 調べてみると一昨日の発表以降、Webコミュニティの間でもベンチマーク結果に関して疑問の声が噴出しているようだ。中には公開質問状のような形で“世界一”に関して疑問を投げかけるページも登場している。それらの中から個人的にも疑問に感じていた部分を質問としてぶつけてみた。 公表されたSPEC CPU2000ベンチマークは、Pentium 4向けコンパイラとしては一般的ではないGCC 3.3を利用しているが、これにはどのような意図があるのか? 「SPEC CPUはソースコードをコンパイルして実行する。このため、コンパイラにより結果に違いが出てくるから、そのままでは公平なテストを行なえない。我々がテストを依頼したVeritestは、両方のプラットフォームで利用可能なコンパイラとしてGCC 3.3を使った。コンパイラが同じならば、公平な比較ができる。我々はコンパイラの最適化機能をテストするのではなく、システムの性能を比較する必要があった」。 しかし、この回答そのものにかなり大きな疑問がある。少々長くなるが、その背景を説明しておこう。 通常、SPEC CPUはプロセッサとコンパイラの性能を計測するもので、切り離して考えることはできない。スーパースケーラやスーパーパイプラインといった構成が常識的に使われている現代のプロセッサにとって、プロセッサとコンパイラは切り離してパフォーマンスを語ることはできないからだ。コンパイラの改良によって、大幅に性能が改善されることも少なくない。 またIntelは自社製最適化コンパイラやVtuneという最適化ツールを提供し、さらに最適化技術をMicrosoftなどに供与している。つまりIntelユーザーは、市販アプリケーションの多くはIntelの最適化技術による恩恵を受けやすい環境にあると言える。最適化コンパイラはプロセッサとセットで開発されるものであるため、本来ならばIBMが最適化コンパイラを提供するべきだが、ジョブズ氏の基調講演によると、GCC 3.3がPower Mac G5標準の最適化コンパイラになるようだ。実際、GCC3.3にはG5向けの64bit演算オプションがあり、Veritestの資料によるとG5向け最適化オプションをオンにしてテストを行なっている。 つまりPentium 4のテストでは、Intelプラットフォーム用市販アプリケーション開発で使われることが少ないGCCを用いつつ、Power Mac G5のテストでは自社が標準としているコンパイラを使っているわけで、とても公平とは思えないのだ。
「確かに問題点はいろいろとある。しかし、我々は無用な詮索を避けるために、性能評価を行う第三者にテストを依頼した。GCC 3.3を使うことは(コンパイラの要件を揃えるという)こちらの要求に対して、第三者のVeritestが選択した結果。このテストではAltiVec命令も使われておらず、我々にとって決して有利なものではない」。 ちなみにSPECのWebサイトには、各社が最適なコンパイラを用いて計測したオフィシャルなベンチマーク結果が掲載されているが、SPECint、SPECfpともに3.0GHzのPentium 4は1,000を超える。それぞれのrateテスト(マルチスレッド処理能力を加味したプロセッサテスト)において、デュアルXeon 3.06GHzがPower Mac G5のVeritestによる測定結果を下回ることはない。 「今回、公表されたSPEC CPUの値は、我々が最適化を施したのではなく、あくまでもVeritestの設定した条件の元で計測されたものだ。別のコンパイラを用いれば、我々の製品ももっと高い数値を出すことはできる」。 ならばSPECに提出するオフィシャルな数値を公表すればいいのでは? そうすれば今回のような疑問は生まれないはずだ。 「重要なことを忘れないで欲しい。我々の製品はまだプリプロダクションの段階であり、正式なSPEC CPUの結果はそもそも存在しない。したがって、それを現時点で議論することは出来ない」。
インタビューをしている我々も、SPEC CPUを特に重視しているわけではない。しかし“最高速”を市場に対するキーメッセージとして設定し、その根拠としてSPEC CPUの値を示すのであれば、その部分に拘らざるを得ない。個人的にはG5 2GHzはPentium 4 3.06GHzに匹敵するプロセッサだと考えているし、AltiVecを用いるアプリケーションではIntelプラットフォームを圧倒できるものもあるだろう。クリエイティブのプロにフォーカスしたパソコンとして高速な製品という点について、強い異論を唱えようとは思わない。ただSPEC CPUは“最高速”を冠する理由として、今回はふさわしくなかった。 「スティーブ・ジョブズの基調講演でデモンストレーションしたように、画像処理、3Dレンダリング、オーディオ処理などの分野で、我々の製品が圧倒的に高速なことは明らかだ。エンドユーザーにとって重要なのは、アプリケーションのパフォーマンスである。実際に同じ処理を行なっての差なのだから、その点での間違いはない。テストに用いたアプリケーション、たとえばPhotoshopは、PC向けにもMac向けにも最適化されている」。 ●Pantherは64bit対応OSなのか?
次に、Pantherを担当するクロール氏の話を紹介したい。 Power Mac G5では64bitプロセッサであることが強調されている。Pantherは64bit対応のOSとしてカーネルを書き換えているのか? 「まずよくある誤解を解いておく必要がある。Power Mac G5の最初の製品はJaguarと共に出荷される。Jaguarは32bit OSだが、64bitのG5にも最適化されたバージョンと共に提供されることになっている。つまり、Jaguarの段階で64bitの機能を活かすことができる」。 つまりOSの中核部に関して64bitの機能が使われているわけではないのか? JaguarとPantherそれぞれの64bit対応は同じものを指しているのか? そもそもAPIは64bit化されないのだろうか? 「カーネルも64bitに対応している。G5は32bitと64bit、両方の命令を同じように高速に実行できる。カーネル内部で64bitレジスタが有効な部分では、64bitのメリットが生きる。また最適化は64bit命令に関する部分だけではない。G5のアーキテクチャに合わせた最適化を32bitの部分でも行なう。ただしAPIを64bit化しているわけではない」。 ということは、Pantherでも64bitアドレスをアプリケーションの中から利用することはできない? 「各アプリケーションが利用できるアドレス空間は32bitのままだ。個々のプロセスは4GBのメモリ空間に制限される。しかし、システム全体では64bitのアドレス空間を活用可能だ。従って、多くのプロセスが同時に動作する環境においては64bitの意味が出てくる。また、演算ライブラリの中で64bitレジスタを使っており、そこでの高速化もある。たとえば平方根などは大幅な高速化が行なえる」。 今後、MacOS XのAPIを64bit化する予定は? 「現在のところ、32bitの現行APIを維持する方針だ。今後、その方針がどのように変化するかはわからない。しかし、APIの64bit化といった大きな変更を行なうときには、あらかじめきちんとアナウンスする」。 将来、アプリケーションが64bitへと移行しやすいように、開発ツール側で64bit化が難しくなるような実装を行なわないようワーニングを出す機能などを、Xcodeなどに実装しているか? PCの世界では近年、64bitへの移行を見据えて、64bitへの移行を意識した開発ツールも提供されるようになっている。 「先ほども話したように、我々は32bitアプリケーションの開発にフォーカスを当てている。Xcodeは非常に素早く優れたアプリケーションを開発できる環境だ。しかし64bitアプリケーションへの移行を促すものではない」。 ●Pantherでもハードウェアに対する要求は上がらない 液晶ディスプレイなどフラットパネルディスプレイの普及は将来、これまでよりも高い解像度のディスプレイを実現するだろう。グラフィックAPIの「Quartz(クォーツ)」は、元来、幅広い精細度へ対応できるアーキテクチャなハズだが、現在はサポートされていない。論理的な画面解像度を高めるための拡張は行なわれないのか? 「Pantherでは変わらない。今回はPantherの話をするためにここにいる。その先のプロダクトについては論を持たない」。
新しいFinderは物理的なディレクトリ構造を隠蔽するような実装になった。これは今後、ファイルシステムの変更などに繋がっていくものになるのか? 「新しいFinderはファイルシステムを隠しているわけではない。見ようと思えば見ることはできる。しかしユーザーがハードディスク内の情報にアクセスしやすいように、ユーザーインターフェイスの手法を変えている。ファイルシステムについては、将来のことになるためコメントできない。新しいFinderでは非常に高速な検索機能が実現されており、インターネットでの情報検索と同じようにMacの中にある情報を探すことができる。キーワード1字ごと、リアルタイムに検索結果が更新されるインクリメンタルサーチを実装している」。 新しいFinderはCocoaベースで書き換えられたものか? 「今回のFinderはCarbonベースで開発されている。変わったのはユーザーインターフェイスと検索パフォーマンスで、利用しているAPIを変更しているわけではない」。 iDiskサービスとFinderの統合もPantherの特徴になっているが、これはWindows 2000/XPのオフラインフォルダと同様の機能をインターネットサービスで実現したものと考えていいのか? 「新FinderのiDisk対応は、オンラインでもオフラインでも、同じようにiDisk上のリソースにアクセスし、非同期に更新したものを自動的にバックグラウンドで同期するというものだ。ファイルの自動同期という視点で見れば、Windowsのオフラインフォルダと同じだと考えていい。しかし、iDiskは標準プロトコルのWebDAVを用いたインターネット経由のサービスで、世界中のどこからでも簡単にアクセスできることが大きく異なる点だ」。 .macサービスをはじめ、インターネットとMac OSの融合をここ数年進めてきたが、Pantherでは新たにSafariが加わり、自前のWebブラウザを持つようになった。今後、MacOSとインターネットサービスの統合はさらに進むのか? 「Safariは単体のブラウザでもあるが、Pantherの一部分でもある。SafariはPantherの中でWeb Kitとしてそのほかのアプリからも利用可能となる(註 : Mac OS Xは一般的な関数呼び出し型APIだけでなく、クラスライブラリ形式でOSの機能が提供される。各種クラスのことを“Kit”と呼ぶ。Web KitはWebブラウザ機能を提供するクラス)。今後は、あらゆるアプリケーションが、その機能を利用することになるだろう」。
Pantherでは多数のウィンドウを簡単に管理できる新機能Exposeも話題だが、かなり派手な画面エフェクトが気になる。快適な動作に必要なGPUの性能レベルは? 「今まででのMac OS Xと全く同じだ。Quartz Extremeが快適に動作する環境ならば、Exposeも快適に動作する」。 操作感は全体にJaguarよりも軽くなったのか。それとも重くなっている? 「スティーブ・ジョブズが基調講演でも述べているように、Preview機能が非常に高速化されている。Finder中のサムネイル表示も速い。Mailの高速化もトピックだろう。これ以外にも、さまざまな側面でパフォーマンスのチューニングが進められており、Jaguarよりも高速に動作する」。 ●Windowsユーザーにスイッチしてもらうためには PC Watch読者の大半はWindowsユーザーだ。彼らがMacにスイッチを促すために、何が必要だと思うか? 「我々の製品は音楽再生やDVD再生など、メディアを扱うことに関して高い質を提供できる。またデジタルカメラのハンドリングを行なうOSとして、Mac OSは最高のものだ。音楽に関してもMac OSの方がより簡単に扱えるだろう。もちろん、Windowsでも工夫すればなんとかなるだろうが、あらゆるメディア処理を簡単に行なえるところがポイントだ。あらゆるメディアデータの特徴に合わせた機能が組み込まれ、苦労せずに楽しくパソコンを活用できる。苦労しなくて済む、というのは何よりも快適なことを意味している。 プラグ&プレイでカメラ、プリンタなど、あらゆるものが動くことのメリットは、必要なドライバを捜して週末にWebをさまよった経験のある人ならばすぐに理解できるはずだ。また、Mac OSはモバイルユーザーにも非常に向いたOSである。 ネットワーク設定は、移動する先ごとオートマチックに切り替わる。今回発表したiChat AVは、何の設定を行なわなくても、誰もが簡単にテレビ会議を行える。セットアップ時の複雑な設定や状況判断なく、ただプラグすれば動く。これに勝る優位性があるでしょうか?」 □Apple Computerのホームページ(英文)http://www.apple.com/ □SPECのホームページ(英文) http://www.spec.org/ □関連記事 【6月25日】【WWDC】第5世代のPower Macは、総アルミの新筐体で登場 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0625/wwdc04.htm 【6月24日】【WWDC】次期Mac OS X“Panther”は129ドルで年内出荷を予定 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/wwdc03.htm 【6月24日】【WWDC】会場で展示されたPower Mac G5を速報 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/wwdc02.htm 【6月24日】米Apple、Power Mac G5発表 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/apple1.htm 【1月9日】米Apple、製品ディレクターインタビュー 「IEEE 802.11aとUSB 2.0には対応しない」 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0109/apple.htm (2003年6月26日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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