WWDC 2003 基調講演レポート 2

第5世代のPowerMacは、総アルミの新筐体で登場
~PowerPC G5は、12カ月以内に3GHzに到達へ


会期:6月23日~27日(現地時間)
会場:サンフランシスコ「Moscone Center」


社内では“早すぎたスペック”と揶揄された予期せぬスペックの漏洩。「でも、書いてあったことは本当だ」として、PowerMac G5のプレゼンテーションをはじめた

 お馴染みのフレーズ「One More Thing……」で、ジョブズCEOが切り出したテーマがPowerMac G5である。最初は、先週木曜日に米国のApple Storeで表示されていたという謎のスペックを「インターネットなどで、もう知っているとは思いますが……」とスライドに表示させて見せた。

 この予期せぬ情報リークに関しては「こんなにいいはずがない!」、「いや、この通りだ!」、「マーケティングとしては素晴らしいけどねぇ(笑)」という3通りが顧客の主な反応だったという。社内では“Premature Specification”と揶揄を込めて呼ばれてしまったらしいが、「書いてあったことは本当だ」とコメントしてPowerMac G5の存在を明らかにした。

 最初にテーマとしたのは搭載するCPU。IBMと数年前から提携し開発を進めてきたというPowerPC G5は「世界で最初の64bit対応デスクトッププロセッサ」と紹介された。さらに最高2GHzのクロック周波数、1GHzのフロントサイドバスの搭載、そしてデュアルプロセッサとしてデザインされているとコメントした。

PowerPC G4の2倍、倍精度の浮動小数点演算ユニットを搭載するPowerPC G5。G4と比較して、どれほどのパフォーマンス向上が見込めるかにポイントを置いて紹介を続けた PowerPC G5のスペックに関しては、昨年PowerPC 970として仕様公開された際の後藤弘茂氏のレポートが詳しい。ジョブズCEOがこうしたプロセッサテクノロジーに直接言及することは稀で、実際最後の分岐予測のプロセスに関しては「とにかく素晴らしいものなんだよ(笑)」として説明を飛ばし、会場は笑いにつつまれた 0.13μmのプロセスルールで製造されるPowerPC G5。8層のSOI(Silicon On Insulator)、5,800万個トランジスタ、12インチのウェハなど、製造プロセスについてのサマリー。ジョブズCEOによれば「素晴らしいとしか言いようがない」
12インチのウェハを手にしてみせるジョブズCEO。長くApple Computer関連の取材を続けているが、めったに見ることができないシーンだ IBMが30億ドルの費用を投じて、ニューヨーク州フィッシュキンに建設した最新のFabで製造されるPowerPC G5。施設の写真をみせながら、すべてロボットによる製造を行なう最新の施設と紹介した IBMのテクノロジーグループで上級副社長を務めるジョン・ケリー氏が登壇。「我々が何をしたかと言えば、IBMの持つ64bitプロセッサのなかで、もっとも素晴らしいものをデスクトップ向けにスケールダウンしたこと」。「Appleとのパートナーシップで実現したが今回は始まりに過ぎず、大きな工場を建設するだけではなく、次世代のために、びっくりするようなロードマップを用意している」とコメントした

●Apple製のシステムコントローラーもG5と同じFabで製造

 IntelやVIAなど、弊誌の読者にはお馴染みのPC関係の記事の場合“チップセット”と呼んでいるASICは、Apple Computerでは「System Controller(システムコントローラー)」と表記している。今回、PowerMac G5に搭載されるシステムコントローラーは、Appleの設計で、PowerPC G5と同じFabで製造されているという。

Intel、VIAなどの関連記事ではチップセットという呼び方をしているが、Apple Computerの場合はシステムコントローラーという表記が用いられている。もちろん、PCを構成する要素としては同じものを指している 紹介はいわゆるノースブリッジの部分から。フロントサイド1GHzのバス速度はG4に比べて6倍速く、帯域幅は8GBを確保している。Point to Pointアーキテクチャにより、デュアル構成の場合も独立しており、相互に影響を与えることはない
メモリはDDR400をデュアルチャネルで採用。帯域幅は6.4GBでこちらもG4の時の2倍。これまではAGP 4XだったグラフィックのバスもAGP 8Xになった 上位モデル2機種には、133MHzのPCI-Xのスロットが1基と100MHzのPCI-Xのスロットが1基搭載されている。最下位モデルは、通常のPCIスロットが3基(64bit、33MHz) 内蔵されるHDDには、2系統の独立したインターフェイスで接続するSerial ATAを採用。帯域幅は1.5GB。これまで使われていたATA/100など従来型ATAのインターフェイスは存在しない。システムコントローラ間はHyperTransportで接続されている
I/Oまわりには、これまでかたくなに採用を否定し続けてきたUSB 2.0を初めて搭載する。ほかに光デジタルによるオーディオ・インとオーディオ・アウトなどを統合した システム構成。IntelやVIAなどのプレゼンテーションでもよく紹介されるスライド 大幅にパワーアップされた帯域幅を、DVDの容量を例に挙げて、こうした形で表現して見せた

●新筐体は最大9個のファンを搭載。しかし静音性は従来機よりも向上

ステージにせり上がってきたPowerMac G5。一方のサイドパネルはオープンになった状態で、クルクルと回転してその内部をみせている

 続いてスライドに表示されたのは、これまでのPowerMac G3/G4で'99年1月以来、改良を続けながら採用し続けてきたサイドドアがオープンするタイプの筐体だ。ジョブズCEOはあえて「大きく改良されたシステムを従来の箱の中に納めることはできない」として、新しい筐体の採用を明らかにした。このコメントと同時にステージ中央には、すでに数多くの写真で紹介されているPowerMac G5がせりあがってきた。

 かなりの時間をかけてデザインを続けてきたというその筐体に、一瞬会場はあっけにとられたが、気にせずジョブズCEOはコメントを続けてきた。総アルミ製で熱の問題はないというデザインは、既報のとおりに、前後のパネルにメッシュが採用されている。

 筐体の中の熱管理は4カ所に分かれており、本体下部に位置する電源を始め、CPUとメモリがある下層、PCI-Xの拡張スロットとグラフィックカードのある中層、ストレージ関連の上層に、最大9個のファンが内蔵されている。

 これらのファンはコンピュータ制御されているということで「9つのファンといえば、とんでもない騒音を出すかと想像されるかも知れないが、的確な配置で個々に回転を制御すれば、驚くほど静かになる」と説明した。具体的には常温での動作時で35dBクラスということで、現行のPowerMac G4に比べて2倍の静粛性があると説明した。また、この筐体についても今後さらに改良を重ねて、ある程度の期間にわたって採用し続けていくことを付け加えている。

前面から背面に抜ける空気の流れ。熱管理は四カ所に分かれており、本体下部の電源、下層にあたるメモリとCPU、PCI-XスロットとAGPグラフィックカードの中層、そしてストレージの上層だ。それぞれのエリアはほぼ独立している 本体の内部には最大で9個のファンが入っている。電源ユニットに2個、デュアルプロセッサの前後に2個ずつ計四個、中層の正面スピーカーそばに1個、グラフィックカードに1個、そして光学式ドライブとSerial ATA HDDの間に1個と思われる 9つのファンの回転速度をコンピュータ制御することにより、驚くほど静かになるとジョブズCEO。従来のPowerMac G4のおよそ半分という35dBクラスのノイズに抑えられると言うことだ
最上位モデルに搭載されているATI RADEON 9600PRO。PC向けにはファンレスの製品もあるが今回搭載されていたのはファン付きのモデルだった。下位2機種はGeForce FX5200を搭載。BTOのオプションには、ATI RADEON 9800PROも用意されている PowerMac G5のサマリー。すべてのモデルに四倍速DVD-R対応のSuperDriveが搭載される 筐体デザインこそ変更されたが、ハンドルは残った。このハンドルはデスクトップモデルの主たるユーザー層に受け入れられているので継続することにしたとのこと

●ベンチマークテストで、Xeonデュアルモデルを超える性能を示唆

 投入されるのは3モデル。詳細なスペックは既報のとおりでフラッグシップになるのはPowerPC G5 2GHzをデュアルで搭載する製品となる。このフラッグシップモデルを使って、Intel製CPUを搭載する機種とのベンチマーク結果の比較がスライドで表示された。数値として提示されたのは、SPECint、SPECfpそれぞれのデータで、そのほかに、デモでの比較としてAdobe PhotoshopやMathematica 5を使ったお馴染みの速度競争も4種類にわたって繰り広げられた。

8月から販売される3モデルのコンフィギュレーション。Apple StoreでのBTOに対応しているので、自由に構成を入れ替えて下位モデルに上位のグラフィックカードを搭載することもできる フラッグシップモデルとして、3.06GHzのXeonプロセッサをデュアルで搭載するDell Computerの製品をBTOしたものとのコンフィギュレーションを比較 ほぼ同じかそれ以上のパフォーマンスの製品が1,000ドルあまり安く買えるということで、Apple製品は高いという先入観を否定してみせた
SPECint、SPECfpのベンチマークで数値が公開されたプロセッサ。FSB 800MHzのPentium 4 3.0GHz、PowerPC G5 2GHz、FSB 533MHzのXeon 3.06GHzのそれぞれのプロセッサ ベンチマークプログラムは、GCC 3.3でコンパイルされているという。このコンパイラは、Intelが標準としてデータを掲示しているコンパイラとは異なることに注意 シングルプロセッサで構成されたシステムの比較。整数演算「SPECint」ではやや遅いPowerPC G5だが、浮動小数点演算の「SPECfp」では結果が逆転している
デュアルプロセッサでは、SPECint-rate、SPECfp-rateのいずれもPowerPC G5のほうがよい結果を出している。ちなみにPentium 4についてはシングルプロセッサでのデータ SPECint、SPECfpのほかにPhotoshopやMathematica 5といったアプリケーションを使ったお馴染みのスピード競争も行なわれた。比較機種はXeon 3.06GHzデュアルの製品だが、いずれもPowerMac G5が2倍速いという結果がデモされた 昨年10月、Microprocessor ForumでPowerPC 970の仕様が公開されたときは初期の最高クロックが1.8GHzとされていたが、実際は2GHzをフラッグシップに出荷が開始される。これから12カ月間で、最高3GHzまでクロックアップされる予定だという

●純正チャットクライアントには、やはり純正のPCカメラを?

 最後に、やはりこの日発表された新製品「iSight」と「iChat AV」についても簡単に触れておこう。iSightはFireWire 400で接続するPC用のCCDカメラで、Apple Computer純正、そしてMac OS Xで利用できるという点を除いては、デバイスとしては特に新しいというものではない。ただ米国で149ドル、日本では17,800円という同種のデバイスに比べてやや高めの価格設定だけあって、外装や仕様はいかにもAppleらしいデザインで高級感を感じさせるものだ。

 CCDは1/4インチサイズで、F2.8の明るさのレンズを搭載する。焦点距離は50mmから無限大のオートフォーカス。54.3度の画角で、一時的にレンズをカバーするシャッターも内蔵されている。外装もアルミベースだ。Macに取り付けるアタッチメントは3種類を同梱。ノートタイプをはじめ、Apple Studio Display、iMac、eMacなどすべての製品に取り付けられるようになっている。

 この日の基調講演では、米国で週末の発売に先駆けて発表と同時にWWDCへの参加者へのプレゼントがジョブズCEOの口から告げられ、歓声が沸き起こっていた。

WWDCの登録者に“Panther”と一緒に提供されることになったiSight。午後のセッション前にはすでに多くのユーザーが接続を試していた

 このiSightの主な用途が、Jaguarから搭載されているApple製のチャットクライアントiChatだ。今回、ビデオチャット、ボイスチャットに対応した「iChat AV」がパブリックベータ版として同日にリリースされ、ダウンロードが可能になっている。

 このiChat AVは年内に正式版のリリースを予定しており、“Panther”には標準のコンポーネントとして無償で添付される。ただし、Mac OS X 10.2 “Jaguar”に対しては、29ドル(日本国内での価格は未発表)での有償アップデートとされており、このことについては会場内からのブーイングも起こった。

 デモンストレーションはテクノロジー的には平凡だったが、ステージ上のジョブズCEOが、現在はAppleの役員を務めるアル・ゴア前副大統領とチャットするという、やや派手な演出で会場内は盛り上がっていた。


iChat AVのデモンストレーションで、客員教授を務めるロサンゼルスの大学からビデオチャットに登場したアル・ゴア前副大統領。現在はApple Computerの役員でもある iChat AVのウィンドウは全画面表示にすることもできる。こちらのお相手はフィル・シラー上級副社長 ビデオチャットはブロードバンド回線でのみ利用可能。アナログモデムでの接続時は音声チャットのみが有効になる
年末までの正式出荷の際、“Panther”には標準コンポーネントとして含まれるので無償。Mac OS X 10.2は29ドル(国内価格未定)になる。このときはちょっとブーイングも起きた PowerBookやiBookへのiSightの取り付けは、液晶パネルの縁の部分を挟み込むようにする eMacでは、上部に粘着テープで貼り付ける
iMacもeMacと同じ粘着テープ方式。それぞれ違うアタッチメントを利用している Apple Studio Displayには、iMacと同じアタッチメントで取り付け。全部で3種類のアタッチメントが同梱されている 上下、左右の角度の調整を行なうことはもちろん、レンズシャッターも内蔵している。そのため会話中にちょっとだけ姿を消して音声だけのチャットすることも可能になる

□Apple Computerのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□WWDC 2003のホームぺージ(英文)
http://developer.apple.com/ja/wwdc2003/
□関連記事
【6月24日】米Apple、Power Mac G5発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/apple1.htm
【6月24日】会場で展示されたPowerMac G5を速報
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/wwdc02.htm
【6月24日】アップル、WWDC基調講演上映会を開催
~Power Mac G5の実機を展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0624/apple2.htm
【6月23日】WWDC 2003前日レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0623/wwdc01.htm

(2003年6月25日)

[Reported by 矢作 晃(akira@yahagi.net)]


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