Apple Computerによる開発者会議、WWDC 2003は現地時間23日午前10時にスティーブ・ジョブズCEOの基調講演で幕を開けた。

事前にアナウンスされていたとおり、次期Mac OS Xにあたる開発コードネーム“Panther”をはじめ、既報の「PowerMac G5」、Webブラウザ「Safari 1.0」の正式リリース、ビデオコンファレンスに対応する「iChat AV」と「iSight」、そして新たな開発ツール「Xcode」など数多くの製品が発表された。本稿では2時間にもわたった基調講演のなかでとくに“Panther”に関する部分をピックアップする。

●“Panther”は、2003年中に正式出荷を予定

　過去二年間で50万人のユーザーを700万人まで増やしたとして、ジョブズCEOは「Mac OS Xは非常によくやっている」と振り返った。対応アプリケーションは6,000を超え、事実上OS 9からOS Xへの大きなトランジションが行なわれた。そして（開発者にとっては）“Jaguar”は役目を終え、4回目のメジャーリリースとなるMac OS X“Panther”の100を超えるという新機能のうち、代表的なものがジョブズCEOによって紹介された。

自ら“Panther”をデモンストレーションするジョブズCEO	2001年には1,000に満たなかったMac OS X対応のアプリケーションは、現在6,000を超えた。OS 9からOS Xへの大きなトランジションが行なわれた、とジョブズCEO

“Panther”で強化、追加されるUNIX関連の機能。X11をはじめ、BSD 5.0、IPv6などUNIX技術のトレンドが数多く投入されることになる	Windowsとの相互運用性も強化。Sambaの強化をはじめ、IPSecベースのVPN機能などが追加される

　Pantherの機能紹介で最初に大きな歓声があがったのは、新しいFinderが搭載されることがジョブズCEOからコメントされた時だ。

　同氏によれば、これまでのFinderはコンピュータ中心型で、「はっきり言えば、ベストを尽くしたつもりだが残念ながらゴールまでいかなかった……」ということになる。

　これは、ハードディスク内のディレクトリ構造がそのままカラムとして、ユーザーに不要なものまで表示されることを指している。新たに搭載されるのは曰く『ユーザー中心型』ということで、ユーザーが必要とするものを（ディレクトリ構造に関係なく）ひとつのカラムに入れることができる。どちらかといえば、iPhotoやiTunesのデザインに近い。また、デベロッパから長い間リクエストが続けられていた「ラベル機能」もようやくPantherのFinderでサポートされることが決まった。これも大きな歓声で迎えられている。

新たなアプリケーションとなるFinder。コンピュータ中心型といわれた従来のカラム表示などは、どちらかといえばNeXT Stepのインターフェースを継承したものだった	背デベロッパ、ユーザーからの要望の数ではトップクラスであったと思われるラベル機能が、ついに復活する。大きな歓声があがった	Mac OS 9のように、アイコン全体に色が付くのではなく、ファイル名の部分に色がついているのがわかる。この表示はアイコンビューで、リストビュー、カラムビューしてもラベル色はそのまま表示されている

ファイル検索機能はより高速になった	ディスク内にあるXserve関連のファイルを検索して、リストビューで表示させている	新しいFinder機能のサマリー。ユーザー中心型の表示に変更し、アクションボタン、ラベル機能などを追加している。ファイルを開いたり保存したりするパネルも新しくなる

　Pantherで搭載されるまったく新しい機能が「Expose」である。マルチタスク環境で数多くのアプリケーションを一緒に動作させているとき、必要なアプリケーションを見つけて、簡単に前面に出すにはどうしたらいいかという答えが「Expose」だ。動作自体は、左から右へと連続した写真をみてもらったほうがいいだろう。

複数のアプリケーションが同時に起動し、数多くのウインドウが重なった状態で表示されている。ここでポインタをホットコーナーに移動させると、ウインドウが縮小しながらタイル状に再配置される。目的とするウインドウを見つけたら、クリックするとそれが最前面になるという仕組みだ。タイル状になっているときは、ポインタをウインドウの上に重ねると、それぞれがどのアプリケーションで利用されているかもわかる。「Expose」の起動はホットコーナーだけでなく、ファンクションキーなど任意のキーにアサインすることができる

　Windows XPには（提供の時期などで）遅れをとったが……、とコメントして紹介されたのが家庭などのマルチユーザー環境におけるユーザーの変更機能だ。

　Jaguarではユーザーを変更する際、アップルメニューからログアウトを選択して、再度ログインするユーザーを選ぶといった手順が必要になるが、PantherでジョブズCEOが披露してみせたのは、まったく異なる方法だった。

　メニューバー右上隅から変更するユーザー名を選択するだけでキューブ状の画面が回転して異なるユーザーがカスタマイズしたデスクトップ画面が登場した。デモは家族での利用を想定したもので、子供向けと思われるデスクトップにはそのままで、仕事用としたデスクトップはパスワードの入力を終えた後で利用できるようになっていた。

WindowsXPのマルチユーザー環境には遅れをとったとしながらも、より優れた機能を提供することができるとコメント	変更するユーザーのデスクトップ環境が、キューブ状の画面が回転する形で入れ替わる。パスワード保護もかけられる。写真は回転中の様子	追加したいフォントを簡単にプレビューしたり管理したりすることができるFont BookもPantherで新しく加わる機能だ

PIXARとの協力によるQuickTime6で利用できる新しいCodec「Pixlet」。Panther上でハイクオリティな映像をみることができるようになる

ホームディレクトリ内のファイルをすべて暗号化して保護する「File Vault」	FAX出力機能を標準搭載。プリンタと同様にFAXへの出力が行なえるようになる	「PREVIEW」もより高速にPDFファイルを表示することができるようになる。これまで、プルダウンのなかにあったPDFファイルへの出力メニューも、ボタンとして配置されて簡単にPDF化が選択できるようになった

　当初の予告どおり、この日会場に訪れたデベロッパには“Panther”のプレビューリリースが配布された。昨年は5月に“Jaguar”のプレビューを配布して、秋口に正式リリースとなったが、“Panther”では2003年中のリリース予定が発表された。価格は129ドルで、これは従来どおり。

100を超えるというPantherの追加、改良された機能のなかから、この日紹介された機能が一覧されている	Mac OS Xとして四回目のメジャーリリースとなる“Panther”の映像。先日のWinHECでも概要が明らかにされたWindowsの次期メジャーリリース“Longhorn”をもじって、のんびりした牛の映像を流しながら、ジョブズCEOはスピーチを一休み

2004年に銀座にオープンする予定のAppleStoreの完成予想図

　講演の冒頭では、そのほかのアップデート項目が簡単にサマリーされている。全米で展開する直営店は、昨年のニューヨークに続き、シカゴ、サンフランシスコという大都市圏でのオープンが相次ぐ。そして、先日アナウンスのあった東京、銀座での開店もあらためて2004年早々とコメントされた。

　また、iPodの出荷数が同日付で100万台に達したほか、サービスがはじまったMusic Storeでの音楽ダウンロード販売も、土曜日に500万曲目を販売しているという。

　そして、今年の1月、同じサンフランシスコで開催されたMacworld Conference&Expoにおいて、βリリースされた「Safari」は、500万以上のダウンロードが行なわれ、同日付をもってVer.1.0として正式にリリースされることになった。また「Safari SDK」が提供されることにより、デベロッパの制作したアプリケーションからもSafariの機能が呼び出せるようになる。

通算100万台目のiPodが、この日出荷を迎えるという	およそ半年前にβ版を公開した「Safari」が、同日付をもって正式にリリース	Safari SDKが提供され、デベロッパのアプリケーションでSafariの機能が利用できるようになる

(2003年6月24日)

[Reported by 矢作 晃(akira@yahagi.net)]