第202回
この夏流行「小型2スピンドル機」の考え方



 夏のボーナス商戦に向けた新製品が各社から次々に発表された。デスクトップPCではあるが、水冷システムを搭載したNECのValueStarなどは、3GHzのHyper-Threading対応Pentium 4を搭載しても静かに使える製品だ。以前、この連載で紹介したPC向け水冷技術は日立以外のベンダーにも広がりつつある。富士通のBIBLO RSシリーズも、ノートPC技術をデスクトップタイプに応用した意欲作。昨年、PCの売り上げは大きく落ち込んだが、その分、今年の製品には力が入っているようだ。

 ノートPC系の製品も、Pentium M発表後にいくつか力の入った製品が続いたが、その勢いは夏モデルでも継続されている。Intelから新たに出荷されたグラフィック機能内蔵のPentium M用チップセット「Intel 855GM」がリリースされたためだ。855GMの投入は低価格Pentium M機の登場を促したが、その一方で基板面積を大きく取れない小型ノートPCにも福音をもたらしている。

 今回はこの夏に向けて登場した小型ノートPCの各製品について、いくつかのトピックを取り上げてみたい。

●いくつもの要素がもたらしたコンパクト2スピンドル機

 先週、先々週と海外取材が続いたおかげで、夏モデルの取材活動は半ばの状況だが、その過程でソニー バイオノートTRのプロジェクトを率いた担当者は「2スピンドルサブノートが生まれたことで、サブノートという呼称がなくなってほしい」と話した。このコメントに、今年の小型ノートPCに込められた想いが詰まっているように思う。2003年夏モデルでは小型・軽量を目指した2スピンドルノートPCがソニーの他、富士通、松下電器からも登場したが、これは決して偶然ではない。それはひとつには技術的な要素もあるが、むしろサブノートPCという分野を、今以上に大きなものにしていきたいという意志が強く見える。

 小型軽量で、なおかつ実用上ミニマムサイズのキーボードを搭載、さらに4:3の常識的な縦横比を持つノートPCとして、10.4型液晶パネルを搭載する製品には根強い人気がある。しかし、かつては多数の製品が存在したこの分野も、現在は松下電器Let'snote RシリーズとシャープMuramasa MM1シリーズしか残っていない(Tablet PCを除く)。

 その理由は10.4型XGA、B5サイズ、光学ドライブなしというフォームファクタが、ビジネスとして成り立ちにくいものになってきているからだろう。XGA化に伴って画素ピッチの狭さを嫌ったユーザーが12.1型クラスへと流れたことなども、このクラスの製品を少数派へと追いやった原因と言える。コンパクトさはともかく、軽さの点では12.1型も不満が少ないレベルに達してきていることもある。

 PCベンダー側の論理に立ってみると、これ以上、このクラスの製品を続けていくためには、新しいユーザー層を掘り起こさなければやっていけない。そう考えてもおかしくはない状況だった。各ベンダーでインタビューをしているといつも思うことだが、作り手側には本当に小型ノートPCを作ることが好きな人たちばかりがいる。彼ら自身も、小型化や薄型化、軽量化に挑戦したい。しかし、そのためにはそうした製品が受け入れられる市場を作っていかなければならない。

 12.1型以上の液晶パネルを搭載したノートPCは、それ1台で何でもこなしてやろうというビジネスパーソナルのユーザーが多いが、10.4型以下となると自宅あるいは会社のデスクトップPCに加えてもう1台のセカンドマシンであることが多い。サブのPCとして使われることから、サブノートという呼称も定着した。しかしサブノートである限り、市場の中で主役になれないというのも、表裏一体の真理である。

 それならばサブではなく、自分が使う唯一のメインマシンとして使える小型ノートPCにすればいい。冒頭のコメントは、そうした想いが詰まったものだ。サブの2スピンドルノートPCではなく、コンパクトな2スピンドル機。機能的に2スピンドル機に劣らないようにした上でコンパクトな筐体を与えることで、より広いユーザー層に対して小型ノートPCを売り込み、市場を拡大したいと考えたのではないだろうか。

 時を同じくして、コンパクトな光学ドライブメカやモバイル向けに適したプロセッサ、チップセットなどが登場した背景も、もちろん、それらを後押ししている。同時期に3機種の似通った製品が生まれたのは偶然ではなく、PCを構成するコンポーネントの進化と市場環境の変化が同時に作用したものと言えるかもしれない。

この夏登場のサブノート……ではなく「コンパクト2スピンドル機」。左から松下電器産業のLet'snote W2、富士通のLOOX T90D、ソニーのバイオノートTR(発表順)

●数字だけの判断は無意味

 コンパクト2スピンドル機のバイオノートTR、LOOX T90D、Let'snote W2の3機種は、いずれもすべて事前に実物を見たことはあるのだが、まだ詳細に評価するため使い込んだわけではない。したがって、ここで製品レビューのようなコメントをすることは避けるが、これらの製品を比較検討している読者は、次のことを意識してほしいと思う。

 まず数字だけに踊らされないことだ。たとえば、W2の1.29kgはTRの1.39kgよりも軽い。数字の上でそれは明らかだが、だからといってTRが重いかというと、実際に手にしてみると大きな差は感じなかった。さすがに約1.55kg(光学ドライブ非装着時)のT90Dは重さを感じるが、サイズと厚みだけで言えばTRと大差ない。また数字上では薄いW2は、底面積の大きさもあって見た目の上でも薄く見えるものの、実際にはバッテリ部の出っ張りのため、カバンに収める場合はその厚みを考慮しなければならない。

 さらに3製品共通の“ウリ”である光学ドライブは、TRがDVD-ROM/CD-R/RWコンボなのに対して、W2はDVD-RAMの読み込みも可能なマルチリード仕様。T90DはDVD制作も可能なDVD-Multiドライブを搭載している。T90DはDVD-Multiサポートのために、光学ドライブに12.9mm厚のものを採用しており、薄さや重さよりも機能性を重視した設計方針が見える。現在、市場で売れているDVD/HDDハイブリッドレコーダにDVD-RAM/Rドライブ採用機が多いことを考えると、DVD-RAMに録画したテレビ番組を携帯型のPCでも見たいと思うならば、これらの仕様面を重視すべきだろう。

 薄さを求めるのか、コンパクトさを求めるのか、どんな機能を必要とするのかなどは、購入者自身の利用スタイルに依存する。数字だけの比較はあまり意味がない。もちろん、数字は絶対だが利用スタイルにマッチするか否かや、ユーザーインターフェイス面での扱いやすさの方がずっと重要だろう。PCでは性能や機能が最優先されるものだが、いつも携帯するデバイス選びには、もっとエモーショナルな視点が必要だ。

 それにはやはり、自分で実機に触れるのが一番である。読者から、この3機種の記事はまだ書かないのかと催促のメールも届いたが、誰が記事を書いたとしても、書いた本人の視点(あるいは書いた本人が考えつく視点)でしか評価できないものだ。毎週届くメールを見ていると、最近はインターネットでの情報発信やコミュニケーションが発達したことで、机上の情報だけで製品の性格を判断しがちな読者も多いように思う。しかし、良い買い物をするためには実物に触れ、自分自身がそこで何を感じる何かを大切にする必要があると思う。

 多少、説教じみた話になってしまったが、長く付き合う携帯型ノートPCを選ぼうと思うのであれば、数字よりも自分の感性を大切にして欲しい。

●ツルツル液晶パネルはモバイル向きなのか?

 もうひとつ、ここで触れておきたいのが、液晶パネル表面をツルツルに仕上げた製品を、どのように評価するかだ。各社異なる名称で液晶パネルを表現しているので、ここでどのように書くべきか迷うが、少々ベタな表現ながら「ツルツル液晶」とでも書いておこう。

 ツルツル液晶採用の是非は今や、PCベンダーにとって非常に重要なテーマのひとつになっている。というのも、ツルツル液晶を採用していないPCは、デスクトップPC、ノートPCを問わず、売れなくなってきているからだ。昨年、ツルツル液晶の採用に対して抵抗を示していたNECとソニーが不調に陥ったのも偶然ではないはずだ。

 ぜはなぜツルツルになると売れるのか? 通常の液晶パネル表面は、外光の映り込みを目立たなくするため、反射光を拡散させるアンチグレア処理が施されている。反射光をぼかして、光源の映り込みによる見にくさを軽減するわけだ。

 ただし欠点もある。アンチグレアは液晶パネル表面に細かく均質な凹凸を作ることで実現しているが、反射光を拡散するだけでなく、バックライトからの透過光も拡散してしまう。このために色純度が下がり、クッキリ感も損なわれる。

 ツルツル液晶の場合、このアンチグレア処理を行なわず、代わりに滑らかなフィルムをコートしたり、フィルタパネルを設置する。このときのコーティング処理に工夫を加えることで、視野角を広げ、透過光拡散による色純度低下を防ぐことができる。しかし、すでに指摘されているように、ツルツル液晶は光源の映り込みが激しく、見にくいという問題もある。

 PCで何らかの事務的な操作をするならば、こうした映り込みはなるべく排除してほしいが、動画や写真などの自然画を見るならばツルツルの方が好ましい場合が多い。個人的にはツルツル液晶はデメリットの方が大きいと思うため、何度かメーカーの製品説明会などで「本当にユーザーに対して良いと思って採用しているの?」と質問をしてきたが、その答は「ツルツルじゃなければ売れないから」というものが多かった。

 もちろん、メーカーも映り込みに関して手をこまねいているわけではない。低反射コーティングを施した製品はこれまでにもあったし、ソニーはこの夏モデルで低反射+ツルツルを他社との差別化要因のひとつとしてアピールしていた。また家庭向け製品として捕らえると、目立つ光源の位置は1部屋に1~2個程度に限定される場合が多く、店頭や会社など光源が多数ある環境に比べて写り込みそのものを避けやすいという説明も、何社かから聞くことができた。

 では携帯することを考えて作られたモバイルPCの場合はどうなのだろうか? 据え置いて使うばかりではないモバイルPCの場合、必ずしも光源をよけられる状況にあるとは限らず、また自宅と会社、あるいは出先の飲食店など様々な環境下で使われる。

 今回取り上げた3機種のうち、ふたつは光沢感のある、いわゆるツルツル液晶を採用した。これは「そうじゃないと売れないから」なのか、それとも「問題を解決できたから」なのか。近く両製品を比較する機会があるため、この話題については追ってまた取り上げることにしたい。

□関連記事
【5月7日】松下、光学ドライブ内蔵で1.29kgの新型Let'snote
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0507/pana.htm
【5月13日】富士通、Pentium MベースになったLOOX Tシリーズ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0513/fujitsu2.htm
【5月14日】ソニー、1,280×768ワイド液晶のモバイルノート「バイオノートTR」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0514/sony1.htm

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(2003年5月21日)

[Text by 本田雅一]


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