6回にわたりCentrinoモバイル・テクノロジについて解説してきた本連載も、今回のレポートで最後となる。最終回となる今回は、Centrinoモバイル・テクノロジの今後について考えていきたい。 Intelは、Pentium M(Banias)の後継コアとして、今年の末までに90nmプロセスに微細化したDothan(ドタン)をリリースする予定であることを明らかにしているが、情報筋によれば、IntelはさらにDothanをフォローする製品を予定している。本レポートでは、IntelがOEMメーカーに説明しているロードマップなどを元に、Baniasファミリーの今後についてお伝えする。
Centrinoモバイル・テクノロジのもっとも重要なパーツといえるPentium Mだが、今後も拡張が続いていく。6月頃には、通常版Pentium M 1.70GHz、低電圧版Pentium M 1.20GHz、超低電圧版Pentium M 1GHzの3製品が追加される。 これらは当初は4月のリリースが予定されていたのだが、6月に延期されることになった。これは、1.70GHzの歩留まりが十分ではないことと、4月だとCentrinoの発表に近すぎるためとされている。その後、Baniasコアでは特に新しいクロックグレードは予定されていない。 次の大きなステップは、第4四半期に投入される予定の90nmプロセスで製造されるDothan(ドタン、開発コードネーム)がリリースされるタイミングとなる(詳しくは後藤弘茂氏が解説しているので、合わせて参照して頂きたい)。 Dothanのクロックは1.80GHzからスタートし、2004年の第1四半期には1.90GHz以上、低電圧版が1.30GHz以上、超低電圧版が1.10GHz以上の各クロックグレードが追加されることになる。 ●PrescottやTejasの-M版も引き続き投入される
Dothanが今年の末に投入されることで、Baniasのライフサイクルはわずか3四半期程度となるが、Dothanの次の世代は2005年に予定されており、Dothanは1年半近いライフサイクルの長い製品となる。 Intelにとって、Dotahnの位置づけは現在のBaniasと変わらない。というのも、Dothanは、L2キャッシュこそ2MBに増えるが、基本的な機能はほぼBaniasと変わらず、事実上Baniasの微細化版といってよい製品だからだ。 ただし、Dothanの熱設計仕様は、Baniasよりも若干あがることになる。IntelはOEMメーカーに対して、Dothanのライフサイクルの終わり頃まで見据えた設計をするには、29~31Wに耐えうる設計が前提となると説明している。 なお、熱設計消費電力が25W以上となる、フルサイズノートPCやトランスポータブル(デスクトップリプレースメント)の市場には、引き続きPrescott、さらにはその後継となるTejasというデスクトップPC用のコアを利用した製品が投入される。 Prescott-M、Tejas-Mの開発コードネームで呼ばれるこれらの製品は、現在の35Wからやや上昇した41Wの熱設計消費電力に納める低電圧で、ややクロックを抑えたバージョンと、デスクトップPC用とほぼ同じ消費電力で高クロックの2つのバージョンがあるという。 ●2005年に90nmの新アーキテクチャ「Merom」、2006年には65nmの「Gilo」を投入
IntelにとってDothanはL2キャッシュの容量が増える以外は、Baniasの微細化版といってよいCPUだ。これに対して、2005年に登場するCPUは、Merom(メロム)の開発コードネームで呼ばれている、全く新規設計のCPUとなる(ちなみに、Meromはイスラエルの地名で、聖書にも登場する)。さらに、2006年には65nmプロセスルールで製造されるGilo(ジロ)がリリースされる予定になっている(なお、Giloもイスラエルの地名だ)。 Meromの詳細は詳しくは伝わってきていないが、すでに述べたように全く新しいアーキテクチャとなるとされているほか、製造プロセスルールは90nmプロセスで製造されることになるという。また、IntelはMeromにおいて、現在のBaniasマシンのターゲットである1,500ドル(日本円で約18万円)以上のパフォーマンスPCセグメントのみならず、1,500ドル以下のセグメントであるローエンドのバリューPCセグメントにもMeromを推進していくという。 IntelはDothanコアのモバイルCeleronを2004年の第1四半期、ソニーのバイオU101に搭載されたような限定版ではなく、正式出荷版としてリリースする。これは通常版のモバイルCeleron 1.30GHzと超低電圧版モバイルCeleron 800A MHzの2製品が用意されており、前者はBaniasないしはDothanで製造され1MBのL2キャッシュを搭載し、後者はBaniasコアで製造され512KBのL2キャッシュを搭載している。つまり、後者は現在のバイオU101に搭載されたCeleron 600A MHzの後継といえる。 ただ、2004年におけるモバイルCeleronの大部分は、依然として現行NorthwoodコアないしはPrescott-Mコアベースになると予測されているという。ところが、Meromの世代では、これが逆転しMeromコアで、バリューセグメントにもモビリティを重視する市場を構築するというのがIntelのストーリーであるわけだ。 ●モビリティを推進するにはバリューPCセグメントへのBaniasファミリーの投入が必要
このあたりの戦略については、まだまだIntelにとっても半信半疑の部分が少なくないのではないだろうか。というのも、Intelの内部ではデスクトップPCこそ本流だとする流れは相変わらず強いという。それもあってか、IntelはすべてのノートPC向けCPUがPentium M、つまりBaniasファミリーになるとはいっていない。あくまでもモビリティを重視するセグメント、それもバリュー向けではなくパフォーマンスPCのみをBaniasファミリーのフォーカス市場としている。 しかし、多くのユーザーにモビリティをアピールするためには、パフォーマンスPCセグメントのみならず、1,500ドルを切るようなバリューセグメントにおいても、Baniasファミリーが浸透していく必要がある。 Intelがソニーにだけ提供しているという、あのCeleron 600A MHzというCPUは、おそらくその市場調査的な意味を含んでいるのだろう。もしバイオU101が大成功を納めるようであれば、IntelはバリューPC市場へのBaniasファミリーの投入を前倒ししてくる可能性が高いと予想できるだろう。 そういう意味においても、バイオU101に搭載されたCeleron 600A MHzというCPUは、Intelにとっても、ソニーにとっても、そしてモビリティの可能性を信じるユーザーにとっても非常に重要な製品なのだ。 ●DDR2ベースのチップセットはAlviso-GM、2005年にCrestine-GM
チップセットについてもIntelは拡張していく。Dothanと同じ今年の第4四半期に、Montara-GMの拡張版である、Montara-GM+がリリースされる。Montara-GM+はIntel 855GMEとなる予定で、モバイルPentium 4(-MのつかないデスクトップPCのリユース版)やモバイルCeleron向けにはMontara-GTの開発コードネームで知られるチップセットがIntel 852GME(内蔵グラフィックス有効版)、Intel 852PM(内蔵グラフィックス無効版)として投入される。 これらのチップセットでは、内蔵グラフィックスのクロックが引き上げられ(Intel 855GMEでは250MHz、Intel 852GMEでは266MHz)、内蔵グラフィックスのパフォーマンス向上が実現されるほか、メインメモリがDDR333に対応することになるので、システム全体のパフォーマンスも引き上げられる。 なお、Intel 852GME/PMではシステムバスは533MHzに引き上げられ、Intel 855GMEでは内蔵グラフィックスコアの周波数が、負荷に応じて変動する機能が追加される。また、いずれのチップセットもサウスブリッジはICH4-Mのままだ。 2004年後半には、Alviso-GM(アルビソジーエム)と呼ばれるチップセットが追加される。Alviso-GMはDDR2をサポートするほか、PCI Express 16Xのグラフィックスに対応することになる。これに合わせて各グラフィックスベンダもモバイル向けのGPUを開発していくことになるだろう。 Alviso-GMは、Baniasファミリー向けだけでなく、Prescott-M向けとしても投入されるが、おそらくシステムバスや内蔵グラフィックスのクロックなどで差別化されることになると思われる。 2005年にはCrestine-GM(クレスティーンジーエム)と呼ばれるAlviso-GMの次世代チップセットが投入される。これはMerom向けとなるが、現時点では詳細はほとんどわかっていない。 ●重要なことは今後モビリティノートPCのシェアを増やしていくこと
以上のように、Intelは2006年まで長期にわたるBanias、Dothan、Merom、Giloというロードマップを持っており、すでに開発はかなり進んでいると見られている。 だが、重要なことは、モビリティ(機動性)を重視した軽くて、バッテリ駆動時間が長いノートPCが、本当にマーケットのメインストリームになるかどうかだ。 現在、日本のノートPC市場においては、A4フルサイズ、ないしはトランスポータブル(デスクトップリプレースメント)の市場が大多数を占めており、モビリティなノートPCの方が少数派だ。意外なことだと思うかもしれないが、米国のほうがシン&ライトなノートPCのシェアが日本よりも大きいという。 確かに日本のパソコン市場の50%以上がノートPCと、ノートPCは多いように見えるが、これはモビリティなノートではなく、デスクトップリプレースメントのノートPCが多いからだとされている。実のところ日本人はあまりノートPCを持ち歩いてはいないのだ。 これには、筆者は主に2つの理由があると思う。第一に、よく言われていることだが、日本では公共交通機関での移動が主であるため、ノートPCのような重いデバイスは持っていけないということがある。そして第2に、すばらしく高機能化した携帯電話があるために、必要ないという理由だ。 第一の理由は、PCが小型化し、バッテリ駆動時間が延びることで解決できる問題だ。それこそ、携帯電話に対抗できるような小ささを実現し、携帯電話の機能まで持つとすれば、解決できる。そうした意味でも、バイオU101のような製品が今後増えていくのか、それが日本市場でBaniasファミリーが成功していけるのかの大きなポイントであると言える。これが大成功をもたらすようであれば、Intelもモビリティに対して本腰を入れ始めるだろう。 第2の理由を解決するには、ユーセージモデル(Usage Model)をエンドユーザーに対していかに提案できるかがポイントとなるだろう。エンドユーザーが「PCを持ちたい、もって歩きたい」と思いノートPCを持つ習慣を持つようにPC業界全体でアピールしていく、これが大きなポイントとなるだろう。 ●「ノートPCをもって歩くのは便利なのだ」ということを訴えることが重要
PC業界にとっても、モビリティなノートPCが成功することは大きな意味がある。あるOEMベンダの関係者は「中国では多くの女性が年に3、4回も携帯電話を買い換える。機能がすぐ古くなるし、毎日もって歩くのですぐぼろぼろになってしまうのだ。PC業界もこのサイクルを目指すべきだ」と指摘する。日本でも若者がお小遣いやバイト代をつぎ込んで携帯電話を買い換える姿をよく目にする。 現在、PCはおそらく3年に一回買い換えてもらえればラッキーな方だろう。なぜかと言えば、家の中で大事に使われているPCはファッションの一部ではないし、あまり毎日もって歩かないので、傷が付いたりすることもあまりない。 ところが、皆が毎日ノートPCを持って歩くようになれば、話は一変するはずだ。毎日もって歩けば傷も付くだろうし、壊れやすくもなるだろう。また、新しいモデルがでれば、新機能やより高い性能を求めて買い換えるサイクルは1年に数回は難しいだろうが、1年に一回というサイクルは定着するかもしれない。だとすれば、停滞しているPC業界にとっては再びジャンプできるきっかけになるかもしれない。 こうした前向きなスパイラルを起こすためには、もっと多くのホットスポットが必要だし、もっとバッテリ駆動時間が長く、そして軽い、そして安価なノートPCというのが必要で、業界全体として、「ノートPCを持つことの便利さ」をアピールしていくことが大事だ。それを技術的に実現するのが、Meromであり、GiloとなるというのがIntelのストーリーだろう。 そして、何よりも重要なことは、エンドユーザーにとって、それはとってもとっても便利なことだし、非常に大きなメリットがあることなのだ。 □関連記事 (2003年3月17日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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