2足歩行ロボットの競技大会「ROBO-ONE」第2回開催
~人型ロボットが殴りあう!

8月10~11日開催



 ロケットパンチやビームサーベルはないけれど、それでも2足歩行ロボットが殴りあいのガチンコバトルを繰り広げる熱い競技大会「ROBO-ONE」の第2回大会が、神奈川県にある川崎市産業振興会館において開催された。前回同様、熱いロボットへの思いを込めてレポートする。


■ROBO-ONEとは2足歩行ロボットの殴り合い大会だ!

 ROBO-ONEは、2足歩行するロボットがその「強さ」を競い合う格闘競技大会。主に個人やサークルなどが自作のロボットで参加している。

 参加ロボットの基本条件は、2足歩行型であることと、屈伸動作ができるということ。大きさは20~120cmと幅広く規定されているため、多彩なデザインや大きさののロボットが参加している。制御方法はラジオコントロール型でも自律型でも、または複合型でもOKで、多くの参加ロボットは、ロボット側に搭載したマイコンに無線でコマンドを送る、という形式を採用している。

 競技はデモンストレーション審査による予選と、格闘試合とデモンストレーションの総合得点で競われる決勝トーナメントの2段階形式で行なわれる。

■熱いバトルが続出の決勝トーナメント!

 ROBO-ONEの真髄ともいえる殴り合いによる決勝トーナメントは、デモンストレーションによる予選を勝ち抜いた上位16位までのロボットによって行なわれる。試合内容は、格闘試合と審査員によるポイントの複合点によって競われる。格闘部分は1ラウンド1分で5ラウンドが行なわれ、勝利条件はKOを取ること。ただし、一度倒れても10カウント以内に立ち上がればよい、というルールになっている。

 決勝トーナメントでは数々の熱い勝負が繰り広げられたわけだが、ここではその中からいくつかを抜粋しよう。

■同クラスのロボット同士の熱い戦い

 準決勝戦で行なわれた、吉村浩一氏「R-BlueIV」と森永英一郎氏の「Metallic Fighter」の試合は、今回の競技会の中でももっとも熱い試合といえるだろう。両ロボットともに人型フォルムを採用し、重量や身長にもそれほどの差はなく、格闘能力はほぼ同等。また両ロボットともに多彩なアクションが可能で、ともに大会参加ロボット中では数少ない「前後いずれに倒れても自分で立ち上がれる」という特徴を持っている。

 R-BlueIVは、前回大会に出場した「R-BlueIII」の後継機といえる、人型に近いフォルムを持つロボットだ。パンチや腕払いによる攻撃や、姿勢を低くして安定性を保つ防御、右手を上げてコイコイする挑発ポーズなど、多彩なアクションを行なえる。予選デモンストレーションは、前回大会のR-BlueIII同様に、トップの得点で通過している。

 Metallic Fighterは、前回大会に出場した「MIKE2002HU」の後継機といえるロボットだ。R-BlueIVに比べると、少しずんぐりとしたデザインだが、片足立ちでポーズをとったり、R-BlueIV同様に多彩なアクションが可能になっている。

 両ロボットともに前回大会出場ロボットからの発展型だけあって安定性が高く、ちょっとやそっとでは倒れないため、試合では殴り合いの場面が続くことになった。接近して互いの有効射程内に入ると、すかさず両ロボット、安定する低重心の姿勢に移行して殴りあうのだが、攻撃がヒットしてもなかなか相手を倒すことができない。不安定になる立ち上がった瞬間や移動の瞬間、相手の操作ミスを付いて攻撃すれば相手を倒せるが、両者ともに大会出場経験を持ち、操縦の腕前も十分でなかなかスキを見せない。さらにうまく相手を倒すことができても、両ロボット、自ら起き上がれる仕様。試合中、何度ダウンしても、不屈の闘志で立ち上がって相手に向かっていき、そのたびに会場が大きな拍手に包まれていた。

 試合は結局、ダウン回数の少なかったMetallic Fighterが僅差の判定で勝利を収めた。ROBO-ONE史上でも初の自在に立ち上がれるロボット同士の戦いは、文句無しの名勝負だったといえるだろう。

R-BlueIVの挑発ポーズ Metallic Fighterの片足立ちポーズ 近接戦闘時には両者ともにしゃがむ
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■大きさの異なるロボットの試合

 優勝決勝戦で行なわれた森永氏のMetallic Fighterと中村素弘氏の「HSWR-01」の試合は、サイズの大きく違うロボットの戦いとなった。

 HSWR-01は今回大会では最大級の大きさを持つロボット。アニメのロボットを思わせるスマートなデザインで、デモンストレーションでは、投げられたビーチボールをキャッチし、投げ返すという動作を、人間によるコントロール無しの自律状態で行なうなど、機能的にも多彩なロボットだ。

 HSWR-01は足を開いて腰を落とす戦闘態勢を取ることで安定性を高めることができ、一回り以上小さいMetallic Fighterが攻撃しても、なかなか倒れることがない。また、HSWR-01は腰を落とした戦闘態勢から繰り出すつきおろすような強烈なパンチを武器とするのだが、Metallic Fighterも腰を落とすことでそのパンチをうまくよけていく。

 それでもHSWR-01のパンチがMetallic Fighterにクリーンヒットすることもあり、何度かMetallic Fighterはダウンを奪われるのだが、そのたびにMetallic Fighterは立ち上がるという、良い意味でゾンビっぽい試合が展開された。

 対してHSWR-01は自分で立ち上がることができないため、一度はMetallic FighterにKOされてしまい、さらに最終ラウンドでは決勝戦までのダメージがたたったらしく、開始直後に転倒して敗北を喫してしまう。

 ROBO-ONEは「相手を倒してKOを奪う」ことが目的となる格闘競技大会。重いロボットの方が、その質量から攻撃時にも防御時にも有利なわけで、この試合でも重量のあるHSWR-01の方がより多くのダウンをMetallic Fighterから奪っていた。しかし、Metallic Fighterは何度でも起き上がり、最終的には勝利を手にするという結果となった。「起き上がる」という機能がこの大会では重要であることを示す良い例だといえるだろう。

HSWR-01。軽量化パンチングアルミ板を多用 HSWR-01お得意のボールキャッチ。実戦では使われないが潜在力の高さがわかる HSWR-01のコントローラはMac OS機。他にもMacを使う参加者がいた
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■長身同士による熾烈なバトル

 準々決勝第3試合の、SHR研究会による「STEP1」と中村氏のHSWR-01の試合は、いずれも大会最大級ともいえる長身の人型ロボット同士の熾烈な戦いとなった。

 STEP1は、今回のROBO-ONEのエキシビジョンとして行なわれた、階段上り下り競技「ROBO-ONE Stairs」に、唯一成功したロボット。HSWR-01と身長はほぼ同等で、大会では2強ともいうべき大きさ。この試合は、ROBO-ONE始まって以来の大物同士の対決となった。

 この試合では両ロボットともに安定性が高く、お互いのパンチがヒットしてもなかなか相手を倒すことができないという展開となった。しかし互いに腕を引っ掛けたりバランスを崩して、ダブルKOという場面が何度かあった。

 両者ともに成人のヒザよりも高いくらいの身長があるため、転倒時には大きなダメージを受けてしまう。両ロボットともに、KOするたびに2分の制限ギリギリの整備時間を駆使して試合を再開させる、という状態になるのだが、試合の終盤ではSTEP1の左腕が上がらなくなったり、ダブルノックダウン時にHSWR-01がリングのフェンスに後頭部をクリーンヒットさせてしまうなど、他の試合にはない荒っぽい試合展開となった。

 試合はほぼ互角だったが、最終的には僅差の判定でHSWR-01が勝利を収めた。大会初ともいえる重量級同士の戦いにふさわしい熾烈な試合だったといえるだろう。

STEP1。ほぼ常にファイティングポーズをとっている 階段昇降競技「Stairs」に挑戦するSTEP1。見事クリアし10万円をゲット
【動画】

■大会には50台以上のロボットが出場!

 今回の大会には実に50台以上のロボットが出場している。決勝に進んだロボット、惜しくも予選で敗退したロボットを含めていくつかを紹介しよう。

Adamant 2nd

 滝沢一博氏の「Adamant 2nd」。滝沢氏は前回大会に引き続いての出場で、今回は予選を2位で突破。重量感と安定感を両立させたロボットで、歩行しながら上半身でガンガン攻撃しても、姿勢は安定そのもの。

 決勝ではR-BlueIVを圧倒し、何度もダウンを奪うのだが、R-BlueIVはダメージを受けることなく何度も立ち上がるため、その点を評価されR-BlueIVが勝利を収める。


ガングー1

 松川政之氏による「ガングー1」。並行リンクによる脚部と腕部を持つ。シンプルな機構を活かした機動性の高さは大会参加ロボット中でも最高クラスで、速攻で相手の懐に飛び込み、リーチの長いパンチをお見舞いする。安定性も随一でなかなか倒されないのだが、決勝トーナメントではパンチが一切通用しない重量級のHSWR-01と、いくら倒しても起き上がるR-BlueIVに負け、結果4位に。


ROBOTIS-GW1

 韓国からの参加となるByongSoo Kim氏の「ROBOTIS-GW1」。小型で下半身しかないロボットだが、関節の動作角が広く、さまざまな姿勢で安定する。防御のために低い姿勢のまま歩いたり、転倒時に自分で立ち上がることなどが可能なので、捨て身の頭突き攻撃を武器とする。エキシビジョンの階段昇降競技Stairsに参加するが、惜しくも時間切れで成功ならず。


LEGO Trooper

 佐伯和人氏の「LEGO Trooper」。玩具のLOGOを使ったシンプルなロボットで、サーボモータなども最小限の数しか使っていない。重りの役目を果たす電池をつけた尻尾により左右の重心移動をして歩く。決勝トーナメントに進むものの、今回大会では最軽量クラスでありながら、最重量クラスのAdamant 2ndに第1回戦で当たり、なすすべなく敗退。


「A-Do」(左)と「A-Do U-Knight」(右)

 すがわらゆうすけ氏の「A-Do」(左)としもさきよういち氏の「A-Do U-Knight」(右)。すがわら氏と「A-Do」は前回大会に引き続いての出場で、A-Do U-KnightはA-Doの動作などの最適化を行なった新型機。両者ともに決勝トーナメントに進むが、第1回戦で兄弟対決となり、動作がゆっくりながら安定しているA-Doが勝利する。すがわら氏のマイクパフォーマンスは前回同様、大会随一。


弐号機

 坂本元氏の「弐号機」。予選ではザクのプラモデルを認識し、自律攻撃するというデモンストレーションを披露し、さらにエキシビジョンの階段昇降競技Stairsでは転倒して失敗するものの、もっとも速いテンポで階段を上るなど、大会参加ロボット中ではもっとも多彩な機能を持つ部類に入る。しかし、決勝トーナメントでは初戦敗退という残念な結果。次回の参号機に期待。


Limbgrand

 松本大輔氏の「Limbgrand」。松本氏は前回大会でガンダムのプラモデルのフォルムそのものの「RC-GUNDAM」で出場している。RC-GUNDAM同様に、小型サーボを使っていて、サイズは最小クラス。歩行・屈伸・攻撃アクションをこなし、予選を突破するも、重量差はいかんともしがたく、初戦でR-BlueIVに当たり敗退。


電龍R01

 足の裏のバキュームで地面(リング)に吸着する「電龍RO1」。通常の静歩行のように「重心を設置する足の裏の上に常に維持する」という動作が不要。予選の点数253点で16位の259点に及ばず敗退。攻撃手段はもたないが、重量感のある機体がバキュームにより倒れることなく移動することを考えると、強烈な体当たりによる戦闘を拝見できたかもしれない。


AAR-1

 青木英二氏の「AAR-1」。実は足の裏に圧力センサを搭載していて、フィードバック制御を行なっているとのこと。ROBO-ONEの参加ロボットの多くはセンサによるフィードバックを使わず、決められた動作をするシーケンシャル制御なので、フィードバック制御のロボットは珍しい。


RV-02

 謙滋氏の「RV-02」。左右のカバーに囲まれてわかりにくいが、キャタピラ走行だけでなく、変形することで内部の足で歩行することも可能。実は前後に2足が並ぶという変則的なデザインを採用している。


BKG3 メカ Sdo

 武蔵工業大学 機親会の「BKG3 メカ Sdo」。クラッチにより足の位相をコントロールするという非常にユニークなロボット。燃費を競う競技「エコラン」からの技術転用とのこと。


ERC-H1

 加藤史樹氏の「ERC-H1」。頭部のCCDからの映像を無線で受信し、ヘッドマウントディスプレイでそれを見ながら操縦できる。デモンストレーション中にロボットが転んだ瞬間の操縦者の大きな反応がポイント。怖いと思う。


AZ-D1 モリムラ

 田中章愛氏の「AZ-D1 モリムラ」。バネを仕込んだユニークな変形リンク機構を足に採用。上下前後をリンク機構でコントロール。最初はジャンプさせようと考えたというが、今回大会ではストロークの短いデザインで挑んでいるとのこと。


ブロッサム改

 しばたよしひろ氏による「ブロッサム改」。前回大会の「ブロッサム」の後継機。前回大会同様、今回のロボットもエアコンプレッサを活用していて、武器だけでなく、屈伸動作にもエアシリンダを使う。2種のラジオコントローラを使い、2人でコントロールする。電子制御を使わず、本人コメントでは「マイコンって食べ物ですか? 」というイカしっぷり。


TA-18R

 前回大会で優勝した藤野祐之氏の「TA-18R」。前回大会ではリンク機構中心のロボットだったか、今回は各関節にサーボを仕込んだロボット。基本動作をこなすものの、基本動作以外のデモンストレーションを行なわず、予選16位の259点にわずかに及ばない255点で予選敗退という結果。激しく惜しすぎ。



■参加者のレベルが一気に向上した第2回大会

 今回のROBO-ONE第2回大会には実に72台のロボットがエントリーし、実際に50台以上のロボットが予選のデモンストレーションに参加した。2月に行なわれた前回大会は、2足歩行ロボットという高いハードルを持つ初回大会にしては多い38台のロボットが参加していたわけだが、わずか半年でそれをはるかに上回る参加者が集まったというわけだ。

 参加ロボットの質の向上も著しかった。第1回大会では歩行さえできれば決勝トーナメントに進出できる、というレベルだったが、第2回大会では歩行どころか新たに加わった規定である屈伸動作ができても、予選デモンストレーションで十分にアピールできないと決勝トーナメントに進出できない、という状況だった。

 特に予選突破のボーダーとなった16位の259点周辺の競争が激しく、前回優勝者の藤野氏の「TA-18R」の255点を始め、6台以上のロボットが250点前後に集中するという激戦となった。これは決勝に進出してもおかしくないロボットがそれだけ多数いたということだが、実際に予選を見てみると、歩行・屈伸の基本動作はもちろん、試合にも十分耐えうる機能と完成度を持ったロボットが多数予選落ちした印象だ。

 また、この種のアマチュア中心のロボット競技会では、直前の工作やメンテナンスが間に合わず、十分な力を発揮できない参加者が多いもので、第1回大会ではご多分に漏れずそういったロボットが多かった。しかし第2回大会ではそういった参加者の割合が減り、完全動作状態でデモンストレーションに望んだロボットが多かった。前回の教訓や積み重ねを元に挑んできている参加者はもちろん、今回初参加の人も互角の完成度で戦っていた印象を受けた。

 そうした成熟の一方で、ROBO-ONEでは規定の曖昧さが許すロボットのバリエーションも楽しめる。サイズの大きく違うロボットや、ユニークなコンセプトのロボットが同じ土俵で戦うのは、ROBO-ONEならではの楽しみといえるだろう。筆者個人的には、今後も必勝パターンに偏らず、バリエーションに富んだロボットが参加することを期待したい。

 ちなみに次回大会は2003年2月に予定されていて、アジア大会を韓国で開催することを現在検討しているとのこと。ROBO-ONEは見ていても楽しいロボット競技会だが、ロボット競技会は見るよりも参加することの方が楽しいことが多い。まったくの素人にはハードルが高くなってしまったが、工作好きの人はこの大会を機会に2足歩行ロボットの世界に踏み入れるのもよいのではないだろうか。

□ROBO-ONEのホームページ
http://www.robo-one.com/
□関連記事
【2月4日】世界初の2足歩行ロボット競技大会「ROBO-ONE」開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0204/robo.htm

(2002年8月12日)

[Reported by 白根 雅彦]


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