衝撃の「DynaBook J3100SS 001」が登場した平成元年から30年が経過し、令和の時代がやってきた。その30年間に数々の世界初を成し遂げてきたdynabookの系譜。
そもそも「DynaBook J3100SS 001」の誕生はラップトップがノートブックに生まれ変わった瞬間だったといってもいい。そしてdynabookは、もはや、これ以上やることがあるのかと思えるほどに、クラムシェルノートブックPCの完成されつくした世界観を提供し続けてきた。
ところが、平成の時代をくぐり抜け、華麗に登場した「dynabook G」は、同シリーズの30周年記念モデルとしてさらなる進化を極めた。
個人的な印象としては、30年前の「みんなこれを待っていた」ときのdynabookにイメージが重なる。質実剛健でいながら足りないものが何もないまさに究極の「ザ・クラムシェルノートPC」だ。
今回は、そのプロダクトマネージャーとして、設計の指揮をとった設計統括部PC設計部の杉浦雄介氏に話をきいてきた。
「dynabook」シリーズ30年の進化「一人でも多くのお客さまに届けるために」
―― クラムシェルノートPCは、もはやこれ以上何をすればいいんだろうと思うくらいに初代のdynabookからの30年間で完成の域に近づいていたように思います。設計の責任者としてやりにくくなかったでしょうか。
杉浦雄介氏:私は2002年入社で、最初は電波設計担当でした。設計段階での試作機で、電波や電磁波の干渉をチェックする立場でした。システム担当になったのは2010年頃からです。具体的には「dynabook RX3」からです。25周年記念モデルで、当時、光学ドライブ付きの13.3型液晶モデルの中では世界最軽量でしたが、モバイルPCを手に届かないものではなく、より多くの人々に提供しようというコンセプトで作った製品です。おかげさまで現行のドライブ付きR7につながる大ヒット商品になりました。そのあとデタッチャブル2-in-1カテゴリを担当し、現在に至っています。
新製品を出す時は、商品企画と設計とが話をしながら最終形を模索していくのですが、やはり過去の歴史があるので、プレッシャーは感じますね。もちろん先人の失敗もあるので、それもふまえて、やるべきことを明確に決断し、よりよいものをと考えることができる面もあります。
今回の「G」は、世界一をめざすというよりも、本物の高性能を一人でも多くのお客さまに届けるために何ができるのかを考えることからスタートしました。もちろん、自分一人でつくるわけではないので、さまざまな議論が飛び交います。
軽量化には向いていない装備でも、「dynabook」としてのクオリティや堅牢性、安全を優先し必要なことも
――「dynabook G」については、軽量化についての議論はどのような感じだったのでしょう。
杉浦氏:商品企画からは一般的に1キロを超える製品が多い中で、現状で1キロを切る製品がdynabookにはないということで、要求仕様は1キロと800グラムの2パターンが提案されました。バッテリ容量によって、重量が2種類想定されたのです。
まず、設計部門の中だけで、外装にリチウムマグネシウムを利用するなど、コストのことは無視して考えてみることから始めました。そこから現実的な仕様にもっていって、商品企画にアイディアを戻すのです。
装備するポートの種類、HDMI端子や有線LAN端子の有無など、さまざまな要素を考慮します。この機能を入れるとフットプリントが大きくなる、こうすれば大丈夫といったことを、試行錯誤しながら完成形に近づけていきます。
バッテリのセル数やパネル(FHD、HD)の組み合わせで重量は変わってくるのですが、LCDとバッテリの重さが総重量に占める割合が大きいですね。それをああでもない、こうでもないと、いろいろな要素を調整しながら詰めていくのがわれわれの仕事です。
―― 2つの仕様パターンを同時並行で設計するのですね。
杉浦氏:はい。液晶サイズで必然的にフットプリントが決まり、重量は2セルと4セルバッテリを想定しました。同じボディを2セル仕様と4セル仕様で兼用するのですが、当然、2セル仕様では空きスペースが生じます。そこで、2セルモデルにはセル2つ分の空きスペースにスペーサーを入れる事にしました。最初の設計段階ではスペーサーがなかったのですが、実際に使ってみると、キー打鍵時にキーボード面がたわむことがわかりました。手を置くことがもっとも多い面だけに、質量を犠牲にしてもスペーサーパーツを入れてそのたわみを回避することにしました。
実は、バッテリセルとバッテリセルの間には、補強用のフレームがあって、筐体の縦方向からの力を逃がし、バッテリセルに力が加わらないようにしています。Vシリーズのころから同様の対策をしていたので、それをフィードバックしたかたちです。
邪魔で軽量化には向いていない装備でも、全体の「Dynabook」としてのクオリティや堅牢性、安全を優先するには必要なこともあるのです。ネジに滑り止めを施して緩みにくいようにしているのも、そんな考えに基づくものです。
一人でも多くのお客さまに快適に使っていただくためには、軽量化と堅牢性のバランスを両立させる考え方を捨てるわけにはいきません。
軽量化は大切ですが、サウンド面などのこだわりも大切にしています
―― 内部基板についてはいかがでしょう。
杉浦氏:今回は貫通基板を使いました。コストの高い特注品を使わず、多くの人に届けられることを優先しました。
それでもスピーカーなどはボックスレス構造でサウンド面での優位性を確保しています。この構造をあきらめることで、それなりに軽くはなるのですが、高品位なIGZOパネルを使っているモデルでスピーカーが貧弱だと製品としてバランスが悪いと考えました。
dtsとチューニングの作業を進めるなかで、人の声の再生にこだわっていることも今回の「dynabook G」シリーズの特徴です。ビデオ通信やテレカンファレンスなどでの音質の優位性を確保しました。
ほかにはアンテナ位置もこだわっていますね。液晶フレームをできる限り狭額縁にするため、液晶上部への配置を避け、プラスティック製のコーナーキャップをヒンジの両脇に配置し、その内部にWi-Fiのアンテナを装備しています。電波をさえぎらない素材で、性能とデザインを両立させることができたのではないでしょうか。自社試験ではこれまでと同等の感度を確保しています。
細かいところでは、底面のゴム脚の配慮を見て欲しいですね。まず、脚を接着剤でとめてネジを隠すということはしていません。それではどうしても脱落しやすくなりますから。さらに、それに加えて機構でゴム脚が外れないような工夫もしています。手前と奥のゴム脚は、微妙に高さを違わせているようなシカケもあるんですよ。これで、本体部分が多少チルトしてキーボードが打鍵しやすくなります。また、ゴム脚の中心にもたわみをもたせて、テーブルやデスクの上に置いたときのがたつきを抑えています。目立たないかもしれませんが、こうした工夫によって使い勝手には大きく貢献しているはずです。
さらにボディのたわみをコントロールして、LCDカバーから圧力かかったときの対策のために底面はわずかにすり鉢状に仕上げています。その方が力の逃げが大きくなるので、万が一、LCDカバーの側から押されても机との距離があるため、撓んだ時に机に当たりにくくなり、内部へのダメージを抑制することができます。
最近は3Dのモデリングで解析をするのですが、実際にテストしないとわからないことが多くてたいへんです。解析で大丈夫でも実機ではダメだったりすることも少なくありません。それらを克服しつつ、押圧テストと落下テストをいったりきたりしながら根気よく筐体のエンジニアと作業を進めていきます。
―― キーボードについてはいかがですか。
杉浦氏:キーボードは64本のネジでとめてあります。金型から面に孔を空けた状態に生成し、日本語キーボード専用に金型を作っています。キーボード面に肉厚をもたせて剛性を確保するのではなく、面を支えるようなTの字パーツで強度を確保しています。重量へのインパクトを最小限にしながら打鍵感を確保しています。
30年の進化で開発にも新たなる技術を導入
―― 30年の歴史の中で設計の現場にどのような変化がありましたか。
杉浦氏:風の流れを確認し、温かい風が循環してしまうようなことが視覚化できるようになって、放熱効率を向上させるための対策がしやすくなりました。それによってインテル® Core™ プロセッサのパフォーマンスを常に最大限に発揮させることができます。また、3Dプリンタが大活躍するようになりました。透明なボディも作れるので、内部構造の安全性なども目で確認できます。
設計作業の効率はあがりましたが、随所にちりばめられた工夫は設計者のノウハウが凝縮された知恵の結晶です。たとえばLCDと基板とのコネクタのロック機構をしっかりしたものにして、パネルが点灯しないなどのトラブルを回避したり、ケーブルもいったん外にまわして負荷がかからないようにすることで意図せぬ切断がないような工夫をしています。
考えられることはすべてやったと思っていますが、でも、まだまだやることはありそうです。これからも「dynabook G」シリーズをはじめ、「dynabook」に注目していていただきたいですね。
「dynabook G」は、余分なものもなければ足りないものもない究極の“dynabook”
クラムシェルノートPCはすでに完成の域に達し、その発展系は、フォームファクタの大きな変化しかないと考えていた。だが「dynabook G」は、その予想をいい意味で大きく裏切った。完成されつくしたかにみえて、実は、まだまだやることがあったということがわかる。
実際に話を聞いてみなければわからないような小さな点にしか見えないかもしれないが、実際に使ってみると、それが使い勝手に大きな影響を与えていることを実感する。作り手であると同時に使い手でなければ考えが及ばないようなことが多いのに感服する。余分なものもなければ足りないものもない。「G」は、GenuineのGであり、ザ・クラムシェルノートPCであることの称号だ。「dynabook G」のめざしたのは、そんな製品なのではないだろうか。
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