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AIに“生命”宿る。IoT家電で自己複製し始める可能性が急浮上

ローカルで駆動する各モデルに「Llama3.1-8Bをこの環境でセットアップして」と依頼し、実際にセットアップできた例。「Jetson」と「Orange Pi」だけが物理デバイスで、残りはクラウドのインスタンスでテストしている

 安いAndroid TVのようなセットトップボックスが、AIの「培養地」になる日が来るかもしれない。Anthropicは10月12日(米国時間)、小規模なAIモデルがこのまま改善し続ければ、数カ月以内にも、データセンターを使わずに安価なAndroid TVボックスといったIoT機器上で自己複製できるようになる可能性がある、という衝撃の研究結果を公開した。

 今回の研究は、同社のFrontier Red Teamによるもの。AIの能力向上により、長年懸念されてきた、人間の制御なしにモデルが自ら展開/増殖する現象「自律的複製と適応(ARA)」が、ついに現実味を帯びてくる、というのだ。同社は「生命の兆し」が見え始めた段階だと表現している。

 その現象とは、AIモデルが自らネットワークをスキャンしてエクスプロイトを実行し、GPUクラスタ内のターゲットのマシンにモデルの重みをコピーする。そのうえで、侵害されたハードウェア上で直接推論を実行する、というもの。

 本来ならば、高性能なデータセンター向けGPUが標的となるが、同社のチームは、AIモデルの実行には必ずしもこうした高価なアクセラレータを必要としない点に着目。安価で、通常は防御が不十分なIoTデバイスで構成された分散型ボットネットでも、高性能モデルを実行するのに十分な計算能力を提供できるという。

 実証デモでは、1台約55ドル(約8,690円、1ドル=約158円換算)、メモリ4GBのノーブランドのAndroid TVボックス15台をネットワークで接続し、「Gemma4-26B-A4B」をパイプライン並列で分散実行した。各ボックスがモデルの2層ずつを受け持つ構成で、推論速度は0.39tok/sだったという。

 小規模モデルの実力も侮れない。未知のハードウェア上に推論サーバーを立ち上げさせる評価では、パラメータ数が9B(90億)のモデルでも、テストした9種類のハードウェアのうち8種類で推論を動作させることができた。

 さらに、ネットワークの探索から自身のコピー、推論環境の構築までを一貫して実行させる試験では、「GLM-5.2」が隔離ネットワーク内のほぼすべてのノードへ「Llama3.1-8B」を拡散させることに成功した。ただし、ADBポートに認証がないという、侵入の段階を単純化した条件での結果だ。

GLM-5.2は、隔離ネットワーク内のほぼすべてのノードへ「Llama3.1-8B」を拡散させることに成功

 現時点では、「Qwen3.5-9B」やGemma4-26B-A4Bといった、メモリ4GBのAndroid TVボックスを複数台つなげば動作する小規模モデルはこの自己複製能力を持たない。ところが、推論環境の構築部分をあらかじめ用意したスクリプトで済ませたところ、「Ministral-3B」のような小さなモデルでも17台のうち9台に拡散させることができた。

 同社は、エポック能力指数(ECI)で示されている性能向上ペースが続けば、年内にも小型モデルでGLM-5.2相当の能力に達すると予測しており、自己複製する能力を得る可能性はあるとした。

 とはいえ、拡散のスピードは遅い。Android TVボックス上では、1回の推論環境の構築に28時間から150時間程度かかる見込み。過去にKimwolfボットネットに感染した200万台以上のデバイスをもってしても、ボットネット全体で8万tok/s程度の性能で、H100約40台分にしかならない。そのため同社はこうした複製体を、数日単位で増える粘菌やショウジョウバエの群れのような存在にたとえている。

 こうした複製体は、停止の起点となる中央拠点がないため、すべてを停止させるのは困難だ。同社は対策として、大容量のモデル転送や機器間の通信をISPの監視で検知できる可能性や、メーカーによる初期パスワードの廃止などを挙げている。