3dfxはComdexに合わせて、新しいグラフィックスチップと、それを用いたグラフィックスカードの新製品を発表した。グラフィックスチップのVSA-100と、それを用いたカード製品であるVoodoo4とVoodoo5がそれだ。これらの製品そのものについては、すでにPC Watchの現地レポートでも取り上げられているから繰り返すことはしない(まだの人は、ぜひ読んでおくことをお勧めする)。ここでは、筆者の率直な感想を述べることにしたい。
まず、今回の発表で最も気になるのは、VSA-100がジオメトリエンジン(ハードウェアT&L)をサポートしなかったことだ。確かに、「現時点で」市場にはハードウェアT&Lをサポートした本格的なタイトル(Dirext3Dタイトル)は存在しない。グラフィックスチップにジオメトリエンジンを入れても、ソフトウェアがサポートしてくれるまで、ジオメトリエンジンに割いたトランジスタは無駄になってしまう。それに対して、レンダリング性能の強化は、現在のソフトウェアですぐに効果が得られる。ハードウェアT&Lをサポートするよりレンダリング性能を強化した方が、ユーザー利益につながるという同社の言い分に一理あるような気がしてくる。だが、本当にそうだろうか。
たとえばVSA-100の売りの1つであるフルシーンアンチエイリアスは、APIトランスペアレントであり、どんなタイトルであろうと、即効果が得られる。オブジェクトのエッジのジャギーが解消するし、遠方の小さなオブジェクトが描画されたりされなかったりする、といった不具合もなくなる。その点で、非常に効果が高いのは間違いない。だが、逆にいえば、フルシーンアンチエイリアスがないことによる問題は、こうした「見た目」の問題ということでもある。
もちろん、Bug's Lifeのような映画を見れば、3Dグラフィックスにおいて「見た目の良さ」が快感につながる重要な要素の1つであることが容易に理解できる。決して軽視して良いわけではないが、現在のゲームのグラフィックスはそこまでのレベルに達しているわけではない。VSA-100が快感を感じられる3Dグラフィックス(同社の言うDigital Holywood)に向けた第1歩であることは認めるが、同社が提示しているゲームのデモを見る限り、現状で不可欠とまでは言えないように思うのだ。
■ハードウェアT&Lは本当に不要か
一方、ハードウェアT&Lだが、サポートしたタイトルがなければ、トランジスタの無駄になりかねないのは間違いない。だが、もしハードウェアT&Lをサポートしたタイトル(ジオメトリエンジンに合わせてポリゴン数を増やしたタイトル)が現れた時のインパクトは、フルシーンアンチエイリアスの比ではないだろう。フルシーンアンチエイリアスの欠如による不都合が、見た目の悪さであるのに対し、ハードウェアT&Lをサポートしたタイトルをそれを持たないハードウェアで実行した場合の不都合は、実用にならないフレームレート、という形で現れる。見た目の悪さも何も、まともに動かないのである。これは、ハードウェアT&Lを持つGeForce 256と、持たないRIVA TNT2 Ultra(両者のレンダリング性能にそれほど大きな違いはない)でTreeMarkを実行してフレームレートを比べて見れば良くわかる。
もう1つ、ハードウェアT&Lのサポートで言われるのは、これをサポートしたタイトルが豊富に入手可能になるまで、まだまだ時間がかかるだろう、ということだ。これも事実かもしれない。ハードウェアT&Lをサポートするタイトルが市販タイトル中かなりの割合を占めるには、かなりの時間を要するだろう。だが、果たしてそれにどれくらい意味があるのか。PC用のゲームは、毎月数10本がリリースされているが、そのうち大ヒットとなるのは、月に1本かそれ以下だ。そのヒットする1本がハードウェアT&Lをサポートしたものになった瞬間、世の中のモメンタムは一気に変るだろう。早い話、Quake級のヒット作がハードウェアT&Lをサポートした時点で、他のタイトルがサポートしようがしまいが、流れは変ってしまうのである。
つい最近、Quake III Arenaの最新のデモ版が登場した。Quake 3 Arenaは,一部ハードウェアT&Lを意識したコードが含まれているといわれているが,ハードウェアT&Lに完全対応したタイトルではない。だが、この最新版でGeForce 256とTNT2 Ultraのフレームレートを比べると、これまでのテストリリース(1.08以前)より大きな差がつくようになっている。開発元のid Softwareがグラフィックスエンジンを他社にライセンスしていることと合わせ、ハードウェアT&Lをサポートしたタイトルが登場するのは、想像しているより早いかもしれないのである(その理由の1つは、id SoftwareがグラフィックスAPIにOpenGLを選んでいることと無縁ではない)。
VSA-100の登場時期は、来年の第1四半期とされているが、おそらく春ごろではないかと思われる(つまりVSA-100のライバルは、NV-10であるGeForce 256ではなく、その次のNV-15ということになる)。仮にこの時点でハードウェアT&Lの必要がなかったとしても、その3ヶ月後にも不要と言いきれるだろうか。もちろん、誰よりもそれを知り、水面下で必死にハードウェアT&Lをサポートしたチップを開発しているのは、ほかでもない3dfx自身だろう。
■複数チップ搭載を選択した理由
VSA-100でもう1つ気になるのが複数チップによる並列処理を前提にしていることだ。これは、利用可能なプロセス技術との兼ね合いもあり、一概に悪いということはできないが、1チップで済むのならそれに越したことはない、というのが率直なところに違いない。3dfx(と3dfxからスピンオフした開発パートナーであるQuantum 3D)は、Voodoo2のSLIなど、こうしたマルチチップ構成に関する経験があり、同様のプランを持つATI Technologies(Rage 128 Proを2チップ使うRage Fury MAXXの計画を持つ)よりは有利かもしれない。が、筆者の目には1チップでは競争力に欠けるため、力ワザで何とかしようとしている、という風に見えてしょうがないのである。
誤解のないよう断っておくが、筆者はレンダリング性能の向上が要らない、といっているのではない。Digital Holywoodの実現を考えれば、まだまだレンダリング性能は向上しなければならないし、その意味でT-BufferやFXT1といった3dfxの技術には注目している。だが、レンダリング性能さえ向上すれば良い、という意見に同意できないのである。ジオメトリとレンダリング、両方の性能が欲しいのだ。ゲームのプラットフォームである一般のPCの場合、ジオメトリを強化するため、CPUをマルチプロセッサ構成(4way、8way)にすることはコストの点で考えられない。グラフィックスチップがハードウェアT&Lをサポートすることの意味は少なくないハズだ。
('99年11月18日)
[Text by 元麻布春男]