Click


第16回:薄型ノートPCの将来を変える、ある予定変更



 連載第10回の「ハイパフォーマンスプロセッサの陰に隠れた低電圧版プロセッサ」で述べたように、Intelのプロセッサ戦略と携帯型ノートPCの関係は非常に深い。

 ある程度サイズの大きなノートPCであれば、Intelが2次キャッシュメモリ込みで9.5Wというルールでモバイル向けプロセッサを作ってくれる限り、基本的にはCPUを載せ換えてから発熱など一部の調整をする程度で製品を作ることができるからだ。
 ところが、ミニノートPCや薄型B5ノートPCともなれば話は変わってくる。10Wと言えば、それらのノートPCが一気に注目を浴びたMMX Pentiumの2倍近い消費電力となり、ギリギリの小型化を進めるこの分野の製品にはかなり重い足かせとなるからだ。キャッシュメモリが統合され、今後は製造プロセスの微細化でダイサイズが小さくなってくると、同じ消費電力でも熱密度(単位面積/容積あたりの発熱)が高くなり、また最大消費電力がMMX Pentiumよりも大きいため、冷却も厳しくなっていく。

 そこで「ハイパフォーマンスプロセッサの陰に隠れた低電圧版プロセッサ」では、9.5Wとは別に低消費電力版プロセッサのガイドラインをIntel自身が示すことを提案していた。



■ 都合によって変わってしまうミニノートPC向けガイドライン

 ところが、筆者が入手できていなかった「Intel Mobile Power Guideline 2000('99年12月発行)」というホワイトペーパーには、きっちりとミニノートPC向けのガイドラインが示されていた。それによると、通常のノートPC向けは9.5W、ミニノートPC向けには5Wを上限とするマイクロプロセッサ(+2次キャッシュメモリ)を前提に設計をしましょう、とあるのだ。

 この数字はホワイトペーパーを作成した時点での、Intelが提供できると予想されるプロセッサを元にしており、製造上の理由などさまざまな要因から変更される可能性がある。そして、実際に変更されているのだ。
 通常のモバイル向けプロセッサの消費電力上限は10Wに引き上げられているし、ミニノートPC向けも低電圧版Pentium II 266MHzが5.8Wであることから6Wへと引き上げられたようだ。
 もっとも、この程度の変更であれば製品の設計者以外には、あまり大きな影響があるわけではない。最終製品で冷却システムの変更で数10グラム重くなるといったことはあるかもしれないが、使い勝手を大きく変えるものではないからだ。

 ところが、このガイドラインも現在では有形無実のものになりつつある。0.18ミクロンプロセスで製造されるモバイルCoppermineのロードマップが大きく変更されてきているからだ。このあたりは近日中に後藤弘茂氏が、共同でインタビューを行なったIntelのMobile/Handheld Products Groupフランク・スピンドラー副社長兼ディレクターの記事で掲載されるはずなので、ここでは関連する事項だけを拾っていく。


■ たいした違いじゃない? いや大きな違いだ

 モバイルCoppermineの出荷時期に関して、Intelは第3四半期の出荷を予定しているとアナウンスしていたが、現在その予定は第4四半期へと変更されている。正式な発表があるわけではないが、おそらく10月に出荷して年末商戦に間に合わせることになるだろう。同時に10Wの消費電力上限を取り払った高クロック版モバイルCeleronも発表され、年末に向けてコンシューマ向けフルサイズノートPCの機能強化を図る。

 このときのモバイルCoppermineは500MHzというクロック周波数を実現するが、電圧とクロック周波数をコントロールするGeyservilleを採用したマイクロプロセッサは、来年の登場になる見込みだ。Geyservilleを採用する500/600MHz切り替え版のモバイルCoppermineは年内に登場するのではないかと言われていたが、どうやらモバイル向けプロセッサとして要求される低電圧での動作ができないようなのだ。
 Geyserville採用プロセッサの予測が外れたことを除けば、Intelは第4四半期への出荷遅れはあったものの、年内のロードマップを順調に消化しているように見えるかもしれない。多くの人はたいした違いではないと感じるかもしれないが、ミニノートPC向けに限って言えばかなり大きな影響が出てくるだろう。
 Intelは通常のモバイルCoppermineよりも低電圧で動作する低電圧版モバイルCoppermineも10月に発表する見込みだ。現在、動作クロック周波数は明らかにされていないが、400MHzで動作するものになると予想している。
 この低電圧版モバイルCoppermineは、当初の予定では1.1Vで動作するものになるとの資料が今年春のIntel Developers Forumで出ていた。もし、1.1V動作が実現されていれば、予想される消費電力は5Wを大きく下回り4W台前半。その後のクロックアップにもある程度の余裕を持つことが可能となる。PCベンダーは、低消費電力のマイクロプロセッサを前提とした意欲的製品を設計することも可能だったろう。
 しかし、この動作電圧は徐々に引き上げられ、本来は通常版のモバイルCoppermineが採用するはずだった1.35Vでの動作になる可能性が強くなってきた。つまり、Intelが目標としていた電圧では、当初のクロック周波数では動作せず、電圧を高めて高クロック周波数を実現しなければならなくなったわけである。通常版モバイルCoppermineは1.35Vよりも高い電圧で、消費電力が10Wを切るエリアに落ち着くように調整が加えられるだろう。

 これらはすべて予測でしかないのだが、スピンドラー副社長はインタビューで1.1V動作に関しては笑いながら明言を避けた。仮に低電圧版モバイルCoppermineが1.35Vで動作した場合、6.2~6.5W程度の消費電力が予測され、前述した6Wのガイドラインを超えてしまう。


■ 単発だけでは意味がない

 現在のところモバイルPentium II、モバイルCeleronを搭載したノートPCは、10Wのガイドラインを前提に設計されており、現在のミニノートPC、薄型B5ノートPCまでが大きな影響を受けるというわけではない。しかし、その先に進むことは難しくなってしまったと言えるだろう。

 動作電圧を10月の段階で低く抑えられなかったということは、その先にも急激な改善は見られないと考えるのが自然だ。つまり、その後も一時的には6W前後の低消費電力版を出すことはできても、余裕を持って低消費電力版のロードマップをPCベンダーに示すことはできない。もし示すことができたとしても、PCベンダーは危なっかしくて低消費電力版プロセッサにあわせた熱設計の製品を作ることはできないはずだ。
 この連載で何度も触れているように、単発で低消費電力版を出荷したとしても、最終製品の姿形に影響を与えることはない。だからこそ、IntelもミニノートPC向けのガイドラインを作ろうとしたわけだが、ここ最近のCoppermineへの移行(もしくはIntelの0.18ミクロンプロセスが低電圧動作に適していない可能性も高い)のモタツキで、予定が狂ってしまったというのが本当のところではないだろうか。

 たとえば東芝のDynabook SSシリーズを見ると、3000シリーズから3300シリーズへの設計変更で確実に筐体容積と重量が増している。3000シリーズは最大6W程度のCPUが搭載できるようになっていたから、6Wという上限が設定されれば、モバイルMMX Petium全盛期のような小型、薄型製品を期待できるのだが、少なくともここ1年の間にそうしたアグレッシブな設計を行なった製品を見ることはできないだろう。

 なお、将来の動作電圧に関しては僕の一方的な予測であり、Intelの発表ではないことを付記しておく。

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp