第10回:ハイパフォーマンスプロセッサの陰に隠れた低電圧版プロセッサ



 ノートPCに求める性能は多種多様だ。バッテリの持続時間はどちらでもいいという人もいれば、バッテリ駆動時間を一番の選択ポイントとして挙げる人もいる。僕は比較的バッテリ駆動時間を優先する選び方をするが、このところのヒット商品を見ていると、バッテリ駆動時間の長いノートPCよりも、バッテリを削ってでも軽く薄い製品がウケるという傾向があるようだ。

 これは移動中の利用よりも、オフィスと自宅を持ち運ぶ、あるいは出張先に持ち運び、移動した先で利用する人が多いからだろう。移動中にまで、アプリケーションを駆使して仕事をする人の割合は、全体から見るととても小さなものなのかもしれない。一方、誰もが使いたがる電子メールやWebを移動中にチェックするだけであれば、ノートPCを使うよりも携帯端末を利用するほうが便利だろう。

 だた、バッテリ駆動時間を重視するユーザーも重視しないユーザーにも、マイクロプロセッサの消費電力は重要な性能のひとつだ。これはバッテリ駆動時間の問題ではなく、筐体設計の自由度に大きくかかわってくる問題だからだ。消費電力の大きすぎるマイクロプロセッサを使って、薄く軽いノートPCを設計することはできない。



■ 忘れていたのは僕だけだろうか

 4月6日、インテルから新しいモバイルプロセッサが発表されていた。本日発表されているモバイルPentium II 400MHzほど派手な注目を浴びる製品ではない。低価格ノートPC向けのモバイルCeleron 333MHzだ。もちろん、この発表を忘れたり見逃したわけではない。が、リリース文の下のほうに、低電圧タイプのモバイルPentium IIおよびモバイルCeleronの出荷も発表されていたのだ。

 この連載の中で以前、IDFでインテルのモバイル担当副社長が「低価格な軽量ノートPC用のプロセッサも検討している」と言っていたことを紹介した。筆者はそのとき、0.18ミクロン版のマイクロプロセッサについて話を聞いていたので、てっきりモバイルPentium IIIがリリースされて落ち着いた頃に、低電圧、低クロックのモバイルPentium IIIを出してくれるものだと期待していた。

 しかし、すでに減価償却が終わったという0.25ミクロンプロセスの製造設備ならいざ知らず、最新の0.18ミクロンの製造設備を使って製造されるマイクロプロセッサを簡単には安売りしないだろう。低クロック動作の選別品を使えばいいという話もあるかもしれないが、低クロックと低電圧動作の両方を満たすとなれば、それほどお安いマイクロプロセッサにはならないだろう。第一、インテル側から見れば十分に付加価値があるマイクロプロセッサを安く売る必要性もない。

 結局のところ、僕の頭が固かっただけだった。おそらく、インテルが言う軽量ノートPC向けのマイクロプロセッサ(この分野のプロセッサは製品単価の関係からそれほど高価なものにはしにくいという制限がある)とは、この低電圧タイプのマイクロプロセッサのことだったのだろう。

 低電圧タイプのモバイルPentium IIおよびモバイルCeleronは、それぞれDixonコアを用いたもので、通常タイプよりも動作電圧が0.1ボルト低い。たいした違いが無いように思うだろうが、定格の消費電力は5.8WでモバイルMMX Pentium 300MHzの6.1Wよりも低い。

 多くの軽量ノートPCで採用されていたモバイルMMX Pentium 266MHzが5.3Wだったから、2次キャッシュメモリの分を考慮すれば、MMX Pentium 266MHz搭載のノートPCと同程度の筐体ならば、モバイルPentium IIを搭載できるのではないかと予想される(実際には最大の消費電力が大きいため、熱設計に対する要求はより厳しいようだが)。



■ 現実は甘くない

 ただし、この夏の新製品を見ればわかるように、軽量ノートPCのマイクロプロセッサはCeleron/300MHzが主流だ。266MHz版を搭載している製品はほとんどない。ノートPC売り場を見渡したり、PC雑誌を見ればわかるとおり、世の中は300MHz以上でなければ価値がないかのような評価を下しているからだ。

 まぁ、クロック周波数が速いに越したことはない。マイクロプロセッサのパワーが十分だ、という説は、まだ確定した事はないのだ。長い間同じ機種を使いたいならできる限り高速な製品を購入するに限る。低電圧版モバイルプロセッサは、消費者にほとんどその存在さえ気づかれずに消えていく運命なのかもしれない。

 ここからはあくまで推測になるが、低電圧版はOEMの要求から作られた製品だったのではないか。インテルはこうした製品を、従来もOEMからの要求でラインナップに追加している(低消費電力版モバイルMMX Pentium 166MHzやモバイルMMX Pentium 120MHzなど)。しかし、OEM先(つまりPCベンダー)の予測よりも高クロック化が早く進んだというのがコトの経緯のように思う。インテルにとってウマミの少ない低電圧版発表を自ら進んでするとは思えないからだ。

 ただ、インテルも日本で流行しているミニノートPCのカテゴリを米国で確立させようとする活動を行なうぐらいならば( http://www.intel.com/mobile/mobilePCs/mini.htm 参照)、低消費電力のモバイルプロセッサに関して将来のロードマップを示すべきではないだろうか。インテルは9.5Wあたりをモバイルプロセッサの消費電力上限として設定しているが、もちろんそんな消費電力では小型ノートPCには採用できない。これを5.5Wにまで引き下げたマイクロプロセッサの製品ラインを確立させれば、PCベンダーもこれらの製品を採用しやすくなる。

 というのも、低電圧版モバイルPentium II 266MHzに最適化したノートPCを設計したとしても、5.8Wギリギリの熱設計をしてしまうと、その後の製品のマイナーチェンジでより高速なマイクロプロセッサを採用できないからだ。

 現時点で発表されているインテルのマイクロプロセッサを見ると、0.18ミクロンで製造されたモバイルPentium II 400MHzでも7.5Wを消費する。将来的にさらに低電圧の動作が期待できるとしても、ロードマップにない低消費電力プロセッサが出ることを期待して新製品の設計を行なうことはできないはずだ。

 つまり、低消費電力のマイクロプロセッサが登場することイコール軽量コンパクトなノートPCが登場することには繋がらないという悲観的な観測が成り立ってしまう。そもそも、巨大なフルサイズノートPCと小型軽量のノートPCを、同じ製品ラインでカバーするのは無理だ。この問題が根本的に解決するにはしばらく時間がかかるだろう。

 ミニノートPCの市場が、最大の消費国である米国で確立されていないことを考えると、通常のモバイルプロセッサとは別に低消費電力版製品ラインを作ることは難しい(クロック至上主義の市場ではなおさら)と思うが、来年以降、0.18ミクロンプロセスの製造ラインがある程度償却してくる時期に、インテルが対応してくれることを望みたい。

[Text by 本田雅一]


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