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第15回:納得できぬもの買うべからず



 我が家のパソコンから煙が立ち昇ったのは、先週末は暑い日の午後だった。冒頭にいきなりモバイルではないネタを話して恐縮だが、いきなり。そう、いきなりだったのだ。原因はある台湾製マザーボードを組み込んだ、Windows 2000β3テスト&お仕事用のデュアルPentium IIマシン。製作後、わずか1週間でCPUの電圧レギュレータにあるトランジスタが火を噴いたものだった。
 仕事の進行に支障を来たしたものの、まぁここまでは少し笑って済ますこともできる。気を取り直して新しいマザーボードを買ってきたのだが、今度は互換性の問題でWindows 2000β3……は仕方ないにしても、僕が使っているグラフィックボードを認識してくれない上、Windows 98でのデバイス認識も少々怪しい。もちろん、BIOSは最新だ。
 結局、デュアルCPUにする前のIntel製マザーボードに戻すことで事なきを得たのだが、すべてが解決して元通りにアプリケーションを再インストール(NTやWindows 2000はデュアルCPU用とシングルCPU用でシステムモジュールが異なるため、すべてが再インストールとなる)し終わるまで、12時間もの時間を無駄にしてしまった。締め切りで原稿を待っていた編集者の方々、申し訳ない。

 このトラブルの大本の原因は、高価なデュアルCPUマザーボードを買うのがイヤで、安い製品を買って帰り、さらにその代替までも安物にしてしまったからだと思う。もちろん、安いからといって必ずトラブるものではないし、高品質で低価格な製品もあることだろう。しかし、安心してモノを使いたいなら、少々高価でも実績のあるものを使いなさいということか。
 こんな当たり前のことを、いまさらながら思い知らされた週末だった。おかげで高価なマザーボードを購入する以上の出費。とはいえ、勉強だと思えば妥当な金額かもしれない。



■ 妥協するべからず

 さて、先週の火曜日が祝日だったため、2週間ぶりの連載執筆だが、その間にも多くの電子メールをいただいた。その中には、いつか取り上げよう、と思うネタもあったのだが、今回はその全体的な傾向のお話。

 モバイル通信、という題名からは、さまざまなイマジネーションを広げることができる。小型の機器を使いこなして、スムースなコミュニケーションを行なう様子。サブノートPCを使いこなして仕事をバリバリこなす様子。さまざまな機器を使い分けながら、効率的に情報をさばいている様子。しかし、多くのユーザーは、そうしたモバイルな使い方を想定しながらも、普通のパソコンとして使っている。あるいは、最初からノートPC=モバイルで、持ち歩くのは別世界に生きる人のお話と思っているかもしれない。

 で、実際に電子メールで舞い込む購入相談などを見ていると、やはり自宅で使うフルサイズ、フル機能のノートPCがほしい、という話が多いのだ。予算はいくら、機能はこれがほしい、ときちんと現実的なチェックリストを作って機種選びをしているようだ。予算の上限は人によって異なるが、だいたい30万円といったところか。
 ただ、実際にはCPUをCeleronに抑えたとしても、DVD-ROMドライブが搭載されていて、XGAの大型液晶パネルで、ハードディスクも6GBは欲しい、となると、メモリを128MBにしても、直販系のPCベンダーでなければ30万円を切ることはできない。もっとも低価格なクラスであるエプソンダイレクトのNT-800ならば、余裕で30万円を切ることができそうだが、残念ながらDVD-ROMオプションが設定されていないからだ。

 個人的には、低価格のフルサイズノートPC(というほど低価格ではないのだが)の中では、デルのLatitudeシリーズがお気に入りだ(ただし所有しているわけではない)。デルのPCはこれまでに何度か購入したことがあるのだが、そのたびに故障部品の交換に柔軟な対応をしてくれたりと、手厚いサポートを受けていた過去もあったという理由もある。が、フルサイズとしてはそこそこにコンパクトで、キーボードレイアウトも使いやすく(ThinkPadライクな配列)、DVD-ROMオプションもある。先日計算してみたら、Celeron 333MHzのモデルが、128MB RAM、2GB HDD、DVD-ROMドライブ、XGA液晶パネルの構成で、ぎりぎり30万円を切る。
 実は同じデルであれば、個人ユーザ向けのInspironの方が低価格なのだが、同社の製品は企業向けの方はユーザー意見を取り込みながらきちんとした作りこみを行ない、個人向け製品はユーザーの声を取り入れながら標準コンポーネントの組み合わせで製品を構成している。モノとしての質感や完成度、納得度などは圧倒的にLatitudeの方が上なのだ。

 ノートPCの場合、デスクトップPCと比較するとアップグレーダビリティに乏しい。東芝は将来のモデルチェンジ時にノートPCを部分的にアップグレードするサービスを行なうと表明しているが、メーカーに依頼してアップグレードする以上、かなりの出費が伴なう可能性が高い。CPUを買ってきてBIOSを更新してから挿して終わり……というわけにはいかない。だから、数万円を惜しんであとから後悔するぐらいならば、少々高価でも納得のできる方を選ぶべきなのだ。
 これは品質感とか、納得できるといったレベルではなく、オプションの選び方にもいえる。たとえばCD-ROMドライブが交換できる形式になっている機種があるとしよう。DVD-ROMドライブのオプションも将来的には登場する予定だという。しかし、将来のことを期待してCD-ROMドライブモデルを購入するのではなく、DVD-ROMドライブが最初から用意されている機種を選んだほうがいい。メーカーによっては、ドライブベイの仕様を頻繁に変えてしまう場合もあるからだ。


■ 買い時はいつなの?

 タイトルのとおり、買い時はいつなのだろうか、という質問も、購入相談と同じく多いメールだ。この質問に対する答えは、伝統的に「欲しいときが買い時」というのが正しいとされている。
 実際、欲しいときに買うのが一番いいと思う。製品は進化しつづけるから、少し待てばさらにいいものが手に入ることは間違いない。前述のようにノートPCは部分的なアップグレードが行ないにくいので、少しでも最新のものを……という気持ちは誰にでもあるものだ。しかし、どの時点ですばらしい製品が登場してくるのかを予測するのは、ノートPCの場合とても難しい。

 話をフルサイズのノートPCとB5クラス程度のサブノートPCに分けて考えてみよう。
 フルサイズノートPCの場合、これはもう予算と機能と信頼性。この3点のみで決まってしまう。デスクトップの場合は、新しいCPUが登場するとCPUの価格改定がIntelによって行なわれ、新CPU搭載と同時に各種ラインナップの価格も下がる。だからそのタイミングを見計らえばいいのだが(Intelは定期的に年4回の価格改定を行なうのでタイミングを読みやすい)、ノートPCは新CPUが登場した時点で、旧型CPUのモデルが生産完了になってしまうことも多く、同じ手を使うことができない。
 そもそも、CPUが300MHzから333MHzになっても、366MHzが400MHzになっても、それほどパワーに大差はないものだ。これが300MHzから600MHzにアップするのならば話は別だが、細かなCPUのクロック周波数を気にするぐらいならば、最大搭載メモリ量を気にする方が重要だと思う。これも読者からのメールにあったのだが、数年前に購入した最大32Mバイトしかメモリを搭載できない機種では、Windows 2000が登場したあとにインストールしたくても、快適に利用することは不可能。Windows 98にOffice 2000という組み合わせでも苦しいだろう。CPUを気にするぐらいならば、機能面とメモリ搭載量などに納得できる機種を、欲しいときに買うのがいいと思う。

 しかしサブノートPCとなると、現在はちょっと微妙な時期に差し掛かっている。サブノートPCといっても、あまり持ち歩かないならばフルサイズノートPCと、話はあまり変わらない。ところがバッテリー駆動を考えた時点で、そしてコンパクトな筐体を求めた時点で、CPU進化の動向を読まざるを得なくなるからだ。
 現在、インテルはCPUの製造ラインを0.25ミクロンプロセスから0.18ミクロンプロセスに移行させる過渡期にある。0.18ミクロンプロセスに移行すると、一般に消費電力が減少する。また、クロック周波数を上げやすく、逆に同一クロック周波数ではより動作電圧を下げやすいため、さらに消費電力を低く抑えることが可能だ。
 すでにモバイルPentium II 400MHzのうち、BGAパッケージで提供されているものに関しては0.18ミクロンプロセスで製造されたものが出荷されているが、これはオプティカルシュリンクと呼ばれる手法で、同じ設計のマイクロプロセッサを光学的に縮小して0.18ミクロンにしているだけ。0.18ミクロン専用に設計されるモバイルPentium IIIの登場は、9月ぐらいになるだろう。
 だが、いずれにしても本当に低消費電力のCPUを前提にしたノートPCというのは、あまり期待できないかもしれない。Intelが0.18ミクロンプロセスで、本当に低消費電力のCPUを作る可能性は低いと思われるからだ。そのあたりの話は、以前にも「ハイパフォーマンスプロセッサの陰に隠れた低電圧版プロセッサ」に記したとおりだ。
 また、新しいCPUが登場したからといって、すぐにそれを生かした製品が登場するとは限らないのもサブノートPCの特徴だ。たとえば画期的に消費電力が下がったとしても、下がった消費電力を元に設計をしなおさなければ、より薄型、より小型にはできないからだ。モバイルPentium IIIが登場した当初は価格も高く、モバイルCeleronは当分の間0.18ミクロンプロセスに移行する予定がないという理由もある。

 妥当な線として、0.18ミクロンプロセスのCPUを生かした製品が登場するのは、早くとも年末商戦用モデルというのが僕の予想だ。そんなに待てない? ならば今の製品を買うべきだろう。今買えば、待っているはずだった半年の間、購入したノートPCを使いつづけることができる。欲しい時が買い時なのだ。

[Text by 本田雅一]


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