第14回:究極のモバイルPCは存在するの? |
■ 相反する要素をどのようにまとめるか
消費者側から見れば、どんな製品でも完璧であってほしいものだ。持ち歩くPCに当てはめてみると、キーは苦労なくタッチタイプしたいし、バッテリを気にせず使えるだけの長時間駆動、非常時の乾電池駆動、クリアかつ明るいところでも暗いところでも見やすい液晶、1キログラムを切る重量、必要なI/Oポートは全部そろっていてPCカードは2枚使える上、コンパクトフラッシュType2とスマートメディア専用スロット、20mmを切る薄型筐体にCD-ROMドライブ内蔵のPentium IIマシン....などなど、欲望は尽きない。
しかし、必要なI/Oポートを特殊なケーブルなしに接続可能にすると超薄型筐体にすることは物理的に不可能だし、Pentium IIと液晶パネルの消費電力を考えたら1kgを切る重量で長時間駆動を実現するのは不可能である。
くだんの質問に当てはめてみると、バッテリ容量が大きくなれば重量は増し、使いやすく(ある程度のキーサイズを確保)すれば筐体が大きくなるため軽くしにくい。また、日中でも見やすい反射型カラー液晶パネルはまだ発展途上にある(明るさを確保しようと思えばカラーフィルターの透過率を上げなければならないが、カラーフィルタの透過率を上げると色が浅くなる)。
これらは、ちょっとパソコンを知っていれば、あたりまえのことかもしれない。でも、PC購入の相談を友人などから受けていると、意外に「それはちょっと無理」という要望が出てくる。これはまだPCという市場が熟成しきっていないからだと思う。
市場が大きくなり、また熟成してくると、その市場は細分化され、それぞれ違うカテゴリとして成長していくものだと思う。たとえば豪華装備の車を買いたい、と思うのに軽自動車を選択肢に入れる人はいないだろうし、引越しに使えるほど荷物の積める車をレンタルしようと思うのに普通乗用車を選ぶ人はいない。同じ自動車というカテゴリでも、トラックと普通乗用車はまったく別のものとして捉え、それを直接比較しないのは、自動車というカテゴリがきちんと細分化され、それぞれに特徴がはっきりとしており、それを消費者側もよくわかっているからではないだろうか。
一方、PC市場はというと、ノートPCとデスクトップPCという区切りのほか、低価格、高価格といったカテゴライズは、何とはなしにされているように思う。しかし、用途別に細分化された市場が確立されているかといえば、まだそこまでは至っていない。一応、大まかにサイズなどで分かれてはいるが、B5ノートPCもA5ノートPCも、ひとくくりにサブノートPCと呼んだりする。
また、自動車などでは性能を落としてコストを削減し、サイズを小さくしても最低限必要なパワーを得ることはできるが、PCではまだまだCPUパワーを諦めきれない事情が多い。だから軽くて(つまりバッテリが小さくて)電池が長持ちなPCを作ろうとしても、CPUパワーが小さくなりすぎて売れないから、そういう製品が出てこない。また、採用する製品がなければ、ローパワー/低消費電力のCPUも製品として成り立たない(一部CPUベンダーはそうした市場を狙っているが、あくまでもニッチ市場でしかない)。
少なくともPCベンダー側は、それなりに用途ごとの提案とカテゴライズを意識して製品の企画を行なっているはずだが、まだそれが心に届くほどには差別化できていないからかもしれない。しかし同時に、僕らのような消費者側も、各製品がどんなことを目指し、何をあきらめて、何にこだわっているのかを読み取る努力をする必要もある。
■ たとえばこんな場合
エラそうなことを書いているが、僕自身も消費者の一人だ。お金を出してものを買うときには、それなりに比較して悩みながら、何を買うのかを決めている。どうも性格的にスッパリと諦めきれないところがあって、たった2,000円のものを買いに出かけて、結局悩んだ挙句に買わずに帰ってくる、なんていうバカバカしいことをすることも多い。
もし、普通の消費者と異なることがあるとしれば、それは話題の新製品の多くを、購入するまでもなく実際にテストできる環境にあるということだ。自分が欲しいから、買う前に借りて試してみる、なんていうのは本末転倒だが、仕事のついでにモノを評価できることには大変感謝している。
そこで僕が知っている限り……ではあるが、たとえばこんな場合には、この製品がいいかもしれない、というちょっとお気に入りの推薦品を紹介しよう。すべて所有しているわけではないが、自分だったらコレを買うだろう、という視点で選んでみた。
・会社と自宅の往復で持ち運ぶ軽いPCが欲しい
CD-ROM内蔵にこだわらないなら、まだ評価はしていないがDynaBook SS 3380が良さそうだ。液晶パネルがXGAになって日本語環境でも使いやすくなった。欠点はバッテリと価格だが、バッテリは前述のとおりあまり気にしなくてもいいと思う。純正のCD-ROMドライブ、もしくはそのOEM元である松下製CD-ROMドライブ(KXL-808ANなど)を使えばCD-ROMブートも可能なので、再インストールなどもやりやすい。
前述のLet's note ace/A77にセカンドバッテリを入れるのが、もっとも妥当な選択だと思う。大容量バッテリを装着すると、カッコ悪くなってしまうノートPCが多い中、CD-ROMのかわりにバッテリを装着するA77は、セカンドバッテリを使ってもスタイルが変わらない。 ちなみに僕自身はこのタイプの製品を求めているのだが、昨年発売されたLet's note/S21を買い換える気になれないのは、この分野の製品の選択肢が少ないから。バッテリをたくさん持ち歩けばいいのだろうけど、たくさんのバッテリを充電する手間がかかってしまう。
そこまで妥協できないならば、無難なところでWindows CE搭載のH/PCがいいと思う。先週、モバイルギアIIのモノクロ版をお勧めしたが、もう少しコンパクトなものが良ければ、反射型液晶ではないのが不満だが日本ヒューレット・パッカードのJornada680がいい。コンパクトかつ軽量。キーボードもサイズを考えれば十分に納得の出来栄え。構造的にパルディオ611Sをコンパクトフラッシュスロットに挿入できないのが難点(PCカードスロットで利用しなければならないためプラットフォームアダプタが必要)だが、個人的には今一番欲しいアイテムだ。
PDAとして使うのが中心で、おまけにメールが快適に見れれば……というなら、IBMのWorkPadにどんなオプションが登場するのかを注目しておこう。そう遠くない未来に、PHS内蔵機種とコンパクトなPHSアダプタの追加がある。
個人的にはWindows 2000のサポートがしっかりしている点が気に入っている。なにしろ、まだベータ版だというのに、Windows 2000用サポートファイルが揃ってしまうのには驚く。値段が高いのには理由がある、ということか。LANインターフェイスが内蔵されていないのが惜しい。
H/PC Pro機として生まれ変わった富士通のINTERTOPは、vCalendar、iCalendar、vCardに対応するオリジナルの予定表、タスクリスト、住所録がバンドルされている。このため、デスクトップでLinuxを使っているユーザーもPIM情報の交換を行なうことができる。また、これらのソフトはH/PC Pro標準のPocket Outlookよりも使いやすいため、A5サイズのH/PC Pro機を検討しているLinuxを使わないユーザーにもお勧めだ。
この他にもいろいろなパターンがあるだろうが、今回はこの辺で。再度断っておくが、これらの評価はあくまでも自分で買うなら……という視点に立って考えたものだ。自分の立場に置き換えて、よく考えてから機種の選定をして欲しい。それでも迷ったら……、メールをいただければ、該当すると思われる製品を取り寄せて、この記事の中で評価していきたいと思う。
[Text by 本田雅一]