法林岳之のTelecom Watch
第25回:'99年3月編
「次世代携帯電話とPHS」ほか



 新入学・新社会人、異動、転勤シーズンの3月は、PDAや携帯電話だけでなく、ISDN機器などにも新しい製品が登場した。


「次世代携帯電話とPHS」ほか

 1月、2月と携帯電話やPHS関連のニュースが相次いだが、3月も携帯電話とPHSに関係するニュースが多く報じられている。

 まず、NTTドコモのPHSの64kbpsデータ通信サービス開始が4月1日から開始されることが正式にアナウンスされた。昨年末から実験サービスが行なわれていたが、大きな問題点もなく、そのまま正式サービスに移行することになった。サービスエリアは東京の山手線より内側に限られているが、順次サービスエリアを拡大していく。それほど遠くない時期に全国へ展開されるはずだ。対応端末はパルディオ611Sのみで、その他の端末は今のところ発売されていない。NTTドコモでは昨年来、PHSとデジタル携帯電話とのデュアルモード機の発売を示唆しているが、おそらくこのデュアルモード機のPHS部分が64kbpsデータ通信サービス対応として発売されるはずだ。時期的には4月中、遅くとも5月には製品が市場に出回ることになるだろう。

 一方、DDIセルラーとIDO(日本移動通信)は4月14日に新しいデジタル携帯電話サービス『cdmaOne』の全国サービスを開始することを発表した。cdmaOneはすでに昨年からDDIセルラーのエリアである関西地区を皮切りにサービスが提供されていたが、当初はTACS方式(アナログ方式)とのデュアルモード機のみが販売されていた。今回の全国サービス開始に伴い、cdmaOneのみをサポートするシングルモード機が6機種発売され、すでに予約なども開始されている。

 cdmaOneはCDMA方式(符号分割多元接続方式)と呼ばれる新しい通信方式を採用したデジタル携帯電話のサービスだ。CDMAは元々、軍事目的として米国で開発された通信技術で、これを携帯電話向けに米Qualcommが改良したものがcdmaOneに採用されている。現在、国内でサービスされているPDC方式によるデジタル携帯電話は、TDMA方式(時分割多重接続方式)をベースにしており、今回サービスされるCDMAはまったく新しい通信方式ということになる。このcdmaOneという新しいデジタル携帯電話は、「ソフトハンドオーバー技術の採用により、移動中にも切れない」、「同時に3つの電波を受信して合成し、通話品質を向上させるパスダイバシティ技術の採用」、「8kbps EVRCの採用によって、肉声に近い会話を実現」といった特徴を持ち合わせている。

 また、cdmaOneではWAP(Wireless Application Protocol)規格に準拠した「EZ Access」(IDO)、「EZ Web」(DDIセルラー)というサービスも提供される。WAPはインターネット上の電子メールやコンテンツサービスを携帯電話から利用するためのプロトコルで、同時発売される端末では日立製のC201Hのみがこれをサポートする。コンテンツサービスはNTTドコモのiモードでも提供されているが、cdmaOneで提供されるコンテンツは月額200/400円の基本料金のみで利用することができる(iモードはコンテンツごとに追加料金が請求されるものも多い)。ただ、今回のcdmaOneで提供されるWAPは回線交換で接続されるため、本命は年内にも提供される64kbpsパケット通信サービス対応時ということになるだろう。

 ちなみに、こうしたコンテンツサービスについて、cdmaOneで採用されるWAPとiモードのコンパクトHTMLのどちらが優れているといった報道を見かけることがあるが、実際に利用する立場から言えば、「どちらのコンテンツが魅力的か」ということに尽きる。コンテンツの作成しやすさよりも内容や使いやすさ、コストなどを含めた総合的な視点で評価すべきだろう。正式なサービスが開始されていない現時点では何とも言えないが、少なくとも筆者がコンテンツ一覧を見た範囲では内容的にはほぼ同等と言っても過言ではない。ただ、iモードはコンテンツ単位で別に登録料が請求されるものが多く、登録するコンテンツをよく選ばないと、ランニングコストがかなり高くついてしまうというデメリットもある。

 この他にも、3月には「iモード端末でのJava、Jini、JavaCard技術の導入」など、携帯電話やPHSに関連する技術提携のニュースなども数多く報じられた。これらは携帯電話やPHSといった通信デバイスがこれからのPCの世界を大きく変える時期に来ていることを示唆している。今後、メーカーだけでなく、通信事業者などの動向からも目が離せなくなりそうだ。

□iモード端末にJava導入――NTTドコモとSunが技術協力(Internet Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0316/sunmode.htm
□DDI、IDOが「cdmaOne」を全国展開、WAP対応サービスも開始(Internet Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0310/cdmaone.htm
□NTTドコモ、PHSの64kbpsデータ通信サービスを4月から開始
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0325/phs64.htm


2台目も考えたいISDN機器

 3月は2月に引き続き、引っ越しシーズンを狙ったISDN機器の新製品が登場した。なかでも個人的に非常に注目しているのが3月11日に発表されたTDKの『DS1280』だ。

 DS1280は電話機の機能を搭載したISDNターミナルアダプタで、見た目はISDN公衆電話を小型化したような印象だ。アナログポートを2つを搭載し、データ通信ポートはRS-232Cを採用。DSUを本体に内蔵し、S/T点端子やDSU切り離しスイッチなど、ISDN機器に必要とされる機能をひと通り備えている。サービスはフレックスホンやダイヤルイン、INSナンバー・ディスプレイなどに対応し、疑似コールウェイティングやグローバル着信識別なども搭載している。本体上部には可倒式の液晶ディスプレイを備えている。

 本体に搭載されたデジタル電話機は一見、おまけのように見られそうだが、実はISDNに必要な機能が揃っているため、ISDNの契約と工事が終わっていれば、屋内配線の引き込み口にケーブルを接続するだけで通話ができるようになる。面倒な設定などは一切必要ない。この手軽さと安心感は初心者ならずともうれしい点だ。また、DS1280は局給電でも動作するため、停電などがあったときでも本体のDSUにケーブルが接続されていれば、通話ができる。停電対策のための乾電池も充電池も必要ない。 一時期、NTTが販売するS-2000やS-1000といったISDN電話機が人気を集めていたが、DS1280はそれを上回る機能を持っている。USB接続などの派手な機能はないが、ISDNに必要とされるニーズを確実に捉えた賢い製品と言えるだろう。これからISDNを導入するユーザーはもちろん、すでにISDNを敷設したユーザーのバックアップ用、通話用などとしてもおすすめできる。買っておいて損のない1台だ。

 一方、NECは昨年末に発表したAtermIT75/60シリーズの普及モデルとなる『AtermIT40/D』、ワイヤレス対応ターミナルアダプタの親機『AtermWX1』を3月4日に発表した。AtermIT40/DはAtermIT60/DからUSBポートを省き、カラーリングをホワイト系に変更したモデルだが、標準小売価格で27,800円という価格を設定している。最近のISDNターミナルアダプタは、液晶ディスプレイなどを装備した高機能モデルが30,000円~35,000円、アナログポートとデータ通信ポート(RS-232C)のみを備えた普及モデルが2万円台という構図が続いていた。しかし、今回発売されたAtermIT40/Dは普及価格帯の製品ながら、液晶ディスプレイを装備するなど、機能的にはワンクラス上の構成となっている。デザインもホームユースや女性ユーザーを意識してか、ホワイト系のかわいいデザインになっている。

 これに対し、AtermWX1の方は、同社が従来から販売してきたAtermIW60からアナログポートの機能を省いたワイヤレス対応ターミナルアダプタだ。ただし、親機モード専用となっているため、PCや電話機、FAXなどと接続することはできない。他のDSU内蔵ISDN機器などのS/T点端子に接続し、子機としてオフィスステーションモード対応のPHSや同社が販売するAtermRS10などを収容(登録)して利用する。すでに、ISDNターミナルアダプタやルータを購入したユーザーが離れた部屋で、PHS子機やワイヤレス通信(NEC独自モードによる64kbps)を使いたいときなどに便利な製品だ。AtermWX1の登場で、同社のワイヤレス対応TAのラインアップはかなりバリエーションが増えたことになる。あとはアナログポートのみを備えたワイヤレス子機が登場すれば、ほぼ完全なラインアップが揃うことになる。

□TDK、本体のみで音声通話ができる電話機型TA「DS1280」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990311/tdk.htm
□NEC、2万円代のTAとワイヤレスアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990304/nec.htm
□【ISDN機器】TAは2万円台、ルータは4万円台が中心
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990318/p_isdn.htm


WindowsCEファミリーは何を目指す

 2月にWindows CE H/PC Pro3.0日本語版が発表されたが、3月はシャープから『Telios』という新製品が登場し、Windows CEのもうひとつのバリエーションでもあるPalm-size PCのカラー液晶搭載モデルもカシオとコンパックから相次いで発表された。

 まず、Palm-size PCだが、カシオが3月15日に『CASSIOPEIA E-500』及び『CASSIOPEIA E-507』を、コンパックが3月23日に『PRESARIO 213 カラーパームサイズPC』を発表した。いずれの製品もカラー液晶ディスプレイを採用しており、バッテリ駆動時間はCASSIOPEIAの5時間(非通信時)に対し、PRESARIO 213は10時間を実現している。ともに充電はクレイドル経由で行なう。このバッテリ駆動時間をどう捉えるかが購入の判断を左右することになるのだが、やはり現実的な運用を考えると、かなりツラいというのが正直な感想だ。特に、筆者のように不精な人間はカバンからPalm-size PCを出し忘れ、いつの間にかバッテリ切れという事態になることが容易に想像できる。

 ただ、CASSIOPEIAは注目を集めているMP3形式のデータを再生するプレーヤーをプリインストールして提供したり、イヤホン端子をステレオ化するなど、今までとは少し違ったアプローチを見せている。PDAという切り口だけで見れば、「バッテリ駆動時間が短いから……」だけで片付けてしまいそうだが、携帯型MP3プレーヤーとしても利用できるデバイスと見れば、面白いと存在になるかもしれない。ただ、今年はMPmanやRio以外にも携帯型MP3プレーヤーが登場すると言われており、この付加価値をどこまで消費者が認知してくれるかどうかは疑問だ。

 一方、シャープは国内向けにも同OSを搭載したモデル『Telios』を投入した。同社は昨年のCOMDEX/Fall'98でWindows CE H/PC Pro3.0マシンを発表していたが、Teliosはこれを国内向けにアレンジしたものだ。800×600ドットのTFTカラー液晶ディスプレイを搭載し、CF Type2やUSBポート、デジタル携帯電話インターフェイスなども備えたH/PC Pro3.0のフルスペックモデルだ。ボディはA5ファイルサイズで、重量は810gとコンパクトにまとめられている。

 注目すべきは、ワンタッチでメールのチェックができる「ワンタッチメール受信ボタン」やWWWページの巡回ができる「ワンタッチオートサーフィンボタン」などを装備した点だ。この他にも、オフィスやモバイル環境などのネットワーク環境を瞬時に切り替えられる独自のインターネットアシスタント機能も搭載しており、モバイルユーザーのニーズを着実に製品に反映している。ポインティングデバイスは、同社が開発した薄型光ポインティングデバイスを採用している。筆者も実際に店頭で実機を触ってみたが、好き嫌いがハッキリ分かれそうだというのが正直な感想だ。ノートPCのパッド式ポインティングデバイスは移動速度を遅めに設定することで、使い勝手を改善することができるが、この薄型光ポインティングデバイスはさらに細かい調整が必要だ。そのためか、店頭では小型のマウスが接続した状態でデモが行なわれているのを何度か見かけた。

 さて、NECやシャープ、カシオなどの一連の発表で、Windows CEをベースにしたモバイル機器は、かなりのバリエーションが増えてきた。WorkPadやPalm III対抗となるPalm-size PC、800×600ドット液晶搭載のサブノートクラス、従来通りの横長液晶を搭載したミニノートクラスなどだ。筆者もモバイルギアII(MC-R500/510)やPERSONAなど、いくつかのWindows CEマシンを触ってきたが、今後、どのように市場に受け入れられていくのかが非常に気にかかる。

 たしかに、ミニノートやサブノートクラスのWindows CE機は、Windows 95/98が動作する同サイズのものよりも軽量コンパクトで、バッテリ駆動時間も長い。しかし、Windows CE対応アプリケーションは相変わらずバリエーションに乏しく、速度的にも不満は多い。特に、速度的な面はヘタをすると、使う気が失せてしまうほどのものもあり、まだまだ発展途上中の印象は拭えない。このままでは「Windows CE=遅い」というレッテルが定着してしまう可能性もあるだろう。

 また、モバイルでの利用を考えた場合、通信は切っても切れない関係にある。しかし、日米の通信及びモバイル事情の違いから、今ひとつモバイル端末としての定番の地位は得られていない。NECやシャープのサブノートクラスのWindows CEマシンのように、デジタル携帯電話インターフェイスを搭載するモデルも登場しているが、通信時のバッテリ消費などを考えると、まだまだ不安要素は多い。

 さらに、Windows CEは元々、Windows 95/98とシンクロして利用することを想定して開発されているにも関わらず、その部分を無視して、スタンドアローンで利用するユーザーも増えている。『ポストペット2001』のWindows CE版が登場したことで、こうしたユーザーもさらに増加する可能性がある。当然、そこには「ソフトがインストールできない」、「アプリケーションが消えてしまった」というトラブルが発生する可能性があるわけだが、それに対する解決策やアドバイスはあまりアナウンスされていない。

 今後、日本市場でWindows CEファミリーを普及させるためには、こうしたソフトウェア面の整備と豊富な情報提供がもっと求められることになるだろう。

□シャープ、800×600ドットTFT液晶を備えたH/PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990301/sharp.htm
□コンパック、反射型カラーTFT液晶を採用したPalm-size PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990323/compaq.htm
□カシオ、TFTカラー液晶を搭載したPalm-size PC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990315/casio.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp