法林岳之のTelecom Watch
第24回:'99年2月編
「日本語Palm OSはどこまで普及するか」ほか



 iモード対応携帯電話や文字電話など、携帯電話・PHS系に話題が集中している。2月の通信関連ニュースは、今年のトレンドをハッキリと示している。その一方で、日本語Palm OSを搭載した『WorkPad』の発表など、新しい製品展開も見られた。


日本語Palm OSはどこまで普及するか

 '96年に米国で初代モデル『Pilot1000/5000』が発売されて以来、急速にシェアを拡大してきたPalmシリーズ。国内では山田達司氏の手により、英語版で日本語表示を可能にする『J-OS』が開発され、'97年からはUSロボティックス日本法人(現スリーコムジャパン)から英語版モデルが正式に日本市場に流通していた。

 そんな中、ついに2月2日に日本語Palm OSがスリーコムジャパンから発表され、2月23日に同OSを搭載した日本語モデル『WorkPad』が日本アイ・ビー・エム(日本IBM)から発売された。ハードウェア的には米国で同時に発表されたPalm IIIxと同等ながら、日本語環境のために入力エリアを一部変更するなどの違いを見せている。もちろん、動作するソフトウェアはほぼ同じであり、世界中で提供されているPalmシリーズ用ソフトウェアを利用することができる。

 筆者は'96年に米国で初代モデルを購入して以来、『PalmPilot for Professional』、『Palm III』と愛用してきたPalmシリーズのファンだが、今回の製品発表の連携の悪さには、いささか不安を感じた。それは、日本語版を発売するメーカーの名前が、2月2日のスリーコムジャパンの発表では明らかにされず、23日のIBMからの発表を待たなければならなかったことだ。今後、より各社の連携が必要となるだけに、気になるところだ。

 また、通信という切り口で今回のWorkPadを見た場合、今ひとつ不満が残る。Palmシリーズは本体下部に取りつけられるRS-232Cインターフェイスを備えており、米国では着脱式のモデムなどが販売されている。国内ではアイ・オー・データ機器から『Snap Connect』という携帯電話/PHS用アダプタが販売されており、今回のWorkPadに合わせ、黒い筐体のSnapConnectも同社から2月24日に発表された。

 しかし、ソフトウェア面に目を移すと、相変わらずオンラインソフトに頼ったままという状況だ。Palmシリーズには世界中のプログラマの手によって開発された優秀なソフトウェアが数多く提供されているが、オンラインソフトを利用するのと、メーカー自身がソフトウェアを標準で提供するのとは自ずとその意味合いは異なる。せっかくの日本語モデルを投入するのであれば、メーカー自身が最低限のメーラーや通信ソフトなどを提供すべきではないだろうか。日本IBMが、WorkPadによって、絶大なシェアを持つシャープのザウルスシリーズなどと張り合うことを目指すのであれば、こういった部分での責任を果たすことも必要だ。マニアのおもちゃから一般ユーザーの道具へと進化させるために、日本IBMやスリーコムジャパン、米Palm Computingなど、各社のさらなる努力と配慮を期待したい。

 ところで、今回、日本IBMから発表されたWorkPadだが、今後はどのような展開が考えられるのだろうか。筆者なりの予想も含め、いくつか紹介しよう。まず、米国でPalm IIIxと同時に発表された『Palm V』だが、これも日本語Palm OSを搭載したモデルが登場する。また、Palm IIIxの背面には拡張スロットが用意されているが、ここに装着する通信機器なども登場しそうだ。たとえば、ポケットベルやPHSなどが考えられそうだ。個人的にはDDIポケット向けの文字電話用アダプタなどが装着できれば楽しいと考えているのだが……。さらに、携帯電話やPHSなどに、PDAの機能を搭載した製品が増えているが、この分野の製品にもPalmOSが応用されてくる可能性もあるだろう。Palm Computing Platformの日本での反響や展開を期待しよう。

□日本IBM、Palm IIIx日本語版「WorkPad」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990223/workpad.htm
□3Com、Palm Computing Platformの日本語対応版を提供
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990203/3com.htm
□「WorkPad」をデジタル携帯電話、PHSと接続できるアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990224/iodata.htm


本当のホームユーザーを意識したISDN機器

 春と言えば、年末と並んで、ISDN機器の売り上げが急激に伸びるシーズンだ。新入学・新社会人、異動、転勤などの引っ越しシーズンに入るためだ。これを見越して、各メーカーの新製品攻勢やキャンペーンなどが実施される。

 まず、2月5日にアイワからISDNターミナルアダプタ『TM-ADX1282』が発表された。この製品は従来から同社が販売していたTM-AD128xシリーズの後継機に相当する最上位モデルで、好評の回転式液晶ディスプレイなどはそのまま受け継がれている。TM-ADX1282では新たにアナログポートが5つになり、PCと接続するためのUSBポートも搭載されている。筆者も早速製品をテストしてみたが、安定度やパフォーマンス、使い勝手など、どの面を見てもトップクラスの仕上りを見せている。アナログポート回りの機能も充実しており、マニュアルなども非常にわかりやすい。特に、iMacや新PowerMacintosh G3のUSBポート接続にいち早く対応した点は高く評価できるだろう。5つのアナログポートもデジタルCSチューナーやDreamcastなど、アナログポートを必要とする機器が増えている現状を考えれば、魅力的なポイントと言えそうだ。

 一方、ISDNルータでは、富士通のNetVehicleシリーズの最新モデル『NetVehicle-H30』が2月23日に発表された。NetVehicleシリーズは派手さこそないものの、いち早くWWWブラウザからの設定を実現するなど、機能的には常に一歩先んじてきた製品でもある。今回のNetVehicle-H30では、有害なホームページを見せないようにするためのURLフィルタ機能を搭載しているのが特徴だ。家庭での利用などを考慮したための機能だが、実際にどのページが有害か否かという判断を誰がするのかということを考えると、今ひとつ現実感に乏しいという気もしなくはない。ちなみに、NetVehicle-H30ではWWWブラウザの設定メニューを大幅に更新しており、従来シリーズとはまったく異なる構成になっている。従来製品ではリストボックスから機能を選択する方式だったが、今回の製品ではフレーム表示を使ったメニュー構成になっており、一覧性もかなり良くなっている。同社のサイトに設定体験メニューも用意されているので、興味のあるユーザーはそちらをご覧いただきたい。筐体の材質やカラーリングも変更されているが、こちらは好き嫌いがかなり分かれてしまいそうな印象だ。ただ、性能的にも使い勝手の面でもおすすめの製品であることは間違いない。

 NetVehicleシリーズと言えば、2月8日に従来モデルのNetVehicle-EX3に不具合があることが判明し、無償交換されることが発表された。具体的には、アナログポートの制御に問題があるとのことだ。

 この製品は以前にも紹介したように、DSU内蔵モデルに必須となるS/T点端子(他のISDN機器を接続する端子)がなく、ISDN機器としては不適格というのが筆者の評価である。交換は無償だが、これを機に買い換えてしまうという選択肢もあるだろう。ただ、こうした不具合をハッキリと認めた富士通の姿勢は評価される。

 ところで、前回のこのコラムで、MN128-SOHO SL11について少し紹介したが、幸いにも製品を試用することができたので、簡単にレポートをお伝えしておこう。従来まで販売されていたMN128-SOHO SL10は、初代モデルのMN128-SOHOをリファインし、液晶ディスプレイを搭載したものだったが、現在販売されているMN128-SOHO SL11はハードウェア的にも新たに設計し直されている。たとえば、従来製品では多人数ユーザーでの同時利用で問題が起きることが指摘されていたが、今回のMN128-SOHO SL11では通信用CPUのクロック周波数を高いものに交換することで対処している。WWWブラウザによる設定メニューなどは従来製品同様、非常にわかりやすく、パフォーマンスにも申し分ない。NTTドコモのPHSで提供されている『きゃらトーク』へのメッセージ送受信機能、LANに接続したユーザー間で利用できるWeb掲示板など、便利で面白い機能が提供されているのも評価できる点だ。LANに接続するPCのネットワーク環境を設定するための「設定らくだ」というユーティリティも同梱され、初心者でも使いやすい環境を整えている。これらの点を総合すれば、既存のISDNルータの中で最もおすすめできる製品のひとつと言えるだろう。

 ただ、どうしても納得できないのがマニュアルだ。MN128-SOHO SL11には「導入・設定編」「リファレンス編」「活用編」という3つのマニュアルが同梱されているのだが、これらの内、活用編がPDFファイル、その他は印刷物で提供されている。ユーザーの利用頻度から考えれば、「導入・設定編」「活用編」が印刷物で提供され、「リファレンス編」がPDFファイルで提供されるべきではないだろうか。また、印刷されたマニュアルも本文の文字が小さく、あまり読みやすいとは言えない。ISDNを利用するユーザーも徐々に年齢層が拡大しており、最近では高年齢層のユーザーも増えているという。30代の筆者は苦にならないが、高齢者層には、この文字の大きさは少々ツラいのではないだろうか。ISDN製品の先駆者であるMN128シリーズだからこそ、敢えて厳しい注文をつけさせていただいた。今後の見直しに期待したい。

□アイワ、5つのアナログポートを備えたUSB対応TA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990205/aiwa.htm
□富士通、フィルタリング機能付きルーター「NetVehicle」シリーズを発売
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0223/fujitsu.htm
□ダイアルアップルータ「NetVehicle-EX3」に不具合、無償交換へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990208/fujitsu.htm


携帯電話で通信をする意味

 春の新入学・新社会人、異動、転勤シーズンを見越して、新製品の投入や新サービスが開始されるのは、ISDN関連だけではない。もちろん、携帯電話やPHSについても同じだ。2月はDDIポケットの『文字電話』やNTTドコモの『iモード』などが話題となったが、これらについてはスタパ齋藤氏の「スタパトロニクス」や筆者の非同期通信レポートなどをご参照いただきたい。

 さて、携帯電話に関連する製品としては、2月13日にオムロンからUSB接続用デジタル携帯電話アダプタ『ME96KTI』が発表されている。この製品はWindows 98が動作するPCのUSBポートに接続することにより、携帯電話を使ってデータ通信ができるというものだ。つまり、既存のデジタル携帯電話カードの置き換えを狙った商品だ。携帯電話の接続については、昨年あたりからデジタル携帯電話インターフェイスを備えたWindows CEマシンやサブノートPCなどが相次いで登場しているが、この製品はこうしたインターフェイスをケーブル化したものと考えればわかりやすい。形状もケーブルの途中にちょっとした膨らみがある程度なので、カバンの中に入れておいてもあまり邪魔にならない。価格が1万7,800円とやや高いのが気になるが、今後、ノートPCなどに標準添付されるケースも増えてきそうだ。ちなみに、このUSB接続用デジタル携帯電話アダプタは、非常に構造がシンプルなため、今後、他社からも同様の製品が登場してくることも考えられる。ケーブルの中程に信号変換の回路を組み込み、あとは両端にコネクタ、PC側にソフトウェアモデムと同じ働きをするドライバを用意するだけで製品化できるからだ。

 ただ、携帯電話でのインターネット接続については、そろそろ一考する時期に来ているというのが筆者の考えだ。デジタル携帯電話の普及とノートPCの普及がマッチしたため、デジタル携帯電話でインターネット接続をするユーザーが増えているが、通信速度が9.6kbpsとかなり遅く、実質的にはメールの送受信程度にしか利用できない。NTTドコモとマスターネットが提供する10円メールのように、短時間で通信を終わらせる工夫をしたシステムなら利用価値もあるが、通常のPPP接続でネットサーフィンまでしてしまうのは、コスト的に見ても本当に正しいのかどうかを考え直してもいいのではないだろうか。もちろん、それを利用しているユーザーにも問題はあるのかもしれないが、キャリア側にはもう少し利便性の高いシステムやサービスの提供を考えてもらいたい。

 こうした疑問に対する回答のひとつでもあるのが、NTTドコモのパケット通信サービス『DoPa』だ。DoPaは既存のデジタル携帯電話にパケット通信の機能を付加したデュアルモード機でサービスを提供していたが、昨年からデジタル携帯電話の機能を削除し、通信に特化したシングルモードのサービスを開始していた。しかし、端末そのものは既存の携帯電話と同じものを利用していたため、携帯電話の形をしているのに通話ができないという妙なスタイルになっていた。そこで登場したのが2月22日に発表された『DoPa Max 2881P』だ。DoPa MaxはPCカードスロットに直接装着できるPCカード型のDoPa対応端末で、タバコ1箱大の突起部にDoPa端末の機能が詰め込まれている。ノートPCと持ち歩いても苦にはならないサイズ(と言ってもPHSに比べれば大きいが)にまとめているため、筆者もかなり期待しているのだが、連続送信時間が約40分、連続受信時間が約5時間というスペックは少々期待はずれだ。しかもバッテリーの充電はPCカードスロットからではなく、専用ACアダプタを利用するため、自宅やオフィスなどで使わないときは常に充電しておく必要がある。もっとも、音声通話をするための携帯電話と違い、一般ユーザーは待ち受けをするケースが少ないので、使わないときは電源を切っておくという使い方になるのだろうが、もう少しバッテリー回りの改良をしてもらいたい。特に、PCカードスロットからの充電は、PHSのように手動でON/OFFできるようにしてもらいたいものだ。

 また、既存のDoPa対応デュアルモード機やシングルモード機向けに、松下電器産業から「TO-CAD9628PC」というDoPa対応デジタル携帯電話カードも2月17日に発売されている。この製品は従来製品よりも消費電力を抑えられているのが特徴で、非通信時のためのスリープモードも搭載されている。前述のUSB接続用デジタル携帯電話アダプタも含め、携帯電話関係の通信機器は消費電力が最も重要なキーワードのひとつであることは間違いない。これから製品を購入するユーザーは、消費電力の部分を常にチェックしてから製品を選ぶことをおすすめしたい。

□オムロン、デジタル携帯電話用のUSB対応モデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990205/omron.htm
□NTT DoCoMo、DoPa専用のPCカード型デジタル携帯端末
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990202/docomo.htm
□松下、DoPa対応デジタル携帯通信カード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990217/pana.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp