法林岳之のTelecom Watch
第26回:'99年4月編



 新しい年度がスタートした4月。今月も携帯電話、PHS、モバイルコンピューティングに関係するニュースが数多く報じられた。なかでも携帯電話はIDO/セルラーのcdmaOne、NTTドコモのドッチーモが話題になった。


「cdmaOne陣営 vs NTTドコモ」対決の構図


● cdmaOne全国ネットワーク、サービス開始!

 4月14日、日本移動通信(IDO)、北海道セルラー、東北セルラーのサービス開始により、全国ネットワークがスタートしたcdmaOne。4月の通信関連ニュースの中で、最も大きなトピックのひとつと言えるだろう。非同期通信レポートでもその試用レポートをお送りしたが、筆者の回りでもcdmaOneに対する関心は非常に高い。

 cdmaOneのアドバンテージは大きく分けて、2つに分類されるだろう。ひとつは音質や通話品質など、音声通話のアドバンテージ。もうひとつは世界標準となるWAPサービスをいち早く提供した(C201Hのみだが)アドバンテージだ。音声通話のアドバンテージは、cdmaOneを体験した人が声を揃えて言うように、PDCハーフレート方式と比較するレベルにないほどの違いがある。cdmaOne陣営では街頭やタクシーにcdmaOne端末を置き、試聴選挙というキャンペーンを実施しているが、概ね好評を得ているようだ。

 一方、WAPサービスについてだが、こちらはまだ十分にそのメリットが伝わっていないというのが正直な感想だ。cdmaOne陣営ではWAPコンテンツの講習会を開催したり、ビジネスショウで体験コーナーを設置するなどの努力はしているが、まだまだ情報提供の不足感は否めない。しかし、唯一のWAPサービス対応端末であるC201Hは品不足が続いており、ショップによっては「1~2カ月待ち」としているところもあるという。せっかくのチャンスを品不足で逃さなければいいのだが……。余談だが、今月29日発売予定の「INTERNET magazine」(インプレス)で、WAPサービスに関する記事を執筆したので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。また、PC WatchでもWAPサービスに関する続報を予定している。

● ドコモは「ドッチーモ」をアナウンス

 一方のNTTドコモも手をこまねいているわけではない。昨年、旧NTTパーソナルからPHS事業を引き継いだとき以来、事あるごとにアナウンスしてきた携帯電話とPHSの複合端末『ドッチーモ』を4月12日に発表した。ドッチーモ第1弾として発売されたのは、シャープ製『SH811』で、今後、松下製『P811』とNEC製『N811』が発売される予定だ。

 昨年、携帯電話とPHSの複合端末を発売するとアナウンスした際、業界内では「バッテリ駆動時間が短くなるのではないか」、「筐体もかなり大きくなるはず」という声が多く聞かれた。これは複合端末がデュアルモード機になるため、電力消費や基板サイズなどの面でデメリットがあるという意味だ。しかし、実際に発売されたドッチーモ端末を見ると、NTTドコモの主力機種である207シリーズよりもわずか20g程度重いだけであり、バッテリ駆動時間も十分実用になるレベルをクリアしている。

 ただ、端末そのものは既存のPDC端末並みに抑えることができたが、料金的には両方の契約が必要になるため、ユーザーの負担はかなり大きくなってしまっている。標準的なプランだと、携帯電話が4,600円、PHSが2,700円となり、合計7,300円にもなってしまう。ファミリー割引を組み合わせたとしても合計6,800円になってしまう。この基本料金の負担をどう見るかが導入のポイントになるだろう。できれば、ドッチーモ向けの特別な料金プランを用意してもらいたいところだ。

 PHS関連では、NTTドコモが4月1日から正式に64kbpsデータ通信サービスを開始した。プロトコルは従来のPIAFSを拡張した『PIAFS2.0』を採用している。サービス提供地域はまだ限定されているが、今後、順次エリアを拡大していくという。対応端末はモニター向けにも提供され、すでに発売されているPALDIO 611Sのみで、既存ユーザー向けにはアップデートファイルが提供されている。その他の64kbpsデータ通信サービス対応端末としては、前述のドッチーモのみが提供される。PDAなどとの一体型を除けば、当面はこのラインアップのみで展開されることになりそうだ。

● DDIポケットも64kbpsデータ通信サービス開始

 対するDDIポケット電話も今夏より64kbpsデータ通信サービスを開始することを発表した。
 DDIポケット電話の64kbpsデータ通信サービスは、NTTドコモと違い、『PIAFS2.1』に準拠したベストエフォート型と呼ばれる形でサービスされる予定だ。PHSは無線チャンネル1本につき、32kbpsの帯域を持っているが、64kbpsデータ通信サービスはこれを2本束ねて実現している。

 NTTドコモのPIAFS2.0では、発信時に確保したい無線チャンネル数を指定して発信する。無線チャンネルが2本確保できないときや相手が64kbpsPIAFSに対応していないときは、いったん回線を切り、32kbpsで通信を行なう仕様になっている。

 これに対し、DDIポケット電話のベストエフォート型は無線チャンネルが空いていれば64kbps、空きがなければ32kbpsでデータ通信を行なう。64kbps通信中、同じ基地局内に居る他のユーザーに着信があったときは、自動的に32kbpsに減速し、無線チャンネルを1チャンネル明け渡す仕様になっている。しかも、DDIポケット電話では、全国で一斉にサービスを開始する予定だという。どちらの64kbpsデータ通信サービスがおすすめなのかはサービスが提供されていないため、何とも言えないが、筆者自身は一気に全国展開をするDDIポケット電話の64kbpsデータ通信サービスに期待を寄せている。

 また、その他の製品では、ツーカーセルラー東京、ツーカーホン関西、ツーカーセルラー東海のツーカーグループ3社が専用デジタルカメラをセットにした「THZ43Chiaro(キアロ)」という端末を発売している。なかなかユニークな発想の製品だが、双方がこの端末を持っていなければ、十分に楽しむことができない。以前、このコラムで紹介した文字電話などもそうだが、こうした携帯電話やPHSなどの付加機能を活かすためには、PCとの連携が必要不可欠だろう。やはり、携帯電話/PHSユーザー同士だけでなく、オフィスに居るPCユーザーとのコミュニケーションがなければ、新しいコミュニケーションのスタイルはなかなか確立しないのではないだろうか。

● 競争が激しくなりそうな、プリペイド方式の携帯電話・PHS

 さらに、ITT国際電電がサービス提供をアナウンスしたデビット方式のPHSサービス「i-PHS」も面白い存在だ。簡単に言ってしまえば、プリペイド式のPHSサービスというわけだが、DDIポケット電話、NTTドコモ、アステル以外の通信事業者がサービスに乗り出してきた点が注目に値する。通話料金が割高なのが残念なところだが、日本に一時的に滞在する海外ビジネスマンなどには便利なサービスと言えそうだ。しかし、携帯電話陣営もプリペイド方式の携帯電話のサービスを開始しており、今後、競争が激しくなることが予想される。データ通信サービスなどを組み合わせるなどの工夫をすれば、今後、こうしたプリペイド式の携帯電話/PHSサービスが一定の市場を形成する可能性は高いだろう。

□ツーカー、専用デジカメがセットになった携帯電話
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990413/tu_ka.htm
□NTTドコモ、携帯とPHSの複合端末発売(Internet Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0412/doccimo.htm
□法林岳之の非同期通信レポート『スーパーデジタルは何を目指すのか?』
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990427/cdmaone1.htm
□DDIポケット、今年夏からPHSによる64kbps通信サービスを開始予定
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/1999/0428/ddip64k.htm
□ITT国際電電、デビット方式のPHSサービス「i-PHS」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990426/i_phs.htm


ポケットボード ピュア登場


● すでに出荷台数20万台を超えるポケットボード

 4月の通信関連ニュースの中で、筆者が個人的にも注目したのは、ポケットボードの後継モデル『ポケットボード ピュア』の発売だろう。このコラムでも事あるごとに触れてきたが、今となってはこの市場は無視できない存在になっている。

 ポケットボードは一昨年12月の発売以来、すでに20万台を超える売り上げを記録しており、女性や若年層のユーザーを中心に、入門用簡易メール端末として一定の支持を獲得している。今回発売されたポケットボード ピュアは、従来のポケットボードをベースに「メモリ容量を倍増」、「メニュー構成の変更による使い勝手の向上」、「本体の小型軽量化」、「キーボードの操作性向上」などの改良が図られている。ボディカラーは当初、ピュアブルー1色のみだったが、5月1日にピュアグリーンが追加されている。

 実際のポケットボード ピュアの使用感だが、まずキーボードがプラスチック化されたことにより、操作性の違いがかなり大きい。従来のゴム製キーボードは今ひとつキーを押した感覚が薄く、タイプミスなどが多かったが、ポケットボード ピュアならば、確実にキーをタイプすることができる。

 メニュー構成の違いはあまり語られていないが、これもかなり変わっている。従来は、受け取ったメールに返信するとき、いったんメインメニューに戻り、返信先をアドレス帳から選ぶか、メールアドレスを入力し、本文入力画面を表示。その上で、登録伝文リスト(受信メールなどが登録されているリスト)から目的のメールを呼び出して、メール画面に貼り付けるという作業が必要だった。しかし、ポケットボード ピュアではメールの受信画面から返信キーを押すだけで、簡単に返信が出せるようになっている。

 この他にも、電源投入時のパスワード入力、変換キーによる一画面単位のスクロール(マニュアルには未記載の裏技(?))、受信メールの転送など、細かい面での使い勝手もかなり良くなっている。外見は相変わらず女性向けのかわいいものだが、中身はメールの使い方をよく考慮した構成になっている。自分の回りにメールを始めたいという女性がいれば、プレゼントしてみるのもいいだろう。ちなみに、宣伝になってしまうが、拙著の「できるポケットボード ピュア」(インプレス)も発売されているので、こちらも合わせて、ご覧いただければ幸いだ。

● ATOKとPostPetを搭載したCE機、日立のPERSONA

 ポケットボードシリーズと違い、もう少し本格的なモバイルユーザーが注目しているWindows CEマシンだが、4月には日立からPERSONAの新モデル『HPW-30PA』が登場した。この製品は昨年から日立が販売していた『HPW-200J』をリファインしたもので、愛玩電子メールソフト『PostPet2001』のWindowsCE版、『ATOK Pocket for WindowsCE』を搭載している点が大きく異なる。ちなみに、筆者は従来モデルをしばらく愛用していたのだが、あまりの遅さと不安定さに呆れ、昨年末に従来モデルを手放していた。

 今回の製品についても随分と悩んだのだが、ATOKへの期待も込めて、実機を購入してみた。速度的な面は「十分に満足」とまでいかないものの、従来モデルとは比較にならないほど機敏に動作するようになっている。安定性に関しても特に問題はなく、今のところは特にハングアップすることもない。ATOK Pocketについては、まだ辞書の強化が不十分だが、Windows CEに標準で実装されているMS-IMEに比べると、快適に文章を書くことができる。
 ちなみに、PERSONAのラインアップでは、5月25日にVGA液晶ディスプレイを搭載した『HPW-600JC』が発表されているが、こちらはCPUがSH-4になっており、より高速な処理を可能にしている。出荷が期待される製品だ。

 ところで、Windows CE版のPostPet2001だが、予想以上に動きも軽快で、なかなか快適に使うことができた。ただ、マニュアルを含めた情報提供があまり十分ではないため、Windows CE版に特化した、あるいはWindows CEマシン入門を兼ねた書籍やムックの発売を期待したいところだ。

 同じWindows CEマシンでは、NECが販売する『Mobile Gear』シリーズのROMアップグレードサービスの開始を延期することが4月12日にアナウンスされた。実は、筆者はこのサービスの対象機である「MC-R510」も所有しているのだが、アップグレードサービス開始はすでに2度も延期されており、少々がっかりしている。このこともPERSONAHPW-30PAを購入した理由のひとつと言えるかもしれない。サービス開始延期をはっきりとアナウンスすることはメーカーとして正しい姿勢だが、繰り返し延期されれば、その間にユーザーが逃げてしまう可能性が高いこともメーカーには理解してもらいたい。特に、Windows CEマシンのように、PCよりも手軽に買い換えられる機器では市場がすぐに動いてしまう可能性が高いだろう。

□Mobile GearのROMアップグレードサービスが延期
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990412/nec.htm
□電子メールソフト「PostPet」がWindows CEに対応
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990402/postpet.htm

[Text by 法林岳之]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp