法林岳之のTelecom Watch
第22回:'98年12月編
「NetVehicleシリーズの最上位モデル登場」ほか



 年末商戦向けの製品はすでに11月までに発表されていたため、12月はこれといった大きな通信関連ニュースや新製品は発表されなかった。しかし、PHSの64kbpsデータ通信の実験サービス開始やNTTのxDSLフィールド実験の結果報告など、'99年を期待させる動きなども見られた。


NetVehicleシリーズの最上位モデル登場

 12月の新製品でまず目を引いたのは、富士通の『NetVehicle-S30』だ。NetVehicleは初代モデルのNetVehicle-Iでいち早くWWWブラウザからのセットアップを実現し、NetVehilcle-fx3ではパーソナルユーザー向けISDNルータに必要とされる機能をほぼ網羅するなど、着実に進歩を遂げてきた製品ラインナップだ。筆者おすすめのISDNルータのひとつでもある。今回発表された製品は、既存のシリーズの最上位に位置づけられるもので、どちらかと言えば、リモートオフィスなどのニーズを意識している。たとえば、ISDNの片方のBチャンネルはプロバイダへ、もう片方のBチャンネルはオフィスのイントラネットへ接続するといった使い方(意外にこれができない製品が多い)をセキュリティを確保しながら容易に実現できるように設計されている。98,000円という価格から見てもわかるように、パーソナルユーザー向けのものではなく、ヤマハRT103iなどと同じレンジの製品と言えそうだ。ちなみに、先月紹介したNECのAtermIR450シリーズは、残念ながら12月中の出荷が見送られ、1月中旬に出荷される見通しとなっている。

□富士通、NetVehicleの上位機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981221/fujitsu.htm


ワイヤレス環境に対するニーズ

 12月1日にはソニーから2.4GHz帯を利用したワイヤレスアダプタ『WNS-230EX』が発表された。この製品は従来から同社が販売していた『WNS-230』の普及モデルで、価格も1台あたり23,800円とかなり安く設定されている。このWNS-230シリーズは、RS-232CやLocalTalkのインターフェイスを持つモデムやISDNターミナルアダプタと接続することにより、シリアル接続をワイヤレス化することができる製品だ。たとえば、ISDN回線を敷設したとき、1Fに屋内配線の引き込み口と電話機、2FにPCがあったとしよう。こうした環境では1Fから2Fまで屋内配線を引き伸ばしてISDNターミナルアダプタに接続し、アナログポートからの配線を1Fにある電話機まで再び戻さなければならないケースが多い。そんなとき、このワイヤレスアダプタを利用すれば、配線の折り返しという問題をクリアできるわけだ。
 しかし、従来製品は1台あたり39,800円と高価だった上、導入や使い勝手も今ひとつだったため、あまり高い評価が得られていなかった。今回のWNS-230EXで導入コストが大幅に下がることになるので、あとは導入しやすさや使い勝手の面がどの程度改良されているのかが気になるところだ。
 ただ、筆者の率直な感想を言わせてもらうと、やはり、PCの近くにISDNターミナルアダプタがないというのはあまりうれしい環境ではない。複数のWNS-230シリーズを用意することで、ワイヤレスLAN環境を構築することもできるだろうが、ISDNターミナルアダプタの出費分を考えると、実売19,800円でも手を出しにくい。発想はいいのだが、もうひとつ何か面白い機能、便利な機能を明確に打ち出さなければ、この手の製品群はなかなか普及しにくいのではないのだろうか。

□ソニー、TA/モデムとPCを無線接続するアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/981201/sony.htm


'98年通信関連ベストプロダクト

 さて、12月はニュースが少なかったので、筆者の独断と偏見に基づき、'98年の通信関連ベストプロダクトを選んでみることにしよう。ただ、通信関連と言ってもジャンルが幅広いので、いくつかのジャンルに区切って製品を選ぶことにする。

●モデム部門:スリーコム SPORTSTER SUPER

 アナログ回線で利用するモデムでは、V.34/28.8kbps及び33.6kbpsを超える通信速度を実現する56kbpsモデムが'98年の最大のトピックだった。一昨年、x2とK56flexという互換性のない規格に準拠した製品が発売されたことで、市場が混乱することになったが、'98年9月には国際標準規格V.90が勧告され、ようやく安心して製品を購入できるようになった。春頃からは国際標準規格を先取りする形で、V.90対応製品も数多く登場した。しかし、その一方で、PCに標準搭載されるモデムもV.90/56kbps対応が主流となり、インターネット接続のためにISDN回線へ移行するユーザーも増えたため、アフターマーケットでのモデムの商品価値は今ひとつ少なくなってしまった感も否めない。そんな状況の中で筆者が選んだのは、スリーコムの『SPORTSTER SUPER』だ。
 アフターマーケットのモデム市場は、製品の差別化が非常に難しくなっているが、同社は旧U.S.Roboticsから受け継いだSPORTSTER SUPERをいち早くV.90に対応させ、'98年春からグローバルオンラインなどのプロバイダを中心にフィールドテストを実施している。Macintosh環境への対応の遅さやその後のDSPソフトウェアが更新されていないなど、細かい不満はあるが、いち早く国際標準規格に準拠した環境を提供したことは高く評価できる。

●ISDNターミナルアダプタ部門:NEC AtermIT65EXシリーズ

 ISDN機器ではパワーユーザーを中心にISDNダイヤルアップルータに注目が集まっているが、量販店などでの反応などを見る限り、まだまだISDNターミナルアダプタの需要はかなり多い。特に、'98年はナンバー・ディスプレイのサービスが開始されたこともあり、液晶ディスプレイを搭載した製品が数多く登場した。しかし、ISDNの普及に弾みがついてから、すでに2~3年目ということもあり、機能的には成熟度が高くなり、価格競争も一段落ついている。その半面、製品間の差別化が難しくなり、ベストプロダクトを選びにくくなりつつある。筆者が悩みに悩んだ結果、ISDNターミナルアダプタ部門はNECの『AtermIT65EXシリーズ』を選ぶことにした。
 NECのAtermシリーズはNTTテレコムエンジニアリング東京のMN128とともに、ISDN普及の火付け役的な存在だが、AtermITシリーズは一貫して使い勝手などを含めたユーザーインターフェイスにこだわって開発されてきている。AtermIT65EXシリーズは'97年に発表されたAtermIT65Proシリーズをベースにしたモデルだが、USB接続の機能を上手に活かすことにより、さらに使い勝手の良い製品に仕上げられている。Windows 98環境でのUSB接続も良好で、非常に安定している。12月にはさらに後継となるAtermIT60/75シリーズも登場したが、'98年後半の実績を考慮して、この製品を'98年ベストプロダクトとする。
 ただ、次点として、アイワの『TM-AD1282』、アレクソンの『ALEX-TD503α』の2台も選んでおきたい。この2台はいずれもISDN回線でのG3FAX送受信機能をサポートし、ALEX-TD503αはナンバー・ディスプレイを積極的に活用する機能を搭載している。USB接続のような目玉機能こそないが、アナログポートを含めた総合的な機能はAtermIT65EXシリーズに引けを取らない完成度の高い製品だ。

□NEC、USB機能を強化したTA「AtermIT65EX」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980525/nec.htm

●ISDNダイヤルアップルータ部門:ヤマハ RTA50i

 '98年、最も激戦だったのがISDNダイヤルアップルータ部門だ。この部門も非常に選択が難しかったが、ヤマハの『RTA50i』をベストプロダクトに選んだ。パーソナルユーザー向けのISDNダイヤルアップルータとしては、NTTテレコムエンジニアリング東京のMN128-SOHOがその先駆けとなったが、'98年は『ポストMN128-SOHO』を狙って、数多くの製品が登場した。しかし、その中でもRTA50iは同社が今まで培ってきた信頼性や安定性をベースに、クライアントPCのセットアップツールを用意したり、AV機器を思わせるようなデザインを採用するなど、パーソナルユーザーの市場をよく考えて設計されている。特に、デザインはヤマハらしい品の良さが出ており、筆者自身も非常に気に入っている。ただ、ドキュメント類やWWWブラウザによる設定メニューの応用度の低さなどの不満点も残されている。
 そこで、次点として、NECの『COMSTARZ ROUTER(CMZ-RT-DS)』、富士通の『NetVehicle-fx3』を推薦したい。COMSTARZ ROUTERはWWWブラウザによる設定メニューを整理したことで使いやすさを増し、掲示板や電話帳、独占機能などの独自機能を搭載するなどのオリジナリティが評価できる点だ。NetVehicle-fx3はヤマハのRTシリーズに匹敵する安定性、サポートの良さ、設定メニューのわかりやすさなどが評価ポイントだ。RTA50iとの差はごくわずかしかないと考えていいだろう。

□ヤマハ、SOHO向け低価格ルータ NET VOLANTE
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980911/yamaha.htm

●モバイル機器部門:NTTドコモ ポケットボード

 ノートPCが好調な売れ行きを示したことからもわかるように、'98年は一般ユーザー向けのモバイルコンピューティング市場がようやく本格的に花開いた年でもあった。
 しかし、ノートPCよりもモバイルコンピューティングを身近にしてくれたのがNTTドコモの『ポケットボード』だ。そのコストパフォーマンスの良さ、わかりやすいユーザーインターフェイス、ポップなデザインは、今までモバイルコンピューティングに縁遠かった人たち(特に女性)にも電子メールの楽しさや便利さを体感させることに成功した。テレビCMの影響もあるのだろうが、夏頃には完全に品切れを起こすほどの人気ぶりで、10円メールを提供するマスターネットも一気に加入者が増えたという。通信関連機器では、'98年の総合ベストプロダクトと言っても過言ではないはずだ。今後、こうした簡易メール端末の市場がどのように成長していくのかが非常に楽しみだ。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp