後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第9回:「'99年、H/PC Proがブレイクする?」ほか


'99年、H/PC Proがブレイクする?

■H/PC Proが企業で受けるかも

 10月初めに発表されたMicrosoftの「H/PC Pro(ハンドヘルドPC Pro)」。この新規格により、Windows CE搭載ハンドヘルドPCの機能は一段とアップする。しかし、世間の反応はいまひとつ。日本でも米国でも、話題にものぼらない。にもかかわらず、この“不人気”H/PC Proが'99年以降は伸びるという予測が出た。

 米国の調査会社IDCによると、H/PC Proは'98年には市場への影響はほとんどないが、'99年には企業ユーザの興味をひき、世界で30万台出荷されるだろうという。コスト・オブ・オーナーシップが低いため、「ノートPCほどのコストをかけずにモバイル用の機器が欲しいというデスクトップユーザーのニーズに合う」というのが、IDCの分析だ。

 H/PC Proは画面が大きく、キーボードもあるので、お客にプレゼンテーションをするのにも使いやすい。それでいて汎用のノートPCより、軽く安価で、電池も持つし、扱いやすい。また、Windows CE 2.xベースなのでVisual Basicでソフトが組め、外注したりしなくても、社内で気軽にカスタムアプリケーションが作れる。そこで企業にとっては全体的にコストが低くなるというわけだ。

 個人にとっては中途半端であまり使い道がなさそうなH/PC Proだが、安くて扱いやすいノートPCを求めている企業にはたしかに受け入れられるかもしれない。たとえばよく保険の外交員に持たせる見積もりマシンでは、真価を発揮しそうだ。

■対照的に暗いPalm-size PCの予測

 さてそれでは、もうひとつの新Windows CEデバイス、Palm-size PCの未来はどうか。こちらの未来はあまり明るくないようだ。

 IDCによれば、Palm-size PCは少なくとも今後3年間、先行する競合製品Palm Pilotのシェアを奪えないだろうという。米国でパーソナルユースのペンベース携帯情報機器ブームを生み出したPalm Pilotには、サードパーティのアプリケーションや周辺機器がたくさんある。Palm-size PCより環境面で有利だ。

 一方、Palm-size PCは機能がリッチだが、そのぶんメモリとCPUパワーを食い、バッテリがPalm Pilotより持たない。これは携帯情報機器としては相当に痛い。
 もっとも数世代後、半導体がさらに集積化されてチップの数が減り消費電力が小さくなれば、バッテリの問題は少なくなる。そうすればPalm-size PCにもチャンスが訪れるかもしれない。

■'99年、スマートハンドヘルド市場は45%アップするか

 こうしたH/PC Proの可能性やPalm Pirotの好調ぶりからか、IDCは'99年、世界のスマートハンドヘルド機器市場全体では、今年より45%拡大すると見ている。
 ただし、2月のこのコラムでも触れたとおり、IDCは今年初めにはスマートハンドヘルド機器が今年世界で820万台出ると予測していたが、10月の今段階では推定740万台と下方修正している。さて、今回の予測は当たるのかどうか。

□IDC: Smart Handheld Devices Market Will Surge in 1999
http://www.idcresearch.com/Press/102898Bpr.htm
□関連記事
【2/24】後藤貴子の データで読む米国パソコン事情 第1回「米国でハンドヘルド機 器市場が急伸」の項
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980224/pcdata1.htm


2000年はPC市場の終わりの始まり?

■相反する調査結果

 '98年のPC市場は、日本では伸び悩んだが、世界的に見ると大盛況だった。ところが2000年からそのPC市場が縮小とするという予測が出た。いよいよPC時代の終わりの始まりが来るのだろうか。

 '98年第3四半期のPC市場は、Dataquest、IDCという二大調査会社がともに出荷台数で昨年比2ケタの成長を推定している。また、'99年の市場も期待は高い。2000年問題対策のために企業がシステムをリプレースする「特需」があるからだ。

 しかしForrester Researchによれば、その特需が終わると、急にPCへの需要が冷え込むだろうという。これまでのPC市場の成長は企業市場が支えてきた。しかしPCをリプレースしたばかりの企業は最低でも1、2年はアップグレードしない。しかもその後も企業は、操作がPCより簡単で価格も安いインターネット機器の導入に重点を移す。そのため、「PC業界が'90年代の栄光を取り戻すことはない」だろうというのがForresterの予測だ。

 もっとも消費者にとってはいい面がある。Forresterによれば、企業がPCを買わなくなるため、業界はコンシューマ市場をもっと拡大させようと、より低価格の製品を出してくるだろうという。つまり2000年以後の数年間はPCが一段と買いやすくなるかもしれないわけだ。

□IDC: Q3 U.S. and Worldwide PC Markets Solid
http://www.idcresearch.com/Press/102698Apr.htm
□Dataquest: PC Industry Prospered DuringThird Quarter of 1998
http://gartner11.gartnerweb.com/dq/static/about/press/pr-b9847.html
□Forrester: PC Industry Revenues To Fall After Peaking In 1999
http://www.forrester.com/press/pressrel/981028b.htm


Intelが注目するインターネットヘルス市場とは

■Intelがインターネット上の情報・サービスに着目

 パソコンで学習するとエラくなれる!――そう言われると、なんとなく信じてしまいそうな雰囲気がパソコンにはある。
 だが、ただパソコンで勉強すればいいわけではないという調査結果が、米国の教育団体Educational Testing Service(ETS)から出された。

 Intelが次に狙う市場は何か。メモリ? それとも液晶? いや違う。なんと、インターネットでのヘルス情報サービスなのだ。
 Intelは10月下旬、「インターネットヘルスデイ」というカンファレンスを開催した。インターネット上のサービス、しかも健康医療分野だなんて、「なんでIntelがと思うだろう」とステージに立ったIntel幹部が自ら言うくらい意外な取り合わせだ。Intelによれば、PCとインターネットは、健康医療関係の情報やサービスに、クオリティの向上、コストの削減、効率アップをもたらす。インターネットで成功した株の情報や売買、書籍購買のサービスと同じように、ヘルスケアも成功を収めるだろうという。だからPC市場の拡大を目指すIntelが後押しするのだという。

■有望市場の「インターネットヘルス」

 このインターネットヘルス市場への大きな期待感は、日本から見ると意外な感じがする。だが、米国ではこれはIntelだけの確信ではない。調査結果もそれを裏付けている。

 Cyber Dialogueの調査によると、昨年、オンラインで健康医療情報を調べた米国成人は1,800万人。これは投資情報とほぼ同じ数という。そしてオンライン健康医療情報を求めた人の半分近くが調剤薬、市販薬、サプリメントなどをオンラインで買うことに興味を示した。また、Jupiter Communicationsは、健康医療のWeb広告が、'97年の1,230万ドルから2002年までには2億6,500万ドルにまで伸びるだろうと予測している。

 考えてみれば、オンラインで家から薬を注文したり、チャットで医者と直接コミュニケーションしたり(AOLが実際に始めている)できれば、病人にはこれほど便利なものはない。また、豊富で新鮮な情報を簡単に検索できるインターネットは、薬や医療について調べるのにもぴったりだ。

 しかし、じつはIntelがインターネットヘルスに力を入れるのにはもうひとつ理由がある。それはIntelの会長アンディ・グローブ氏自身が、最近ガンから生還したからだ。ガンと診断されたとき、彼はオンライン情報を使い、わずかの時間でいかに多くの情報やサポートが得られるか、身をもって知ったのだ。
 命がかかっているからみな情報を懸命に探し、だからこそインターネットヘルスは一大産業になるというわけだ。

□Cyber Dialogue: Internet Health Seekers Reach Critical Mass
http://www.cyberdialogue.com/press/releases/intel_health_day.html
□Jupiter Communications: Market Conditions Ripe for Rise of Health Portals
http://www.jup.com/jupiter/press/releases/1998/1027a.html

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp