「エー、このMicrosoft叩きのご時世に、信じられない」と思うかもしれない。しかし、この調査によると、Microsoftへの支持率は、他のコンピュータ系企業と比べても非常に高い。同じ調査で、OS市場でのMicrosoftのライバルApple Computerが好きと答えた人は67%、ブラウザでのライバルNetscape Communicationsにいたってはわずか35%だったのだから。
しかも、回答者は78%がWindowsユーザーで、Microsoftの製品に対しても76%が満足(製品が「とてもよい」または「よい」と回答)と答えたという。また、Internet ExplorerのWindows 95バンドル強制に関する司法省とMicrosoftの裁判に関しても、Microsoft側が正しいと思う人(38%)が司法省側につく人(28%)を上回った。さらにそのうえ、Microsoftの会長兼CEOのビル・ゲイツ氏を好きだと答えた人も56%(「嫌い」16%、「わからない」28%)もいた。とにかく手放しといってもいいほどの好意の寄せぶりだ。
この“愛の告白”にはゲイツ氏もご満悦の様子で、San Jose Mercury Newsとのインタビューの中でも、「つい最近、Fortuneが世論調査を行ない、Microsoftが米国で最も賞賛されている企業だとの結果が出た」と引き合いに出している。
それに彼らはパソコンを使っていても、自分で細かな設定などをしたりせず、誰かにやらせることができる。仕事時間のほとんどをコンピュータと向き合って過ごし、その世話も自分でして過ごしているユーザーとは感覚が違うから、Microsoft製品に満足というのもうなづける。
しかし、彼らがMicrosoftとゲイツ氏を高く評価するのにはそれ以上に、アメリカン・サクセス・ストーリーへの信念もあるのではないだろうか。十代の若造がプログラミング能力ひとつで起こしたMicrosoft。それがまたたくまに世界のトップ企業となり、創業者ゲイツ氏を世界一の資産家に押し上げた。ゲイツ氏はアッパーミドルクラスの出身ではあるが、家の金や親のコネにまかせて会社を作ったのではなく、自分の才覚でのし上がってきた。そこが、明日は自分もと走り続けるFortuneの読者たちに、強くアピールする。叩かれるMicrosoftを擁護しながら、彼らはアメリカンドリームを擁護している気持ちに浸っているのではなかろうか。
米国市場好調の理由はサブ1,000ドルパソコンのブレイクだ。'97年前半から出始めた1,000ドル(約13万円)以下の格安パソコンが家庭向けに売れに売れたのだ。以前は米国のパソコン業界でも、サブ1,000ドルマシンの投入で市場が拡大するかどうかに対してに疑問の声があった。2,000ドルマシンを買っていたユーザをたんに1,000ドルマシンに移動させるだけではないかという声だ。しかしふたを開けると、サブ1,000ドルは新規需要を掘り起こし、市場をぐっと広げた。
家庭向けパソコンの価格はその後も下がっていまやサブ800ドルが主戦場。激安店や値崩れ品では500ドル台もある。このためビジネス向けなどを含めたデスクトップ全体でも、米国のパソコン平均価格は'97年12月で1,296ドル(Computer Intelligence)となり、'96年12月の1,623ドルから約20%も下がった。それでも価格下落分をはね返すほどに需要が伸びたわけだ。
もちろんその背景には、潜在ニーズの高さもあった。米国では、子どもの教育にはパソコンの知識が不可欠だし、そのほかにも確定申告の準備(米国ではサラリーマン家庭も確定申告をする)、在宅ワーク、インターネットなどで、パソコンが家にあったほうがいいと考える人が多い。だが、それを実際のパソコン購入に結びつけたのがサブ1,000ドルだった。
つまり、便利で高級でも、高いモノは売れず、安ければそれなりの製品でも売れる。一言で言うと、米国の消費者のほうが日本の消費者よりずっと「価格で動く」。これが米国のセオリーなのだ。
一方、日本の消費者はどうかというと、一見便利そうでカッコいいと思えば高くても買う。カーナビしかり、ワイドTVしかり。ブランド指向も強い。逆に安いからといってそれだけで人がどっと動くことはない。だから日本では家電もパソコンも思い切って機能を削って価格を下げるということはしづらくなる。
この1年米国で吹き荒れたサブ1,000ドルの波が日本に来なかったのはおそらくこうした理由からだろう。もちろんCPUの価格は下がっているから、日本でもその影響で今年は昨年より全体的にパソコンの値下がりはあるだろうが、米国並みにはならないと見たほうがよさそうだ。
この予測の土台にあるのは、'96年後半からの3com「PalmPilot」の成功だ。どうしてPalmPilotが突然当てたのだろう。機能がシンプルで使いやすいから? パソコンのPIMソフトのデータ連携が簡単だから? 電子メールもOKだから?
もちろんそれらも理由だが、いちばんのポイントはここでも、マジックナンバー299ドルという値付けだったのではないだろうか。PalmPilotは価格を299ドルから(今では250ドル以下になっている)と画期的に安くした。これがアメリカ人のコスト意識にピッタリあったのだと思う。高価なザウルスを普通のサラリーマンが自費で買って、喫茶店で使っている日本とは、お国柄が違う。
IDCでは、「企業の採用、専用アプリケーションの増加、製品・価格の強化」などがあいまって、今年もPalmPilotのヒットは続き、PalmOSが世界市場の37.6%を取ると見ている。
そのうえ今のところ、PalmPCは高速なMPUや大量のメモリが必要なので、原価が高く電池駆動時間が短くなりそうだ。つまり外出先で使いにくくなおかつ価格も高くなる可能性がある。Windows CEのモバイルデバイス全体で'98年のシェアは29.9%とIDCは予測しているが、H/PCの実績やPalm PCの出だしを見る限り、それも多めの見積もりという気がする。
もっとも、こういうオーバースペックな仕様の設定はMicrosoftの伝統的な手法でもある。初めからマジックプライスに合わせるために仕様を削るより、ハードウェアの進化などが追いついて、競争力ある価格でもそのスペックでメーカーが製品が出せるようになるまでブレイクは待つという手法だ。
PalmPC機器が299ドルで出るようになったとき、PalmOSとの熾烈なシェア争いが起きるのかもしれない。
[Text by 後藤貴子]