Windows 98、iMac発売と大きな動きがあった7~8月のPC業界だが、通信関連に関してはあまり大きなトピックはなく、6月編の最後でも触れたように、ややネタ切れ感が強かった。そのため、7月と8月のTelecom Watchは合併号という形でお届けする。
■ISDNダイヤルアップルータに期待の新製品
複数のPCを所有するユーザーに高い注目を集めているISDNダイヤルアップルータ。ブームの火付け役となったNTTテレコムエンジニアリング東京をはじめ、NEC、富士通、ヤマハ、アンリツといったメーカーなどから魅力的な製品が数多く販売されており、にわかに価格競争も激しくなっている。
そんな中、7月16日にテレコムデバイスから『NetCruz』というISDNダイヤルアップルータが発表された。同社はコストパフォーマンスの高いネットワーク機器やPCカード製品などを販売することで知られているが、今回発表されたNetCruzはコストパフォーマンスもさることながら、使い勝手や拡張性の面にも配慮がなされている製品だ。
たとえば、ISDNで屋内配線が逆転していたとき、従来のISDNターミナルアダプタやISDNダイヤルアップルータでは電源を切り、スイッチを切り替えなければならなかった。しかし、NetCruzでは自動的に配線の状態を判別し、必ず正転する機能を搭載している。DSUの切り離しについても、U点端子(屋内配線と接続する端子)に接続したときはDSUをON、S/T点端子にのみケーブルが接続されたときは自動的にDSU機能がOFFになる仕組みだ。ISDN導入時に最も多いトラブルが屋内配線の正逆転接続をはじめとするDSU接続回りであるという分析もあり、この一連の機能はISDNをはじめて敷設する初心者にも配慮した機能と言えるだろう。さらに、背面のHUB部分はモジュール形式になっており、オプションで提供される100Base-TX対応のモジュールに交換することが可能だ。ISDNダイヤルアップルータとしての機能も充実しているが、筆者が最も注目しているのはネットワークゲームやストリーム系アプリケーション、インターネットアプリケーションの対応状況だ。
7月31日に光栄が『信長の野望Internet』を発表しているが、最近のPCのゲームでは通信対戦がひとつのトレンドとなっている。ところが、ISDNターミナルアダプタやモデムを利用したときと違い、ISDNダイヤルアップルータを利用した環境ではアドレス変換などが行なわれるため、こういったネットワーク対応ゲームが正しく動作しないことが多い。そこで、テレコムデバイスでは開発中に代表的なネットワーク対応ゲームやインターネットアプリケーションの動作確認を取り、それらをWWWページで公開している。すべてのソフトウェアが動作するわけではないが、動作確認情報が提供されているというのはユーザーにとってもうれしい点だ。
一方、メルコはISDNやOCNに対応したルータ『LBR2-128』及び『LBR2-128DSU』とクライアントPCのセットアップを出張で行なってくれる『LIS-LBR2』というサービスパッケージを8月31日に発売した。便利ではあるものの、正しくネットワークの設定がなされていないと動作しなかったり、ムダな課金が発生するといったルータのトラブルをサポート面でカバーするという新しい試みだ。SOHO環境のユーザーには興味深い製品と言えるだろう。
ISDNターミナルアダプタ同様、ISDNダイヤルアップルータも価格競争が激しくなりつつあるが、徐々に価格競争から「導入しやすい」「使いやすい」ことをメリットとして掲げる製品が増え始めてきたのは、初心者ならずともうれしいことだ。今後の各社の新製品の動向に注目したい。
□テレコムデバイス、SOHO向けルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980716/telecom.htm
□光栄、通信対戦ゲームに本格参入を宣言。「信長の野望 Internet」発表記者会見
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980731/koei.htm
□メルコ、ルータ出張設定サービスを発売。周辺機器を価格改定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980831/melco.htm
■次々と登場するV.90対応モデムだが……
9月15日、56kbpsモデム(PCM対応モデム)の標準化を進めてきたITU-Tは、正式にV.90(仮勧告名V.pcm)を勧告したことを発表した。'96年から続いてきた56kbpsモデムの標準化作業もこれでようやく一段落ついたことになり、これからのアナログ回線用モデムはV.90が世界標準ということになる。
PC Watchでもお伝えしているように、V.90対応モデムは今年の春頃から製品が登場し、夏以降はx2、もしくはK56flexとの両対応製品が当たり前となりつつある。7月と8月もスリーコムのISAバス用内蔵モデム『U.S.Robotics Faxmodem Internal/5618』、NECの外付け用『COMSTARZ MULTI 560II』、サン電子の外付け用『MS56KAF』、『MS56KEF』、サイキューブのモデム/LAN兼用PCカード『FMC-561』、米Xircomのモデム/LAN兼用PCカード『RealPort Ethernet10/100 + Modem 56』などが相次いで発表されている。価格も28.8/33.6kbpsモデムが登場した当時より安く、かなり買いやすくなっている。今までも繰り返して書いてきたことだが、モバイル環境での利用やアクセスポイントがないなどの特定条件下を除けば、今さら28.8/33.6kbpsモデムを利用する価値はほとんどないだろう。
ところで、ここ数年の外付けモデムの傾向として、電源にACアダプタを採用している点が挙げられる。ACアダプタにすることにより、コストダウンを狙っているわけだが、筆者自身はACアダプタ採用製品があまり好きではない。なぜならコンセント回りが整理しづらくなるからだ。確かに、コストダウンは重要なことだが、ACアダプタは発熱や整理の問題から見てもあまり歓迎されるべきものではない。
以前、あるメーカーの方に「電源を内蔵した製品を作れないわけではないが、結局ユーザーは安い方を選んでしまう」という分析を伺ったことがある。実際にどれくらいの価格差があるかというと、サン電子のMS56Kシリーズを見るとよくわかる。電源内蔵のMS56KAFが26,800円に対し、ACアダプタを採用したMS56KEFが19,800円で、その差は7,000円。おそらく、市場価格では5,000円前後の差になるはずだ。この差をどう見るかはユーザー次第だが、V.90対応製品が数多く登場し、市場価格も落ち着いてきていることを見れば、そろそろ「安ければいい」という判断基準を見直してもいいのではないかと考えている。
一方、PCカードではLANカードの機能を包含したマルチファンクションカードが増えてきている。各メーカーはコネクタ部分などにいろいろと工夫をしているようだが、米Xircomの『RealPort Ethernet10/100 + Modem 56』が日本市場に投入されたのは少し驚かされた。この製品はCOMDEX/Spring'98ではじめてお目見えしたものだが、アナログ回線のモジュラーケーブルや10/100Base-TXのEthernetケーブルを直接PCカードに挿せるという特徴を持っている。しかし、カードそのものがPCMCIA Type2×2のスロットを埋めてしまう形状のため、現実的にはあまり利用するメリットがないと見ていたからだ。Ethernet部分を10/100Base-TX対応にした点は評価できるが、価格設定も53,620円と高い上、携帯電話を接続できるインターフェイスがローカライズされていないなどの不備もあり、あまり納得できる製品とは言えない。日本と海外を半々で生活しているようなユーザーならともかく、よほど特別な環境でない限り、利用するメリットのない製品だろう。
大きなニュースではないが、個人的に気にしているのは米Lucent Technologiesが8月25日に発表したUSB対応のDSPモデムチップセットだ。Windows 98の発売により、USB周辺機器に注目が集まっているが、通信機器ではISDNターミナルアダプタこそあるものの、USB対応モデムはまだ登場していない。しかし、こうしたチップセットが登場したことにより、今後はUSB対応モデムが増えることになりそうだ。Luncent Technologiesのニュースリリースには米MultiTechや米Digitan Systemsと並んで、台湾のAskey Computerの名前が並んでいる。同社は国外のメーカーとしては比較的早い時期から日本の電気通信端末機器審査(いわゆるJATEの認定)に対応していたメーカーで、国内メーカーにもOEM供給をしてきた実績がある。本番はCOMDEX/Fall'98あたりになるだろうが、今秋から今冬に掛けてはUSB対応モデムが注目を集めそうだ。もちろん、そこには前述の『価格』という問題が絡んでくるのだが……。
□サイキューブ、モデム/LAN兼用PCカードなど
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980824/cyqve.htm
□米Xircom、コネクタを内蔵した56kbpsモデム、LANアダプタの複合PCカード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980724/xircom.htm
□サン電子、V.90/K56flex両対応の56kbpsボックス型モデム2モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980713/suntac.htm
□NEC、V.90とK56flexに両対応した56kbpsモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980716/necv90.htm
□スリーコム、V.90/x2対応のISAバスモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980717/3com.htm
■その他の目についたニュース
モデムやISDN機器以外で目についたニュースもいくつか触れておこう。まず、エーアイソフトは同社が販売しているWindows用Faxソフト『EasyFaxシリーズ』の新製品を8月28日に発表した。Windows 98対応の『EasyFax98』、ネットワークでFaxモデムを共有する『EasyFax PRO98 Ver.4.1』の2製品だ。Windows 3.1時代に比べると、Faxソフトの需要はかなり落ち込んでいるが、ネットワーク上でFaxモデムを共有できるというのはSOHO環境にとってもうれしい点だ。ただ、LAN環境を構築している多くのユーザーがISDNに移行し始めていることを考えると、もう少しそのあたりを意識した製品も欲しいところだ。
ちなみに、未確認情報だが、ISDNターミナルアダプタ用Faxソフトとして知られる独RVS-COM社の『RVS-COM』(国内販売元:メガソフト)もISDNダイヤルアップルータへの対応を検討しているという話なども聞こえてきており、今後はネットワーク上でFax環境をいかに安価に実現するのかもひとつのトレンドになってきそうだ。
また、7月17日にはアスクがPCIバス用高速シリアルカードを発表している。同社のダイレクト販売価格で11,800円と比較的手頃な価格設定になっているが、同社のWWWページにはドライバなどのソフトウェアの供給状況がハッキリ明記されていない。今回発表された製品は米Koutech Systems( http://www.koutech.com/ )の『IO FLEXシリーズ』という製品なので、そちらのWWWページからドライバなどをダウンロードすればいいのだが、その程度はWWWページでもアナウンスして欲しいところだ。
□エー・アイ・ソフト、Windows 98対応のFaxソフト
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980828/aisoft.htm
□アスク、PCI接続の高速シリアルカードほか2製品
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980717/ask.htm
[Text by 法林岳之]