法林岳之のTelecom Watch
第17回:1998年6月編
「V.90対応外付けモデムのオンパレード」ほか



 6月といえば、PCユーザー注目のイベント『COMPUTEX TAIPEI'98』が開催される月 だ。非同期通信レポートでもお伝えしたとおり、今年も面白そうな製品を数多く見る ことができた。6月の通信関連ニュースは先月に続いて、V.90対応モデムが多かった が、ルータ関連にも注目製品がいくつか登場した。


V.90対応外付けモデムのオンパレード

 5月はV.90対応のPCカードモデムが新製品として数多く発表されたが、6月は外付けモデムが主役だった。V.90/K56flex両対応の外付けモデムがオムロンとマイクロ総合研究所から、PCカードモデムがTDKから、PCIバス用がダイアモンドマルチメディアシステムズから、そして33.6kbpsモデムながらV.90へのアップグレードパスを提供する製品がアイワから、それぞれ発表されている。

 まず、オムロンは外付けタイプでACアダプタを採用した「ME5614D」、電源部を内蔵した「ME5614E」の2機種を発売している。ME5614DのACアダプタはコアにコンセントを直結しないタイプを採用するなど、実用的な工夫をしているのが特徴。ただ、価格差が標準小売価格で4,000円(実売では3,000円以下)しかない点を考えると、電源部を内蔵した製品を購入した方が賢明だろう。

 マイクロ総合研究所の『MRV56XL』は従来のMR560XLと同じデザインを採用し、ACアダプタはME5614D同様、コアとコンセントを分離したタイプとなっている。この製品で興味をひかれるのが「ナンバーディスプレイ対応」という記述。NTTのナンバーディスプレイで通知される信号をシリアルポートからパソコンに出力できるというのだ。ただ、残念ながら現時点ではアプリケーションが提供されていないため、今のところは使い道がないが、ひょっとすると何か面白いアプリケーションが出てくるのかもしれない。

 TDKのPCカードモデム『DF5600DX』はWindows 95/98、Windows NT 4.0、Mac OSに加え、Windows CE 2.0も正式にサポートしている点が特徴だ。Windows CE 2.0マシンはPCカードスロットを備えているが、正式対応を謳う製品が少なく、今ひとつ安心してPCカード製品を購入できない。Windows CE 2.0マシンで56kbpsモデムを利用する価値がどれだけあるかはともかく、正式に対応を謳ってくれるのはユーザーとしても心強い限りだ。

 ダイアモンドマルチメディアシステムズの『SupraMax 56i PCI』は、一般市場向けでは珍しいPCIバス用内蔵モデムだ。PCIバス用内蔵モデムは、昨秋のPC98-NX登場時にNECから発売されていたが、一般向け製品はあまり登場していなかった。このSupraMax 56i PCIが特徴的なのは、コントローラレスになっている点だ。通常、モデムチップセットはデータポンプとコントローラで構成されているが、コントローラの処理をCPUに行なわせることでコスト削減ができるというものだ。現に、SupraMax56i PCIも12,800円という低価格を実現している。実売では確実に1万円以下で購入できそうだ。ただ、PCIバス対応カードが増えていることと、最近のマザーボードではPCIバスが多くても5本しかないため、モデムのためだけにPCIバスを消費するのは少々気になるところだ。同社のように、ビデオカードからサウンドカード、SCSIカードなど、幅広いラインアップを揃えているメーカーなら、複数の機能を搭載したカードの発売を期待したいところだ。

 アイワの『PV-BF3356 HW』は外付けタイプのモデムで、5月に同社が発表したPCカードモデム『PV-JF3356W』と同様のアップグーレドパスを提供している。現時点ではV.34/33.6kbps対応だが、x2対応へのアップグレード、V.90対応へのアップグレードをともに3,000円で実施する。ただし、x2対応にアップグレードしたユーザーはV.90対応へのアップグレードは無償になる。標準価格が12,800円で、アップグレード料が3,000円なので、合計15,800円でV.90/x2対応製品になるというわけだ。アップグレードの手間はあるが、かなり安価であることは確かだ。

 さて、最近の56kbpsモデムを見ていて、もうひとつ気づいたのがバンドルソフトの減少だ。今回紹介している製品の中でも、TDKとオムロンの製品がドライバ以外にソフトウェアをバンドルしていない。PCには十分すぎるほどのソフトウェアがバンドルされ、「今さらモデムにバンドルソフトは要らない」「その分は価格を下げる」という判断だが、モデムにバンドルされるソフトが貴重と見る向きもある。判断の分かれるところだが、価格を重視するのか、バンドルソフトの充実度を取るのか、購入前にじっくりと検討して欲しいところだ。

□オムロン、V.90とK56flex両対応の56kbpsボックス型モデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980625/omron.htm
□TDK、V.90とK56flex両対応の56kbps PCカードモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980626/tdk.htm
□マイクロ総研、V.90とK56flex両対応の56kpsモデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980623/mrl.htm
□ダイアモンド、V.90とK56flex両対応のPCIバス用56kbpsモデムカード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980624/diamond.htm
□アイワ、V.90にアップグレード可能な低価格33.6kbps モデム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980609/aiwa.htm


盛り上がるルータ市場

 今、通信関連製品で最も注目度が高いものといえば、ルータをおいて他にないだろう。本連載の4月編でもお伝えしたが、ルータは2つの方向に分かれつつある。ひとつはISDN回線に接続することを前提にしたISDNルータ、もうひとつはIPプロトコルをルーティングするIPルータだ。前者の代表格はMN128-SOHO(NTT-TE東京)、NetVehicle-fx3(富士通)、COMSTARZ ROUTER(NEC)など、後者の代表格はNetGenesis4(マイクロ総合研究所)、FA-10(センチュリーシステムズ)などだ。前者はISDN回線にしか利用できないが、後者はモデムなどと組み合わせ、アナログ回線でも利用できるというメリットを持っている。

 6月の新製品で、まず注目したいのは、発売から1年間、高い人気を保ち続けてきたMN128-SOHOの後継機となる『MN128-SOHO SL10』だ。従来のMN128-SOHOはWebブラウザからのセットアップがしやすい点などがウケていたが、その反面、パフォーマンス不足やアナログポートの品質の悪さ、ルータとしての機能不足などが指摘されていた。

 今回発表されたMN128-SOHO SL10は液晶ディスプレイを搭載し、縦置きデザインを採用したのが外見上の特徴だが、PPTP(Point to Point Tunneling Protocol)に対応するなど、セキュリティ面での強化ポイントも目を引く。一般ユーザーにはあまり縁がないが、おそらくシステム販売での効果を狙っているのだろう。実力のほどはまだわからないが、DSUの切り離しを可能にするなど、従来モデルで指摘されていた不満点も解消されている。

 NECも従来から販売していた『COMSTARZ ROUTER』の後継モデルを発表した。こちらは「各PCごとに接続するプロバイダを複数設定」、「掲示板機能」、「ナンバー・ディスプレイ対応」、「着信メール自動確認機能」など、使い勝手の面での改良が図られている。ちなみに、着信メール自動確認機能はAtermITシリーズで提供されている「電子メール着信通知機能」と違い、ルータから指定したメールサーバにアクセスして確認するというもの。そのため、BIGLOBE以外のプロバイダでも利用することが可能だ。従来モデル同様、DSU内蔵モデルとDSUなしのモデルがラインアップされており、価格はDSU内蔵モデルが58,800円と、なしのモデルが51,800円とライバルのMN128-SOHOよりも安価に設定されている。従来モデルもファームウェアをアップグレードすることにより、新機能を利用できるようになる。

 一方、IPルータだが、こちらはCOMPUTEX TAIPEIでかなり多くの製品を見ることができた。国内でも早速、アイ・オー・データ機器から『ET-IPS』という製品が発表された。ET-IPSは既存のISDNターミナルアダプタやモデムと組み合わせることにより、ISDNルータやアナログルータと同等の機能が得られるというものだ。価格は39,800円とNetGenesis4などに比べるとやや高いが、同社が販売するとなれば、サポート面などもかなり期待することができる。

□NTT-TE東京、セキュリティ機能を強化した「MN128-SOHO SL10」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980624/mn128.htm
□NEC、パーソナルルータ2機種
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980602/nec.htm
□アイ・オー、手持ちのモデムやTAと接続して使うIPルータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980626/iodata2.htm
□【6/8】第33回:Computex Taipei '98 Telecomレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980608/taipei98.htm


Windows World Expo'98について

 7月のニュースになってしまうが、7月1日~4日まで幕張メッセでWindows World Expo'98が開催されていた。筆者もTelecomレポート執筆のために、取材に出かけたのだが、残念ながら今回はレポート掲載を見合わせることにした。

 というのも、今回のWindows World Expo'98は通信関連製品が非常に少なく、目新しいものがなかったからだ。展示会そのものについては、PC Watchのレポートにもあるように、ノートPCを中心に注目できる製品は多かったのだが、通信機器については7月6日に発表されたSII(セイコーインスツルメンツ)の『MC-P110/TD』を見かけたくらいで、その他は既報のものばかりだった。同時開催のComputer Telephony WorldもCTIサーバをはじめ、業務向けのものが中心で、一般ユーザーに縁のありそうな製品は見ることができなかった。正直なところを言ってしまえば、通信機器はネタ切れという感が強い。

 ここ数回のTelecom Watchでも話題になるのは、V.90モデム、ISDNターミナルアダプタ、ISDNルータに限られており、その他に面白い製品があまり出てこない。本音を言わせてもらえば、もっと工夫をこらした製品が見たいところだ。当面は9月末に開催されるWorld PC Expo'98まで待つしかなさそうだが、7月はWindows 98も発売されるので、もっと話題性のある製品の登場を期待したいところだ。

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp