非同期通信レポート 第33回

COMPUTEX TAIPEI '98 Telecomレポート

TEXT:法林岳之

会場風景
'97/6/8


台北國際電腦展'98

 6月2日から6日まで、台湾の台北世界貿易センター台北国際会議センターで開催されていたCOMPUTEX TAIPEI '98。世界のPCマーケットをリードする台湾で開催される最大のイベントということもあり、アジアはもとより、世界中のバイヤーやメーカーが集う。今回も通信機器を中心に注目製品をピックアップして紹介しよう。

 昨年のレポートでも紹介したが、COMPUTEX TAIPEIが他のイベントと大きく異なるのは、OEM供給元のメーカーが数多く出展していることだ。会場を歩いていると、どこかで見たことのあるような製品があったり、数カ月後に秋葉原でCOMPUTEX TAIPEIで見かけたものと同じものが売られているということがある。国内メーカーにとって、台湾のPC関連メーカーは最も重要なOEM供給元であり、COMPUTEX TAIPEIはそれらのメーカーと商談をしたり、新たなOEM供給元を発掘するためのイベントという意味合いが強い。つまり、このイベントを見れば、その年の後半の製品動向をつかむことができるわけだ。こうした点を踏まえた上で、レポートをご覧いただきたい。


モデムからルータへ

 昨年のレポートでは、当時、登場して間もない56kbpsモデムが数多く出品されていることをお伝えした。当時はx2K56flexという2つの方式のどちらが優勢かがまったく予想できなかったが、台湾の通信機器メーカーは「どちらの方式でもOK」「チップセットもどれでも大丈夫」と構えていたことが印象に残っている。その後、56kbpsモデムの国際標準規格V.90の勧告の見通しが立ったためか、今年はモデムにはあまり盛り上がりが感じられなかった。筐体のデザインでオリジナリティを発揮したり、本体前面にマイク端子をつけてボイス機能を使いやすくするなどの工夫しか見られなかった。

 これに対し、各社が一気に力を注ぎ始めたのがルータだ。ルータはネットワーク同士を接続するためのネットワーク機器で、昨年あたりから国内でも人気が高まっている。国内で販売されているものはISDN回線に接続するISDNルータが多いが、COMPUTEX TAIPEIでは電話回線やISDN回線に接続する機能を持たないIPルータを数多く見ることができた。

 IPルータは回線に接続する機能を持たない代わりに、RS-232Cポートを備え、モデムでもISDNターミナルアダプタでもユーザーの好みに応じて接続できるというメリットを持っている。また、メーカーにとっては、回線接続部分がないため、JATE端末機器認定を取得する必要もなく、販売しやすいという利点がある。国内ではマイクロ総合研究所が4ポートHUBを内蔵したNetGenesis4を発売しており、売れ行きも好調なようだ。

Accton Technology iSharer201
Accton Technology iSharer201
Micronet IP Sharer SP861
Micronet IP Sharer SP861
SerComm IPS150
SerComm IPS150

 まず、上の写真を見て欲しい。左から順に、国内でもネットワーク機器でおなじみのAccton TechnologyiSharer201、ちょっとパッケージが某社に似ている(?)Micronet CommunicationsのIP Sharer SP861、NetWorld+Interop '98 LasVegasレポートでも紹介したSerCommIPS150だ。これらの製品はRS-232Cポートに直結するタイプのIPルータで、タバコ大よりもわずかに大きいサイズにまとめられている。いずれも異なるメーカーの製品だが、写真を見てもわかるように、10Base-2/TポートやLED、ACアダプタのコネクタの位置などがまったく同じ。つまり、内部の基板を製造しているメーカーは1社で、それを各メーカーが自分でパッケージングして販売しようとしているわけだ。

 スペック的にはWebブラウザとTelnet経由でのセットアップDHCPサーバ機能搭載RS-232Cポートの速度は最大230.4kbpsまで対応と、必要十分条件を備えている。価格は各社とも日本円換算で2万円以下は確実としており、かなり手頃な価格になりそうだ。ここで紹介しているものの他にも、かなり多くのメーカーのブースでほぼ同じデザインで同じスペックの製品を見ることができた。セットアップ画面の日本語化という問題は残されているが、今夏以降、秋葉原などでも数多く見かけることになりそうだ。

 ちなみに、ここで紹介している3製品の内、Accton TechnologyのiSharer201はすでに日本法人のホームページでも紹介されており、早々に国内で出荷が開始されることになりそうだ。

ARGUS TECHNOLOGIES CelerAccess300
ARGUS TECHNOLOGIES CelerAccess300
CelerAccess300本体
CelerAccess300本体

 こうしたIPルータの中で、個人的に注目したのがARGUS TECHNOLOGIESCelerAccess300だ。外見は前述の製品と似ているが、若干スペックが異なることから、内部的には別のものと思われる。

 IPルータのテスト中、個人的に気になっていたのが接続したモデムやISDNターミナルアダプタの動作状態をいかにして知るかという問題だ。IPルータを使った環境は、発信したか否か程度ならモデムのLEDで判別できるが、モデムやISDNターミナルアダプタに初期化コマンドがどう送られているか、接続後にちゃんとパケットが流れているのかがわかりにくい。実は、台湾にNetGenesis4を持ち込んだのだが、プロバイダに接続はするものの、パケットがうまく流れず、使えなかったというハプニングもあった(原因は電源?)ため、この点は非常に気になっていた。

 CelerAccess300はウィザード形式のユーティリティでセットアップするようになっているのだが、これがなかなか秀逸で、モデムやISDNターミナルアダプタを操作するときのログを記録したり、ネットワークをモニタする機能も備えている。つまり、前述のようなトラブルにも対処しやすくなるというわけだ。

 スペックはLAN部分が10Base-T、DTE速度は最大460.8kbpsまで対応し、簡易電子メールサーバ機能DHCPサーバ機能ファイヤーウォール機能なども搭載されている。見かけはかなりシンプルだが、内容的にはかなり高機能なようだ。価格は1~2万円程度になるようだが、ロット数によってはさらに安くなる可能性もある。幸い、この製品はサンプルを入手することができたので、近く試用レポートを紹介する予定だ。

SURECOM Technology EP3508
SURECOM Technology EP3508
ReliaTechnologies RE3046
ReliaTechnologies RE3046

 続いて、左上はSURECOM TechnologyEP-3506というIPルータで、2つのRS-232Cポート6ポートのHUBを備えている。設定はWebブラウザ経由で、SNMP機能を搭載するなどの本格派製品だが、DTE速度が115.2kbpsまでしか対応していないので、ISDNの128kbps同期通信モードにはやや不十分だ。筐体がアルミニウム製というのは珍しい。

 右上はマザーボードなどでおなじみのFICグループのRelia Technologiesが出品していたRE3046という製品。4ポートHUBとRS-232Cポートを1つ備えたIPルータで、本体前面に並ぶLEDでネットワークの状態を知ることができる。RS-232Cポートのスペックは明記されていないが、16550互換のチップを搭載していることから、おそらくDTE速度は115.2kbpsまでと思われる。写真を見てもわかるように、すでに日本語マニュアルが用意されており、間もなく日本に登場することになりそうだ。

 今回のCOMPUTEX TAIPEIではこの他にも数多くのIPルータが出品され、IPルータ時代の到来を予感させてくれた。ISDNダイヤルアップルータもたしかに便利なのだが、IPルータはアナログ回線でも利用でき、接続する端末機器をアップグレードするだけで将来的な高速化にも対応できるというメリットがある。サイズもコンパクトで、取り扱いも比較的容易なので、サポート体制が充実していれば、今後、国内でもかなり需要が増えることになるだろう。個人的な予想だが、年内にはPCショップなどで1万円以下で販売されるのではないかと見ている。


ISDN機器はやや不発

Draycom isdnVigor128
Draycom isdnVigor128

 一方、ISDN機器はどうだっただろうか。国内で販売されているISDN機器の内、いくつかは台湾で開発されている。しかし、それらは台湾のメーカーだけで開発するのではなく、国内メーカーと組んで開発されることが多いようだ。今回のCOMPUTEX TAIPEI '98でもそういった日本向け製品が見られるのではないかと期待していたのだが、残念ながら「コレは!」と言える製品を見ることはできなかった。

 ISDNターミナルアダプタで目についたのは、DraycomのUSB搭載ISDNターミナルアダプタのisdnVigor128だ。国内ではNECAtermIT65シリーズ日成電機製作所の128 de USBなど、USB搭載ISDNターミナルアダプタが登場しているが、海外メーカーでは初めて見ることができた。

 機能的にはシンプルで、デジタルポートが64/128kbps同期通信、V.110/120などの非同期通信に対応しているが、アナログポートなどは搭載されていない。対応OSはWindows 95(OSR2.1以上)及びWindows 98に加え、Windows NT 5.0(まだβも出てないのに……)まで含まれている。筐体は非常にコンパクトで、マウスとほとんど変わらない。主にヨーロッパ市場を意識した製品のようだが、JATEの端末機器認定も取得中だそうだ。


Lantech Conputer ExpressRouter80
Lantech Conputer ExpressRoute 80
PLANET Technology IRT-1002
PLANET Technology IRT-1002

 一方、ISDNダイヤルアップルータもいくつか展示されていたが、あまり目新しさは感じられなかった。写真左上はLantech Computerが出品していたExpressRoute 80というISDNダイヤルアップルータだ。アナログポートやDSUの有無の違いにより、合計6つのモデルがラインアップされているが、いずれの製品にも4ポートHUBが搭載され、価格は500ドルからとなっている。セットアップはWebブラウザから行なうようになっており、NATやDHCPサーバなどの機能も搭載されている。JATEの端末機器認定も取得しているので、おそらく国内でも販売されることになりそうだ。

 右上は日本でもおなじみのPLANET TechnologyIRT-1002というISDNダイヤルアップルータだ。NATやDHCPサーバの機能を搭載しているのは他のISDNダイヤルアップルータ同様だが、LAN部分が10/100Base対応になっている。100Base-TXに対応したからと言って、通信速度が向上するわけではないが、HUBやLANカードが両対応になってきている現状を考えれば、ISDNダイヤルアップルータもこうした製品が増えてくるようになりそうだ。


COMPUTEX TAIPEI '98を見て

 最初にも述べたように、COMPUTEX TAIPEIと言えば、OEM供給品の宝庫であり、世界のPCトレンドをリードする展示会だ。以前は商談の場というカラーがはっきり出ていたが、今回はプレスへの対応も良く、取材もスムーズに行なうことができた。ただ、これが出展社側の意識の変化だけでなく、今回の出展内容に目新しさがないことの裏返しもあるのだろうというのが正直な感想だ。

 通信機器に限れば、トレンドは確実にIPルータやISDNダイヤルアップルータに移行している。モデムで独自性を発揮して儲けようという考えは、もうあまり感じられない。モデムに関してはV.90が当たり前で、モデムチップセットのバリエーションを用意し、あとは筐体などで差別化するといった程度だ。ただ、今後はLucent TechnologyRockwell Internationalが発表した56kbps/ADSL両対応チップセットを搭載する製品が登場することになるだろう。

 一方、IPルータは国内でも間違いなく流行ると言えそうだ。扱いやすさだけでなく、価格面でのアドバンテージも大きい。ただ、ユーティリティやWebブラウザでの設定画面、マニュアルなどをどこまで親切にするのかが製品の善し悪しを左右することになりそうだ。


□COMPUTEX TAIPEI '98のホームページ
http://www.computextaipei.org/
□関連記事
COMPUTEX TAIPEI '98レポートインデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980604/cmptx_i.htm

[Text by 法林岳之]


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