後藤貴子の データで読む米国パソコン事情
 
第4回:「Microsoftが政治献金額でコンピュータ業界トップに」ほか


Microsoftが政治献金額でコンピュータ業界トップに

■政治家を味方に!

 Microsoftの政治献金額がついにコンピュータ業界トップに躍り出た――米連邦議会の政治献金を調査する非営利団体、Center for Responsive Politics(以下CRP)がこう発表した。調査によれば、Microsoftは'97~'98年の選挙シーズンに、合計298,219ドル(約3,900万円)の献金をし、初めて業界1位になったという。

 CRPによれば、'95~'96年の選挙シーズンにはMicrosoftの献金額は業界内で7位、'91~'92年期には16位だったというから、かなりの大躍進だ。去年あたりから、Microsoftが政治づいてきたと言われていたが、それが数字で裏付けられた形だ。

 Microsoftは、政治の中心地ワシントンでこのところ御難続きだった。
 昨年秋、司法省から'95年のWindows 95に対する同意審決違反で不意打ちを食らって提訴され、その後この5月にも、Windowsの反トラスト法違反提訴でさらに強打されたのはご存じのとおり。この件で、Microsoftはワシントンで情報収集して政府や議会の動きを知り、政治的に圧力をかけたりする必要を痛感した、というのが献金額の急上昇に現れていると見て間違いがないだろう。

 ワシントンでは、裁判所だけでなく上院でも、公聴会にゲイツ会長が呼ばれて質問責めにされるなど、Microsoftたたきが強まっていた。ここでもMicrosoftは、味方の議員を作り、自社が標的になるような法案が通過しないようにしなければ、と感じたはずだ。

■事業展開のための攻めの献金も

 だが、Microsoftの政治活動には、守りだけでなく、攻めの意味もある。同社はこのところ、デジタルTVやデジタルCATVをテコにTV業界に進出、またインターネットビジネスも大きな柱として育てようとしている。こうした業界では、ソフトウェア産業と異なり、政府の許認可が大きな影響を持っている。そのため、今後の事業を有利に展開させるためには、政治に働きかけなくてはならない場面が増えたというわけだろう。また、Eコマースを繁栄させるためのインターネット無税の推進や暗号技術輸出制限の軽減、あるいはソフトウェアなどの海賊版の取り締まりの強化、不足する技術者を補うための外国人ハイテク労働者のビザ枠拡大など、業界としても政治に働きかける必要が増えたことも関係しているだろう。

 CRPは企業が誰に献金したかを報告しており、それを見ると、こうした攻めと守りの目的達成のために、Microsoftがターゲットを絞って戦略的な献金を行なっていることがわかる。

 たとえば、TV業界に影響力のある上院商業委員会のチェアマンJohn McCain議員(共和党)にゲイツ氏らMicrosoft幹部が再選費用の献金をしている。これは、デジタルTVの規格などについての支持をとりつけるためと見られる。また、上院司法委員会の有力議員Patrick Leahy議員(民主党)にゲイツ氏が献金しているのは、公聴会と無縁だとは思えない。

 また、全体としては従来のパターンと違い、民主党より共和党に多く(33%対67%)献金するようになったのは興味深い。これはおそらく、共和党のほうが『小さな政府』を支持する傾向が強いからだろう。小さな政府、政府の産業界への介入を最小限にしようという考え方のほうが、司法省に責め立てられているMicrosoftにはしっくりくるに違いない。


金だけではつかない政治力

■Microsoftが自社を支持する意識調査を発表

 本当のことを言うと、政治家を味方にするには、金を出すだけでは足りない。米国の政治家は世論に敏感で、人気のない企業や産業には厳しいからだ。

 たばこ産業を見ればそれがよくわかる。米国のたばこ産業は、コンピュータ業界とは比べものにならない巨額の政治献金を以前から続けてきた(CRPによれば'95~'96年の献金は、Microsoftの約23万5,000ドルに対し、たばこ業界1位のPhilip Morrisは約420万ドル)にもかかわらず、米国の大半の州から喫煙者の病気に対する公的医療費などの責任を問われたり、広告に強い規制を課す法案を出されたりしている。それは、たばこは健康に悪く、そのたばこを青少年などに売りつけるたばこ産業は悪者だというイメージを米国民が強く持つようになったからにほかならないだろう。政治家は選挙民の感覚を無視するわけにはいかないので、世論を味方につけなければ分が悪いというわけだ。

 しかし、今のMicrosoftには世論の味方はない。そこで、Microsoftは、自分たちがいかに支持されているかを、自分たち自身でアピールし始めた。

 政府はMicrosoftに対してこれ以上何もすべきでないと考えている人は67%、Windows 98出荷を脅かす州のアクションを支持しない人が80%――これは、5月4日にMicrosoftが発表した「American Consumers and Business Leaders Support Microsoft's Right To Innovate」というリリースに出てくる数字だ。もちろん、Microsoftが調べた数字ではなく、公平な第三者が行なった意識調査の結果で、我々にはこれだけ味方がいると、司法省や政治家たちにプレッシャーをかけ始めたのだ。

■やっぱり支持者はエグゼクティブたち

 これを見ると、たしかに多くの人が司法省や州の訴訟に批判的のように見える。しかし、これにはからくりがある。調査結果の出所は、1つめが『Business Week』、2つめが『CIO Magazine』。だが、『Business Week』は読者であるビジネスエグゼクティブたちへの調査、『CIO Magazine』も「800人の技術・ビジネス系トップエグゼクティブたち」への調査だ。つまりこの2つは、この連載で前にふれた『Fortune』の例(連載第1回「米国人はMicrosoftがお好き?」)と同様、Microsoftと共感しやすい立場の人たちの意識なのだ。だから、Microsoftが米国の草の根の世論を味方につけているかどうかには、かなり疑問がある。

 もともと米国人は、大きな企業に対する不信が根強い。それが、世界一の富豪を産み出すほど儲けているとしたら、なおさらだ。そこで政治家は、ビッグガイで不人気なMicrosoftを叩けば、選挙民に受けるヒーローになれるという感覚を持ってしまった。これが今回のワシントンのMicrosoftバッシングの背景にあるという感じがする。


米国コーポレート市場で、ノートPCでもDell人気高まる

■15%の企業がブランドを乗り換え

 ところで、そのMicrosoftのWindowsが入ったパソコンのうち、ノートパソコンの利用状況を見ると、米国企業ユーザーは使用している製品にあまり満足しておらず、ブランドではCompaq ComputerからDellへ流れていることがわかった。
 「Technology Business Research」(以下TBR)が年間に500台以上をリースまたは購入する200社を対象に行なった調査によると、米国の企業ユーザーの15%が、昨年、購入するブランドを変更していた。

 中でも目立つのは、Compaq Computerの不人気とDellの人気上昇だ。ブランドを換えた企業のうち32%はDellに乗り換え、Compaq Computerからは44%が離れた。Dellへの満足度は伸びて以前からのトップIBMと並び、Compaq Computerより8%、東芝より11%高くなった。日本ではノートに強い東芝は、TBRによれば米国では「満足度は平均以下」だという。

 TBRは企業のCompaq Computer離れの理由として、製品設計、技術サポートの応対、グローバルサービス、修理時間、ハードウェアの品質、コストパフォーマンスの弱さを上げている。逆にDellは、納期、製品の長期的信頼性、技術サポートの応対、修理時間、ハードウェアの品質、コストパフォーマンス、TCOのよさが受けた。

■デスクトップ直販のDellがノートでも人気に

 Dellはもともと、コンシューマーへのデスクトップの直販で伸びてきた企業だ。直販では、部品在庫が少なくすみ、部品価格の下落もすぐにパソコン価格に反映、完成製品納入が早い、また、顧客のオーダーにも応じやすかった。しかし、以前は、これは標準部品で組み立てるデスクトップだから可能で、部品の多くがカスタムメイドになるノートでは、今までの強みは生かしにくいとされていた。にもかかわらず、Dellがデスクトップだけでなくノートでも伸びて来た。ノートでも生産合理化のノウハウが活かせるようになったわけだ。

 これは他のメーカーにとっては大きな脅威だろう。特にCompaq Computerなどは、もともとコーポレート市場に強かったのにまずデスクトップでDellの攻勢にあい、今またノートを脅かされようとしている。米国パソコン市場のトップCompaq Computerの地位にも、黄信号がともり始めている。

[Text by 後藤貴子]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp