CRPによれば、'95~'96年の選挙シーズンにはMicrosoftの献金額は業界内で7位、'91~'92年期には16位だったというから、かなりの大躍進だ。去年あたりから、Microsoftが政治づいてきたと言われていたが、それが数字で裏付けられた形だ。
Microsoftは、政治の中心地ワシントンでこのところ御難続きだった。
昨年秋、司法省から'95年のWindows 95に対する同意審決違反で不意打ちを食らって提訴され、その後この5月にも、Windowsの反トラスト法違反提訴でさらに強打されたのはご存じのとおり。この件で、Microsoftはワシントンで情報収集して政府や議会の動きを知り、政治的に圧力をかけたりする必要を痛感した、というのが献金額の急上昇に現れていると見て間違いがないだろう。
ワシントンでは、裁判所だけでなく上院でも、公聴会にゲイツ会長が呼ばれて質問責めにされるなど、Microsoftたたきが強まっていた。ここでもMicrosoftは、味方の議員を作り、自社が標的になるような法案が通過しないようにしなければ、と感じたはずだ。
CRPは企業が誰に献金したかを報告しており、それを見ると、こうした攻めと守りの目的達成のために、Microsoftがターゲットを絞って戦略的な献金を行なっていることがわかる。
たとえば、TV業界に影響力のある上院商業委員会のチェアマンJohn McCain議員(共和党)にゲイツ氏らMicrosoft幹部が再選費用の献金をしている。これは、デジタルTVの規格などについての支持をとりつけるためと見られる。また、上院司法委員会の有力議員Patrick Leahy議員(民主党)にゲイツ氏が献金しているのは、公聴会と無縁だとは思えない。
また、全体としては従来のパターンと違い、民主党より共和党に多く(33%対67%)献金するようになったのは興味深い。これはおそらく、共和党のほうが『小さな政府』を支持する傾向が強いからだろう。小さな政府、政府の産業界への介入を最小限にしようという考え方のほうが、司法省に責め立てられているMicrosoftにはしっくりくるに違いない。
たばこ産業を見ればそれがよくわかる。米国のたばこ産業は、コンピュータ業界とは比べものにならない巨額の政治献金を以前から続けてきた(CRPによれば'95~'96年の献金は、Microsoftの約23万5,000ドルに対し、たばこ業界1位のPhilip Morrisは約420万ドル)にもかかわらず、米国の大半の州から喫煙者の病気に対する公的医療費などの責任を問われたり、広告に強い規制を課す法案を出されたりしている。それは、たばこは健康に悪く、そのたばこを青少年などに売りつけるたばこ産業は悪者だというイメージを米国民が強く持つようになったからにほかならないだろう。政治家は選挙民の感覚を無視するわけにはいかないので、世論を味方につけなければ分が悪いというわけだ。
しかし、今のMicrosoftには世論の味方はない。そこで、Microsoftは、自分たちがいかに支持されているかを、自分たち自身でアピールし始めた。
政府はMicrosoftに対してこれ以上何もすべきでないと考えている人は67%、Windows 98出荷を脅かす州のアクションを支持しない人が80%――これは、5月4日にMicrosoftが発表した「American Consumers and Business Leaders Support Microsoft's Right To Innovate」というリリースに出てくる数字だ。もちろん、Microsoftが調べた数字ではなく、公平な第三者が行なった意識調査の結果で、我々にはこれだけ味方がいると、司法省や政治家たちにプレッシャーをかけ始めたのだ。
もともと米国人は、大きな企業に対する不信が根強い。それが、世界一の富豪を産み出すほど儲けているとしたら、なおさらだ。そこで政治家は、ビッグガイで不人気なMicrosoftを叩けば、選挙民に受けるヒーローになれるという感覚を持ってしまった。これが今回のワシントンのMicrosoftバッシングの背景にあるという感じがする。
中でも目立つのは、Compaq Computerの不人気とDellの人気上昇だ。ブランドを換えた企業のうち32%はDellに乗り換え、Compaq Computerからは44%が離れた。Dellへの満足度は伸びて以前からのトップIBMと並び、Compaq Computerより8%、東芝より11%高くなった。日本ではノートに強い東芝は、TBRによれば米国では「満足度は平均以下」だという。
TBRは企業のCompaq Computer離れの理由として、製品設計、技術サポートの応対、グローバルサービス、修理時間、ハードウェアの品質、コストパフォーマンスの弱さを上げている。逆にDellは、納期、製品の長期的信頼性、技術サポートの応対、修理時間、ハードウェアの品質、コストパフォーマンス、TCOのよさが受けた。
これは他のメーカーにとっては大きな脅威だろう。特にCompaq Computerなどは、もともとコーポレート市場に強かったのにまずデスクトップでDellの攻勢にあい、今またノートを脅かされようとしている。米国パソコン市場のトップCompaq Computerの地位にも、黄信号がともり始めている。
[Text by 後藤貴子]