【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース
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Intelに対する反トラスト法提訴が秒読みに?


●Washington PostがFTCの内部動向をスクープ

 IntelがFTC(連邦取引委員会)によって反トラスト法違反で提訴される。このニュースは、Business WeekやWall Street Journalといった、ビジネス系有力メディアも含め、ほとんどのニュースサイトで伝えられた。そして、今週、Washington Postは、Intelに対する提訴がいよいよ秒読み段階に入ったというスクープを出した。

 「FTC Litigator Urged Intel Suit, Sources Say」(Washington Post,6/2)によると、FTCの幹部は、FTCの5人のコミッショナに対して、正式にIntelに対する提訴を行なうことを求めたという。これを受けて、コミッショナたちは、これから1週間のうちに提訴するかどうかの投票を行なうらしい。同紙によると、FTCの規則では、提訴される企業の代表者は、投票の前に、各コミッショナに面会して弁護することができるというので、提訴が否決される可能性もあるらしい。しかし、「Top FTC litigator: Sue Intel」(NEWS.COM,6/2)によると、こうした場合は、たいてい提訴を行なうという決議になるそうだ。これらの報道が本当だとすると、Intelに対する提訴は、かなり具体化してきたことになる。

 Intelに対して、もし提訴が行なわれるとしても、その内容はまだ報道が入り乱れていてはっきりしない。しかし、Microsoftが今受けているような広範囲な反トラスト法訴訟にならないことは、確かなようだ。また、「How strong is the FTC's Intel case?」(NEWS.COM,6/2)は、FTCの勝ち目に対しても、かなり厳しい見方をしている。

 しかし、そうであっても、Microsoftに引き続きIntelも反トラスト法違反で提訴されれば、それがあたえる業界へのプレッシャは非常に大きなものになるだろう。


●Merced出荷遅れのニュースがハイテク株の下落の引き金に

 Intelはこのところバッドニュースが続いている。先週は、Mercedのスケジュールの遅れが、大きな波紋を呼んだ。「Intel's Merced delayed to 2000」(Electronic Engineering Times,5/29)によると、Intelはこれは製造上の問題ではなく、Mercedが予想していたよりもさらに複雑になってしまったためだと言っているという。この記事では、MPU業界のアナリストのマイケル・スレイター氏もコメントを寄せており、「彼らは楽観的すぎたようだ」と言っている。逆を言えば、2,500~3,000万トランジスタになる(スレイター氏)と予測される巨大MPUの設計では、2000年に実現という新スケジュールが現実的ということなのだろう。

 興味深いのは、このニュースが、ウォールストリートに大ショックをもたらしたことだ。Intel株が5%ほど下がったのは、当然かも知れないが、「Intel stock sees Merced fallout」(NEWS.COM,6/1)によると株価下落はPC関連企業全般に及んだという。それは、この遅れによって、PCの利幅が下がった分をワークステーションとサーバーで穴埋めしようとしているコンピュータメーカーの計画に、ドミノ効果で影響が出ると見られたためだという。また、「Merced Delay Continues Stream Of Tough News For Intel」(WSJ: Dow Jones Newswires,6/1)では、アナリストが、Mercedの遅れが与えた最大の影響は、心理的なものだと分析している。Intelの先行きに不安が出ていたところへ、このニュースがさらにイメージを傷つけたのだそうだ。


●IE 5.0、いよいよプレビューか

 一方、Microsoftは、Windows 98を予定通り出せることになって、いちおう一息。そこで、いよいよ「Internet Explorer(IE) 5.0」の顔見せを始めることに決めたらしい。「IE 5 preview coming soon」(NEWS.COM,6/2)によると、同社はIE 5.0の開発者向けプレビュー版を、今月中に配布するという。IE 5.0には、Webとデスクトップの間でのドラッグアンドドロップや、ユーザーが自分の情報などを記入したWebページをそのまま保存するスナップショット機能などが加わるそうだ。

 Microsoftのもうひとつの重要プロダクトについても新情報がわかった。Officeの次期アップグレードの名前は「Office 2000」になるらしい。「Is It Office 9 or Office 2000?」(COMPUTER RESELLER NEWS,6/1)によると、Microsoftの上級副社長スティーブ・バルマー氏のプレゼンテーションシートには、しっかりOffice 2000と書かれていたそうだ。バルマー氏は、2000年がこれだけ近づいているのにOffice 9xというのは、悪い名前だと言ったらしい。


●Microsoftが共和党に10万ドル相当を寄付

 Microsoftは、最近、米国の2大政党のうち、民主党より共和党がお気に入りらしい。「Stepping Up Contributions, Microsoft Gives $100,000 to GOP」(Washington Post,5/30)によると、同社は4月に共和党に約10万ドル相当のコンピュータ機材を寄付したという。同社が共和党により多く寄付をしているというレポートが、本誌でも紹介されているが、その傾向はますます強まっているようだ。この寄付は、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CEOが、共和党が主導する上院の司法委員会で証言したあとに行なわれたと、この記事では指摘している。これはもちろん偶然ではないだろう。


●Microsoftが裁判をにらみWindowsの契約内容を徐々に変更

 Microsoftの反トラスト法違反の提訴関係のニュースは、先週後半から今週にかけては少なかった。その中で目立たないながらも重要だったのは、米GATEWAY 2000社が、プリインストールのブラウザのチョイスとして、Netscape Navigatorを顧客が選択できる権利を、Microsoftから勝ち取ったというものだ。今回の提訴では、OEMメーカーがWindowsからIEを取り去り、他のブラウザのアイコンを置くことを、Microsoftが認めないという契約が問題になっていた。「Gateway's Web deal: Microsoft in retreat?」(The Seattle Times,5/28)によると、GATEWAYはMicrosoftに対してこれまでも再三この要求を繰り返していたが、突然、Microsoftが認めてきたという。この記事では「Microsoftは今後、システマチックに、そして徐々に契約をゆるめていくのではないか」と予測するアナリストのコメントを紹介している。本格的な審理が始まる前に、突っ込まれるところを減らして行こうというわけだろう。


●半導体製造機器メーカーが、銅配線技術を発表

 半導体の製造プロセスは、どんどん微細化が進み、いよいよ0.18ミクロンも見えてきた。しかし、微細化が進むと、今のアルミによる配線では高速化が難しいことが問題になってきた。そこで、銅による配線をしようというアプローチが、注目を浴びるようになってきたわけだが、今週、この銅配線に関して大きな前進が予想されている。「Equipment makers crank up for the copper era」(Electronic Engineering Times,5/29)によると、半導体機器メーカー大手の2社、米Novellus Systems社と米Applied Materials社が、それぞれ別に銅配線へのアプローチを発表する(した)という。0.18と銅配線で、来年後半以降の半導体産業は、ますます激しい技術競争の世界に入ることになりそうだ。


●デジタルTVでメディアプロセッサが浮上

 ところで、このコーナーで何度か取り上げた米国の地上波デジタルTVだが、また、少し動きがあった。CATVでの地上波デジタルTV放送のサポートが問題になって来たがその問題について、FCC(連邦通信委員会)は、夏に審問会を開くことを決めたという。これは、「FCC girds for digital-TV 'must-carry' review」(Electronic Engineering Times,5/28)が伝えている新情報だが、その会議で、CATV局が地上波デジタルTVの全ての帯域を中継しなければならないのか、それとも一部でいいとするのかを決めるそうだ。

 さて、デジタルTVなどデジタル家電系の機器の話が盛り上がってくるにつれて、半導体業界でも、ふたたびメディアプロセッサが脚光を浴び始めた。今度の米国地上波デジタルTVでは、MPEG2でデータが放送されるために、STB(セットトップボックス)はそれをデコードできなくてはならないし、しかも規格がいろいろ揺れているのでプログラマブルでなければならない。というわけで、メディアプロセッサもデジタルTVをターゲットにした展開が目立ってきた。

 「U.S., Japan vendors race to develop media processors」(Electronic Engineering Times,5/29)によると、メディアプロセッサでは、富士通、松下電器産業、三菱電機、シャープといった日本メーカー、それに米Texas Instruments社(TI)、そしてさらに米Equator Technologies社、米VM Labs社と新顔のベンチャーも混じって、けっこう面白いレースになり始めたという。全部がデジタルTVをにらんでいるわけではないが、Equator Technologiesなどは、米国のデジタルTVのすべてのフォーマットをデコードできるようにすることをターゲットに設定している。

 Equator Technologiesというのは、去年くらいからウワサになり始めたメーカーだ。「Hitachi, Canon back U.S. media-processor startup」(Electronic Engineering Times,5/27)に設立の経緯などは書かれているが、MultiflowというVLIW技術のパイオニアだったメーカーのメンバーが作ったことで知られている。ちなみに、VLIW技術というのは、ひとつの命令語の中に複数の処理命令を入れ込む技術で、最近メディアプロセッサでよく使われている。というわけで、PCでは成功しなかったメディアプロセッサも、今後は家電で面白い展開になるかも知れない。


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('98/6/3)

[Reported by 後藤 弘茂]


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