【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

“Katmai対K6-3”に向けて、疾走するIntelとAMD



●まだまだMPU高性能化のレースは続く


 米AMDの「AMD-K6-2プロセッサ」発表と米Intelの「Merced(コード名:マーセド)プロセッサ」のスケジュールの遅れ。先週から今週にかけては、明暗の異なるMPUのニュースが駆けめぐった。両社は、今後、攻めるAMDと守るIntelという構図のまま、さらにMPU高性能化の熾烈なレースに突入してゆく。

 AMDは、K6-2を強化した「AMD-K6-3プロセッサ」を年内に投入、さらに'99年には次世代MPU「K7(コード名)」を出す予定でいる。対するIntelは、Celeronプロセッサ後継の「Mendocino(コード名:メンドシノ)」を年内に、Pentium IIプロセッサ強化版の「Katmai(コード名:カトマイ)」を'99年前半には投入してくる予定だ。MPU高性能化はますます加速するが、製造ラインの問題を片づけた(はずの)AMDがうまくやれば、ブランド力が強い日本はともかくとして、他の国では、Intelとかなり競ることができる可能性も高い。というわけで、'99年までのIntelとAMDの動向を眺めてみたい。


●E3をデビューの場に選んだK6-2

 コンピュータゲームショウとしてすっかり定着した「Electronic Entertainment Expo(E3)」。いつもなら、ゲームソフトやゲーム機メーカーが中心となるこのイベントに、今回はAMDが大きなブースを設けた。同社は、新鋭K6-2の発表の場に、半導体関連のイベントではなく、わざわざこのE3を選んだのだ。このことは、AMDがこのMPUにどういう性格付けをしようとしているかを明確に示している。当面は、ゲームに最適なMPUとして認知されたいということだ。

 日本AMDは、K6-2では、同MPUに組み込んだ新しい「3DNow!テクノロジ」を前面に押し出した。発表会でも「重要なのは、インテルの持っていない3D技術を市場にもたらしたこと」だと強調、x86に新しい技術を加えることで、初めてIntelを追い越したと自賛した。

 しかし、裏を返せば、AMDにとっては、そうしなければならない事情がある。というのは、3DNow!がなければK6-2は高速になったK6であり、動作周波数では、まだPentium IIのハイエンドに水をあけられており、性能で優位性を打ち出しにくいからだ。

 ところが、3DNow!命令を使うアプリケーションはというと、最初はもっぱらゲームになる。そこで、AMDはゲームデベロッパーの目を引きつけられるE3を発表の場に選んだというわけだ。AMDとしては、K6-2をゲームセントリックなPCユーザーの定番MPUにするというのが、当面の目標だろう。3DNow!をサポートする3D APIに、3DfxのGlideを引き込んだのも、それが理解できているからだ。

 というわけで、AMDとしては、当初AMD-K6-2の売り方は2つに分かれる。単に高速なAMD-K6として売るアプローチと、ゲーム最適な新しいMPUとして売るアプローチだ。AMDとしては、自社のテクノロジー面での先進性を訴えるためにも、後者のアプローチを成功させたい。そのためには、E3に派手に出展してゲームデベロッパーのサポートを強化することができるかどうかが、ポイントとなるだろう。


●対Katmaiと位置づけるK6-3

 AMDは次のステップでは、K6-2に256KBの2次キャッシュを統合したK6-3を年内に投入する計画だ。これは、一言で言えば、Pentium IIのDIB対策だ。Intelは、Pentium IIではDIBというアーキテクチャでキャッシュメモリ用のバスをシステムバスから分離した。その結果、バスボトルネックが少なくなり、高いクロックでもシステムパフォーマンスが落ちないとしている。そこで、K6-3では、チップに2次キャッシュを統合、専用インターフェイスで接続することでSocket 7でSlot 1と同等のアーキテクチャを実現するつもりだ。これは、Pentium IIよりダイ(半導体本体)サイズが小さなK6では合理的なアプローチで、0.25ミクロンプロセスで製造して135平方mmと、今のPentium IIとそれほど変わらないサイズになる予定だ。

 AMDは、このK6-3で、おそらくこれまでのK6/K6-2の狙ってきたラインより少し上を狙う。同社はK6-3をKatmai対抗と位置づけており、ミッドレンジをターゲットにするつもりだ。これは、じつは当初K6を出した時に、ターゲットに入っていたポジションだ。ところが、製造上の問題で手間取ったり、Intelの低価格攻勢に会ったりで、これを取り逃がしてしまった。しかし、AMDは利益を出すには、現在K6系が占めているローエンド市場よりも、ずっと利幅が多いミッドレンジを狙わなければならない。その切り札となるのが、K6-3といわけだ。


●IntelもMendocinoで128KBの2次キャッシュを内蔵

 さて、Intelも、同社の足元を脅かしかねないAMDの攻勢を黙って見ているわけではない。Intelは、AMDの攻勢で今、苦しんでいるローエンドのサブ1000ドルPC市場ににCeleronを当てている。しかし、これで守り切れるとは思っていないだろう。Celeronはあくまでも2代目CeleronであるMendocinoまでのつなぎと考えた方がいい。

 Intelは、MendocinoではK6-3と同様に2次キャッシュSRAMをMPUに統合してくる。ただし、Pentium IIではコアのダイサイズがK6よりも今のところ大きいため、当初統合してくるのは128KBと現行のPentium IIの1/4だ。ワンチップにMPUコアとSRAMを統合して同クロックで駆動すれば、チップの外にSRAMを置いてMPUコアの半分のクロックで駆動するよりパフォーマンスは上がるはずなのに、Mendocinoをローエンドに位置づけるのは、この統合できるSRAMのサイズが小さいためだと思われる。しかし、性能的には、今のCeleronよりもかなり向上するはずで、量産や歩留まりがうまくゆけば、ローエンドでのAMDやCyrixなどの浸食に対抗する有力な武器になるだろう。


●Katmaiが来年には登場

 そして、Intelはミッドレンジから上には、3DNow!と同じタイプの浮動小数点演算のMMX化を行なう、Katmaiを投入する。これで、IntelはAMDに先に取られたという汚名をそそぐことができるわけだ。また、Katmaiは1次キャッシュの増量などの強化も加えられると言われている。おそらく製造技術でも、チップ表面にボンディングパッドを配置するC4(Controlled Collapse Chip Connection)flip chip技術などに最適化して、機能を強化しながらもダイサイズは比較的抑え、さらに高速化を可能にしてくるのではないだろうか。ちなみに、AMDはK6でC4技術を採用してダイサイズを抑えた。Intelも、現在Mobile Pentium IIにC4を採用し、高速版のPentium II Xeonプロセッサの450MHz版でも高速化のためC4を採用すると見られている。

 この状況で、AMDとしては、Katmaiが登場するまでの期間をどう活かせるかがカギとなるだろう。ローエンドからミッドレンジでもしAMDが確固とした位置を築き、しかも3DNow!の有効性をうまくゲームデベロッパーに納得させることができれば、3DNow!へのソフトのネイティブ対応が進む。

 ただし、アーキテクチャ的には、原則としてPentium II系の方がK6系より高クロック化がしやすい。そのため、デスクトップ市場でも最高速の座は、依然としてIntelが握り続けるだろう。しかし、Intelはラインナップの構成上、450MHzより上の最上位ラインからKatmaiを投入してくると思われる。その時点で、予定通りならAMDは400MHzクラスのK6-3を筆頭に、ローエンドまでをおそらくK6-2でカバーできるようになっているはずだ。つまり、AMDが計画通りボリューム出荷ができれば、Intelにとって'99年前半までの戦いは決して平坦ではないはずだ。


●0.18ミクロンプロセスで他社を引き離しにかかるIntel

 しかし、Intelはさらにライバルメーカーを引き離すための手を打ってくる。それは、製造プロセスを、現在の0.25ミクロンから次世代の0.18ミクロンへと、他社よりも早く移行させるという荒技だ。同社の現在の計画では、0.18ミクロンプロセスを'99年前半に立ち上げ、翌2000年の中盤までに一気に0.25ミクロンからシフトしてしまうことになっている。この計画通りだと、2000年の前半には、主力MPUはすべて0.18ミクロンで製造されるようになるだろう。

 Intelは、このアグレッシブな移行で、Katmai後継MPUにもK6-3と同等かそれ以上のSRAMの統合ができるようになる。それどころか、MPUへのDirect RDRAMインターフェイスの統合といった、新しい高速化のアプローチも取れるようになるだろう。ここでIntelに大幅なリードを許すと、競合メーカーとしてはかなり手痛いことになる。

 もっとも、0.18シフトは、半導体業界全体のトレンドであって、Intelが1社で走っているわけではない。Intelにしても他のMPUメーカーにしても半導体製造装置メーカーに頼っており、追いつくことは不可能ではない。

 また、0.18ラインの立ち上げについて、Intelの計画を楽観的だとする意見もある。0.18へのシフトは、従来の製造プロセスの微細化のサイクルよりも、1年以上早いスケジュールになっている。また、微細化によって製造工程の複雑度もさらに増す。当初は、歩留まりの向上に手間取る可能性もある。


●銅配線技術の採用はどうなる

 それに、0.18プロセスを巡っては、もうひとつ大きな課題がある。配線技術の材料をどうするかだ。製造プロセスの微細化が進むと、配線遅延の問題から性能を向上させにくくなる。そのため、昨年から現在使われているアルミニウム(Al)に替わって銅(Cu)を材料に使おうという議論が注目を集めてきた。銅配線に将来は移行するというのは、すでに業界の共通した認識になりつつあり、K6-2の発表会では、AMDも2000年には0.15ミクロンテクノロジで銅配線を使う計画を発表している。しかし、意見が分かれているのは、0.18ミクロンで銅を使う必要があるかどうかだ。

 意見が分かれる理由のひとつは、銅配線技術を使った場合に、性能は向上しても歩留まりで問題が出るのではという恐れだという。また、消費電力の向上などの問題もあるという。このあたりの舵取りは難しい。ひとつ間違えると、製造能力か性能のどちらかで大きく遅れを取る可能性も出るからだ。

 こうした状況で、MPUメーカーの対応も割れている。ある関係者は、AMDでは0.18ミクロンでは銅とアルミの両方を採用すると言う。高性能が必要なハイエンドMPUは銅配線を採用し、それに合わせて設計することで高性能を狙う。その一方で、ボリュームと省電力が必要な下のラインはアルミ系のままで行くという。これは現実解だが、その分、工場への投資は多くなるのではないだろうか。

 では、Intelはどうするのか。昨年夏に、米IBMが銅配線技術の実用化を発表した時には、Intelは銅への移行は、すぐには実現しないという立場を表明したと報道された。実際、ここ数年、Intelは、ボリュームを確保することを最優先に、製造プロセス技術ではやや保守的だった。しかし、あれから状況はかなり変わった。ある報道によると、Katmaiの0.18版のコード名は「Coppermine(銅鉱山、同名の川がカナダにある)」だという。さて、どうなるのやら。

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('98/6/4)

[Reported by 後藤 弘茂]


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